(※この記事は、絵本「ベンジャミンのたからもの」のネタバレを含んでいます。一応念のため、注意して読んでくださいねm(_ _)m)
ええと、このあたりもわたしあんまり、お話の展開的にそんなに面白くもないな~……とか思ってたりして(^^;)
ただ、四人子供がいて、ひとりずつ、それなりにそれなりのエピソードを回さなきゃいけないっていうのがあって、それがココの番になったというか、何かそんな感じかもしれません。。。
んで、今回は【25】のところで書いた、「ベンジャミンのたからもの」が届いたので、その話だったり
いえ、この絵本は超買って良かった本でした♪とにかくもう永久保存版です!!
元の原画のほうはモノクロだったそうで、それにローズマリー・ウェルズさんが絵の具で彩色されたのだとか。ガース・ウィリアムズさんが1951年に文章をつづり絵を描いたことから、1950年代の絵の具を使用されたとのことでした。また、色使いのほうはガース・ウィリアムズさんの他の本を参考にして選んだとのことです(でもそれが本当に嵌まってると思うんですよね~♪労作です^^)
でも本当に、これならきっとガース・ウィリアムズさんも喜ぶんじゃないかなといった、本当に素晴らしく綺麗な絵本として仕上がっていますこの絵本は「しろいうさぎとくろいうさぎ」の続編とのことで、まあその後ふたり(二匹?)はこんなふうに幸せに暮らしましたとさ……といったようにも読めると思います
絵本のタイトルが「ベンジャミンのたからもの」ですから、主人公はくろいうさぎ……なのでしょうが、絵本の中のベンジャミン・ピンク氏は茶色いうさぎさんになっています(笑)そして白うさぎの奥さんの名前はエミリー・ピンクちゃんと言い。。。
かっわいいですよねえベンジャミン・ピンクとエミリー・ピンクのピンク夫妻だなんて……もしこれが人間だったら、ピンク氏と聞いただけで……いや、これ以上はやめておきましょう。げふごほグフッ!!(何があったww)
なんにしてもピンク夫妻は、クローバーがおかという場所に住んでおり、その白い小さな家からは海が見えました
いえ、「しろいうさぎとくろいうさぎ」のファンの方には簡単に想像していただけると思うんですけど、もうこの家の中の様子とか、二匹のうさぎの夫婦がお茶を飲んでる場面とか、とにかくもう、何もかもが超ツボ!!なのです
そして、ある夏の朝、ベンジャミン氏は六時に起きると「魚釣り」に行きました。氏の言葉によると、
「こんなひは さかなつりに いかなくちゃね!」
とのこと。すると、人間でも見るなり「ひええっ!」となるようなぶっといミミズを畑で捕まえ……バスケットにお弁当を入れ、釣りざおを片手に持ち、こうしてベンジャミン氏は出かけていきました
お弁当は「レタスとハツカダイコンがたっぷりはいったサンドイッチ」、それにお茶とおやつのリンゴも入っています。もちろん、奥さんのエミリーちゃんが作ってくれたのでしょう。そして、可愛いエミリーちゃんは旦那さんに「レインコートを忘れてるわよ」と最後に言うのですが、
「こんな おてきのひに あめなんか ふるはずないよ。
さあ、おいしい さかなを どっさり とってくるからね」
と言って、エミリーちゃんの親切な忠告を聞かずに、クローバーがおかをおりていってしまいます。。。
まあ、物語の振りにレインコートが出てくるということは、もちろんこのあと、ベンジャミン氏は大雨……どころでない大嵐に遭遇することになるわけですが(笑)、そんなことも知らないベンジャミン氏は、
>>ボートに のって、 いざ しゅっぱつ。
クローバーがおかの いえの まえで、エミリーが
てを ふっているのが みえます。
「おーい、エミリー!ウサギみさきまで いって、
でっかい さかなを とってくるよー!」
などと、実に意気揚々、呑気(?)なものでした。。。
ウサギみさきの近くまで来ると、ベンジャミン氏は釣針にミミズをつけて、釣り糸を垂らしました。
けれども、バスケットのお弁当を食べ、そのあとお茶を飲み、おやつのリンゴを食べ終わっても――釣り糸はピクリとも動きません。
そしてここからもある意味、絵本的な展開としてお約束ですが(笑)、ベンジャミン氏の釣り糸には宇宙人(半魚人?)みたいな顔をした魚がかかっていました!!
……と、ここから先は、絵本のほうを読んでいただいたほうがいいのかなって思うので、まあかいつまんでいうと、このあと宇宙人魚を逃しただけでなく、ベンジャミン氏は大波にもまれて遭難してしまいます。そして流れついた無人島。。。
そうなんですね!タイトルのとおり、本当にベンジャミン・ピンク氏の大冒険がはじまります(ちなみに、絵本の原題は「Benjamin’s Treasure」なのです♪)……っていうか、もうはじまっています
果たしてベンジャミンはこの(ウサギにしてみれば)宇宙の果てのような無人島から無事生還できるのでしょうか!?
そりゃー絵本なんやから、最後は「めでたしめでたし☆」で終わるんやろ?という話なのですが、自分的にはこの冒険の部分が結構意外な感じの展開で、とても楽しめましたし、何故わたしたち人間はこうもうさぎや犬や猫たちが二足歩行していると喜ぶのか……という、そうした微笑ましさや優しさで溢れていて、ページを繰るごとにとても幸せな気持ちになれます♪(^^)
そんでもって、途中からネタバレ☆を気遣っていながら、最後のオチをバラしてしまうとですね、ベンジャミン氏、この流れ着いた無人島で物凄い宝の山というか、宝箱の中に宝石などが詰まった財宝を発見します
そんで、どうにかこの宝物を持ち帰ることが出来れば、「エミリーになんでも好きなものを買ってあげられるし、クローバーがおかのみんなにも色々プレゼントできるし、他に大きな病院を建て、新しい公園を作り、誰でも自由にレタスを食べられるようにしよう。そしたら、ぼくはクローバーがおかの村長に選ばれるかもしれないな」と、どこまでも夢の広がるベンジャミン氏。しかも、村長になった時の演説までしはじめ……つか、どうやってこの無人島からクローバーがおかへ帰るというのでしょうか(^^;)
なんにしても、この宝の箱をこの無人島に埋めたという海賊のネズミとネコとアヒル、アナグマ(かな?)も超可愛らしく描かれており……いやいや、それはさておきベンジャミン氏は、カメやイルカといった海の動物たちに助けられ、無事、元のクローバーがおかへ帰ってくることが出来るのでしょうか!?
