(えっと、実はこの文章を書いたのが、今から約一か月くらい前のことで……今回、ちょっとここ全部消して、書き直そうかなって思ったんですけど、やっぱりそのままっていうことにしようと思いました。そういうことで、よろしくお願いしますm(_ _)m)
今回も、まるまる一章分、文章が入り切らなかったので――変なところでちょん切って、>>続く。ということになってます(^^;)
かなり前に【3】をしてから結構時間経っちゃっててすみませんm(_ _)m
ええとですね、つい先日まで『ゾンビ帝国興亡史』っていう話を書くのに夢中になってまして……それで、たぶん書き上げることさえ出来れば結構いい話(笑えるという意味で・笑)になると思ってたんですけど、自分でも書きながら時々笑うことが出来て、本当に良かったと思いました♪
それはさておき、台風一過。。。
うちも今現在(9/6、夜)、停電が終わったにも関わらず、アンテナの関係でテレビが入りません
いえ、きのう(9/5)の深夜3時ちょい過ぎ、わたし起きてまして。。。
「明日は燃えないゴミの日だべし!」ということで、メリョメリョ☆いわせながらゴミをゴミ袋に詰めておったら、結構激しい揺れがやって来たんですよね。大きさ的には「震度4くらいか、これ?」といったような感じで、とにかくそのあと揺れがやんでから思ったのは、「なんか縦揺れ系の嫌な揺れ方だったな」ということだったかもしれません(あ、あくまで個人の感想です^^;)。
で、一度目の揺れからちょっと経ったあとにブツッと停電になりまして、「あー、来たかー」と思い、でもちょうど寝るところだったので、「寝て起きて復旧してたらいいけど、まあ無理だろうなあ」と思いつつ、同時に「でもたぶん無理ぽい☆」とも感じてまして。。。
そんで、停電&断水という状況があって、わたしむしろ外に出てからのほうがびっくりしたかもしれません
いえ、テレビのニュースとか当然見れないもんで、実は情報が一切ない状態で外出て、まわりの状況がどうなってるかがわかって、すごく驚きました。いえ、とりあえずわたしの見た限りにおいて倒木とか、建物の一部破損っていうのは少し見かけたりしたんですけど……驚いたのはそっちじゃなくて、「こんなに広範囲に電気が通じてない状態」というのを初めて見たもんですから、東日本大震災が起きた時とか、「想像を絶する大変さ」と思っていながらも、当然これ以上にひどくて大変な状況があったと思って、あらためて胸が痛みました。。。
信号機のほうも電気が通じてないもんですから、大きな通りには警察の交通整備の方がいるものの、それ以外では車も自転車も歩行者も、右見て左見て、それぞれ譲りあいつつ、空気読んで渡る……みたいなことを何十回も繰り返す、みたいな感じで。。。
てっきりわたし、自分の住んでるところを含めた一部地区が停電&断水みたいになってるのかと思ってたんですけど、行けども行けどもとにかく信号機がついてないことに驚きました
それで、電気が通じてないもんですから、当然コンビニもスーパーもホームセンターも、どこも開いてません。。。(閉店ガラガラ状態☆)
いえ、とりあえず家には三日くらいなら持つかな~くらいの食糧はあったものの、この状況がもし一週間ばかりも続いたらどうなるかと色々想像しました。そのお店にもよると思うんですけど、コンビニとかスーパーとかホームセンターとか、人が並んでるところは結構人が並んでて。たぶん、開いた瞬間、目当てのもの(食糧とか水を入れるポリ缶とか)を買うためなんじゃないかなって思うんですけど……ここまで行けども行けどもどの店も一切開いてない状況を経験したのは、本当に生まれて初めてでした
それで、わたし、某市の中の一番大きい駅から歩いて十五分とかそのくらいのところに住んでるので、夕方くらいには電気も水道のほうも復旧してました。でも、帰ってくる時に、ほとんどの信号機がまだ死んでる中で、某大型デパートの前の信号機と、そのデパートに明かりがついてるのを見て、「おお、明かりよ明かりよ。光よ光よ」みたいに思って、本当に嬉しくなったんですよ♪
