ええと、つくづくほんとに前文に書くことないもので(汗)、今回もまた【2】に続いて絵本の紹介的な
と、その前にひとつ、しょーもない言い訳事項が。。。
その~、【3】までしたあと、ちょっと二つくらい別のお話を書いてまして、そっちの世界にどっぷり浸かっていたら、「灰色おじさん」の細かい設定のことを結構忘れてしまいまして(殴☆)
なんていうか、グレイスのパパとママの年齢とか、あと月や曜日など、もしかしたらちょっと矛盾があるかもしれませんというのも、書いてる時はもう先へ先へさくさく書いていきたいもので、とりあえずテキトーに一旦書いておいて、あとで読み返した時に直す……ことにしてるんですよね
でも、書き終わってからちょっと間が空いてしまったことで、前まで覚えていたそうした「あとからここ直そう!」的な箇所をいっぺんにすっかり忘れてしまった的なww
まあでも、そうした点は話の大体の筋を読む分においては些細な点だと思うので、わたしもまた一から読み直す機会のあった時に「あれ、ここおかしーや」となった時に直そうと思ってます。ということで、よろしくね♪的な(逃げ☆)
それで、今回はこれまた絵本の世界でとても有名な「よるくま」
まずは、密林さんより、あらすじ。。。
>>「ママあのね…きのうのよるね」
ベッドに入ってママに見つめられながら少しずつ眠りに誘われていく1日のうちで一番穏やかなとき、ぼくがママに語りはじめる。
昨日の夜、ぼくのところにやってきたくまの子「よるくま」とぼくの一夜のお話。
いなくなってしまったよるくまのお母さんを一緒に探しに行く冒険物語
そんで、以下は同じく密林さんのほうで試し読みできるところまでのお話。。。
>>ママあのね……
「まあ、まだおきてたの」
あのね きのうのよるね、うんとよなかに かわいいこが きたんだよ。
トントンて ドアをノックして
「あらそう。ママしらなかった。どんなこが きたのかな?
おとこのこ かしら おんなのこ かな」
(よるくま×シュタイフぬいぐるみ)
だいてみたら かわいかった。
そのこは よるくま というなまえ。
「よるくまちゃんは どうして そんな よなかに きたの?
よるくまだから よるあそぶの?」
あのね、おかあさんを さがしにきたの。
めが さめたら おかあさんが いなかったって。
それで ぼくも いっしょに さがしに でかけたんだけど……。
(『よるくま』酒井駒子さん著/偕成社より)
読み終わったあと、心がぽかぽかするような、何度読んでも、また忘れた頃に読み返したくなるような物語だと思います
まあ、超有名なお話なので、ご存じの方にとっては、もっとマイナーどころの、あんまり知られてないいい絵本紹介しておくれ☆という感じかもしれないんですけど、まあ、前文に書くことなんにもなかったので、すみませんというお話。。。
それではまた~!!
P.S.絵本ナビさんのほうに登録すると、一度だけ全ページためしよみが出来ます。是非……♪→『よるくま』
灰色おじさん-【5】-
「わあ、本当にこれ、簡単にアボカドの皮が剥けるのねえ。パパはいつも、小さめの包丁でちょちょいのちょいっていう感じで種を取って皮を剥いてたの。きっとこんなアボカドの皮剥き器があるって知ったら、パパ、きっとびっくりしたに違いないわ」
「そうじゃのう。これはたったの五ドルで買ったもんじゃが、プロのシェフならともかく、料理の素人には確かに重宝する代物だわい」
この時、おじさんは「はっはっはっ!」と笑っていましたが、実際、グレイスと出会ってから、おじさんはよく笑うようになっていました。前まではテレビを見ていてさえ、そんなに笑うということはなく、おじさんの笑い声は枯れ、口の端はずっとへの字に曲がったままだったのですが。
「まあ、五ドル!てっきりわたし、十ドルくらいはするものかと思ってたわ」
おじさんは、キッチン棚の中からトレイを取りだすと、その上に食事の皿をのせました。もちろん、一度では運びきれませんから、二度ほど往復するということになりました。グレイスはお茶の入ったポットやコップなどをスキップしながら運んでゆきます。
