「グリーンナイト」という映画を見ました♪
いえ、最初「緑の夜」かあ。どんな素敵な夜なのかしら?とか思い、あらすじのところだけチェックしようと思ったわけです。
そしたら……。
>>その旅は、クリスマスの残酷な遊び事(ゲーム)からはじまった……。アーサー王の甥であるサー・ガウェインは、正式な騎士になれぬまま怠惰な日々を送っていた。クリスマスの日。円卓の騎士たちが集う王の宴に、まるで全身が草木に包まれたような風貌をした緑の騎士が現れ、恐ろしい首切りゲームを持ちかける。その挑発に乗ったガウェインは、緑の騎士の首を一振りで斬り落とすが、彼は転がる首を自身の手で拾い上げると「1年後に私を捜し出し、ひざまずいて、私からの一撃を受けるのだ」と言い残して去ってゆく。それは呪いと厳しい試練の始まりだった……1年後、ガウェインは約束を果たすべく、未知なる世界へと旅立ってゆく。
とあって、「あ~、そっか。グリーンナイトって夜じゃなくて騎士のほうのナイトかあ。で、ガウェインのお話だあ」と思い、それで見ることにしました
わたし、こちらのトールキンのお話のほうは読んでないのですが、
イメージ的に、こちらの「緑の騎士」のほうを連想される方のほうがたぶん多いのかな、なんて(^^;)
アーサー王物語に出てくる有名なお話のほうを覚えてる方でも、映画のほうはちょっと「え?それで一体何を言いたかったの?」みたいに感じたり、「映像はめっちゃ綺麗だけど、全体として退屈で面白くない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
わたし自身はキツネちゃんが出てきたあたりから面白くなってきた感じだったのですが(可愛い)、元のお話が欧米あたりでは有名すぎるため、こうしたストーリー運び&終わり方ということだったのかどうか……そこらへんちょっとわからないものの、わたしがもし「ガウェインと緑の騎士」について知らなかったら、「はあ~?オレの貴重な二時間返せよな~」と思い、「チッ☆」と舌打ちしていた可能性というのは大いにありえます(^^;)
お話はクリスマスからはじまり、クリスマスで終わる……ということでないかと思うのですが、アーサー王が「これはゲームだ」とおっしゃっているとおり、命懸けの首斬りゲームのお話(←?)
アーサー王と円卓の騎士が集う場に、突然全身緑の騎士が乱入してくると、自分とゲームしようと持ちかけます。緑の騎士の首を斧で斬り落とし、来年の同じクリスマスの日に、今度は自分がその相手騎士の首を斬り落とす……という、何やら突然一方的な約束を持ちかけられますが、他の騎士たちは怯むあまりか、この挑戦を受けようとしません。そんな中、ガウェインが勇敢にもこの異様な風体の緑の騎士の挑戦を受け、大きな斧で彼の首を斬り落とします。
ところがこの緑の騎士、斬り落とされた自分の首を片手で持つと、「じゃ、また来年のクリスマス、今度はオレがそっちの首斬り落としてやっかんな!!」と言い残し、そのまま馬に乗って去ってゆきます
さて、サー・ガウェインは大変な約束をしてしまいました。自分の首を斬り落とされても死ななかった緑の騎士はいいでしょうが、何分こちとらただの人間の騎士。同じようにあんな大きな斧で首を斬り落とされたら当然死んじまいますがな、真っ直ぐ冥土行きでんがなというわけで、気は進みませんがとにかく約束は約束。緑の騎士がいるという緑の礼拝堂(チャペル)へ出かけていくことに。
旅の途中、ガウェインは色々なものを目にしたりしますが、そのあたりはちょっと飛ばして、緑の騎士とは結局一体何者だったのかという、大切なのはたぶんその部分ですよね。わたしの読んだ本では、ガウェインが立ち寄った館の狩猟好きの領主がこの緑の騎士と同一人物で、映画の中に出てくる目のところだけ隠した老女とモルガン姫が同一人物。そして、彼女の魔術により緑の騎士はあのような驚くべき風体をしており、さらには首を斬られても死ななかった……ということだったらしい(確か)。
