白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

秋は白色

2010-09-30 | 画廊の様子
夜のうちに雨が窓ガラスや屋根のスレートを
叩きはじめました。
ぴちぴち、さーっさーっ、ざーっざーっとリズムを刻んで
秋の雨らしく凛として降りました。
朝、夕べの雨風がまるでうそのように明るい光が
窓辺に注がれていました。
庭の隅にひっそりときゃしゃな枝を広げていた白萩の
はなびらが辺り一面にこぼれていました。

萩は万葉集には「芽子」という字が用いられ、
秋の七種に数えられていてたくさんの歌が
詠まれています。

わが待ちし秋は来たりぬ然れども芽子の花そもいまだ咲かずける

万葉人は萩が咲くのを心待ちにし咲いては散りこぼれる
花をこよなく愛でて秋の花見として楽しんだといわれています。

白露を取らば消ぬべしいざ子ども露に競いて芽子の遊びせむ
玉梓の君が使の手折りけるこの秋芽子は見れど飽かぬかも
恋しくは形見にせよとわが背子が植えし秋芽子花咲きにけり

ひと群れの秋の花に寄せる万葉人の様々な深い心模様から
萩は日本の代表的な花であるといえましょう。

歌に詠まれる日本の四季には色があり秋の色は白、秋に咲くのは
白萩です。純潔無垢、神聖な白色は襲(かさね)の表裏に使われて
初雪という美しい名前が与えられています。

今日の一枚  「秋苑」  鏑木清方     木版

我が家の紅白の萩は紅いのが移植に失敗をして消えてしまい、
白いのは年々ほっそりしてか弱い姿になりました。
万葉の人々に習って熱い思いを込めて大切に育てなおすことに
いたします。

                  s・y





聴こえるでしょう?

2010-09-21 | 画廊の様子
ポプラの枝が空いっぱいにざわざわ揺れています。
唐黍畑の向うから香ばしい匂いがふわりと漂ってきます。
クローバの原っぱはそよそよと波を立てて行ったり来り。
それから子供達の丸い頬をちょんと突っついて行くのは誰かしら。
姿は見えないけれど耳を澄ますとトントン、ぴゆうぴゆう
カタカタ、ふうふうと不思議な音が聴こえてきます。
誰かいたずらっこがいるみたい。

ふうっと一吹きで命を与えたり奪ったり、天と地の人々を
繋いだりするのがアイオロス、ギリシャ神話の風の神さまです。
髭のない男が頬をぷうっと膨らませラッパを吹いている姿で
描かれています。顔だけで体は持っていません。
アイオロスは人々の耳元でさまざまな言葉を囁きます。
何をですって?
それは貴方だけのひみつです。


今日の一枚   「風ことば」  木版      中島 潔
      私はこの絵を眺めていると次の歌を思い出します。
                        s・y

    誰が風を見たでしょう 
    僕もあなたも見やしない
    けれど木の葉をふるわせて
    風はとおりぬけてゆく 

    誰が風を見たでしょう
    あなたも僕も見やしない
    けれど樹立が頭を下げて
    風は通り過ぎてゆく    
        
   Who has seen the wind?
           Christina Rossetti (1830~96)   

海からの贈り物

2010-09-11 | 画廊の様子
銀色に輝く鱗、鋭く曲がった鼻、精悍な顔立ち、
充分に成熟した弾力のある体、両手に有り余るその
力強い姿に暫し圧倒され魅了されてしまいました。
見事な秋味です。
オホーツクの冷たく透明な海水の中を泳ぎながら
成長し、その鋭い嗅覚で生まれた川のかおりを頼りに
帰って来たのでしょう。

さあ、このお魚とどんな闘いになるかしらと考えて
いるうちに一つお話を思い出しました。

ヨナは隣の国の悪がはびこったニネベの人々に神さまの
忠告を伝えに行かなければなりませんでした。
しかしヨナは敵のニネベに行くのが嫌だったので
神さまに背いてある港から船に乗って逃げました。
怒った神さまは暴風雨を起こして船を囲みました。
嵐のわけはヨナにあったことを知った船の人々は
ヨナを海に投げ込みました。すると大きな魚がやってきて
ヨナをぱくっと飲み込みました。三日三晩、魚のお腹の中で
過ごしたヨナは神さまの命令でもとの港に戻されました。
お魚のお腹の中でじっくりと神さまを裏切ってしまったことを
考えたヨナは改心しニネベに赴いて末永くその町を守り立派に
お役目を果たしたということです。 聖書のものがたりより

さて私もこの大いなる海からの贈り物と闘いました。
美しい紅いダリアの花のような身をとりだして
一晩ねかせたパイ皮に包んで美味しいサーモンパイを焼きました。
天からの大きな恵みに感謝です。

             s・y


moonlight serenade

2010-09-03 | 画廊の様子
月の光の中で咲く小さなちいさな青い花が月草です。
深い夜の帳の隙間から優しい光が注がれはじめると
眠りから醒めた小さな花はそのほっそりとした首をかしげて
少しだけ背すじをのばします。
二枚の花びらから青い玉の露が滴ります。

月の光のミューズは青いしずくをころがしながら
日暮れまでやわらかな白絹を染めていきます。

    朝露に咲きすさびたる月草の
       日暮るるなへに消ぬべく思ほゆ
                         
                   万葉集

月草の襲の色目  表  はなだ(青色)
            裏  うすはなだ(薄青色)

今日の一枚の絵  「露草」  蕗谷 虹児      
                 (1898~1979年)
                 絵葉書

蕗谷虹児~抒情の旅人・・・愛と夢と自由のミューズを
           少女の世界の中に探し続けた画家、詩人

野原や、道端や庭の片隅に可憐な姿で咲く月草は
万葉の時代から様々なイメージで人々の心を捉えてきました。
実にたくさんのニックネームを持っています。
藍花、蛍草、青花、はなだ草、帽子草、鴨頭草、そして露草など。
私は月の光を浴びて咲く小さな青い花には「月草」が
お似合いかしらと思っています。
                    s・y