ふたりはこの日も至極満足しながら夕食を終え、暗くなる前に家のほうへ戻りました。おじさんが「今日はチョコミントアイスはいいのかい、グレイス?」と、悪魔のように囁きましたので、グレイスは「もちろん食べるわ、おじさん!!」と答えました。
冷凍庫の中にはスーパーで買ってきた、ホームパックのチョコミントアイスが入っています。グレイスはそれをデッシャーで掬うと、アイスクリーム用の皿にふたつほど乗せました。
「おじさん、おじさんは本当にアイスのほうはいいの?」
「ああ。わしゃあ、チョコミントアイスはあんまり好かんのでな。歯磨き粉とチョコを一緒に食っておるような気分になる。それに、わしも年じゃからな、年を取ると人間、そんなにしゃっこいものは食べたくなくなるもんだて」
「そーお?なんかあたしばっかり美味しいもの食べちゃって悪いわね。それに、おじさんはパパとふたつ違いなんでしょ?じゃあ、そんなにおじいちゃんってこともないわ。チョコミントアイスは好きくなくても、他のアイスなら食べたってそんなに変じゃないわよ」
確かに、グレイスのパパのジャックは亡くなった時六十三歳だったわけですが、髪は黒々としていましたし、顔の色艶のほうも非常によく、五十歳くらいに見えました。一方、おじさんはといえば、六十五歳のこの時、すでに七十くらいに見えたわけですが……グレイスのほうではそんなに「おじいちゃん」とも思っていなかったわけです。
「そうじゃなあ。ま、そのうち今以上に暑さが厳しくなってきたら、わしもアイスキャンデーでも買ってくるとするかの。そういや、小さい頃はよく、ジャックとサイダーやチョコレート味のアイスキャンデーを買っておったっけなあ」
「まあ、本当!?ママはね、時々自分に対するご褒美にってハーゲンダッツのを買ってたわ。そういう時にはね、あたしにもハーゲンダッツのチョコミントアイスを買ってくれたの」
「そうか。じゃ、そのホームパックの奴のはハーゲンダッツのよりも味が劣るかもしれんのう」
「そんなことないわ、あたしにとっては同じくらい美味しいもの。それにね、やっぱりホームパックのっていっぱい量が入ってるでしょ?だから、明日も明後日も冷凍庫にはチョコミントアイスがたっぷりあると思うだけで……十分とっても幸せよ」
「ふうむ、そうか。それは何よりじゃのう」
「そうよ!何よりよ」
おじさんとグレイスとは、毎日こんななんということもないような話をしては笑いあっていたわけですが――実をいうとこの日、トレーラーが小型の家型倉庫を運んで来、クレーン車がそれを下ろしていったあたりから……グレイ家の動向をずっと気にしていた人物がいました。それは、隣の家に住むマクグレイディ夫人でした。おじさんは角地に住んでいて、前面は通りに面していましたが、家の後ろに位置しているお宅は、おじさんの家のほうには窓のない構造の屋敷でしたので――隣人として窓越しにこちらを気にするといえば、そのマクグレイディ邸くらいなものだったかもしれません。
もちろん、通りを挟んだ向こう側の家の何軒かかも、グレイ家に家型の物置が設置されるのを少しくらいは見ていましたが、「あら、あのしなびたような感じのおじいさん、随分可愛らしい物置小屋を買ったものね」というくらいにしか思っていませんでした。ところが、このマクグレイディ夫人は違います。隣の灰色っぽい服を着ているところしか見たことのないおじさんが、突然金髪の可愛い女の子を連れてきたことから……(もしかして、誘拐じゃないわよね。通報したほうがいいのかしら)などと思ってしょっちゅうこちらの様子を気にしていたのです。
かと思ったら、今度は何か人形の家のように可愛らしいメルヘンチックな物置を狭い庭に設置したのですから――(これは絶対に何かあるわ)と、ミステリー小説好きのマクグレイディ夫人は直感していました。ちなみに、マクグレイディ夫人は今三十六歳で、車のディーラーをしている夫との間に三人の子どもがいました。子どものほうは上から十歳のケビン、六歳のティム、四歳のニックです。マクグレイディ夫人は専業主婦でしたが、結婚前は保険会社で営業の仕事をしていました。子どもがもう少し大きくなったら仕事に復帰したいと友人にはよく話していますが、実際にはもう二度と働きたいとは思っていません。