それで、わたし的なお話のキモ☆は、ガウェインが覚悟を決めてこの緑の騎士に首を差し出し、実際に首を斧によって斬られそうになるところです。一度目、斧は首を斬る直前のところで止められ、二度目、ちょっと首のほうは切られて血が飛ぶ……ここで緑の騎士はサー・ガウェインの勇気を褒め、首斬りゲームは終わりとなるのですが、その前にガウェインはこの緑の騎士の奥方に館のほうでしつこく誘惑されており、ガウェインはほとんど陥落しているも同然なのですが、それでもこの高潔な領主を裏切ることは出来ないと、最後のところは誘惑を退けています
緑の騎士はその後、「そんなことも全部わしが仕組んだことじゃ」的に告白するわけですが、これ、よく考えるとどーなんですかね(^^;)わたしがガウェインなら「本物の勇気があるだけでなく、そんな色欲にも屈しなかったおぬしは騎士としてまことにあっぱれじゃ」とか言われても、「はあ~?一年前のクリスマスからここまで仕込んでいただあ~!?このジジイ~!!今度こそマジでその首叩き斬ってやるわっ!!」となっても不思議でないような気がするのですが、どうなんでしょう。。。
この元のストーリーの有名なところを覚えていて映画のほうを見た場合、「映像も綺麗でなんかヨカッタワ」となるのかどうか、わたしにはそこらあたりのこともよくわかりません
それはさておき、↓の関連でいうと、わたしの書いてるガウェイン卿というのは実に残念な人物で、アーサー王物語の関連でいうとどうも、一般的にランスロット、トリスタン、ガウェインあたりがイケメン三騎士的なイメージがあるらしいのですが、このあたり、わたしのお話の中のガウェインはただの頑固なおっさんだったり(^^;)
それで、騎士ガウェインのエピソードとして一番有名なのがこの緑の騎士のお話であることから、わたしも最初はこの「首切り物語」をエピソードとして組み込もうと思ってました。ええと、【18】のあたりに裁判のシーンがあるのですが、「彼らの命を助けるかわりにわたしの首を斬ってください!!」みたいにエレアガンス子爵が申し出るわけです。そこで、ガウェインは自ら斧を取って「子爵さまとて法律は法律ですぞ」とか、「本当にこのどうしようもない奴らのために身代わりになろうというのですか」といったように言い、跪いたエレアガンスの首を本当に斬ろうとする。一度目、首に当たるすんでのところで止め、「本当によろしいですかな?」と言い、「構いません」と答えるエレアガンス。そして二度目――てっきりガウェインはエレアガンス子爵が甘やかされたお坊ちゃまとばかり思っていたのに、本当の勇気があることを認め、あの四人の罪人たちを全員許してやる……みたいにしようと思ってたのですが、なんかうまくいかなかったんですよねー。ほんと、こっちのエピソードを組み込んでたほうが、「エレアガンス・メレアガンス子爵の人気はその後うなぎのぼり」だったというエピソードがより光って良かったんじゃないかという気がするものの。。。
ええっと、そんなわけで(どんなわけだか☆笑)、ちょっと緑の夜じゃないグリーンナイトについて取り上げてみたといったような次第であります
それではまた~!!
惑星シェイクスピア-第三部【23】-
バロン城塞陥落の報は、すぐにも王都テセウスへ届いた。というのも、州都バランから援軍の要請があったからであるが、クローディアス王は大臣や元帥、騎士団長らとも相談し、まずは隣州クロリエンス州のフローリエンス侯爵にバロン州を救うよう伝令を出した。
これから逆賊であるハムレット軍がバロン城塞に籠りつつ、そこを拠点として他の王都のあるテセリオン州を含めた残りの内苑六州を攻略しようという肚(はら)であることは、説明されずとも誰にもわかろうというものであった。だが、州都バランとクロリエンス州の軍とで挟み撃ちにすることが出来れば、あるいは……ハムレット軍の勢いをここで止めることが出来るかもしれないのである。
だが、ここで不幸なことがいくつかあった。まず、バロン城塞内部にいた王都の間者数名は、この時点で他州へ出ていくことが不可能になったのである。いかに城砦内が敗者のいない勝利に酔い痴れていたとはいえ、戦時であるとして厳戒体制を解くことまでは決してしなかったのだ。何より、ホットスパーやフォルスタッフといったレーゾンデートル団の者たちにはよくわかっていた。というのも、自分たちがそうであるように、王都からも同じように間者が内部事情を探りにやって来るかも知れぬと彼らは用心していたからであり、バロン城塞内にいるそのような者たちが必ず王都へ向け早馬を飛ばすだろうと警戒し、見張ってもいたからだ。
