白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

雨の匂い

2012-06-12 | 取り扱い作品のご紹介




窓がらすのそばでさらさらと優しい音がして目が覚めました。
雨…と耳を澄ませているとまた眠ってしまいました。
水の月、六月です。
田んぼにはたっぷりと水が張られて田植えが終わり、山も野も
街も深く浅く緑が重なり合っていて雨が降る度にその輝きが増して
水の匂いが薫ります。
しっとりとした朝の空気、「雨は空のクリーニング」と
云われるのは六月の雨にぴったりの褒め言葉ですね。

今日の一枚の絵は松園さんの「緑雨」です。
季節が巡ってきて初夏の気配がするとわくわくしながら箱を紐解いて
白珠の壁にこれを飾るのが楽しみです。

「緑雨」には窓から射す自然の光で眺めるのがふさわしいと思います。。
二人の美女が柱を間に「雨止まないわね。」と話しながら静かに佇んで
います。
楓の若葉が雨の滴に揺れています。
一人は若葉色の着物をもう一人は澄んだ水色の着物をまとっていて
二人重ねると初夏の襲のようでモダンで素敵です。
静止した画面から雨の匂いが薫り立ち柔らかな雨音が聞こえてきます。
松園さんのこよなく愛し尊ぶ美しい日本の女性の慎ましやかな暮らしが
画の中に温められています。

   今日の一枚  「緑雨」  上村松園  シルクスクリーン

あじさいの花芽が膨らみません。夏には咲いてくれるかしら。
               自信がないs・y

 思い切り愛されたくて駆けてゆく六月、サンダル、あじさいの花
                    俵 万智


                   

たまごとふたご

2012-02-17 | 取り扱い作品のご紹介


凍る夜空のステージを華やかに演出するのは煌めく冬の星座です。
星たちは深い漆黒の天井から、そして木々の枝の青い隙間から
遠くに近くに瞬きながら数え切れないほどの神と人間とのロマンスを
描き続けています。
冬の夜空で繰り広げられるお話のヒーロー、ヒロインは限りが
ありませんが、今日のお話はカストルとポルックスという二人の
少年に主役をつとめてもらいましょう。

美しいスパルタの王妃、レダがある時川辺で水浴びをしていると
かねてから彼女に恋焦がれていた天の大神、ゼウスが一羽の
白鳥に身を変えて近づきこれを誘惑しました。
身ごもったレダは遠い地に逃れてある山蔭の青いヒヤシンスの
花の茂みに一つのたまごを産みました。
兄弟愛のシンボル、ふたごのカストルとポルックスの誕生です。
この双子の星は大昔からギリシャの人々に船乗りを守る救い主として、
また、白馬にまたがった青年の姿でと様々に姿や名前を変えて
語られています。
詩人ホメロスの叙事詩には調馬師カストル、拳闘士ポルックスとして
登場します。
ふたごの母、レダの行く末は気になりますが様々な苦難から逃れに
逃れてついには成長した息子たちに救われたということです。
良かった

澄み切った冬の夜空ほど星たちが美しく見える季節は他に
ありません。
夕方、東の空にきらきらと輝く腰帯をきりりと締めて大巨人のオリオンが
ふたごの星を従えて登って来ます。
この兄弟はいつも仲良く肩を組んでいます。
白いのが兄のカストル、ほんのり赤いのが弟のポルックスです。
この双子座が南の空に低く輝く頃にはこの地上に春の女神がやって来ます。

春の訪れはまだまだでしょうか。
いましばらく、晴れた夜空の日にはこのふたごのお星様誕生の秘話を
楽しむことにいたしましょう。
                        s・y

今日の一枚   「レダ」 東郷青児 リトグラフ  E・A

星に願いを

2010-07-02 | 取り扱い作品のご紹介


夏の星達の美しさは目映いばかりです。
彼らは赤く白く、大きく小さくそして遠くに近くにと
夜空にその美しさを際立たせます。

夏、太陽は力を増してせっせと大地の命を育てます。
一方、一日の仕事を終えて太陽が去って行き
涼やかな風が吹き渡る時刻になると
星達がゆっくりと天の彼方から昇ってきます。

暑かった一日の終わり、夜の庭に出て天を仰ぐと
白樺の黒い影の枝先にお星さまが密やかに温かく親しみをこめて
瞬いていました。
一粒一粒の光が慎ましやかで美しく清らかでした。
唯、じっと見つめているだけで満ち足りた思いが心の片隅から湧いてきました。