とはいえ、かといって結婚して子どもがいて幸せかといえば……実をいうとマクグレイディ夫人はいつでも、満たされない思いを抱えて生活していたのです。けれども、そんなのは自分だけではないと思い、夫の浮気に目を光らせつつ、三人の子どもを毎日一生懸命育てていました。時々、(わたしの人生って一体なんなのかしら。この子たちが大きくなるためだけのただの肥やしかしら)と感じることもありましたけれども。
なんにしても、ジュリア・マクグレイディ夫人のような女性にとって、一番の気晴らしは次のようなことです。自分の住むサティアス町内で、誰か夫や妻を裏切って浮気している男や女がいないかどうか、あるいは麻薬や大麻に手を出すなど、何かしらの法を犯して責めるべき人物かいないかどうかといったような――簡単にいえば、自分の身近な世界のゴシップを常に求めていました。つまり、マクグレイディ夫人という女性を一言で言い表すとしたら、次のような感じかもしれません。自分はゴミの分別もきちんとしているし、国に税金も納め、子どもを三人も持っている立派な主婦だ。そうした社会のルールを必要最低限ちゃんと守っている人間のひとりとして……他の人間が何かずるをしたり、ルール違反を犯したりといったことは絶対に許せない――という、マクグレイディ夫人はどこにでもよくいる、そんな感じの人だったのです。
そしてそんなマクグレイディ夫人でしたから、サティアス町内で起きる出来事については常に目を光らせていましたし(ほとんど監視していたといっていいかもしれません)、こうした夫人の監視網から逃れられる人物はほとんどいませんでした。おじさんが隣人としてマクグレイディ夫人のお隣に引っ越して来たのは、十年ほど前のことですが、その時マクグレイディ夫人は、おじさんが引っ越してきた最初のうち、実にこの冴えない独身男のことをじっと観察していたものでした(もっともおじさんはその頃、仕事も忙しかったので、そんなことには露とも気づきませんでしたが)。そして、おじさんが郵便公社に勤める真面目一本やりの退屈でつまらない人間であることが判明すると、すぐに興味と感心を失いました。ゴミもちゃんと分別して捨てているようだし、同性愛者でもなければ、土曜の夜にどんちゃん騒ぎをやらかすでもない、自分が時間を割くのに値いしない人物……それがマクグレイディ夫人にとっての隣人、ジョン・グレイ氏でした。
ところが、何日か前からよく家の前を金髪の髪をしたなかなか可愛らしいお嬢さんがちょこまか動きまわっており、その姿というのはマクグレイディ夫人の目にしょっちゅう止まっていました。というのも、マクグレイディ夫人の家のキッチンの窓からは、いつでもおじさんの家の前庭あたりが見えましたから――夫人は子どものおやつを作ったり料理をしたりするたびに、隣の様子をさり気なくじっと見ることが出来ていたというわけです。
「あんなよぼくれたじいさんには似つかわしくない、随分可愛らしい子だわ。親戚からでも一時的に預かってるとか、そういうことなのかしら……」
マクグレイディ夫人はこの<不思議な謎>を、誰かと共有したくて堪りませんでした。けれども、初めてグレイスのことを見かけた四日前の夕方、このことをまず夫のケビンに話してみても、彼はあまり興味を示してくれませんでした。
「隣のグレイさんのところに、金髪の可愛い女の子が?ま、美人でおっぱいの大きな二十歳くらいの娘とあのじいさんが暮らしはじめたっていうんならともかく……きっと親戚の子か何かなんじゃないかね。俺のほうではその女の子とは、二十年後あたりにでもならなければ用はなさそうだな」……と、まあこうでした。
そこでマクグレイディ夫人は、戦法を変えることにしました。隣近所に何気なくこの件で探りを入れてもみましたが、誰も何か知っている人はいません。おじさんは近所づきあいというものさえあまりしない人でしたから、無理もないことです。