ゆえに、王都から派遣されて潜り込んでいた間者たちは動けなかった。では、誰がこの事態を王都テセウスまで伝えたかといえば、それは州都バランから戻って来たクロリエンス州の貴族たちだったのである。バロン城塞が落城した報はその日のうちにも州都バランへ伝えられ、ここでも長く地下活動を続けていたホットスパーやフォルスタッフの部下である、レーゾンデートル団の者たちが民衆の暴動を先導したのであった。
州都バランにおいては、ハムレット王子がメレアガンス州にて聖女ウルスラより次の王となるべきお方……との託宣を受けて以来、民衆たちの間ではその噂話で持ち切りだった。というのも、聖ウルスラ祭に出かけていて、聖ウルスラ闘技場にてその場面を見た者もあれば、直接目撃しなかったにせよ、その時メルガレス城砦にいて、いかにその住民たちが歓呼で沸き返っていたかとの土産話を持ち帰った者が数多くいたからなのである(また、こうした罪のない民衆たちの中には実際には見てなかったにせよ、『遠くからだったがハムレットさまを見た。まったく素晴らしい美少年であったことよ』とか、『あの方こそまったく王の器と思った。聖女ウルスラさまの御託宣通りのお方だ』などなど、自分のついた小さな嘘を最後には自身でも完全に信じ込み、言い広めていた者までいたくらいだったのである)。
こうして、噂話には尾ひれに尾ひれが何重にも重なり、最後には何十メートルもの長さに達した感があった。おそらく、ギべルネスがこの時州都バランにいたとしても――そこに精霊型人類たちの関与があったとは思わなかったに違いない。重税に苦しんでいた民衆たちは、蓄えもなくなんとかその日その日を食い繋ぐという日々であったから『ハムレットさまさえ王になれば、こんな不幸な生活はすぐにも終わるんだ』ということに対し夢を抱き、希望を持ったのだ。そこへ持ってきて、メレアガンス州でもロットバルト州でも、今季の税の取り立てをなくすかわり、男たちは兵士としての装備を整え、女たちはそのための協力をする傍ら家庭をしっかり守れ……とのお布令が出たと聞いたことが、さらに民衆たちの心に勇気を与え、鼓舞してもいたのである。
州都バランではすでに、ヴァイス・ヴァランクス男爵がバロン城塞へ兵を率いて出ていくか、あるいは隣州へでも逃亡しようものなら、自分たちの手で取っ捕まえて処刑しようという気運が高まっていたのである。ホットスパーやフォルスタッフのように、ヴァランクスが何故一平民から男爵へ成り上がり、さらにはボウルズ伯爵亡きあとのバリン州の領主となったのか――自ら王都へ出向いて情報収集までした者たちとは違い、バリン州の人々は一般に次のように信じ込んでいた。
ヴァイス・ヴァランクスとは、クローディアス王におべっかを使い取り入ったことで平民の身から男爵へと成り上がったのだ。きっと相当汚い手を使ったに違いない。たとえばそれが友人ですらも、王の拷問部屋へ売り渡すことまでするような、きっとそんな腐った性根を隠し持った人物なのだろう……まったく汚らわしい悪い人間だ、このヴァイス・ヴァランクスという奴は。サミュエル・ボウルズ伯爵が拷問を課されていた時も、その拷問をニヤニヤしながらクローディアス王やその取り巻きと一緒になって見ていたに違いない。そして、心の中では(ククク……これで俺がバリン州の領主だ)などと思い、ほくそえんでいたのだろう。そうだ、そうに決まってる。なんてとんでもない奴なんだ、絶対許せない――これが、民衆の心の内にあった一致した見解であったことから、ヴァイス・ヴァランクス自身は実際にはさして悪い人間でもなかったのに、すべての不幸の元凶の悪玉のように祭り上げられ、彼と彼の家族とは逃亡しようとしていたところを捕まり、ほとんど民衆からリンチにされるような形で最終的にはバラン城の中庭まで連れて来られると、そこにあったヴァイス自身の考案したギロチンにより処刑されることになってしまったのである。