電気が一部でも戻ってきたっていうことは、除々に復旧していくのも早いだろうなあって思ったので。。。
でも、自分の住んでるところは比較的早く復旧して良かったんですけど、ラジオ聞いてると、電気も水も戻ってない、水とガスは使えるけど、停電がまだ続いている……など、地域によって復旧に違いがあるみたいで……中でも胸の痛んだのが、「電気もガスも水も使えない中で、今夜はひとり孤独に暗闇の中で過ごします」っていう方がいらっしゃって
やっぱり、こういうの聞くと、わたしだけじゃなく、ラジオ聞いてる人みんなが一瞬にして「なんにも出来んけど、せめてもパワーを送るぜい!」みたいに思うっていうのは凄いことだと思ったりするんですよね(^^;)
本当に、そんな中でもせめても快適に過ごせる何かがありますようにって願います
いえ、ほんとに、自分的に災害ということに関して、色々勉強になる台風&地震でした
喉元過ぎればなんとやら……じゃなくて、備えあれば憂いなし!って本当にそう思ったというか。。。
もちろん、今も仮設住宅に暮らしていらっしゃる方がいたりとか、本当に、水害などで大変な思いをされた方にとっては「夜中の3時に停電になって、翌日の夕方くらいまで電気とガスと水が使えないくらい、大したこっちゃない」というレベルではあったと思うんです。
でも、こうした事柄について、今まで以上にますます熱心に、真摯に祈ろうという気持ちになれて本当に良かったと思いました
それではまた~!!
灰色おじさん-【4】-
その後、おじさんがグレイスに手伝ってもらってアパートの中の物を片付け、ノースルイスの自宅のほうへ送るのにこぎつけたのは、それからたっぷり一週間もかかってのことでした。
もし、アパートの部屋の中のものをどうでもいいから荷物として詰めるというのであれば――おそらく三日とかからず、あるいは業者などに頼めばたったの一日で、片付けのほうは終わっていたことでしょう。
でもおじさんはひとつひとつの物をとても丁寧に大切に梱包していきましたし、アルバムなどが見つかるとそれに見入ったり……そんなこんなで結局、一週間もかかってようやく荷物をすべて整理し終えたといった具合だったのです。
部屋の整理には、大家さんのグレイシーおばあさんやフォード牧師夫妻も手伝いにきてくれました。グレイシーおばあさんはアパートのすぐ隣の一軒家に住んでいましたが、おじさんは「二か月分家賃を前払いしてあるはずだ」とかなんとか、そうした話は一切しませんでした。というのも、会った瞬間におじさんにはこの腰の曲がった白髪頭のおばあさんに対して、感じるところがあったのです。「感じるところがあった」などと言っても、腰が曲がっていてかわいそうといったような、そんなことではありません。
なんというのでしょう……おじさんはグレイシーおばあさんに自分と似た匂いを感じたのです。金に細かく、簡単に人に気を許さず、自分の病気や死んだ時のことを習慣のように毎日考える――(なんとなく、このばあさんと自分は同じ傾向にある気がする)とそう思い、おじさんは家賃の前払い分のお金のことはおくびにも出しませんでした。
そのかわり、グレイシーおばあさんは何かと親切でした。部屋の中のものを整理したり掃除したりするのも手伝ってくれましたし、サウスルイスで一番安い運送業者のことも教えてくれました。何より、毎日必ず何かの食事をご馳走してくれ、ちょっとした差し入れをしてくれるのがとても有難かったのです。
こうして、グレイスはサウスルイス駅でたくさんの友達に見送られて、おじさんの住むノースルイスへ旅立つということになりました。グレイスはずっと友達や知り合いといった人々と別れることについてはクールな態度でしたが、流石にこの時ばかりは三十人以上もの友達に囲まれて、たくさんのプレゼントを渡されながら涙を流してお別れしました。