(かくなる上は……)と、マクグレイディ夫人は、自分の息子のケビンJrのことを使おうとしました。サッカーボールでも蹴って、隣にボールが入ったついでに、金髪の女の子に話しかけるなりなんなりしてみろと言うのでした。ところが、最近何かと反抗的なところが目につくこの息子は「嫌だよ」と言って断固拒否しました。「そりゃ確かにちょっと綺麗な子だよ。でも、まだあんなの全然<ねんね>じゃないか」と、こう言うのです。そこでマクグレイディ夫人は今度は、六歳のティムを使うことにしました。ちょうど年の頃も女の子と一緒くらいですし、何かちょっとしたきっかけさえあれば、子ども同士、きっとすぐ仲良くなるでしょう。ところが次男のティムも、「そんな恥かしいこと、ぼく、出来ないよ」と言います。実をいうとマクグレイディ家の次男は、極度の恥かしがり屋さんだったのです。マクグレイディ夫人は自分の息子の出来の悪さに絶望しましたが、でもまだ三男のニックが残っています。マクグレイディ夫人は三男のニックに望みのすべてを託し、彼の足の下にボールを挟みこむと、「さあ、あっちへ向かってこれを蹴りなさい」と言って、隣のグレイ家の庭を指差したのでした。
その日は土曜日でしたが、午後の四時くらいから隣のグレイ家ではバーベキューの準備をはじめていました。家型物置の前には可愛らしいアンティークなガーデンチェアと揃いの二脚の椅子が並んでおり、その横のほうでは、コンロの上でおじさんが美味しそうなお肉を焼いているところだったのです。
そこへ――三男ニックの脚力では、まだあまりボールを遠くへ飛ばせないことに気づいたジュリアの蹴ったボールが飛んできました。
「あら、ごめんなさい。子どもとサッカー遊びをしていたら、こんなところまでボールが……」
そう言って夫人は、脇にニックを従えて、グレイ家の庭先までやって来ました。おじさんにとって彼女は招かざる客のようなものでしたが、特別嫌な態度を取ったりすることはありません。心の中では(チッ。ついにやって来たか。このうるさ方のババアめが)と、舌打ちしていたとはいえ。
「まあ、随分いい匂いがすると思ったら、バーベキューですか。うちでもたまにバーベキューを庭で致しますけれども、これまで何か御迷惑なことなんてありましたかしら?」
「いえ、べつに。お宅でバーベキューをしていることにも気づいてなかったくらいですよ。どうか、お気になさらず」
実際には、一度親戚が何人も集まってのパーティがあった時、おじさんの庭のほうまでゴミが捨てられていたり、あろうことか小便までした酔っ払いまでいたのですが――そんな一年も前の夏にあった話を今ここでしたって仕方ありません。
「ところでこの金髪のお嬢さん、とっても可愛いらしいですわね。うちのケビンも言ってましたの。あ、夫のケビンじゃなくて、息子のケビンのほうなんですけどね、「隣にとっても綺麗な子がいる」って」
このように話を捏造されたと知ったら、ケビンJrは怒り狂ったことでしょうが、マクグレイディ夫人は残念ながら、こうした子どもの心の機微といったものに非常に疎い人だったと言わざるをえません。
「ねえあんた、年いくつよ?」
グレイスは、マクグレイディ夫人に挨拶するでもなく、母親の脇に隠れるようにしていたニックにそう聞きました。彼がずっと黙ったままでいると、夫人のほうで「ほら、ニック、今年の四月でいくつになったの?」と促します。するとニックはようやくのことで「よんしゃい」と、指を四本立てて言ったのでした。
「ふうん。四歳ねえ。なんだか将来の見こみのなさそうな、ぼんやりした子ね。そう思わないこと、おじさん?」
「グ、グレイス……」
確かにおじさんも、突然白々しくボールを蹴って寄越したマクグレイディ夫人のことを不躾とは思っていました。けれども、適当に社交辞令を交わしてやりすごそうと思っていたのに――グレイスがズバリそんなことを言ったため、すっかりうろたえてしまいました。
「すみません、ミセス・マクグレイディ。ですがまあ、何分子どもの言うことなもんで、寛容にお許しいただければと思います」
「あら、あやまることなんかないわよ、おじさん」
グレイスはケロリとしています。
「それにもうお肉もすっかり焼けてるし、あたしたちはこれからお食事するところなんですもの。邪魔されちゃたまんないわ」
実際、おじさんはマクグレイディ夫人に話しかけられたせいで、ふたつ並べて焼いていた肉のうち、片方に焼き網の跡をくっきり残してしまいました。そして、その焦げあとのついてしまったほうを自分の皿にのせ、綺麗に焼けたほうの肉をグレイスの皿にのせてあげていました。
