第155回直木賞受賞作。母と娘、夫と妻、父と息子。近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。伝えられなかった言葉。忘れられない後悔。もしも「あの時」に戻ることができたら・・・。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。店主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる表題作「海の見える理髪店」。店主の延々と続く懺悔のような身の上話は、最後の1頁で客の反応と、別れ際の店主の何気ない問いかけで関係が明らかになるミステリーのような出来。全て分かったうえでの意識を押しつける画家の母から必死に逃れて十六年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く・・・「いつか来た道」。
仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発。子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める・・・「遠くから来た手紙」。親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す・・・「空は今日もスカイ」。父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる・・・「時のない時計」。数年前に中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する・・・「成人式」。人生の可笑しさと切なさが沁みるほろっとさせてくれる短編集。2016年3月集英社刊
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