ヴァイスはバリン州の領主として赴任してくる少し前に、王都にて貴族の女性と結婚し、今では子供がふたりいて、さらにこの時、彼の妻のほうでは三人目の赤ん坊を妊娠中であった。だがこの時、彼女もまた一切なんの容赦もされずに夫に続き処刑されていた。もっとも、このことの内にはいくつか理由があったものと思われる。というのも、ヴァイスの妻エステラは王都の貴族社会に生まれ、それまでなんの不自由もなく生きてきたところを、彼女にしてみれば時に<内苑州の田舎>と称されることもあるバリン州へ突然やって来ることになったのだし、「あの男には将来性がある」などと両親から強制されての結婚だったため、彼女は結婚生活においても常に夫につらく当たってきた。また、それのみならず城の侍女や侍従に対する扱いもひどいものだったため、周囲にはひとりとしてエステラのことを「妊娠中なのですから」として庇う者すらなかったのである(また、妊娠中であるとはいえ、まだお腹のほうがあまり膨らんでいなかったことも、彼女の泣き叫びを民衆に嘘と思わせた理由のひとつであったろう)。
他に、オーデン・ヴァランクスとその妻、その頃には「城で王様のような暮らしが出来るのではないか」と期待して、ヴァイスの姉夫婦と妹夫婦もこちらへ越して来ていたことから――こうしたヴァランクス男爵の一族やその側近、男爵に協力的だった者たちは、次から次へとギロチン刑へとかけられていったのである。
王都まで「バロン城塞が陥落したこと」と、「ヴァランクス男爵一家の死亡」を伝えた者たちは、それぞれ別の貴族たちであり、まず最初に「バロン城塞落城」の報については、クロリエンス州の州境付近にて警護していた守備兵が、バロン城塞にて「ハムレット王万歳!!」との万歳三唱を聞いたこと、さらには城塔に白旗と同時にバロン城砦の旗が隣に翻っていたことから――そのことを王都までただちに申し伝えるために出発していた。この守備隊の隊長はまず、クロリエンス州の州都へと向かい(それだけでも三日かかる)、フローレンス・フローリエンス侯爵の御耳にそのことを伝え、次にこの侯爵が王都へ向け使者を出したのである。
また、この使者はテセリオン州へ到着するまでに、ラングロフト州やモンテヴェール州を通過せねばならず、一般に『早馬街道』と呼ばれる、馬を交換して乗り継いでいくことの出来る王都への最短の道を通っていったとはいえ、それでもテセウスへ到着するまでには十日ほどもかかった。そして、この危急の報告が王になされた三日後に、援軍の要請のあった州都バランにて、ヴァイス・ヴァランクスとその一族がギロチン刑にかかって処刑されたとの報告が王都のティンタジェル城へもたらされていたのである。
「ぐぬう……男爵殿はどうやら、サミュエル・ボウルズの死後三年もあったのに、自分が治める州の人心掌握に失敗したものと見ゆりますな」
中央に玉座の据えられた<王座の間>にはこの時、赤地に金鶏や金獅子といった動物が刺繍されたタペストリーの左右に、王の顧問官や各大臣らが二十人ばかり控えていた。クローディアスは、報告ののち、彼らから矢継ぎ早にあった質問にも知りうる限りのことを答えた使者の労を労うと、この者のことを一旦下がらせていた。「褒美を取り、城下町でも最上の宿で休むといい」とそう言って。
「まあ、バロン城塞はそもそも、内苑州の中の外苑州などと言われるほど、精神的には外苑州寄りでしたからな。また、ボウルズ伯爵が代々治めて来た土地柄ということもあり、国民たちは伯爵の頑固な気質を受け継いだように彼に忠実な者ばかりであったし……もともと不満があったのでしょうよ」
「ほほーう」と、左右にそれぞれ十人ずついる、左側の真ん中あたりから、黒い髪に黒い口髭を生やした眼光鋭い男が言った。彼の名前はイアーゴー・ベンティクルスと言い、税を徴収する収税官吏たちの長官として彼らの上に君臨している者である。「アコロンさま、そのような物言いをなされると、なんだかまるでクローディアス王の人員配置の不手際を指摘なさっているかのように聞こえますよ」
「なっ、何をいう、イアーゴー殿。わたくしは決してそのようなつもりは……」
「まあまあ、ふたりとも落ち着きなされ」と、左右二列の右側のトップにいた、白い髭の好々爺といったように見える、ケイ・ルアーゴ国務大臣がやんわりと言った。彼は実際にはイアーゴーとは金と権力で繋がった腹心の友といった関係性であった。「なんにしても、この場合は軍務大臣であるウーゼル・ゴロワ卿の話を聞こうではありませんか」