何かと噂好きのマクグレイディ夫人は、この界隈ではとても恐れられていました。特に<不倫>ということに関しては異様なほど鼻が利き、マクグレイディ夫人が鼻を突っ込んだお陰で離婚したり引っ越したりした夫婦が、現在で四組いるほどでした(ちなみに、おじさんの住む家の前の住人もまた、こうしたマクグレイディ夫人の詮索好きが嫌になって引っ越していました。そのご夫妻は不倫などとは無縁でしたが、こんなゴシップ好きのババアが隣に住んでいたのでは、将来自分たちもどうなるかわからないと、不安になったのです)。
そんなマクグレイディ夫人でしたから、この近辺に住む人はみな、彼女のご機嫌ばかりとっています。「どう、ジュリア?最近なにか面白い話なんかある?」といった具合に。ですから、グレイスがこんなにも面と向かってはっきり物を言ったことに言葉を失い、ジュリアは暫くただ黙っていました。
「そ、そうですわね。ただ、サッカーボールを取りに来ただけですのに……お邪魔して申し訳ありませんでしたわ」
「いえ、こちらこそ、姪が失礼なことを申してすみませんでした」
おじさんがトングを片手に深々と頭を下げると、マクグレイディ夫人も体裁をとり繕うようにして、そそくさとニックを連れ、自分の家のほうへ戻っていきました。けれども、マクグレイディ夫人が本来の目的を忘れているのにグレイスは気づき、「おばさん、忘れものよ!」と言って、ぽーんとサッカーボールを蹴っ飛ばし、隣家の庭へ放りこんであげました。
(なんて生意気な子かしら!!)
自分の背の上をサッカーボールがくるくると舞うのを見て、マクグレイディ夫人は驚くと同時に腹を立てました。とりあえず、あの生意気な子がグレイ氏の隠し子ではなく姪であることがわかったわけですが……一時的に預かっているというのでなく、もしあのグレイスという子が今後もずっと隣にい続けるというのなら――(わたしに生意気な口を聞いたことを、必ず後悔させてやるわ!!)と、ぷりぷりいきり立っていたほどでした。
ところが、隣家へ訪問することを断固拒絶したケビンJrが、偶然窓からこの様子を見ていて、「すげえ!!」と思わず叫んでいました。そして、自分の母親と行き違いになるようにして、彼は隣のグレイ家へすっ飛んでいったのです。ちなみに、その手には日本のマンガの『キャプテン翼』が握られていました。
ケビンJrは、グレイスとおじさんがバーベキューの肉を食べているところへ割りこみ、彼もまた特に何か挨拶するでもなく――「おまえ、すげえな!!」とグレイスが先ほど見せたキック力を賞賛しました。
「もしかして、女子サッカー部か何かに入ってるのかよ!?」
「ううん、入ってないわ」
グレイスはフォード家にいた頃、ノアとテイラーに見せたのとまったく同じ、若干の軽蔑をこめた眼差しでケビンJrのことを見返していました。彼は軽く茶色に染めた黒髪に、黒い瞳をした、やんちゃそうな子でした。上にサッカーボールチームの名前の入ったTシャツを着、下には揃いの紺のハーフパンツを履いています。
「へええ!なんかもったいねえな!!さっきのおまえのキック力見たぜ。なんかスポーツとかやってねえのかよ!?」
「あ~、坊や。この子はまだ六つだでな。今年の九月から小学校に入るんじゃ」
ケビンJrは、まるでこの時初めておじさんの姿が見えたようでした。隣に誰か中年のおじさんが住んでいるのは彼も知っていましたが、今の今までなんの関心も払ってこなかったのです。
「えっ!?そうなのかよ。じゃ、うちのティムと同い年かあ。ちなみに俺、今小4なのな。チェッ。そうかよ。俺よか年下とは思ってたけど、四つも下とはなあ」
「そういうあんたはなんかスポーツとかやってるってわけ?」
ケビンはべつに馬鹿にしたわけではなかったのですが、なんだか存在を下に見られた気がして、グレイスはちょっと不機嫌になりました。
「俺か?俺はサッカーやってる。一応これでもレギュラーなんだぜ。といっても、まだそんなに強いチームってわけじゃないんだけどさあ。他に、テコンドーもやってんだ。カッコいいだろ!?」
「へえ。それはちょっとカッコいいわね。あたしも日本のカラテとかジュードーとかちょっとキョーミある」
「ふうん。そっか。じゃ、ガッコに上がったら、おまえもどっかのスポーツクラブに所属すんだろ!?」