おじさんは一般客車にグレイスと並んで座りますと、自分の小さな姪のことが可哀想になってきて、最後にもう一度こう聞きました。
「グレイスや。今からでももし、ここに残りたかったら……素直にそう言ったほうがええ。こんなに友達もいっぱいおるのだし、向こうへ行ったらなんもかんも一からはじめないといけないしな」
「いいのよ、おじさん。あたし、ただ今ちょっと感動してるっていうそれだけなの。それにあの子たちだって、あたしが遠いところへ行くからあんなに集まってくれたっていうそれだけよ。あたしがここにいたらここにいたで、また喧嘩したりなんだり、色々あるのはどこも一緒だもの」
おじさんの貸してくれた灰色のハンカチで涙をぬぐいながら、グレイスはそう言いました。そしておじさんはといえば、六歳の子どもらしからぬこのグレイスの物言いに、妙に感心したかもしれません。
(『あたしがここにいたらここにいたで、また喧嘩したりなんだり、色々あるのはどこも一緒だもの』か……わしが六歳の頃はそんなふうにはまるで思えんかったな)
実をいうとおじさんは六歳の頃まで、首都ユトレイシアに住んでいました。その頃弟のジャックは四歳でしたから、ジャックには引っ越しの記憶はないと、のちに本人が言っていましたが――せっかく出来た近所の友達と別れるのがとても悲しかったのを、今おじさんは本当に久しぶりに思いだしていたのです。
(わしと違って、この子はまったく逞しいわい。もしこの子が新しい環境になじめなかったらと、そのことがわしも心配だったが、フォード牧師も「あの子の場合、その点は心配いりませんよ」と請けあってくれたし……ノースルイスがあの子にとって、毎日楽しい場所になるといいんじゃが)
電車が動きだして、十分もしないうちにグレイスは泣きやみ、「ああ、スッとしたわ!」と一言いうと、おじさんに灰色のハンカチを返しました。そのあとは、外の景色を見ながら「おじさん、あれは何?」とか、「ねえねえ、今の見た!?」と言っては、おじさんと他愛もない話をしたり、あとはおじさんがキヨスクで買ってくれたおやつを袋から出しては、「ど・れ・に・し・よ・う・か・な~」と言っては、ゆっくり味わうように食べていました。
「時にグレイスや。おまえさん、歯医者には行ったことがあるかの」
「はいしゃ?たぶん行ったことないわ」
おじさんはここで少しびっくりしました。ですがまあ、おじさんの記憶でも、初めて歯医者へ行ったのが七歳か八歳くらいの頃だったので……そんなにおかしいこともないかと、おじさんは考え直しました。
「どれ、グレイス。ちょっと口を開けてごらん」
「どうして?レディはそんなことしないものだと思うけど」
おじさんは笑ってしまいましたが、(まあ、いいか)とも思いました。
「それじゃグレイス、ノースルイスへ行ったら、一度歯医者へ行こうな。今のその歳まで歯医者へ一度も行ったことがないということは、虫歯がたぶん一本くらいはあるじゃろうからな」
「ムシバ?そんなもの、あたしにあるかしら」
グレイスはそう言いましたが、でも、それは歯医者という場所に恐れを抱いているからではないようでした。というのも、グレイスは歯医者へ行ったことがありませんでしたので、そこが一体どんな場所なのか、よくわかっていなかったのです。
おじさんとグレイスとの会話というのは大体がこんな感じでした。グレイスは自分の見たものや感じたことについて、ぺらぺらとしゃべり、おじさんはその話に相槌を打ったり、そのことに関連して何か意見したり感想を述べたりという感じでしたが……おじさんはその「なんでもないこと」をとても楽しんでいました。