ウーゼルはルアーゴの真向かい、つまりは左側の列の王のもっとも近い位置にいたわけだが、彼は苦渋に満ちた顔をしていたものである。彼は王都の警備については人脈も人望もあったが、戦争へ実際に出征したという経験まではなく、それはウーゼルの部下たちのみならず、テセウス騎士団にしてもそうなのだった。彼らはただ、儀礼にのっとって闘技場で武術大会を開催するたび……戦士としてというよりも、競技者として長けているというそれだけだったのだから。
「まずはクロリエンス州にて、ハムレット軍を阻止してもらうしかありませんでしょうな」と、助け船をだすように、ここティンタジェル城の家令であるルカン・ルルリエント卿が言った。家令というと、もしかしたら城の侍従長といったように捉えられがちかもしれない。だがこの時代、城の家令といえば、王に代わって城のすべての采配に関わるという意味で、非常に高い地位と見なされていたのである。「ですが、フローリエンス侯爵の率いる軍勢だけではなんとも心許ない。バロン城塞からもう一度ハムレット軍を追い出すためには、隣州のラングロフト州にも協力してもらうしかないのでは?ラグラン=ド=ラングドック侯爵であれば、勇士としてラングロフト騎士団を率い、逆賊どもを蹴散らしてくださいましょう」
「そ、そうですなっ」と、アコロン・ヌーンディア卿がサー・ルカンにすかさず同調する。小心者の彼は、先ほどの自分の失態を取り繕おうと必死だった。「おそらくはそこで逆賊ハムレット軍は討たれましょうが、兵のほとんどを削がれながらもなおきゃつめらが、流れに逆らう愚かな鮭(シャケ)のように遡上してきた場合……その残りの兵については、アグラヴェイン公爵とモルドレッド公爵の強大な軍が事もなく引き潰してくださいましょう」
列の下方にいる家臣らからも、「そうだ、そうだっ!!」と同調する声が上がった。というより、この場にいる誰にとってもそれが最善の策であるようにしか思われなかったのである。そしてここでクローディアス王の最終的な判断を仰ぐように、王座の間には一度しーんと沈黙が落ちた。
今<王座の間>にいる誰にとっても――クローディアス王が何をどう捉え感じ考えているのか、さっぱりわからなかったと言える。というのもこの場にいる家臣の誰にとっても、このいつも無表情なところの多い美貌の王が、『何をどうしてもらいたいと思っているか』わかった試しなどほとんどないのである。そうした意味で、クローディアスは常に不可解な恐怖によってこれらの廷臣を支配してきたのだと言えよう。そして、会議のたびに彼らは王の思慮深いお考えを探るのに必死だった。というのも、クローディアスは彼らにさんざんしゃべらせるだけしゃべらせておいて……最終的に「自分はこう思っている」ということを表明するからなのであった。
「余は前にも同じことをそちらに聞いた気はするが……」と、肘を乗せる部分に獅子の頭、そして椅子の下部には獅子の足と爪の彫刻された王座から、クローディアスは何か気まぐれな質問でもするような口調で言った。「ハムレットは自分を王子と名乗っているそうだが、何故民衆はそのような戯言を信じるのであろうな?他でもない我が妻にして王妃であるガートルードが、先王エリオディアスとの間に生まれた赤ん坊は生後間もなく亡くなったと、そのように申しておるのだぞ?確かにフローリエンス侯爵だけでは、十万を越えるという逆賊ハムレットの軍を討つことは到底できまい。ラングロフト侯爵の軍と合わせてもなお危うかろう。レティシア州のサー・マドゥールにもフローリエンス侯爵を助けるよう声をかけよ。アグラヴェイン公爵とモルドレッド公爵は余とは親友のような間柄であるから、これからすぐに急使を送り、今後のことは公爵らと相談してみようと思うておる。だが、ラングドック侯爵とフローリエンス侯爵、それにレティシア侯爵にはそれぞれ、ハムレットは余の甥でもなければ王妃ガートルードの息子でもないと、そう強く使者に伝えるようにさせておけ。また、そのことで民衆たちにハムレットを王子として持ち上げていることに強い疑いを持たせるのだ。そうすれば神によって王に選ばれているとかいう戯言も、ただの逆賊の詭弁に過ぎないということがすべての人民たちに知れ渡ろうというものだからな」