わたし、絵本の中でこの部分も好きだったのですが、最後、ベンジャミンくんは実は凶悪な顔つき(?)のサメのヒレにつかまって帰ってくるのです。いえ、てっきりイルカや他の心優しい系の動物に助けてもらって帰ってくるかと思いきや、無愛想で顔もコワイけど、実は心優しいヤクザ……みたいなサメのテオのヒレにつかまってクローバーがおかまで帰ってくることが出来たのでした。
この部分のちょっとした意外性が「流石!!」と思いましたし、ベンジャミンくんは絵本の中のうさぎとは思えぬほどの強欲さで(笑)、どうにか宝物をいかだに積んで帰って来ようとするのですが、結局それはうまくいかず……。
なんにしても、命あっての物種ですからね。ベンジャミン氏はこうして、いとしい妻のエミリーちゃんの元までようやく帰ってこれたというわけでした。ああ、あの時、可愛い奥さんの忠告を聞いて、レインコートさえ持っていっていれば――いや、レインコート着てても全然関係ねえレベルの大嵐だったって話ですけどねww
けれども、せっかくあれだけの財宝を見つけたのに、何も持って帰ってこれなかったので、ベンジャミンくんが自分の大冒険について話して聞かせても、エミリーちゃんは首を傾げていました。
>>「むじんとう? たからの はこ? それ、ほんとうに ほんとう?」
このあと、ベンジャミン・ピンクは自分の話を信じない奥さんにぶっちぎれ、暴力をふるった――ということもなく、疲れ果ててベッドでぐっすり眠ってしまいました
けれど、旦那さんのベンジャミンがベッドでぐっすり眠っているのを見て、エミリーちゃんはこの時あることに気がつきました。ベンジャミンくんのミミの中で何かが光っていたのです。それはとても大きな真珠でした
この次の朝、ベンジャミンはエミリーちゃんと一緒に海を見渡せる庭でこんなお話をします
>>「ほら、あそこを みてごらん」
ベンジャミンは とおくの うみを ゆびさしました。
「ずっと むこうの しまに、ぼくが つくった あなの うちがある。
そこの ゆかに、まだ たからものが はんぶん うまってるんだよ」
「こんど、じょうぶな ボートを つくって、ふたりで とりに いきましょうよ」
「そうだね。でも、ぼくは もう せかいで いちばん すばらしい、だいじな
たからものを もってるんだ」
「あら どこどこ? それ、どんな たからもの?」
「ここだよ。いちばん だいじな たからものって きみの ことさ、エミリー」
ベンジャミンは そういって、にっこり わらいました。
(『ベンジャミンのたからもの』ガース・ウィリアムズさん文・絵、こだまともこさん訳/あすなろ書房)
そうなんですね~♪ベンジャミン氏ったらもう!!聞いてるこっちのほうが恥かしいわ!(なんでww(〃艸〃)笑)
というわけで、物語の1ページ目を開いた時からなんとなく予測していたラストなのですが、ほのぼのとした優しくあったかい気持ちで絵本を閉じることが出来た……という意味で、自分的評価としては五段階評価の☆七つです!!(え?五段階評価じゃないやんww)
なんにしても、「しろいうさぎとくろいうさぎ」を読んであげたお子さんが、もし「ねえママ。このお話、もうつづきないの?」と聞いたら、図書館ででも「ベンジャミンのたからもの」を借りてきて、是非読んであげましょう。そうしましょう♪(^^)
それではまた~!!
聖女マリー・ルイスの肖像-【27】-
一方、ココと一緒にオーディションのためのスタジオへ到着したマリーは、当のココ以上に緊張していたかもしれない。
何分、五万人の応募がユトランド国中からあり、さらにその中から一次審査に合格したのが五百人、二次審査ではカメラテストと面接によって、さらにその半分の二百五十人くらいとなり――三次審査でさらにその十分の一ほどの子供が残り、仮にグランプリといった賞に輝けなくても、三次審査に残った子にはキッズモデルとしての仕事が約束されることになるという。
「わたしが目指してるのはね、そこなのよ、おねえさん」と、ココは緊張を紛らすために、行きのタクシーの中でずっとしゃべりっぱなしだった。「ケイティみたいにわたし、自分が必ずグランプリになれるとかなんとか、そんなことは思ってないっていうか、流石にそこまで自惚れが強くないのね。でも、今からそういうお仕事をしておいて、将来自分がしたいと思ってるファッションの仕事に繋げたいのよ。だって、そうじゃなくて?仮にわたしが将来的にファッションデザイナーになれたとして、自分でも小さい時にモデルとしてのキャリアを積んでるっていうのとそうじゃないっていうんじゃ、かなりの差が出ますもの」
「そうね。そのとおりね、ココちゃん」
ココに命じられるがまま、「おねえさんはこのスーツを着て靴を履いてちょうだい。あと、ちゃんと美容室へもいって髪をセットしてね。絶対よ」と釘を刺された結果――マリーは1200ドルもするグッチのシックなスーツに身を包み、普段履かないヒールの高い靴を履いていた。美容室のほうに頼み、メイクのほうもバッチリだった。
そんな様子のマリーのことを見て、イーサンはすっかり上機嫌だったものである。彼はキャサリンと顔を合わせることを思うと気が重かったわけだが、自分がアルマーニのスーツを着ていたせいもあり、マリーと何枚も携帯で写真を撮りまくったほどである。とはいえ、その写真に映っているマリーはすでにこの時から顔を強張らせており、ベストショットと呼べるようなものは一枚か二枚しか存在していない。
「じゃあな、ココ。おまえはおまえで頑張れよ」と、頭のてっぺんにキスして、イーサンはココのことを送りだしていた。それから、マリーにも「あんたがオーディションを受けるってわけじゃないだろう」と、彼女がリラックスするよう、肩を何度か叩いて励まし、タクシーに乗るふたりのことを見送った。
オーディションの控え室にはパイプ椅子がズラリと並び、そこには一張羅の晴れ着に身を包んだ少女たちが、母親や父親などに連れられてお行儀よく座っていた。まるで部屋のどこかに監視カメラが仕掛けられていて、その様子もオーディションの一部であるとでも思っているかのようである。
「まあ、ココちゃん。この中でココちゃんが一番可愛いらしいわ。だからきっと大丈夫よ」
ココは押し出しも強く、この部屋の全員を打ち負かすつもりでずんずん進んでいくと、一番前のほうの座席に着いた。マリーはそんな彼女を追いかけるように走っていき、ココの隣でそんなおためごかしを言う。
「いいのよ、おねえさん。そんな棒読み調に励ましてくれなくても……ここにいる子たちとわたしとは、今のところ対等なのよ。一次審査用の書類や写真を見て、大体のところ横並びになった子たちが二次審査に進んだってことでしょ。わたし、自分のやるべきことはわかってるの。それで駄目ならようするに、運がないか才能がないかのどっちかよ」
「そ、そうね。そうかもしれないわね……」
マリーはちらと控え室の会場を見回してみただけだったが、どの子もオートクチュールにしか見えないような、ブランドの子供服を着ているようだった。また、その隣にいる母親というのが、それに輪をかけて凄い。髪の先から足の爪先まで、まるで自分がオーディションを受けるかの如く、髪型からメイク、服装や靴に至るまで――マリー流の言い方をするとしたら、それこそ「ビッ」としていたものである。
二次審査に進んだ五百人の子供のうち、その全員が今日ここでオーディションを受けるわけではなく、他にノースルイスやサウスルイスなど、大都市のいくつかで同じように審査が行われるため、ここ、ユトレイシアの会場には、大体百人以上くらいの少女たちが集まったことになるだろうか。
対象は七歳~十二歳の少女たちということで、一瞬見ただけではその子がいくつかというのは、マリーには少しわかりかねたかもしれない。大人っぽい顔立ちの子が多いため、ココよりも年上だろうかと思って胸のネームタグを見ると7歳とあったり、逆にココより幼そうに見えて、実はココより二つ年上だったり……そこに集まった子供の顔立ちがみなあまりに可愛らしいため、マリーは最後にはどこを見ていいかわからないほどになった。
と、そこへ、ココと同じように受付を済ませ、胸のところにネームタグをつけたケイティ・オーモンドが母親と一緒にやって来る。ケイティはココよりも少し背が高く、大人びた顔立ちをした少女だった。黒い髪に黒い瞳をした彼女は、ブロンドにブルーの瞳のココのことをしきりと羨ましがったが、全体的な雰囲気として、マリーはケイティのほうが何か人に訴えかけるというか、何か人を惹きつける存在感があるように感じたかもしれない。
「お互い、大変ですわね」
典型的なセレブママといった優雅な雰囲気のミセス・オーモンドは、その日はシャネルのスーツによって「ビッ」と決めていた。「ママのスーツはね、いつもシャネルのプレタポルテなの!」とケイティが言っていても、マリーには「プレタポルテ」という意味自体がわからず、「そう。すごいわね」などと頷くのみだったといえる。
「そちらはグッチね。とても素敵だわ」