グレイスは何気なくなんでも思ったことをすぐにしゃべるといったタイプの子でしたが、おじさんは小さい頃から「よく考えて話す」タイプの子でした。たぶん、そんなふうに性格が反対だったからなのかもしれません。ふたりの気が何故か自然とあったのは……。
ノースルイスまでの約四時間半の旅の間、グレイスはずっとおじさん相手にしゃべりまくり、途中しゃべり疲れて四十分ほど眠り、そのあとはワゴンサービスでおじさんが買ってくれたサンドイッチやジュースを食べたり飲んだり……グレイスにとって初めてのノースルイスへの電車の旅は、概ね楽しいもののようでした。
四時間半といえばそんなに長くもないようですが、おじさんは少々疲れていたかもしれません。おしゃべりな子どもを相手にして疲れたということではなく(おじさんにとってグレイスのおしゃべりはいくら聞いていても飽きない感じのするものでしたから)、単に体力的な意味で疲れていました。
けれども、明日にはサウスルイスに梱包した荷物がすべて届きますから、おじさんは少し休んだのちは、今度は自分の家の整理をはじめなくてはなりませんでした。おじさんとグレイスとは、朝の9:07発の電車に乗って、ノースルイス駅へ到着したのが13:28頃でした。そのあと、おじさんはタクシーではなくバスを使って自宅のほうまで帰ってきていたのです。というのも、これからグレイスが大きくなって、どのバスに乗れば駅まで行けるかがわかっておいたほうがいいと思ってのことでした。
それでもグレイスが疲れているようだったら、たぶんおじさんもタクシーを使ったに違いありません。でもグレイスは、電車の中で少し眠ったせいか、バスの中でもおじさんの家へやって来てからもずっと元気いっぱいでした。
おじさんはバスで降りたところから五分くらいのところにあるスーパーで買い物をし、グレイスにも好きな物を買わせて帰ってきたのですが、とりあえずグレイスには彼女が大好きだというチョコミントアイスバーを与えておいて、おじさんは買ってきたものを冷蔵庫に片付けました。
「想像していた以上にボロっちい家なもんで、びっくりしたじゃろうな、グレイス」
「ううん、全然そんなことないわ、おじさん!」
グレイスはチョコミントアイスバーを食べながら、白塗りの平屋建ての一軒家を、実に興味深そうに一部屋一部屋眺めていきます。玄関を入るとまず、狭くて小さいですが一応玄関ホールがあります。そこには樹木の形をしたポールハンガーが置いてあって、枝のところにカバンやコートをかけられるようになっていました。そこからドアが右手と左手にあって、右手のドアを開けるとそこはリビングに通じています。そして今おじさんとグレイスのいるのがここでしたが、グレイスがさらにその奥のほうのドアを開けると、そこにはトイレとバスルームがありました。おじさんは自分の住まいを卑下して「ボロッちい」などと言っていましたが、そこは中年男性の独り住まいにしてはなかなかに清潔で素敵な空間でした。バスルームは空色一色で、猫脚のバスタブまで置いてあります。それに、床のタイルのほうも水色で、とても綺麗でした。グレイスはトイレのほうも使ってみましたが、こちらも、おじさんがこの家を買う前にリフォームしてありましたので新品に近いように見えましたし、便座カバーと床のマットにはスヌーピーのキャラクターが描かれています。
「あっ!」
グレイスはもうアイスのほうをほとんど食べ終わりかけていたのですが、最後に棒に少しだけしがみついていたアイスが、トイレの床に落ちてしまいました。グレイスは自分のドジさにショックを受けつつ、それをトイレットペーパーにくるむと、トイレへ流して捨てることにしました。床のほうももちろん綺麗に拭いておきます。
「あ~あ。やっちゃった。もったいな~い……」
両親がレストランを経営していたせいかどうか、グレイスは食べ物を大切にするほうでした。ですから、この時もチョコミントアイスを捨てながら、なんだかがっかりした気持ちになっていました。