このあと、クローディアス王は家令のルカンと別室の王の執務室にてふたりきりになると、彼がフローリエンス・ラングドック・レティシア侯爵に何をもっとも強く伝えたいかを口述筆記させた。それからサー・ルカンはこうした公式文書の専任官である書記のひとりを呼び寄せ、それを権威ある王の言葉として書き記させた。そして最後にそれを再び王の元へお持ちし、最後に王印を捺していただくと、ただちに待機していた使者にそれが渡された。王座の間に集まっていた家臣らは、クローディアス王の御言葉に感嘆しつつ、敬服して退室していったものである。
拷問刑を趣味にしている王ではあるが、クローディアスがただ残虐なだけの無能な王であったとしたら、その治世も長くは続かなかったことだろう。彼はいつでも会議において、家臣らが気の済むまでしゃべらせておき、その考えを最後にまとめるような形でもっとも肝要な点を衝くのである。いつもそのような具合であったから、廷臣らは「下手をすれば自分も拷問部屋行きに」なることを恐れつつ、クローディアス王に叛意の心までは持たなかった。基本的に、王は寛容な質でもあり、貴族の家臣たちの過失や失言についても大目に見る傾向が強かった。むしろ、サミュエル・ボウルズ伯爵のような貴族階級の者が拷問を受けたこと自体極めて稀なことであり――クローディアス王の御機嫌を窺い、彼の拷問趣味については目を瞑って何も言わなければ自分たちの身は安泰であると、内苑州の貴族階級の者たちはそのように考えていたと言えるだろう。そこには、クローディアスの息子のレアティーズ王子は賢く、拷問趣味などとは無縁の人物だ、ゆえに王子の治世になればペンドラゴン王朝の威光は今以上に輝き渡る……との期待もあってのことだったに違いない。
さて、ここで再び不幸な話の続きをしなければならない。クローディアス王の「逆賊ハムレットはペンドラゴン王家の血筋にない」との、民衆の人気の根拠を根こぎにしようという心理作戦はなかなか良いものだったに違いないが、ラングドック侯爵とレティシア侯爵はともかくとして、フローリエンス侯爵は王のこの命令書を受け取ることなく死亡していたのである。
というのも、ハムレット王子によるバロン城塞の無血開城、それに続くバラン城におけるヴァランクス男爵のギロチン刑による惨劇――そのことを聞いたクロリエンス州の民衆たちは、「自分たちも立ち上がるべき時が来た」ことに誰もが気づいてしまったのである。
ボウルズ伯爵家が代々バリン州を治めてきた時代は、比較的貴族階級と民衆というのは節度がありつつも、距離としてはそれなりに近かったと言えるだろう。これは外苑州のそれぞれの気質としても、大体似通ったようなところがある。だが、内苑州の他の六州においては、貴族階級と商人や職人階級を含めた一般庶民の間には越えられない壁があると、はっきり思い知らせるような生活を貴族と呼ばれる人々が送っていたのは間違いない。
そして、そうした中で暮らしていると……十分に教育を受けることの出来ない民衆たちほど、あっさり社会的に洗脳されてしまうものらしい。彼ら一般庶民は、貴族と呼ばれる金持ちの煌びやかな生活を送っている人々は、自分たちと同じ人間でさえないのだと考えた(あるいはそのように思い込まされた)。無論、時に貴族たちの生活を覗き見ることがあるたび、「何故こんなに不平等なのだろうか」と疑問に感じたり、羨望に悩まされることはあったにせよ、それは一過性のものであって、すぐにも自分を待ち受ける、生活の貧しさや厳しさを解消するための労働に従事することへ戻り、一瞬そんなことを考えたこと自体忘れてしまうのだ。
だがこの時、隣州とはいえ、軽く八十キロは離れているバリン州の民衆の叛旗を翻す熱意が、突然にしてクロリエンス州にも飛び火したかのようであった。バリン州においては、ホットスパーやフォルスタッフたちレーゾンデートル団による地下活動といったものがあったにしても、クロリエンス州のどこにおいても、そこまで議論が熱している町も村もなかったにも関わらず、「ハムレット王子という神に選ばれた王がおられる」、「この方を支持してその軍門に下れば、重税からも解放される」……ということは、彼らにとって難攻不落と呼ばれたバロン城塞陥落によって裏書きされ、すぐにも行動を起こそうとする民衆たちが続出したのである。