ユトランド共和国では、地域ごとにスポーツクラブが非常に盛んでした。これは国がスポーツを国民に奨励しており、それぞれの各種スポーツ競技で強い選手を輩出するためには、小さな頃から習うのが一番大切との考えに基づくものでした。こうした事情を背景にして、早い子だともう幼稚園くらいの頃からスポーツクラブに所属するのですが、小学校に上がった子はそのほとんど全員が必ずどこかのスポーツクラブに所属するといった慣わしなのです(ちなみに、こうしたスポーツクラブには国から補助金が出ており、お金はかかりません)。
「スポーツクラブねえ。あたし、べつにスポーツとか特にキョーミないのよね」
グレイスはうるさいハエのようにケビンJrのことを眺めつつ、食事を続けました。おじさんは、ケビンにも食事をふるまってやろうと思い、「坊やも肉なんかどうかね?」と聞いてみることにします。すると、「食う食う!!」との、元気のいい返事が返ってきました。そこで、おじさんは串に刺したシシカバブを一本、ケビンに渡してあげました。
「うわ、なんだこれ。うめえなあ、この肉!!俺、こんなうめえ肉、食ったことねえや」
ハフハフしながら肉にがっつくケビンを見て、おじさんもグレイスも笑いました。おじさんは、(ミセス・マクグレイディのような人から、こんな屈託のない子が生まれるとはのう)と、少し感心していたかもしれません。
結局このあと、マクグレイディ夫人が知りたかったことを知ったのは、この息子のケビンJrのほうでした。グレイスが「もしあたしが女じゃなかったら、アメフト部にでも入るとこなんだけど……」とポツリと洩らすのを聞いて、そのことにケビンが食いついたのです。「えっ!?おまえ、女なのにアメフト好きなのかよ。どこのチーム応援してんの!?」ということにはじまり、お互いのパパやママのことや(グレイスから交通事故でパパもママも死んだと聞かされると、ケビンはしゅんとしていました)、学校のこと、グレイスが前まで住んでいたサウスルイスのことなどなど――話が途切れませんでしたので、おじさんは途中、「ここはわしが片付けるから、ふたりでアイスでも食うがええ」と言ったものでした。
「あんた、チョコミントアイスなんて好き?」
「うん。好き好き。アイスクリームならなんでも好き!!」
おじさんは、グレイスに同じ年ごろの友達が出来そうなのを見て、なんとなくほっとしていました。あの詮索好きのマクグレイディ夫人を怒らせてしまったため、今後どうなるかと思ったおじさんですが、どうやらこれなら、彼女に何か悪い噂をバラまかれたりといった事態はどうにか避けられそうです。もちろん、「サティアス通りの角に住むしなびたジジイの姪は、とても生意気だ」とか、「将来どんなものなるかわかったもんじゃない」といったようにはおそらく言われるでしょう。けれどもそのくらいなら、まだ全然大したことはないのです。
おじさんがコンロや食べた物などを片付け、家のほうへ戻ると、グレイスとケビンJrとは、テレビをつけたリビングでふたりソファに並び、何か話しこんでいました。テーブルの上には空になったアイスクリームの皿がふたつあります。そこでおじさんはジュースをふたつと、ちょっとしたお菓子を出してあげることにしました。
そして、ケビンとグレイスが「おまえんとこのおじさん、随分気前いいな!うちの母ちゃんなんかもっとケチケチしてるぜ」とか、「あんたんとこのママ、見るからにそんな感じだもんね」だのと話していた時……そのケビンのママからケビンの携帯に電話がかかってきたのでした。
『ケビン!こっちもそろそろ夕飯だけど、あんた、帰ってくる気あんの!?』
「うっせえなあ。今、こっちは超サイコーおもしろいとこなんだよ。それにさっき、超うめえ肉も食ったしさあ……わかったよ。もう少ししたら帰るよ。うん、パパの買ってきたケーキ、取っておいて。じゃあね」
そう返事しながら、ケビンはもう一度グレイスの隣に戻ってきました。そして、おじさんの出してくれたクッキーをひとつ摘んで食べると、「これ、おまえに貸してやるよ」と言って、『キャプテン翼』の第一巻を貸してくれたのでした。
「べつにいいわよ。あたし、そんなにサッカーもキョーミないし」
「いいから、読めよ!すげえおもしれえからさ。俺、大事なマンガはそう滅多に友達にだって貸したりしないんだぜ。続きはまたここに持ってきてやるからさ」