なんにしてもグレイスは残りのアイスのぼっこをリビングのゴミ箱に捨てると、今度はリビングの右にある部屋と左にある部屋を見ました。他にこの家にはウッドデッキがありましたが、部屋のほうはもうこれで全部です。リビングから見て右のほうの部屋は壁に本棚の並んだ書斎のような場所でしたし、左の部屋のほうはおじさんの寝室のようでした。グレイスは残りの部屋のひとつ――玄関から入ったところにあるもうひとつの部屋を引き返していって見ました。そこは、おじさんがひとりで寛いでDVDを見たり音楽を聴いたりといった、そうした部屋のようでした。
「おお、グレイス。ここはな、おまえの部屋にしようかと思っとるんじゃ。もしおじさんの寝室か書斎のほうが良ければ、わしがここにベッドを移して引っ越してきてもええがの」
「いいわ、おじさん!わたし、断然この部屋がいいわ!!」
グレイスは変に遠慮をしたり、自分の嫌なことを我慢するタイプの子ではありませんでしたので、おじさんはグレイスが本当にこの部屋がいいのだろうと思いました。
「じゃあ、明日……は、ちょっと荷物が届くから無理かもしれんが、その次の日の水曜日かな。部屋のカーテンを買ったり机を買ったり、グレイスの部屋の中を飾るためのものを買いにゆくぞ。なんにしても、九月からはグレイスも小学生じゃ。カバンや靴入れや……そうしたものを色々買わねばなるまいの」
「まあ、おじさん!そんなのきっと新しいのを買わなくってもどうにかなるわ。あたし、今まであまり新品の服って着たことないの。ママが誰かからもらってきたお下がりを着たり、フリーマケットとかそういうところで中古の物を色々買うのよ。パパは交渉がうまくって、いつもよく値切っては安くていい物を買っていたものだわ」
「…………………」
それはたぶん、子どもの教育のために、悪くないどころか、むしろ良いことではあったでしょう。けれども、おじさんは自分にもし仮に子どもがいたとしたら――それも女の子に――そうした我慢をさせたかというと、それは断然否でした。
もちろんおじさんは弟夫婦の教育方針等についてうるさく言うつもりはありません。それでも、フリーマケットや中古のセール品を置いた店などにグレイスのことを連れていくような気には到底なれませんでした。
「ま、その、なんだな。おじさんも決して金持ちというわけではない。じゃが、大金持ちではないが、中金持ちくらいではあるだろう。じゃから、グレイスに新品の物を買ってやれるくらいの余裕はあるから、そう遠慮することはないぞ」
「あら、ママはよく言ってたわ。子どもっていうのはすぐ大きくなるものだから、新しくて高い服を買ってもすぐ破けたりサイズが合わなくなったりで、お金がもったいないでしょって。それにあたしも、そんなにお洋服とかって興味ないのよ。カバンなんかもズダ袋にミシンをかけたようなもので十分だわ」
(ズダ袋にミシン……)
グレイスがどうにも奇妙なことを言うような気がして、おじさんは少々首をひねりました。
「その、グレイスのママは実際、ズダ袋にミシンをかけていたりしたのかね?」
「ええ、そうよ。ママはとっても裁縫がおじょうずだったの!だから、手芸品店で布のセール品を買ってきたり、あとは人からもらった服をバラしてね、新しくお洋服を仕立て直したりしてたのよ。ズダ袋にミシンをかけてたのは、野菜を入れる袋だけどね。でもそれ、なかなかイカした野菜袋だったのよ」
ここでようやくおじさんは納得して、思わず笑ってしまいました。実際、部屋を整理している時に出てきたグレイスの服はどれも、なかなか洒落た子ども服が多かったのですが、おそらくそのほとんどがグレイスのママの手作りだったのでしょう。
ですが実際のところ、おじさんはこののち、グレイスがどうやら普通の女の子とはちょっと趣味の違う子であることに気づくということになります。まずは翌々日の水曜日、ホームセンターのほうへ出かけていった時のことでした。そこは家具やインテリアの他、DIY用品など、色々なものをたくさん取り扱っているお店です。
