白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

夢の風信子荘~ヒヤシンスハウス

2013-02-24 | 画廊の様子
玄関横のひんやりとした小部屋を通りかかると馨しい香りがいっぱいに
広がっています。
まるい球根がコロコロと土の上に乗っかっていて、それぞれの緑濃い
葉っぱは元気にのびのびしています。二十センチ程の茎を囲んだ
つぶつぶの小さなつぼみは下から少しづつピンクや白、紫色に
染め上がってきました。
ヒヤシンスの鉢植えです。ひな祭りには花ざかりになるでしょう。

ふと、立原道造のヒアシンスハウスの佇まいが辺りに浮かびました。
なんて素敵な夢なのかしらと胸を打たれ、その名前のわけを知り
たいと思いました。

立原道造(大正3年~昭和14年)は才能溢れる青年詩人であり、
また、建築家でもありました。
毎年、夏に滞在していた信州追分からの友人や知人への便りは追分村
風信、詩集を風信子叢書としました。

昭和12年頃に、友人に宛てた手紙には、こう書かれていました。
 僕は窓がひとつ欲しい。
大きくてはいけない。
外に鎧戸、内にレースのカーテン、ガラスは美しい磨きで一つも
  歪んではならない・・・・・・
僕は窓が欲しい。たった一つ・・・・・

彼は小さな五坪程の週末住宅を芸術家が集まる村と言われた
浦和の別所沼に建てることを夢にみていました。
葦が茂って静か極まりないこの地に一人心休める場所を造ると言う
夢を追いかけました。
何十っとおりもの試案を重ね、まだ見ぬこの小屋に風信子荘、
ヒヤシンスハウスと名づけました。

~僕の半身は詩を考え、もうひとつの半身は
建築を考える~と言い切りました。

何故、彼は自分の冠を風信子~ヒアシンスとしたのでしょうか。

ギリシャ神話、美少年ヒユアキントスは彼を愛するアポロン神の
投げた円盤に当たって死にました。流した血汐の跡から濃い紫の
花が咲きました。この花はヒヤシンスと名付けられました。
この悲劇はことさら立原には身につまされる物語だったのでは
ないでしょうか。

胸に病を抱えていた立原はヒユアキントスの死と花の誕生に自らを
重ねていたのかも知れません。
死は終わりではない、必ず復活があると。
立原は夢の設計図の完成を見ることなく24歳で夭折しました。

しかし彼の風信子荘は2004年にこの地に住む多くの人たちに
よって忠実に実現されました。

小屋の雨戸や椅子の背凭れには彼が細かく記したとおりに十字架が
くり抜かれています。そうして今、夢と憧れに満ちたこの愛らしい
安らぎの小屋はポプラの枝に抱かれてひっそりと別所沼の草はらに
建っています。

病床にあって彼はこんな手紙を友人に送りました。
       五月のそよ風をぜりーにして持って来て下さい♪

窓ガラスの向こうには真っ白な雪がきらきらと
光っています。光はやがて春風をはこんできてくれます。s・y
                          




耳を澄ませば

2013-02-09 | 画廊の様子
昨日から今朝にかけて猛烈な地吹雪が北の街に襲いかかりました。
大風がゴーゴーと唸りを上げながらぐるぐると屋根の上を旋回し、
窓ガラスや玄関ドアに雪の粒を叩きつけて硬いふきだまりを作りました。
真っ白な雪煙がすごい勢いで辺りの景色をそっくりかき消してしまうほど
荒れ狂いました。

あの賢治さんの「水仙月の四日」のお話の雪婆んごが髪を振り乱して
光る空を凍らせてひゅうひゅう唸りながら雪を巻き上げてやって来たかの
よう。

いたずらな雪童子~ゆきわらす~が雪狼~ゆきおいの~を従えてムチを
鳴らしながら雪を掻き立てました。
丘の道に沿って赤い毛布~ケット~をかぶった子供が一生懸命に歩いて
いるのが見えました。
いたずらな童子は狼からヤドリギの枝を受け取るとぽいっと子供の足元に
投げつけました。

雪婆んごは荒れ狂って凄まじい雪煙を吹き付けて子供を奪って行こうと
しました。
雪童子は子供にそおっとささやきました。じっとしておいで雪が守って
くれるからと。

赤いケットの切れっ端が真っ白な雪の影からのぞいていました。
そう。お父さんが迎えに来たのです。

純白の雪、赤いケット、緑のヤドリギの美しいコラボレーションが教えて
くれます。
自然の恐ろしさと優しさ、冷たさと温かさ、その美しさの中にある喜びと
哀しみ、生と死が必ずあることを。

こんなに荒れた日々が続くとひたすら春が恋しく思われます。
私たちは知っています。
耳を澄ますと深い深い雪の下から春の声が聞こえてくることを。

 ふりかくす雪うちはらひ仙人(やまびと)の
                名もかぐはしき花を見るかな
                       千種有功 江戸の歌人

今日の一枚の絵 「コンパクト」  宮下柚葵  肉筆

  香り優しい黄色の水仙は雪のフェアリー、本州の南の海岸では
  もう、海の風に揺れていることでしょう。 s・y
      ♪水仙の和名は雪中花