「いえ、ココちゃんにせめて恥かしくない格好をしてって言われたものですから……」
ミセス・オーモンドに比べ、自分が全然「ビッ」としてないように感じて、マリーは顔を赤らめた。
「ううん、そんなことないわ。とてもお似合いよ。ココちゃんに彼女が友達と一緒に作った<ファッションブック>を見せてもらったけど……ココちゃんには誰に何が似合うとか、そういうのが直感的にわかるのね。素晴らしい才能だわ」
「ええ。本当にしっかりした子で、今からモデルを少しやっておけば、将来的になりたいファッション関係の仕事にも生かせるんじゃないかなんて……」
「まあ、本当にね。うちの子は将来は女優になりたいんですって。でもまさか、『そんなこと無理だからやめておきなさい』とも言えませんものねえ」
「でも、ケイティには才能があると思いますわ。前に詩を暗誦するのを聞いたことがありますけど、素晴らしかったですもの」
「だけど、それだけじゃねえ。なんにしても、五万人応募者がいたうちの五百人に残ったっていうんじゃ、『そんなところに行っても次こそ落ちるわ』とも言えなくて、一緒についてきたって感じかしら」
ここでケイティが、立ち話を続ける母親に向かって抗議の声をあげる。
「ママったら、またそんな悲観的なことばっかり言って!こういう時には仮に嘘でも自分の娘を励ましたらどうなの!?」
「あら、ママはただ単に謙遜してるのよ。うちの子は絶対この二次審査を突破して三次に進むわ、だなんて、そんなこと言ってて落ちたりしたら恥かしいですものね」
「もう、ママったら!!」
――この時、時間となり、会場の前のほうに係の中年女性が出てきて、今回のオーディションの注意点等について説明をはじめた。そして、ホワイトボードの前に色々と彼女が書きつけつつ、マイクに向かってしゃべっていた時、入口のドアからひとりの女性とその娘が飛び込んでくる。
「すみません、遅れてしまって。車が渋滞に捕まってしまったもんですから……うちの子、オーディション受けられますよね!?」
ここで、少しキツめの顔立ちをした女性が、マイクを通し「遅刻は失格とみなします」と大きな声で言うと、隅のほうにいた警備員がふたり、そちらのほうへ向かった。
「どうしてですかっ!?五万人もエントリーがあったうち、たったの五百人の中のひとりに選ばれたんですよ?それなのに、五分遅れたくらいのことで失格だなんて、あんまりですっ」
「失礼ですが、お母さん」と、冷たい声でマイクを通して彼女は言った。「この業界をなめないでください。大体ここにいる子供くらいの年齢で、容姿の可愛い子なんてそれこそたくさんいるんです。一度現場に出たら、『子供だから』なんていう理由で許されることなんて一つもありません。誰かひとりが遅刻したことでプロダクションに多額の賠償金がいくことだってあります。そういう意味も含めて、いかなる理由があろうとも、遅刻した時点で失格とみなされると、二次審査の概要のほうにも書いてあったはずです」
ここまで来ると、会場全体がしーんとなり、針が落ちても気づくのではないかというくらいの静けさに包まれた。結局のところ、遅刻してきたココと同じくらいの年齢の子は、大声で泣きながら母親と一緒に会場から出ていくということになる。
マリーやココの後ろでは「可哀想に……」という声や、「ううん、遅れてくるほうが悪いのよ」という声などがちらほら聞こえたが、マリーにはなんとも言えなかった。(少し早めに出てきて良かった)と思うのと同時に、(あれがココちゃんと自分じゃなくて良かった)との思いもあり、そんなふうに感じた自分を恥じてもいるという、複雑な気持ちだった。
百人以上いる少女たちはまず、カメラテスト組と面接組の半々に分かれることになった。ケイティは面接組のほうに振り分けられ、ココは先にカメラテスト組のほうへ入ることになった。そして、ランチののち、午後からはこれが逆になるわけである。
何分、あまりに待ち時間が長いため――母親の判断で募集してきた子供の中には「わたし、もうおうち帰りたい!」と言って泣きだす子もいた。そして、廊下のほうではそんな子供たちが母親になだめられるという場面が何度となく見られていたといっていい。
そんな中、ココは実に我慢強かった。受付のところで76番という番号を与えられた時から、尊敬する兄のアメフトの背番号と一緒だったことで、「最高のラッキーナンバーよ!」と言って喜んでいたものだ。けれど、だんだんに自分の順番が近づいてくるにつれ、ココの顔色が青ざめてきたような気がして、マリーはそんな長女の手をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫よ、ココちゃん。イーサン兄さんがきっと守ってくれるわ」
「うん。そうね!」
ココが珍しく子供らしい態度を見せたため、マリーも何故か嬉しくなった。初めてここに一緒についてきて良かったと思ったほどだ。ケイティとも組が分かれてしまったし、そう考えた場合、やっぱり自分がいるかいないかだけでも随分違うと感じた。
このあと、さらに随分時間が経ってからようやくココの番となり、先に撮影していた子の様子を参考として見ていて――ココはますます自信がついたかもしれない。彼女はモニカやカレンといった親友とずっと、お互いにお互いを携帯のカメラで撮りあってきた。それも、「モデルごっこ」として、かなり本式に色々なポーズを取る練習をしてきたのだ。
実際、前の子があまりにど下手だったせいで、ココはさらなる自信を得、プロのカメラマンが何か指示を出す前に、色々なポーズを自分からしてみせた。「その調子よ、ココちゃん!」とマリーも思わず叫んでしまったほどである。その声を聞いたフォトグラファーのほうでもココの名前を覚え、「ようし、いいぞ。ココ!!今度はこっちに笑顔を向けてくれ」などと、乗りはじめていたくらいだった。
そして最後、このフォトグラファーは他の子供たちにはしなかったことをした。それまで撮影していたカメラとは別のポラロイドカメラを手に取ると、「お姉さんも、どうぞ記念に一枚」と言って、ココと並んだ写真を一枚撮り――その場ですぐに渡してくれたのである。
「よかったわね、ココちゃん。おねえさん、本当にココちゃんが誇らしいわ!!」
マリーは撮影スタジオから出ると、ココのことをぎゅっと抱きしめて、頭のてっぺんのところにキスを何度も繰り返す。
「ええ。もしかしたら、来てくれたのがおねえさんで良かったのかもしれないわ。あの人、たぶん本当は子供を撮るのなんてそんなに好きじゃないんじゃないかしら。美魔女のお母さんが多いとはいえ、おねえさんくらい若いお母さんは他にいないから――それできっと気をよくしたのよ」
「そんなこと関係ないわ。全部ココちゃんの実力よ!!」
実際に撮影がはじまる前まで、マリーも緊張で胃が締めつけられるようだったが、それが一気に解放されてほっとした。もちろん、まだ面接のほうが残っているとはいえ、一旦肩から力が抜け、呼吸が楽に出来るようになった気がする。
このあと、ランチの時間に会場となっているホテルの食堂のほうへ行ってみると、そこは人の群れでごった返していた。そんな中でも先に席を取っておいてくれたケイティとミセス・オーモンドに手招きされ、マリーとココは彼女たちの隣の席へ落ち着く。
食事のほうはバイキング形式だったが、ココもケイティも食事が喉を通らないと見えて、サンドイッチとサラダを少しばかり取ってきただけだった。それに反してミセス・オーモンドはパスタやピザなどをたっぷり取ってきていて、娘から嫌味を言われている。
「ママったら!娘が緊張で死にそうになってるその横で、そんなにいっぱい食べるつもりなの!?」
「あら。ママはね、あんたがそれっぽっちじゃお腹がすくんじゃないかなと思って、あんたの好きそうなものを少し多めにとってきてあげたのよ。なんにしても、面接のほうはそんなに悪くもなかったでしょ」
「面接、どうだったの!?」
今度は自分がケイティの立場になると思い、ココは必死な顔つきで聞いた。
「んー、わたしの場合はどうかなあ。五人くらい面接の人が並んでてね、ひとり、すっごく意地悪なおっさんがいるのよ。たぶん、あの五人の中で一番偉い人なんじゃないかなって思う。なんとかプロダクションの社長か何かで、眼鏡をかけたタヌキみたいな顔の奴よ。他の四人の人たちは、まあまともっていうか、フツーなの。ところがその親父ときたら、『ほうう。特技はピアノですか。でも、こういうオーディションにやって来る子なんかは、ピアノくらい弾けるのが普通ですからな』と、まあこうよ!」
「ええ~っ!?それじゃわたしなんてまるで駄目じゃない。ピアノも弾けないし、他に何か特技って言ったって……」
「でもあんた、書類のところに特技を書く欄があったじゃない。ココはそこになんて書いたの?」
「わたし、ファッションデザインなんて書いちゃった」
そう言ってココは、イチゴシェイクを飲みながら、初めてしゅんとした顔をした。その横でマリーが、そんなココの背中を叩いて元気よく励ます。
