その木に祈れば、願いが叶うと言われている今ではパワースポットになっているのクスノキ。その番人を任された青年と、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなすファンタジー。不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまった玲斗。同情を買おうと取調官に訴えるが、その甲斐もなく送検、起訴を待つ身となってしまった。そこへ突然弁護士が現れて依頼人の命令を聞くなら釈放してくれるというのだ。依頼人に心当たりはないが、このままでは間違いなく刑務所だ。そこで賭けに出た玲斗は従うことに。解放され依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性が待っていた。千舟と名乗るその女性は驚くことに伯母でもあるというのだ。あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗に彼女が命令をする。「あなたにしてもらいたいこと――それはクスノキの番人です」と・・・。クスノキを訪れる人々は満月と新月の日に神社にやってきてお参りして行く。玲斗はクスノキに祈念する意味を知らされぬまま番人を務めるのだが、そこにくる人々を見ているうちにクスノキの木に秘められた力の正体に気づく。いい事ばかりではなく悪い事も含めて念じる事で通じ得ることができると信じて我々は神仏に祈りを捧げる。物を忘れる怖さ、忘れたことさえ忘れる怖さ、ファンタジー過ぎない展開、クスノキの謎が解ける過程で、主人公が成長しつつ、様々な登場人物の思いや魂が伝わる、主人公の番人としての成長がしっかり感じられるほっこりした読後感でした。「念とは元来、到底言葉だけで表しきれるものではないんです。念とは魂であり、生き様です。」(P425)
2020年3月実業之日本社刊
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