オークランドからフェリーで40分のワイヘキ島は、
ヴィンヤードと言われるワインが楽しめるぶどう園で有名な島だ。
ツアーもあるが、ツアーを予約するとキャンセルできないため、
どんなにお天気が悪くても、行かなくてはいけないから、
気をつけ たほうがいいと、
親切なインフォメーションの方が教えてくれた。
本当は、他の島に行きたかったのだけれど、
若くもない女一人で、それも英語力に問題がありそうな私を見て、
同じ日本人として心配してくれたのだろうけど、
ことごとく提案は却下された。
「日本とニュージーランドは全然違いますよ。
日本の島は、どこへ行っても人はいます。
でも、ニュージーランドの人口は 横浜市と同じで、
それもその3分の1がオークランドに住んでいます。
ちょっと離れたら、助けを呼びたくても、
誰もいないということもあります。
このグレートバリア島は電気が通ってなくて……。」
何かあったら大変だから…という親切心で言ってくれたのは、
よくわかるが、すっかり怖気付いてしまって、
「何かあったら大変だ!」
という恐怖心がチャレンジ精神に負けてしまった。
その時、ワイヘキ島を勧められたが、
パンフレットを見てもワインのことしか載っていないから、
お酒を飲まない私は、興味が湧かなかった。
オークランドで1週間経ち、これではまずい“黄色い戦士”として、
あるまじき行為…と自分を奮い立たせ、2/19島に向かった。
チケット売り場で30ドルの往復チケットを買い、船に乗る。
可笑しかったのは、たくさん人が並んでいたから、
いい席はないだろうな…と思っていたが、
後から乗ったのに、クーラー付きのゆったりしたシート席はガラガラ。
先に乗ったみんなが我先にと座ったのは、
外のデッキにあるプラスチックの椅子だった。
“いい席”というのは、国によって違うんだな…。
海風を感じながら、景色を楽しめると思う人たちと、
髪がバサバサになり、日焼けしてしまうと思う日本人。
時々、デッキに出て写真を撮りながら、
青い空と海と遠くなっていくオークランドの街を見るだけでも、
30ドルの価値はあるのではないかと思った。
島に着くと、みんなバスに乗ったり、迎えに来た車に乗ったりして、
あっという間にどこかに消えて行った。
簡単な地図にウォーキングコースらしい道があったので、
その道を行くことにした。
港から、右に海岸線を歩く。
あんなにたくさん人がいたのに、いつの間にか誰もいない。
そして、私の後をついてくるおじさんが!!
その時、私の脳裏にあのインフォメーションの方の言葉が……。
“女性の独り歩きは、危ないから…。”
隙を見せまいと身構える私に、そのおじさんは、
「カヤックするかい?」
そのビーチのカヤック小屋のおじさんだった。
その人の奥さんも日本人らしく、ウォーキングに行くというと、
詳しいマップをくれて、いろいろ説明してくれた。
日本人女性と結婚しているNZの人は多いような気がする。
気候も似ているので、住みやすいのかもしれない。
第2の人生をどこかで送ってみたいという人には、
お勧めかもしれない。(女性限定)
そのマップを頼りに、ウォーキングスタート。
これが、なかなかステキな道で、
ガイドブックに載ってないのか、不思議なくらいだ。
青い海、青い空、心地よい風。
よく整備された小道を軽くアップダウンを繰り返しながら、
海を見ながら歩くのは、気持ちがいいものだ。
おまけに本当に、誰もいない。
贅沢な気分のはずなのに、なぜかまた、あの言葉が、ムクムクと…。
“女性の独り歩きは…”
呪文のように、浮かんでくる。
そんな不安と何度も戦いながら、目的地のチャーチビーチまでやってきた。
「うわー、羊だ~!!」
そこに広がる景色はオークランド市内ではなかなか見られない、
ニュージーランドらしいのどかな景色だった。
野生のプケコ(ニワトリくらいの大きさの黒い鳥)も途中で、見ることができた
大満足で帰っている途中で、ふと気づいたことがある。
途中で何ヶ所か、不安になって、
“ここで引き返そうか”と考えた場所を通り過ぎた。
もしここであの時引き返していたら、
これもあれも見ることができなかったんだろうな… 。
そう思うと、こんな手前で迷っていた自分が恥ずかしくなる。
きっと人生もこんな感じで、誰かの言葉が引っかかって、
前に進む勇気を失ってしまうことがあるかもしれない。
相手は善意で言ってくれているのだが、
不安と恐れで自分がぐるぐる巻きにされてしまう感じ…。
でも、それで立ち止まってしまったら、
きっと今よりステキなことは起こらないような気がする。
安全で平凡な、昨日と同じ明日。
自分はどの道に進みたいのか、自分で選べる人生は、
それだけで輝いている気がする。
なんて、4時間も独りでぷらぷら歩いていると、
そこはかとなく考えてしまうものだ。