「でも、写真撮影のほうは素晴らしかったじゃないの!!おねえさん、ココちゃん以上にあんなに物怖じせずに色んなポーズを取れる子って他にいないと思うわ。フォトグラファーのお兄さんも感心してらっしゃったものね。きっと、もし仮に面接のほうが多少まずくても、三次審査のほうにはきっと進めるわよ」
「あーもう、そうい縁起悪いこと言わないでくれる!?」
「ああ、ごめんなさいね。でもココちゃんならきっと、面接のほうもうまくいくわよ」
このあとココは、カバンのポケットのところから、一枚のポラロイド写真を取りだして、ケイティと彼女のママに見せた。
「わあ。素敵じゃない。それにこの服、とっても可愛い!!」
「そうなのよ。わたしの前の子なんて、たったの一回、何かのお義理みたいに着替えただけだったけど、まわりのおねえさんたちもなんかやたらとちやほやしてくれて、色んな服に着替えさせたがったの。楽しかったわ」
ここでケイティと彼女のママとは、再び顔を見合わせた。何か、この時点で大きく水をあけられたような気がして――彼女たちはなんだかとても不安になってきた。面接のほうは中の下といった印象だったし、これでカメラ撮影のほうまでまずかったとすれば、二次審査を突破できないのは間違いない。
一見このオーディションにそうがっついてないように見えるミセス・オーモンドだったが、実は自分の娘をこのことを足がかりに芸能界デビューさせたいと願っていた彼女は、カメラ撮影のコツをなんとかココから聞きだそうとした。
「ほら、ケイティ。あんたもココちゃんにポーズの取り方を教えてもらいなさい。ママ、カメラのかわりに携帯で撮影してあげるから」
「いやよ。こんなところでそんな恥かしいこと!!」
「何言ってるのよ。ここはママの言うとおりになさい。第一、そんな我が儘言って恥かしがってちゃ、いざ撮影会っていう時には萎縮しちゃってあとで泣くことになるのはあんたなんですからね」
「…………………」
最初、ケイティはママのこの上から押さえつける物言いに膨れっ面をしていたが、食事が済むと、廊下の片隅のほうでやはり母親の言うとおりにしていた。ココがいくつか「いかにもモデルっぽく見える」ポーズを取ってみせると、それを真似てポーズを取り、ミセス・オーモンドはそんな娘のことを携帯のカメラでカシャカシャ撮りまくったのである。また、一方ココはケイティから面接でどんなことを聞かれたのかを聞きだし――面接で呼ばれるまでの間、自分ならなんて答えるかというシミュレーションを何度も繰り返したのだった。
もちろん、ケイティにしたのと同じ質問をココにもしてくるとは限らない。けれど、長い待ち時間の間、そうしたシミュレーションを頭の中で繰り返せたことで、ココは写真撮影の時以上に落ち着いた態度で面接のほうに向かえていたといえる。
また、マリーは母親も一緒に面接の部屋のほうへ通されるということを聞いて、正直仰天していた。てっきり、ココひとりだけが部屋のほうへ通されると思いこんでいただけに……だが、結局のところ未成年の子供というのはその母親や父親がどんな人間かによって左右されるところが大きいため、それで保護者も一緒に面接するということになっているらしい。
「ええと、ココ・マクフィールドさんですね。年齢のほうはおいくつでいらっしゃいますか?」
最初に、マイクを片手に色々なことを説明していた女性が、ココにそう聞いた。
「九歳です。でも、年齢以上にしっかりしてるねって、まわりの人みんなから言われます」
ココが大人びた調子でそうはっきり言うと、そこに並んでいた五人の面接官たちは、少しばかり笑っていた。嫌な感じの笑い方ではなく、いい笑い方だった。
「それで、ココちゃんは勉強のほうはどうなのかな?」
次に、右から二番目の演出家の中年男性がそう聞いた。子供のココの目にも、優しそうな雰囲気の人に見える。
「まあまあです。ええと、まあまあより少し上かな。得意な科目は社会と数学で、いつもAを取ってます。他の科目はBかAのどっちかで……そうよね、おねえさん?」
「え、ええ。ココちゃんは少し謙遜してるんじゃなくて?おねえさん、ココちゃんがいつもAばかりで、とても嬉しく思ってるのよ」
「じゃあ、体育や音楽なんかは得意?」
三番目の座席の映画監督の若い男がそう聞いた。彼もまたココの隣にいるのが母親にしては若すぎると思ったため――彼女が<姉>と聞いて、深い意味はないがなんとなく嬉しくなった。
「そうですね。体育は好きです。音楽も、歌うのは好きだと思います」
「じゃあ、ちょっと何か歌ってもらおうか?ココちゃんの好きな歌ならなんでもいいから」
そう右から四番目の座席に座る、初老の男性が言った。彼はこのオーディションのスポンサーのひとつである、某アパレルブランドの社長だった。ロマンスグレイの、着ているものも品のいい、整った白いヒゲを生やした人物だった。
ここでココは、マイクを持たされると、時々カラオケで歌ったことのあるレディー・ガガの『ポーカー・フェイス』をアカペラでそのまま歌った。歌い終わるのと同時に、その場の全員から拍手が上がり、マリーももちろん一生懸命拍手した。
「歌のほうはなかなかだね」と、アパレルブランドの社長。「将来は歌手になりたかったりするのかな?」
「いえ、どちらかというとわたし、ファッション関係の仕事がしたいんです。将来はデザイナーになるか、ファッション雑誌の編集者になるかしたいんです」
ココはここで、一番右の座席に座る、中年女性のほうを見た。実は彼女は女性ファッション誌の編集長をしている女性だったのである。
「今からなりたいものが決まっているだなんて、素晴らしいことですわね」
そう言って彼女は、ココの審査シートに目を落とし、特技のところに<ファッションデザイン>とあるのを見た。マリーは今こそ自分の出番とばかり、グッチのカバンの中からココのファッションブックを取りだすと、鬼編集長として知られるダイアン・サマーの元にそれを急いで差しだしていた。
「そのファッションブック、ココちゃんがお友達と一緒に去年作ったものなんです。あんまりクォリティが高かったので、校内で表彰もされたんですよ」
「ええと、こういうものは本当は、審査の対象としてはいけないことになってるんですけど……」
そう言いながらも、ダイアン・サマーは興味をそそられて、やはり中身をパラパラと見てみた。それから暫くして、驚嘆したように言う。
「まあ!確かに小学生が作ったとは思えないくらいの出来映えですわね。大したものですわ。もし、大人の力を借りなかったのだとしたら……」
「大人は、ほとんど内容については手を貸していません。全部ココちゃんが服のデザインをして、そのう……わたしも服を縫ったりはしましたけど、それだけです」
「へええ。だとしたら確かにすごいわねえ。じゃあ、今ここでモデルにならなくても、将来は服飾の専門学校にでも通ってデザイナーになったらいいんじゃなくて?」
「はい!!」と、ココは元気よく言った。「そのためにも、今モデルとしての経験を積んで、将来自分がデザイナーになった時に生かしたいと思ってるんです」
ここで、面接官の四人は感心したように顔を見合わせた。実をいうと、他の子供にはこんなに面接で時間を取っていなかったため、本来ならそろそろ退室してもらうところだった。だが、いつも必ず意地悪な質問をひとつはする某芸能プロダクションのCEOが、ずっと腕組みしたまま、黙りこくっていたのだ。
「最後にみなさん、何かご質問ありませんか?」
そうダイアン・サマーが促しても、ケイティがタヌキじじいと呼んでいた人物は何も言わなかった。そこで、ココの面接はこれで終わりということになる。
そして、面接室から出て、パタンとドアを閉めるのと同時――マリーとココはひしっ!とばかり、抱きあっていた。
「おねえさん、どうしてわたしのファッションブックなんて持ってきてたの!?」
「なんとなく、こんなようなことになるんじゃないかっていう気がしたのよ。なんにしても良かったわね。お歌のほうも上手だったし、きっとこれで三次審査にも進めるに違いないわ」
「良かったあ、良かったあ。おねえさんがいてくれて、ほんとうに良かったあ……」
ココが感無量とばかり泣きだすのを見て、思わずマリーまでもらい泣きしてしまった。なんにしても、ココはこれで自分が落ちたとしても、やるべきことはすべてやったと思っていたし、何も後悔はないという気持ちで、オーディション会場のほうをあとにすることが出来たのである。
>>続く。
ええと、このあたりもわたしあんまり、お話の展開的にそんなに面白くもないな~……とか思ってたりして(^^;)
ただ、四人子供がいて、ひとりずつ、それなりにそれなりのエピソードを回さなきゃいけないっていうのがあって、それがココの番になったというか、何かそんな感じかもしれません。。。
んで、今回は【25】のところで書いた、「ベンジャミンのたからもの」が届いたので、その話だったり
いえ、この絵本は超買って良かった本でした♪とにかくもう永久保存版です!!