「え?あんたまた図々しくうちに来るつもり?」
グレイスがそう言うと、ケビンは「チェッ」と舌打ちしています。
「べつにいーじゃんか。隣同士なんだしさあ」
「そうじゃぞ、グレイス」と、おじさんも助け舟を出してあげます。「ケビンくん、またいつでもうちに遊びに来ておくれ。良ければ、弟くんたちも一緒にな」
「ありがとう、おじさん。あのシシなんとかって肉もうまかったし、お菓子も美味しかったです。また遊びに来ますんで、よろしく!」
この時ケビンは玄関を出、自分の家のほうへ向かって行きながら――なんだかとても不思議だったかもしれません。前までは、隣に住んでいるおじさんは、灰色にくすんだ風景のようにしか感じられない人でした。けれども、実際に話してみるとおじさんはとてもいい人そうでしたし、おじさんの姪のグレイスのことも彼はとても気に入りました。といっても、恋とかなんとか、そうしたことはケビンは何も考えていなかったのですが、とにかく話していて面白いし、女の子にしては珍しく気が合うように感じていたのです。
「グレイス、友達が出来て良かったの」
「ともだちィ!?あんな奴があ?」
ところが、グレイスのほうでは不満そうです。実をいうとグレイスは男の子にはあまり興味がありませんでした。グレイスの欲しかったのは同性の、女の友達だったのです。ですから、隣のマクグレイディ家の子どもが三人とも男の子だったので、グレイスはがっかりしていました。
「おじさん、あたしの欲しいのは女の子の友達よ。男の子に用なんてないわ。男の子って大抵バカばっかりだし、仲良くしたって得なことなんかひとつもないんですもの」
ここでおじさんはおかしくなって笑ってしまいました。(今のようなことを、この子は一体いつまで言っておるもんかの)と思うと、おかしくて堪らなかったのでした。
「あら、おじさん、笑ってるわね。あたし、今何か面白いこと言ったかしら?」
「いやいや、そうじゃないよ、グレイス。おまえの言うことは、いつでもいい意味でおじさんには面白いという、それだけのことじゃからの」
「ふう~ん……」
グレイスは目を丸くしてじっとおじさんのことを見つめ返します。実をいうと、グレイスには今もっておじさんは謎の存在でした。まず、いつもおじさんは、朝ごはんを食べると、暫くの間書斎にこもって新聞や本を読んでいます。唯一おじさんはグレイスに、「その時間だけはおじさんをひとりにしておいておくれ」と言いました。その間、悪さをしたり変なことをしたり突然いなくなったりしないで欲しい、と。グレイスは最初、それは簡単な約束だと思いました。けれども、毎日同じことが繰り返されているうちに……ちょっと変な感じがしたかもしれません。グレイスはまだ幼かったのでわかりませんでしたが、それはこういうことだったのかもしれません。グレイスは自分のパパやママのことはよくわかっていると思っていました。でもおじさんは、時々何を考えているのかグレイスにはよくわからなかったのです。
>>「朝のリレー」
カムチャッカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする
この地球で
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交換で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
(『谷川俊太郎詩集 続』谷川俊太郎さん著/思潮社より)
――おじさんはそういう時、このシュンタロー=タニカワの詩を書斎のドアの前にかけていました。グレイスは「素敵な言葉だな」と思いはしましたが、まだ「詩」ということや「詩の良さ」ということはわかっていなかったかもしれません。そしておじさんは、夜眠る前に……あるいは昼間でも、時々絵本や子供向けの本を読んでくれたりします。
今、グレイスのお気に入りは、『ピーター・ラビット』です。おじさんは行きつけの本屋さんでピーター・ラビットその他のベアトリクス・ポターの本を全巻セットで買ってくれていました。そして朝、おじさんが書斎にこもっている時――グレイスは落書き帳に、これもおじさんの買ってくれた色鉛筆でうさぎやリスやくまなど、動物の絵を描いたりして過ごします。うまく描けた時などは、おじさんの書斎のドアをバタン!と開けて「ねえ、見てみて!」と言いたくなりますが、じっと我慢しておじさんが出てくるのを待たなくてはなりません。