すなわち、それはまるでずっと屠殺場にて屠られるため、管理されてきた数万もの家畜が突然囲いを壊して脱出し、自分たちの支配者に雪崩を打って押し寄せる様に似ていたに違いない。彼らはそれぞれ自分の家にあった防具を身に着け、武器を手にしておのおの出ていった。農夫の中には剣や槍を持ってなく、代わりに鋤や熊手、鉈や鎌を手にして出て来た者も多数くいたという。
この時、町や村の有力者たちに軍隊のように率いられてきた者たちもいたが、彼らはその全員が顔と顔を合わせると、互いにその目的について説明する必要さえないといったように頷きあっていた。こうして、民衆たちは自分たちの住んでいる場所からもっとも近いところにある貴族の屋敷を次々襲撃していったのである。
こうして、貴族として長く権勢を振るい、優雅な生活を送ってきた人々は――突然狂乱に陥ったとしか思えない、自分たちがそれまで下に見てきた人々に激しい略奪を受け、高貴な婦人や娘たちはレイプされ、元は貴族と呼ばれた男たちはその多くが逮捕されるか殺害されるか、拷問行為を受けるなどして不具の身となるか……あるいは死ぬか、死ぬより惨めな思いをしながら牢獄送りになった。しかも、この牢獄行きへの行軍というのが酷いものであった。誰もが晒し者として恥を受け、唾を吐きかけられ罵倒され、さらには体のあちこちを傷つけたりされながら、泣き叫びつつの送致だったのである。
無論、クロリエンス州に常駐の軍隊や、クロリエンス州の抱える騎士団、それに警邏隊といったものが事態を鎮静しようとはした。だが、それは多数の蟻に倒されるカマキリにも似て……なんとも悲惨な様相を呈する結果となった。カマキリはアリを自分の身から振りほどこうとして自慢のカマを振り回すが、足を噛まれて穴を開けられ――最後には動かなくなったかと思うと、その内部を食い荒らされ、口からアリが出てくるような事態にそれは酷似していたと言える。
もともと、フローリエンス侯爵は貴族が利得によって潤うために民衆が汗するのは当然であるといった考えの、あまり人気のない領主であった。ゆえに民衆たちは彼の住む城を囲い込み、犠牲を出しながらもその内部へ侵入を果たすと、フローリエンス侯爵をリンチにかけ、その五体をほとんど引きちぎる勢いで滅多打ちにし、最後には力自慢の農夫がここへ来る途中で手に入れた戦斧によってその首を叩き落としていたのである。
この時、多少手許が狂ってしまい、フローリエンス侯爵は首からではなく、首から口の上唇と下唇の真ん中を断たれる形で処刑されていたが、「この下手くそめ!!」と揶揄しつつも、庶民たちの顔には光り輝くばかりの笑顔があった。これで、ハムレット王子がお喜びになるだろう手土産の出来たことが――彼らにとってはこの上もなく喜ばしいことだったのである。
こうした一連の不幸な出来事が、いまだ歓呼に沸き立ち、祝祭的雰囲気の色濃かったバロン城塞にて、ハムレット王子が連日軍事会議を開いている最中に起きていた。確かに、その後州都バランが民衆の蜂起によって占拠されたことは彼らにとって喜ばしいことであったし、クロリエンス州をどのように攻略すべきか、その最善の策を練っている時に、フローリエンス侯爵の死亡と、クロリエンス州の主だった貴族の有力者たちがほとんど死ぬか牢獄で死ぬより惨めな思いをしているとの報は……ハムレット軍にとって朗報であったとは言えたろう。
クロリエンス州の民たちは「ハムレット王子が来られる」と聞くと、自分たちが完全に降伏していることを示すため、町や村の通りになんらかの衣服を敷いた。その多くは貴族たちの中から奪ったものが多かったとはいえ、自分や家族のために新しく縫い直すなり、売れば高い金になるというのに――誰も、そうしたところで物惜しみしようとはしなかったのである。
こうして、ハムレット軍はクロリエンス州攻略についてはそれ以上考えるのは一旦やめ、まずは進軍して各地におけるこれらの混乱を収束させ、秩序を回復させる必要があると判断していた。ハムレットは最初、クロリエンス州の外れにある町へ進んでいった時……道に衣服が敷いてあるのを見てまったくもって驚いたものである。
>>続く。