元の原画のほうはモノクロだったそうで、それにローズマリー・ウェルズさんが絵の具で彩色されたのだとか。ガース・ウィリアムズさんが1951年に文章をつづり絵を描いたことから、1950年代の絵の具を使用されたとのことでした。また、色使いのほうはガース・ウィリアムズさんの他の本を参考にして選んだとのことです(でもそれが本当に嵌まってると思うんですよね~♪労作です^^)
でも本当に、これならきっとガース・ウィリアムズさんも喜ぶんじゃないかなといった、本当に素晴らしく綺麗な絵本として仕上がっていますこの絵本は「しろいうさぎとくろいうさぎ」の続編とのことで、まあその後ふたり(二匹?)はこんなふうに幸せに暮らしましたとさ……といったようにも読めると思います
絵本のタイトルが「ベンジャミンのたからもの」ですから、主人公はくろいうさぎ……なのでしょうが、絵本の中のベンジャミン・ピンク氏は茶色いうさぎさんになっています(笑)そして白うさぎの奥さんの名前はエミリー・ピンクちゃんと言い。。。
かっわいいですよねえベンジャミン・ピンクとエミリー・ピンクのピンク夫妻だなんて……もしこれが人間だったら、ピンク氏と聞いただけで……いや、これ以上はやめておきましょう。げふごほグフッ!!(何があったww)
なんにしてもピンク夫妻は、クローバーがおかという場所に住んでおり、その白い小さな家からは海が見えました
いえ、「しろいうさぎとくろいうさぎ」のファンの方には簡単に想像していただけると思うんですけど、もうこの家の中の様子とか、二匹のうさぎの夫婦がお茶を飲んでる場面とか、とにかくもう、何もかもが超ツボ!!なのです
そして、ある夏の朝、ベンジャミン氏は六時に起きると「魚釣り」に行きました。氏の言葉によると、
「こんなひは さかなつりに いかなくちゃね!」
とのこと。すると、人間でも見るなり「ひええっ!」となるようなぶっといミミズを畑で捕まえ……バスケットにお弁当を入れ、釣りざおを片手に持ち、こうしてベンジャミン氏は出かけていきました
お弁当は「レタスとハツカダイコンがたっぷりはいったサンドイッチ」、それにお茶とおやつのリンゴも入っています。もちろん、奥さんのエミリーちゃんが作ってくれたのでしょう。そして、可愛いエミリーちゃんは旦那さんに「レインコートを忘れてるわよ」と最後に言うのですが、
「こんな おてきのひに あめなんか ふるはずないよ。
さあ、おいしい さかなを どっさり とってくるからね」
と言って、エミリーちゃんの親切な忠告を聞かずに、クローバーがおかをおりていってしまいます。。。
まあ、物語の振りにレインコートが出てくるということは、もちろんこのあと、ベンジャミン氏は大雨……どころでない大嵐に遭遇することになるわけですが(笑)、そんなことも知らないベンジャミン氏は、
>>ボートに のって、 いざ しゅっぱつ。
クローバーがおかの いえの まえで、エミリーが
てを ふっているのが みえます。
「おーい、エミリー!ウサギみさきまで いって、
でっかい さかなを とってくるよー!」
などと、実に意気揚々、呑気(?)なものでした。。。
ウサギみさきの近くまで来ると、ベンジャミン氏は釣針にミミズをつけて、釣り糸を垂らしました。
けれども、バスケットのお弁当を食べ、そのあとお茶を飲み、おやつのリンゴを食べ終わっても――釣り糸はピクリとも動きません。
そしてここからもある意味、絵本的な展開としてお約束ですが(笑)、ベンジャミン氏の釣り糸には宇宙人(半魚人?)みたいな顔をした魚がかかっていました!!
……と、ここから先は、絵本のほうを読んでいただいたほうがいいのかなって思うので、まあかいつまんでいうと、このあと
そうなんですね!タイトルのとおり、本当にベンジャミン・ピンク氏の大冒険がはじまります(ちなみに、絵本の原題は「Benjamin’s Treasure」なのです♪)……っていうか、もうはじまっています
果たしてベンジャミンはこの(ウサギにしてみれば)宇宙の果てのような無人島から無事生還できるのでしょうか!?
そりゃー絵本なんやから、最後は「めでたしめでたし☆」で終わるんやろ?という話なのですが、自分的にはこの冒険の部分が結構意外な感じの展開で、とても楽しめましたし、何故わたしたち人間はこうもうさぎや犬や猫たちが二足歩行していると喜ぶのか……という、そうした微笑ましさや優しさで溢れていて、ページを繰るごとにとても幸せな気持ちになれます♪(^^)
そんでもって、途中からネタバレ☆を気遣っていながら、最後のオチをバラしてしまうとですね、ベンジャミン氏、この流れ着いた無人島で物凄い宝の山というか、宝箱の中に宝石などが詰まった財宝を発見します
そんで、どうにかこの宝物を持ち帰ることが出来れば、「エミリーになんでも好きなものを買ってあげられるし、クローバーがおかのみんなにも色々プレゼントできるし、他に大きな病院を建て、新しい公園を作り、誰でも自由にレタスを食べられるようにしよう。そしたら、ぼくはクローバーがおかの村長に選ばれるかもしれないな」と、どこまでも夢の広がるベンジャミン氏。しかも、村長になった時の演説までしはじめ……つか、どうやってこの無人島からクローバーがおかへ帰るというのでしょうか(^^;)
なんにしても、この宝の箱をこの無人島に埋めたという海賊のネズミとネコとアヒル、アナグマ(かな?)も超可愛らしく描かれており……いやいや、それはさておきベンジャミン氏は、カメやイルカといった海の動物たちに助けられ、無事、元のクローバーがおかへ帰ってくることが出来るのでしょうか!?
わたし、絵本の中でこの部分も好きだったのですが、最後、ベンジャミンくんは実は凶悪な顔つき(?)のサメのヒレにつかまって帰ってくるのです。いえ、てっきりイルカや他の心優しい系の動物に助けてもらって帰ってくるかと思いきや、無愛想で顔もコワイけど、実は心優しいヤクザ……みたいなサメのテオのヒレにつかまってクローバーがおかまで帰ってくることが出来たのでした。
この部分のちょっとした意外性が「流石!!」と思いましたし、ベンジャミンくんは絵本の中のうさぎとは思えぬほどの強欲さで(笑)、どうにか宝物をいかだに積んで帰って来ようとするのですが、結局それはうまくいかず……。
なんにしても、命あっての物種ですからね。ベンジャミン氏はこうして、いとしい妻のエミリーちゃんの元までようやく帰ってこれたというわけでした。ああ、あの時、可愛い奥さんの忠告を聞いて、レインコートさえ持っていっていれば――いや、レインコート着てても全然関係ねえレベルの大嵐だったって話ですけどねww
けれども、せっかくあれだけの財宝を見つけたのに、何も持って帰ってこれなかったので、ベンジャミンくんが自分の大冒険について話して聞かせても、エミリーちゃんは首を傾げていました。
>>「むじんとう? たからの はこ? それ、ほんとうに ほんとう?」
このあと、ベンジャミン・ピンクは自分の話を信じない奥さんにぶっちぎれ、暴力をふるった――ということもなく、疲れ果ててベッドでぐっすり眠ってしまいました
けれど、旦那さんのベンジャミンがベッドでぐっすり眠っているのを見て、エミリーちゃんはこの時あることに気がつきました。ベンジャミンくんのミミの中で何かが光っていたのです。それはとても大きな真珠でした
この次の朝、ベンジャミンはエミリーちゃんと一緒に海を見渡せる庭でこんなお話をします
>>「ほら、あそこを みてごらん」
ベンジャミンは とおくの うみを ゆびさしました。
「ずっと むこうの しまに、ぼくが つくった あなの うちがある。
そこの ゆかに、まだ たからものが はんぶん うまってるんだよ」
「こんど、じょうぶな ボートを つくって、ふたりで とりに いきましょうよ」
「そうだね。でも、ぼくは もう せかいで いちばん すばらしい、だいじな
たからものを もってるんだ」
「あら どこどこ? それ、どんな たからもの?」
「ここだよ。いちばん だいじな たからものって きみの ことさ、エミリー」
ベンジャミンは そういって、にっこり わらいました。
(『ベンジャミンのたからもの』ガース・ウィリアムズさん文・絵、こだまともこさん訳/あすなろ書房)
そうなんですね~♪ベンジャミン氏ったらもう!!聞いてるこっちのほうが恥かしいわ!(なんでww(〃艸〃)笑)
というわけで、物語の1ページ目を開いた時からなんとなく予測していたラストなのですが、ほのぼのとした優しくあったかい気持ちで絵本を閉じることが出来た……という意味で、自分的評価としては五段階評価の☆七つです!!(え?五段階評価じゃないやんww)
なんにしても、「しろいうさぎとくろいうさぎ」を読んであげたお子さんが、もし「ねえママ。このお話、もうつづきないの?」と聞いたら、図書館ででも「ベンジャミンのたからもの」を借りてきて、是非読んであげましょう。そうしましょう♪(^^)
それではまた~!!