「わあ、おじさん!サウスルイスにもこういうお店はいくつかあるけど、なんたがノースルイスのお店のほうがシャレてる感じがするわね」
「そうじゃのう……ま、なんにしてもよくこんなに色々なものを揃えておるなと、わしも来るたびに感心はするな。グレイスや、今日はおまえの部屋の勉強机やカーテンや、そうしたものを買いにきたから、好きなものを選ぶがええ」
いつものことでしたが、この日もグレイスはまったく落ち着きがありませんでした。まず店に入る前に、店の入口前面に、たくさんの花の鉢や苗などが並んでいます。グレイスがそうしたものを一渡り見たがったので、おじさんもつきあいました。
「ねえ、おじさん!あたしの勉強机とか、そんなのどうでもいいから、こうしたお花をたくさん買って、お庭に埋めたりするっていうのはどうかしら?」
「そうじゃのう。それは素敵な提案じゃが、今日はおまえの部屋の物を買うためにやってきたんじゃ。お花はまた次に来た時にでも買おう」
「おじさん、これ、クレマティスよ!ママの大好きな花だったの!!」
「じゃあまあ、それだけ買っていくかの?」
値段のほうはそう高くありませんでしたが、もう花のほうはすべて咲いており、蕾がほとんどありません。あとはもう暫くすれば枯れてしまうでしょう。もちろんクレマティスは大事にすれば来年もまた咲いてくれます。そう思っておじさんは(どうしたもんかいの)と一瞬迷いました。けれども、『ママの大好きな花』とまで言われてしまっては、買わないわけにもいきません。
おじさんは薄い紫色の花が咲くクレマティスの鉢植えを手に持つと、グレイスと店内に入っていって、まずは大きなカートにそれを置きました。そして、用のない棚についても順番に回っていきましたので、グレイスはそこに並ぶネジ類や蝶番や工具用品などを見ながら――「あたし、こういうの好きよ」と言ったりしていました。
「でもなんだかとっても不思議ね。世の中にはこんなに色んな種類のネジや蝶番なんかがあって――でも、必要な人にはそれをどこに使うかわかるんでしょうけど、あたしには何をどこに使うのか、さっぱりだわ」
「そんなの、おじさんだって同じだわい」
このあと、建材類の並ぶ棚の奥のほうに、ペットの並ぶショーケースが見えて、おじさんは少しだけギクッとしたかもしれません。というのも、グレイスがそこに並ぶ猫や犬を欲しいと言った場合――「机なんかどうでもいいから、あの猫が欲しいわ、おじさん!」と言ったりした場合――クレマティスの時とは違って、流石におじさんもそれは断らねばならなかったからです。
「ねえねえ、おじさんは犬と猫、どっちが好き?」
「そうじゃのう……」
そこには、猫ならアメリカンショートヘアやマンチカン、スコティッシュフォールドなど、また犬ならトイ・プードルやロングコートチワワやスピッツ、ウォルシュコーギーなどなど……色んな種類の犬や猫が小さなショーケースに入っていました。
「ま、犬は散歩に連れていったりなんだりせねばならんが、猫は家の中で飼っておって、あとは適当に外へ出しておけばいいから……わしは猫のほうが好きかもしれんな」
「まあ、本当!?あたしもね、犬より猫のほうが好きなのよ。でも、パパは猫より犬のほうが好きなんですって。ずっと犬が欲しかったけど、なかなか飼えずにきて、そのあと自分でお店をはじめちゃったから……でも、いつか隠居したら老後は犬を飼いたいって言ってたの」
「そうか。確かにジャックは小さい頃から動物が大好きでな。あとはカブト虫とかクワガタ虫とか昆虫も好きだったな。わしもジャックと一緒にその観察日記をつけたりしておったっけ」