『ピーター・ラビット』の他に、グレイスはおじさんのしてくれるおじさん創作のお話も好きでした。けれどもそれをグレイスはずっと、誰かプロの作家の人が作ったものなのだろうと信じて疑わなかったかもしれません。たとえば、おじさんのしてくれたお話のひとつに『宇宙の揺りかご』というお話があります。それは一人ぼっちの孤独な少年が揺りかごのような宇宙船に乗って宇宙を旅するというお話で……少年は旅先で色々な人たちに出会います。天使のような羽の生えた宇宙人や、神さまのようなおじいさんや、火星人といった宇宙人や――そして、少年は最後、少年が小さな頃に亡くしたおばあさんや、病気で死んでしまったパパやママにも会いました。少年は涙を流してパパやママに抱きつき、こう言いました。
『パパ!ママ!ぼくね、ずっと心配だったんだよ。パパやママがほんとうに天国にいるのかどうか、とっても心配だったの。おじいさんは、パパやママ、それにおばあさまも間違いなく絶対に天国へいるよって言ったけど、目で見ない限りは安心できないって思ってたの』
『可愛いぼうや、天国は本当にあるのよ』と、ママは天使のように優しい声で言いました。『ただ、生きている間は目に見えないというそれだけなの』
パパも言いました。
『そうとも。今まで地上で死んだ人がもし今みんな天国にいるとしたら……天国は人口爆発で大変だろうっていう科学者もいるけど、そんなことはないんだよ。いいかい、考えてごらん。この広い宇宙には、今まで坊やが旅してきたような銀河が二兆個以上もあるんだよ。坊やの住む地球は太陽系という銀河系に属しているけれど、そうした銀河系ひとつひとつに数え切れないほどたくさんの星があるんだ。いいかい、坊や。数えきれないほどだよ。今、この星にはおばあさんとママとパパの三人で住んでる。そんな星が宇宙には数えきれないほどあるんだ。天国がないなんて、そんなのは絶対に嘘さ。神さまはみんなが平等に幸せになれるように、それでこんなにも広い宇宙をお造りになったんだ。だから、地球に戻っても、夜空に星があるのを見上げて、つらいことがあっても忘れてはいけないよ。そこには目に見えない天国が無限に広がっているんだっていうことをね』
このあと、少年はパパとママとおばあさんに励まされて、地球へ帰ることにします。本当はそのまま自分もそこに住みたかったのですが、『おじいさんをひとりぼっちにしてはいけないから、今は帰りなさい』と言われたのです。
少年は、それからも時々、つらいことや悲しいことのあった時には、夜空に瞬く星を見上げました。そこには目に見えない天国が無限に広がっていて、少年をあたたかく見守っているようでした。あのあと、おじいさんも可愛がっていた犬のべスも死にました。でも、少年は寂しくありません。今も時々、夢の中で宇宙船に乗って出かけてゆきます。するとそこには、おじいさんもおばあさんも、パパもママも、犬のべスも……同じひとつの星で暮らしていました。そしていつか少年も、同じ場所で暮らすことになるのです。そして少年は、朝目が覚めるたび、その日のやって来るのが楽しみだなと、いつもそう思うのでした。
――これが大体のところの、『宇宙のゆりかご』という、ジョンおじさんの作ったお話でした。この話を聞いた翌日、グレイスはこの物語の中の少年や、宇宙船や少年の死んだママやパパの住む小さな星を描いたりして過ごしました。やがて、おじさんが朝の読書の時間を終えて書斎から出てくると、グレイスは自分の絵を褒めて欲しくておじさんに見せました。
おじさんがことの他その絵を喜んでくれましたので、それからもグレイスは毎日、何がしかの絵を描いています。その絵というのは、年相応といった感じのものでしたので、中には説明されなければグレイスが何を描いたのかわからないこともしばしばでしたが、おじさんはいつでも感心して独創性に満ちたグレイスの絵を褒めてくれたものでした。
>>続く。
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