聖女マリー・ルイスの肖像-【27】-
一方、ココと一緒にオーディションのためのスタジオへ到着したマリーは、当のココ以上に緊張していたかもしれない。
何分、五万人の応募がユトランド国中からあり、さらにその中から一次審査に合格したのが五百人、二次審査ではカメラテストと面接によって、さらにその半分の二百五十人くらいとなり――三次審査でさらにその十分の一ほどの子供が残り、仮にグランプリといった賞に輝けなくても、三次審査に残った子にはキッズモデルとしての仕事が約束されることになるという。
「わたしが目指してるのはね、そこなのよ、おねえさん」と、ココは緊張を紛らすために、行きのタクシーの中でずっとしゃべりっぱなしだった。「ケイティみたいにわたし、自分が必ずグランプリになれるとかなんとか、そんなことは思ってないっていうか、流石にそこまで自惚れが強くないのね。でも、今からそういうお仕事をしておいて、将来自分がしたいと思ってるファッションの仕事に繋げたいのよ。だって、そうじゃなくて?仮にわたしが将来的にファッションデザイナーになれたとして、自分でも小さい時にモデルとしてのキャリアを積んでるっていうのとそうじゃないっていうんじゃ、かなりの差が出ますもの」
「そうね。そのとおりね、ココちゃん」
ココに命じられるがまま、「おねえさんはこのスーツを着て靴を履いてちょうだい。あと、ちゃんと美容室へもいって髪をセットしてね。絶対よ」と釘を刺された結果――マリーは1200ドルもするグッチのシックなスーツに身を包み、普段履かないヒールの高い靴を履いていた。美容室のほうに頼み、メイクのほうもバッチリだった。
そんな様子のマリーのことを見て、イーサンはすっかり上機嫌だったものである。彼はキャサリンと顔を合わせることを思うと気が重かったわけだが、自分がアルマーニのスーツを着ていたせいもあり、マリーと何枚も携帯で写真を撮りまくったほどである。とはいえ、その写真に映っているマリーはすでにこの時から顔を強張らせており、ベストショットと呼べるようなものは一枚か二枚しか存在していない。
「じゃあな、ココ。おまえはおまえで頑張れよ」と、頭のてっぺんにキスして、イーサンはココのことを送りだしていた。それから、マリーにも「あんたがオーディションを受けるってわけじゃないだろう」と、彼女がリラックスするよう、肩を何度か叩いて励まし、タクシーに乗るふたりのことを見送った。
オーディションの控え室にはパイプ椅子がズラリと並び、そこには一張羅の晴れ着に身を包んだ少女たちが、母親や父親などに連れられてお行儀よく座っていた。まるで部屋のどこかに監視カメラが仕掛けられていて、その様子もオーディションの一部であるとでも思っているかのようである。
「まあ、ココちゃん。この中でココちゃんが一番可愛いらしいわ。だからきっと大丈夫よ」
ココは押し出しも強く、この部屋の全員を打ち負かすつもりでずんずん進んでいくと、一番前のほうの座席に着いた。マリーはそんな彼女を追いかけるように走っていき、ココの隣でそんなおためごかしを言う。
「いいのよ、おねえさん。そんな棒読み調に励ましてくれなくても……ここにいる子たちとわたしとは、今のところ対等なのよ。一次審査用の書類や写真を見て、大体のところ横並びになった子たちが二次審査に進んだってことでしょ。わたし、自分のやるべきことはわかってるの。それで駄目ならようするに、運がないか才能がないかのどっちかよ」
「そ、そうね。そうかもしれないわね……」
マリーはちらと控え室の会場を見回してみただけだったが、どの子もオートクチュールにしか見えないような、ブランドの子供服を着ているようだった。また、その隣にいる母親というのが、それに輪をかけて凄い。髪の先から足の爪先まで、まるで自分がオーディションを受けるかの如く、髪型からメイク、服装や靴に至るまで――マリー流の言い方をするとしたら、それこそ「ビッ」としていたものである。
二次審査に進んだ五百人の子供のうち、その全員が今日ここでオーディションを受けるわけではなく、他にノースルイスやサウスルイスなど、大都市のいくつかで同じように審査が行われるため、ここ、ユトレイシアの会場には、大体百人以上くらいの少女たちが集まったことになるだろうか。
対象は七歳~十二歳の少女たちということで、一瞬見ただけではその子がいくつかというのは、マリーには少しわかりかねたかもしれない。大人っぽい顔立ちの子が多いため、ココよりも年上だろうかと思って胸のネームタグを見ると7歳とあったり、逆にココより幼そうに見えて、実はココより二つ年上だったり……そこに集まった子供の顔立ちがみなあまりに可愛らしいため、マリーは最後にはどこを見ていいかわからないほどになった。
と、そこへ、ココと同じように受付を済ませ、胸のところにネームタグをつけたケイティ・オーモンドが母親と一緒にやって来る。ケイティはココよりも少し背が高く、大人びた顔立ちをした少女だった。黒い髪に黒い瞳をした彼女は、ブロンドにブルーの瞳のココのことをしきりと羨ましがったが、全体的な雰囲気として、マリーはケイティのほうが何か人に訴えかけるというか、何か人を惹きつける存在感があるように感じたかもしれない。
「お互い、大変ですわね」
典型的なセレブママといった優雅な雰囲気のミセス・オーモンドは、その日はシャネルのスーツによって「ビッ」と決めていた。「ママのスーツはね、いつもシャネルのプレタポルテなの!」とケイティが言っていても、マリーには「プレタポルテ」という意味自体がわからず、「そう。すごいわね」などと頷くのみだったといえる。
「そちらはグッチね。とても素敵だわ」
「いえ、ココちゃんにせめて恥かしくない格好をしてって言われたものですから……」
ミセス・オーモンドに比べ、自分が全然「ビッ」としてないように感じて、マリーは顔を赤らめた。
「ううん、そんなことないわ。とてもお似合いよ。ココちゃんに彼女が友達と一緒に作った<ファッションブック>を見せてもらったけど……ココちゃんには誰に何が似合うとか、そういうのが直感的にわかるのね。素晴らしい才能だわ」
「ええ。本当にしっかりした子で、今からモデルを少しやっておけば、将来的になりたいファッション関係の仕事にも生かせるんじゃないかなんて……」
「まあ、本当にね。うちの子は将来は女優になりたいんですって。でもまさか、『そんなこと無理だからやめておきなさい』とも言えませんものねえ」
「でも、ケイティには才能があると思いますわ。前に詩を暗誦するのを聞いたことがありますけど、素晴らしかったですもの」
「だけど、それだけじゃねえ。なんにしても、五万人応募者がいたうちの五百人に残ったっていうんじゃ、『そんなところに行っても次こそ落ちるわ』とも言えなくて、一緒についてきたって感じかしら」
ここでケイティが、立ち話を続ける母親に向かって抗議の声をあげる。
「ママったら、またそんな悲観的なことばっかり言って!こういう時には仮に嘘でも自分の娘を励ましたらどうなの!?」
「あら、ママはただ単に謙遜してるのよ。うちの子は絶対この二次審査を突破して三次に進むわ、だなんて、そんなこと言ってて落ちたりしたら恥かしいですものね」
「もう、ママったら!!」
――この時、時間となり、会場の前のほうに係の中年女性が出てきて、今回のオーディションの注意点等について説明をはじめた。そして、ホワイトボードの前に色々と彼女が書きつけつつ、マイクに向かってしゃべっていた時、入口のドアからひとりの女性とその娘が飛び込んでくる。
「すみません、遅れてしまって。車が渋滞に捕まってしまったもんですから……うちの子、オーディション受けられますよね!?」