春から夏の間、毎晩、南の空から赤く輝く麦星と白く輝く真珠星のご夫婦が
仲良く手をつないで登場します。
麦星は牛飼い座の一等星でさみだれ星ともよばれ稲の穂を育む雨を降らせる星です。
真珠星はおとめ座の一等星スピカで農耕の女神、麦の穂を片手に持っています。
このお二人がいつまでもずっと仲良しの夫婦星で夏の夜空をハートで焦がしてくれますように。
そうすると毎年、畑の収穫には大いに恵まれることになりましょう。


願い事はたくさんあるけれど、とりあえず(笑)このお星さまのご夫婦には今年の
豊作の喜びを叶えて下さるようにお願いをいたしましょう。

                           s・y

     今日の一枚   「あやめ」 蕗谷 虹児      絵葉書

恋のフェアリー

2010-06-21 | 取り扱い作品のご紹介
公園の藤棚に置かれたベンチで少しの間涼んでいたら、
四方にゆれる花房の陰から懐かしい不思議な香りが立ち込めてきました。
まるで花びらのカクテルに酔った心地になりました。
そしてこんな甘い物語を思い出しました。

むかし、むかし、伊豆志おとめというそれはそれは美しい娘がおりました。
たくさんの若者達が言い寄って来ましたが、なぜか相手にしませんでした。
彼女に魅せられて求婚した秋山之したひおとこという少々乱暴者の若者は
やはり断られてしまいました。
そこで弟の春山之かすみおとこに向かって「おまえがなんとかあの娘を
手に入れて来い」とそそのかしました。
かすみは母のところに行きどうしたものかをたずねますと
やさしくておっとりとしたかすみのほうをこよなく愛していた母は一晩で
藤の蔓の衣や沓、弓矢などを作り着せて伊豆志おとめのもとへ行かせました。
かすみがおとめの屋敷に着くと身に纏っていたものすべてから一斉に
馨しい淡紫の藤の花が咲きました。
花の香りに包まれたおとめはいっぺんに恋に落ちてしまいました。
そうして花びらが降り注ぐ中でそのまま二人は結ばれたそーな。
                               古事記 より

   なんと、おおらかでしかも、大胆なロマンに満ちた古代の青春の姿なのでしょうか。
いつまでもこの二人のために美しい花房が風に揺られて香っていますようにと
藤棚の下でしばし夢の時を過ごしてしまいました。

                           s・y

           今日の一枚   「藤娘」      多美子 油彩
     
      日本舞踊 「藤娘」~藤の精が藤の一枝を肩にかけて酔って踊るシーン

            ~藤の花房色よく長く~

その瞳に乾杯

2010-06-02 | 取り扱い作品のご紹介
    緑滴る木立の陰に美しい女性が一人しっとりと座っています。
  シャンパングラスをテーブルに初夏のまばゆい光を浴びています。
  伏し目がちな横顔と豊かなブロンドに道行く人は誰もが足を止めたくなるでしょう。
  グラスの中からゆっくりと立ち上っては消えてゆく小さな泡のひとつぶ、ひとつぶに
  彼女は想い出のひとつ、ひとつを重ねているのでしょうか。
  ここは花のパリ、~世界一美しい大通り~とパリの人は自慢します。
  どこからかシャンソンが聴こえてきます。

  オ、シャンゼリゼと歌っています。

           シャンゼリゼには
             いつも何か素敵なことがあなたを待つよ
              シャンゼリゼには

花の都パリに相応しい女性、貴女の瞳に乾杯

             今日の一枚の絵  「テーブル グラス」  今井幸子 パリ在住
                           リトグラフ 

      ゲランの「シャンゼリゼ」ってどんな香りかしら s・y     

花づくし

2010-05-16 | 取り扱い作品のご紹介
札幌の街がほんのり桜色に染まっています。
紅染めの最も淡い色でやまざくらの花の色がそのまま色名になりました。
昔からいちばんに愛され続けている日本の伝統色です。
平安時代には男子でも桜色の狩衣を好んで着用した貴公子がいたとか。
桜を愛する人々がその心のうちを花の短い命に譬えてたくさんの歌を詠みました。