――この時おじさんはまた、弟との間にあった過去の思い出について思い出していました。両親が交通事故で死に、伯母夫婦の元へ引き取られてから、ジャックは一度こっそり犬を拾ってきたことがありました。見ると本当に可愛らしい雑種の子犬で、ジャックはどうにか飼ってくれるよう一緒に頼んでくれと言うのでした。
『おまえ、おばさんの性格はわかってるだろ?おじさんは説得すれば多少は聞いてくれる余地のある人だけど、おばさんは犬なんか飼ったら余計に金がかかるだけだとか、それじゃなくても他に穀潰しが二匹もいるのにとか……そんなふうにしか言わない人だよ』
『だけど、こんなに可愛いんだよ、兄貴。俺だってさ、もちろんわかってる。今兄貴が言ったようなことしかあのおばさんは言いやしないさ。俺も、頭や体を撫でただけで、拾ってくる気まではなかったんだ。だけどこいつ、どこまでもどこまでも俺について来て離れないんだよ。それで、ものすごく切なそうな目で俺のことを見るんだ』
その時、おじさんにも弟のジャックの言いたいことはわかっていました。その犬はエサをくれる相手なら誰でもいいという懐き方ではなく、何かジャックのことだけを特別に選んで懐いているように見えましたから。
――このあと結局、おばさんは予想通りの態度を取っていました。『馬鹿じゃないのかい、おまえ!?』、『しかもこんな、血統書付きってわけでもない、ただのみっともない雑種なんかをね』、『この犬が何か芸でもしてくれて稼いででも来ない限り、うちでは絶対に飼う気はないよ』……けんもほろろというのか、取りつく島もないといった態度をとられ、ジャックは泣きながら犬を捨ててこなくてはなりませんでした。
ただ、この話には続きがあって、おじさんは同級生に犬を欲しがっている子がいるのを思い出し、その子の家まで犬を連れていったのです。雑種とはいえ、なかなか可愛らしい容貌の子犬でしたから、すぐに気に入ってもらえ、その家でその黒ブチの犬は飼ってもらえるということになったのです。おじさんとも割と親しい同級生だったので、ジャックも時々その家へ遊びに行っては――レオと名づけられたその犬とじゃれあったりしていたものでした。
この時、何故か不思議とグレイスは、そのままペットショップと犬や猫のカットを請け負っている店の前を通りすぎてゆきました。そのすぐそばには金魚や鯉や熱帯魚などの入った水槽がたくさん並んでおり、何故かグレイスは犬や猫よりも魚のほうに強い興味を示していたのです。
「おじさん、とっても綺麗ねえ」
クマノミやエンゼルフィッシュやネオンテトラや……他に、亀のいる水槽や水草だけの置かれた水槽なども、グレイスは随分熱心にひとつひとつ観察していました。普通の親御さんでしたらもしかしたら、自分の用を済ませてさっさと帰るために、こういう時、子どものことを急かせるかもしれません。もちろん、それは当たり前のことですが、その点、このおじさんは違いました。もともと性格的にのんびりした人でしたし、第一、おじさんは今はもう働いていない、時間のあり余った暇人でもあったからです。
「そうだのう。ま、犬や猫が欲しいと言われるのは困るが、魚くらいなら飼って飼えんこともないかもしれんな」
「あら、いいのよ、おじさん。あたし、そんなに魚って飼いたいとは思わないわ。ただ、水族館なんかへ時々行ってね、ちょっと姿を見たいというそれだけなのよ」
「そうか、そうか。そんなら、そのうち時間のある時にでも、ノースルイス・アクアリウムにでも行ってみるかの?」
「まあ、それ本当、おじさん?なんだか悪いわね。あたしが何か言うたびに、そんなに色々気を遣ってくれなくていいのよ。あたし、自分で本当に行きたいところとか見たいものとかあったら、割とはっきり言うほうだから」
「そうしてくれると、おじさんも助かるの。なんでかって、おじさんはあんまし空気を読めんほうなんでな。むしろ気を遣って遠まわしに色々言われたりすると、まるっきり気づかんタイプじゃ」
「そんなことないわ。おじさんはよく気のつく、どっちかっていうと精神がせんさいなほうなんじゃないかしらって思うわ」