ここで、少しキツめの顔立ちをした女性が、マイクを通し「遅刻は失格とみなします」と大きな声で言うと、隅のほうにいた警備員がふたり、そちらのほうへ向かった。
「どうしてですかっ!?五万人もエントリーがあったうち、たったの五百人の中のひとりに選ばれたんですよ?それなのに、五分遅れたくらいのことで失格だなんて、あんまりですっ」
「失礼ですが、お母さん」と、冷たい声でマイクを通して彼女は言った。「この業界をなめないでください。大体ここにいる子供くらいの年齢で、容姿の可愛い子なんてそれこそたくさんいるんです。一度現場に出たら、『子供だから』なんていう理由で許されることなんて一つもありません。誰かひとりが遅刻したことでプロダクションに多額の賠償金がいくことだってあります。そういう意味も含めて、いかなる理由があろうとも、遅刻した時点で失格とみなされると、二次審査の概要のほうにも書いてあったはずです」
ここまで来ると、会場全体がしーんとなり、針が落ちても気づくのではないかというくらいの静けさに包まれた。結局のところ、遅刻してきたココと同じくらいの年齢の子は、大声で泣きながら母親と一緒に会場から出ていくということになる。
マリーやココの後ろでは「可哀想に……」という声や、「ううん、遅れてくるほうが悪いのよ」という声などがちらほら聞こえたが、マリーにはなんとも言えなかった。(少し早めに出てきて良かった)と思うのと同時に、(あれがココちゃんと自分じゃなくて良かった)との思いもあり、そんなふうに感じた自分を恥じてもいるという、複雑な気持ちだった。
百人以上いる少女たちはまず、カメラテスト組と面接組の半々に分かれることになった。ケイティは面接組のほうに振り分けられ、ココは先にカメラテスト組のほうへ入ることになった。そして、ランチののち、午後からはこれが逆になるわけである。
何分、あまりに待ち時間が長いため――母親の判断で募集してきた子供の中には「わたし、もうおうち帰りたい!」と言って泣きだす子もいた。そして、廊下のほうではそんな子供たちが母親になだめられるという場面が何度となく見られていたといっていい。
そんな中、ココは実に我慢強かった。受付のところで76番という番号を与えられた時から、尊敬する兄のアメフトの背番号と一緒だったことで、「最高のラッキーナンバーよ!」と言って喜んでいたものだ。けれど、だんだんに自分の順番が近づいてくるにつれ、ココの顔色が青ざめてきたような気がして、マリーはそんな長女の手をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫よ、ココちゃん。イーサン兄さんがきっと守ってくれるわ」
「うん。そうね!」
ココが珍しく子供らしい態度を見せたため、マリーも何故か嬉しくなった。初めてここに一緒についてきて良かったと思ったほどだ。ケイティとも組が分かれてしまったし、そう考えた場合、やっぱり自分がいるかいないかだけでも随分違うと感じた。
このあと、さらに随分時間が経ってからようやくココの番となり、先に撮影していた子の様子を参考として見ていて――ココはますます自信がついたかもしれない。彼女はモニカやカレンといった親友とずっと、お互いにお互いを携帯のカメラで撮りあってきた。それも、「モデルごっこ」として、かなり本式に色々なポーズを取る練習をしてきたのだ。
実際、前の子があまりにど下手だったせいで、ココはさらなる自信を得、プロのカメラマンが何か指示を出す前に、色々なポーズを自分からしてみせた。「その調子よ、ココちゃん!」とマリーも思わず叫んでしまったほどである。その声を聞いたフォトグラファーのほうでもココの名前を覚え、「ようし、いいぞ。ココ!!今度はこっちに笑顔を向けてくれ」などと、乗りはじめていたくらいだった。
そして最後、このフォトグラファーは他の子供たちにはしなかったことをした。それまで撮影していたカメラとは別のポラロイドカメラを手に取ると、「お姉さんも、どうぞ記念に一枚」と言って、ココと並んだ写真を一枚撮り――その場ですぐに渡してくれたのである。
「よかったわね、ココちゃん。おねえさん、本当にココちゃんが誇らしいわ!!」
マリーは撮影スタジオから出ると、ココのことをぎゅっと抱きしめて、頭のてっぺんのところにキスを何度も繰り返す。
「ええ。もしかしたら、来てくれたのがおねえさんで良かったのかもしれないわ。あの人、たぶん本当は子供を撮るのなんてそんなに好きじゃないんじゃないかしら。美魔女のお母さんが多いとはいえ、おねえさんくらい若いお母さんは他にいないから――それできっと気をよくしたのよ」
「そんなこと関係ないわ。全部ココちゃんの実力よ!!」
実際に撮影がはじまる前まで、マリーも緊張で胃が締めつけられるようだったが、それが一気に解放されてほっとした。もちろん、まだ面接のほうが残っているとはいえ、一旦肩から力が抜け、呼吸が楽に出来るようになった気がする。
このあと、ランチの時間に会場となっているホテルの食堂のほうへ行ってみると、そこは人の群れでごった返していた。そんな中でも先に席を取っておいてくれたケイティとミセス・オーモンドに手招きされ、マリーとココは彼女たちの隣の席へ落ち着く。
食事のほうはバイキング形式だったが、ココもケイティも食事が喉を通らないと見えて、サンドイッチとサラダを少しばかり取ってきただけだった。それに反してミセス・オーモンドはパスタやピザなどをたっぷり取ってきていて、娘から嫌味を言われている。
「ママったら!娘が緊張で死にそうになってるその横で、そんなにいっぱい食べるつもりなの!?」
「あら。ママはね、あんたがそれっぽっちじゃお腹がすくんじゃないかなと思って、あんたの好きそうなものを少し多めにとってきてあげたのよ。なんにしても、面接のほうはそんなに悪くもなかったでしょ」
「面接、どうだったの!?」
今度は自分がケイティの立場になると思い、ココは必死な顔つきで聞いた。
「んー、わたしの場合はどうかなあ。五人くらい面接の人が並んでてね、ひとり、すっごく意地悪なおっさんがいるのよ。たぶん、あの五人の中で一番偉い人なんじゃないかなって思う。なんとかプロダクションの社長か何かで、眼鏡をかけたタヌキみたいな顔の奴よ。他の四人の人たちは、まあまともっていうか、フツーなの。ところがその親父ときたら、『ほうう。特技はピアノですか。でも、こういうオーディションにやって来る子なんかは、ピアノくらい弾けるのが普通ですからな』と、まあこうよ!」
「ええ~っ!?それじゃわたしなんてまるで駄目じゃない。ピアノも弾けないし、他に何か特技って言ったって……」
「でもあんた、書類のところに特技を書く欄があったじゃない。ココはそこになんて書いたの?」
「わたし、ファッションデザインなんて書いちゃった」
そう言ってココは、イチゴシェイクを飲みながら、初めてしゅんとした顔をした。その横でマリーが、そんなココの背中を叩いて元気よく励ます。
「でも、写真撮影のほうは素晴らしかったじゃないの!!おねえさん、ココちゃん以上にあんなに物怖じせずに色んなポーズを取れる子って他にいないと思うわ。フォトグラファーのお兄さんも感心してらっしゃったものね。きっと、もし仮に面接のほうが多少まずくても、三次審査のほうにはきっと進めるわよ」
「あーもう、そうい縁起悪いこと言わないでくれる!?」
「ああ、ごめんなさいね。でもココちゃんならきっと、面接のほうもうまくいくわよ」
このあとココは、カバンのポケットのところから、一枚のポラロイド写真を取りだして、ケイティと彼女のママに見せた。
「わあ。素敵じゃない。それにこの服、とっても可愛い!!」