 
開花から、ここ一週間ほど花冷えの日が続きました。
少女の唇のようなつぼみが桜ながしに打たれてうな垂れていました。

桜雨はやさしくつぼみを滴で濡らしてかすかな香りを漂わせます。
花の雨は人の心をしっとりと落ち着かせ清らかにしてくれます。

さぁっと通り過ぎる花時雨に震えているうちに満開の花の時を迎えました。
桜色に染められた街の佇まい、ほんの一時の夢の街を歩いてみましょうか  
                                s・y

  さざなみや志賀の都はあれにしをむかしながらの山ざくらかな
                               平家 忠度の段

                今日の一枚  「春らんまん」  宮下柚葵  肉筆

イルカは歌う

2010-03-17 | 取り扱い作品のご紹介
   夕べ夢の中に雪が降りました。大きな牡丹雪でした。ふうっと目が覚めて
   窓の向うをこっそり覗いてみると静かに雪明りの街が広がっていました。
   夢に降る雪も本当に降る雪もどちらも人の心に積もった塵を覆って消し去ってくれる ように思われます。


   朝になってどのくらい積もったのかしらとカーテンを引いて見ると
   ふんわりと残り雪の上にのっかっているだけで、お昼には降った分だけ消えてしまいました。

   落ちてはとける雪・・・淡雪・・・春の雪は降る時をきちんと知っています。


♪汽車を待つ君の横で僕は時計を気にしている~ラジオから流れてきました。

   日本の早春を代表する曲です。

今はもう汽車の風景はありません。でも人の心の風景は昔も今も変わりはありません。
なごり雪、別れ雪、忘れ雪、恋の淡雪、春の雪は様々な心模様を包んでいます。

降っては消え落ちてはとける季節の中で、人は誰かを見送り誰かに見送られる、
そんなことを繰り替えしながら本当の春に出会うのではないでしょうか。

♪いま、春が来て 君はきれいになった 去年よりずっときれいになった・・・イルカは歌います。

        今日の一枚の絵    「春乃雪」  宮下柚葵    肉筆


                          s・y

俄か雨

2009-10-27 | 取り扱い作品のご紹介
今日の一枚     庄野 白雨  歌川広重   (1797~1858)

「保永堂版 東海道五拾三次」のうち
          天下一筑後窯 (株)日東セラミックス制作
          白磁版画

   東海道五拾三次は江戸時代の江戸日本橋から京都三条大橋に至る
   五十三の宿場を指します。
   広重は幕府火消し同心の子に生まれましたが家業を捨てて絵師を志し、
   歌川豊広の弟子になりました。役者絵、美人画、挿絵を描くうち北斎の
   富獄三十六景に触発されて風景画に情熱を注ぐようになりました。
   東都名所で風景画家としてデビューその他多くの名所の傑作を描きました。
   
   五拾三次は広重が上洛の折に数々の写生を試み、それを元に作った作品群です。
   季節の変化を巧みに取り入れた詩情豊かな傑作です。
   庄野は現在の三重県鈴鹿市の辺りです。副題の白雨はにわか雨のことで
   墨三色の濃淡で描き分けて、激しい雨に叩かれ揺れる竹藪と逃げ惑う人々を
   見事に表現しています。
   
                           
                   S.Y

夜会巻き

2009-09-17 | 取り扱い作品のご紹介
結い上げた夜会巻きの大人っぽさに少しはにかんで頬が上気しています。
今最後の仕上げに玉かんざしを手にとっているところでしょうか。
羽織の紐と後ろ髪に添えた髪飾りのトルコブルーがアクセントになって
しっとりとした華やぎと初々しい色気が画面に匂いたつようです。
恋しい人を待つお年頃の女性の美しさがあふれています。

「夜会巻き」  伊東 深水  1898~1972


☆S.Y☆
          

月鈴子。

2009-08-28 | 取り扱い作品のご紹介
「月鈴子」(げつれいし)とは鈴虫の異称で、他に「金鐘子」「月鈴児」などとも呼ばれていたそうです。

月の光の中、りーんりーんと鳴く虫の音にふさわしい美しい呼び名ですね。

清少納言が『枕草子』41段で虫について記している件がありますが、それによると「虫は鈴虫。蜩。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひをむし。蛍。」と真っ先に鈴虫を挙げており、いかに鈴虫の美しい音が愛されていたかうかがい知ることができます。

今日ご紹介するのは宮下壽紀『虫かご』です。
じっと虫の音に耳を傾ける女性。優雅なひとときですよね。
今晩、雨があがったら、わたしも同じような虫の音を聴けるでしょうか。


R.Y☆彡