「そうなのよ。わたしの前の子なんて、たったの一回、何かのお義理みたいに着替えただけだったけど、まわりのおねえさんたちもなんかやたらとちやほやしてくれて、色んな服に着替えさせたがったの。楽しかったわ」
ここでケイティと彼女のママとは、再び顔を見合わせた。何か、この時点で大きく水をあけられたような気がして――彼女たちはなんだかとても不安になってきた。面接のほうは中の下といった印象だったし、これでカメラ撮影のほうまでまずかったとすれば、二次審査を突破できないのは間違いない。
一見このオーディションにそうがっついてないように見えるミセス・オーモンドだったが、実は自分の娘をこのことを足がかりに芸能界デビューさせたいと願っていた彼女は、カメラ撮影のコツをなんとかココから聞きだそうとした。
「ほら、ケイティ。あんたもココちゃんにポーズの取り方を教えてもらいなさい。ママ、カメラのかわりに携帯で撮影してあげるから」
「いやよ。こんなところでそんな恥かしいこと!!」
「何言ってるのよ。ここはママの言うとおりになさい。第一、そんな我が儘言って恥かしがってちゃ、いざ撮影会っていう時には萎縮しちゃってあとで泣くことになるのはあんたなんですからね」
「…………………」
最初、ケイティはママのこの上から押さえつける物言いに膨れっ面をしていたが、食事が済むと、廊下の片隅のほうでやはり母親の言うとおりにしていた。ココがいくつか「いかにもモデルっぽく見える」ポーズを取ってみせると、それを真似てポーズを取り、ミセス・オーモンドはそんな娘のことを携帯のカメラでカシャカシャ撮りまくったのである。また、一方ココはケイティから面接でどんなことを聞かれたのかを聞きだし――面接で呼ばれるまでの間、自分ならなんて答えるかというシミュレーションを何度も繰り返したのだった。
もちろん、ケイティにしたのと同じ質問をココにもしてくるとは限らない。けれど、長い待ち時間の間、そうしたシミュレーションを頭の中で繰り返せたことで、ココは写真撮影の時以上に落ち着いた態度で面接のほうに向かえていたといえる。
また、マリーは母親も一緒に面接の部屋のほうへ通されるということを聞いて、正直仰天していた。てっきり、ココひとりだけが部屋のほうへ通されると思いこんでいただけに……だが、結局のところ未成年の子供というのはその母親や父親がどんな人間かによって左右されるところが大きいため、それで保護者も一緒に面接するということになっているらしい。
「ええと、ココ・マクフィールドさんですね。年齢のほうはおいくつでいらっしゃいますか?」
最初に、マイクを片手に色々なことを説明していた女性が、ココにそう聞いた。
「九歳です。でも、年齢以上にしっかりしてるねって、まわりの人みんなから言われます」
ココが大人びた調子でそうはっきり言うと、そこに並んでいた五人の面接官たちは、少しばかり笑っていた。嫌な感じの笑い方ではなく、いい笑い方だった。
「それで、ココちゃんは勉強のほうはどうなのかな?」
次に、右から二番目の演出家の中年男性がそう聞いた。子供のココの目にも、優しそうな雰囲気の人に見える。
「まあまあです。ええと、まあまあより少し上かな。得意な科目は社会と数学で、いつもAを取ってます。他の科目はBかAのどっちかで……そうよね、おねえさん?」
「え、ええ。ココちゃんは少し謙遜してるんじゃなくて?おねえさん、ココちゃんがいつもAばかりで、とても嬉しく思ってるのよ」
「じゃあ、体育や音楽なんかは得意?」
三番目の座席の映画監督の若い男がそう聞いた。彼もまたココの隣にいるのが母親にしては若すぎると思ったため――彼女が<姉>と聞いて、深い意味はないがなんとなく嬉しくなった。
「そうですね。体育は好きです。音楽も、歌うのは好きだと思います」
「じゃあ、ちょっと何か歌ってもらおうか?ココちゃんの好きな歌ならなんでもいいから」
そう右から四番目の座席に座る、初老の男性が言った。彼はこのオーディションのスポンサーのひとつである、某アパレルブランドの社長だった。ロマンスグレイの、着ているものも品のいい、整った白いヒゲを生やした人物だった。
ここでココは、マイクを持たされると、時々カラオケで歌ったことのあるレディー・ガガの『ポーカー・フェイス』をアカペラでそのまま歌った。歌い終わるのと同時に、その場の全員から拍手が上がり、マリーももちろん一生懸命拍手した。
「歌のほうはなかなかだね」と、アパレルブランドの社長。「将来は歌手になりたかったりするのかな?」
「いえ、どちらかというとわたし、ファッション関係の仕事がしたいんです。将来はデザイナーになるか、ファッション雑誌の編集者になるかしたいんです」
ココはここで、一番右の座席に座る、中年女性のほうを見た。実は彼女は女性ファッション誌の編集長をしている女性だったのである。
「今からなりたいものが決まっているだなんて、素晴らしいことですわね」
そう言って彼女は、ココの審査シートに目を落とし、特技のところに<ファッションデザイン>とあるのを見た。マリーは今こそ自分の出番とばかり、グッチのカバンの中からココのファッションブックを取りだすと、鬼編集長として知られるダイアン・サマーの元にそれを急いで差しだしていた。
「そのファッションブック、ココちゃんがお友達と一緒に去年作ったものなんです。あんまりクォリティが高かったので、校内で表彰もされたんですよ」
「ええと、こういうものは本当は、審査の対象としてはいけないことになってるんですけど……」
そう言いながらも、ダイアン・サマーは興味をそそられて、やはり中身をパラパラと見てみた。それから暫くして、驚嘆したように言う。
「まあ!確かに小学生が作ったとは思えないくらいの出来映えですわね。大したものですわ。もし、大人の力を借りなかったのだとしたら……」
「大人は、ほとんど内容については手を貸していません。全部ココちゃんが服のデザインをして、そのう……わたしも服を縫ったりはしましたけど、それだけです」
「へええ。だとしたら確かにすごいわねえ。じゃあ、今ここでモデルにならなくても、将来は服飾の専門学校にでも通ってデザイナーになったらいいんじゃなくて?」
「はい!!」と、ココは元気よく言った。「そのためにも、今モデルとしての経験を積んで、将来自分がデザイナーになった時に生かしたいと思ってるんです」
ここで、面接官の四人は感心したように顔を見合わせた。実をいうと、他の子供にはこんなに面接で時間を取っていなかったため、本来ならそろそろ退室してもらうところだった。だが、いつも必ず意地悪な質問をひとつはする某芸能プロダクションのCEOが、ずっと腕組みしたまま、黙りこくっていたのだ。
「最後にみなさん、何かご質問ありませんか?」
そうダイアン・サマーが促しても、ケイティがタヌキじじいと呼んでいた人物は何も言わなかった。そこで、ココの面接はこれで終わりということになる。
そして、面接室から出て、パタンとドアを閉めるのと同時――マリーとココはひしっ!とばかり、抱きあっていた。
「おねえさん、どうしてわたしのファッションブックなんて持ってきてたの!?」
「なんとなく、こんなようなことになるんじゃないかっていう気がしたのよ。なんにしても良かったわね。お歌のほうも上手だったし、きっとこれで三次審査にも進めるに違いないわ」
「良かったあ、良かったあ。おねえさんがいてくれて、ほんとうに良かったあ……」
ココが感無量とばかり泣きだすのを見て、思わずマリーまでもらい泣きしてしまった。なんにしても、ココはこれで自分が落ちたとしても、やるべきことはすべてやったと思っていたし、何も後悔はないという気持ちで、オーディション会場のほうをあとにすることが出来たのである。
>>続く。