ふたりはそのあと、さらにカー用品やレジャー用品やキッチン用品などの並ぶ売場を順に回っていき、最後にエスカレーターに乗って、二階へ行きました。二階には、家具やカーテンといったインテリア用品や、家電製品、AV機器類などが並んでいる売場があります。
おじさんは、グレイスのことを学習机の並んだところへ連れていき、自分で選ばせたかったのですが、グレイスはやっぱり、通りかかった場所にある色んなものに目移りしては、「これ、なかなかいい感じじゃないこと、おじさん?」と言ったり、「おじさんはこうした物の中で何か買うものはないの?」と聞いたりしていました。
「わしのことはいいんじゃよ、グレイス。それより、今日はおまえさんの物を買いにきたんじゃからして……お、ちょうどええ。ここがカーテン売場じゃ。おまえさん、自分の好きな柄を選びなさい。値段は気にしなくてよろしいから」
「あら、おじさん。あの部屋にカーテンならもうかかってるわ。何かこう、森林模様みたいな感じの、緑っぽいやつ。あたし、あのカーテンの柄、結構好きよ。だから、べつに新しく買わなくたっていいわ」
グレイスははっきり物を言う、遠慮しないタイプの子どもでしたが、それでもおじさんはこの時、グレイスがもしかしたら気を遣っているのかもしれないと思いました。
「まあ、そう言わずに……これなんかどうかね?ピンクの地にうさちゃんが描かれとる。なかなか女の子らしくていいんじゃないかい?」
「うーん。そうねえ……それだったらあたし、こっちのほうがいいわ」
そう言ってグレイスは、白地にリスやクマやキツネなど、森の仲間の描かれたカーテンを選びました。
「でも、是が非でもこれを部屋の窓にかけなくちゃってほどじゃないのよ。ここの売場にあるカーテンの中じゃ、これが一番いいかしらっていう程度。だからね、カーテンは本当にあのままでいいのよ、おじさん」
「ふうむ。ま、グレイスがそれでいいならわしゃ、それでいいがな。そうそう、次は学習机じゃ」
おじさんは今度は子供用の学習机の並ぶ売場にグレイスのことを連れていきました。けれどもグレイスはここでも、何かピンと来ていない様子でした。一方、おじさんはといえば、やっぱり机のマットにうさぎの描かれた、ピンク色の机を指差したりしています。
「これなんかどうかね、グレイス?」
おじさんは値段は気にしなくていいと言いましたが、グレイスのほうではさり気なくちらと値札のほうを見ていました。577ドル70セント……グレイスはびっくりしました。
「お、おじさん。あたしね、勉強ならリビングのテーブルでするか、おじさんの書斎の机ででもしたらいいんじゃないかしらって思うの。それに、こういうちゃんとしたのじゃなくても、もっと安い机と椅子を組み合わせたらどうかしら。第一、新品じゃなくても、ほら、たとえば中古品を扱ってる店とかにも、結構いいものがあるはずよ」
「…………………」
おじさんは、ここでグレイスのことがよくわからなくなりました。子どもというものは、なんでも物を買ってもらえるとなれば、ただ無条件で喜ぶ生き物なはずだと、そう思っていたからです。けれども、自分もすでにグレイスくらいの頃……ケーキ屋さんであまり高いケーキでないものを選んだりしていたなと思いだしました。
もっとも、グレイスのそれは子どもなりに気を遣っているということでもないということに、その後おじさんはだんだんに気づいていくことになります。グレイスは自分の欲しいものについてはかなりはっきり「欲しい!」という子でしたが、割とどうでもいい物については、今みたいに「もっと安いものが他にあるんじゃない?」といったように言うのです。
「ふうむ。それでは、グレイスが今日見た中では、あのクレマティスが一番欲しいものだということかね?」
「そうね。たけど別にそれだって、無理して買ってくださらなくてもいいのよ。今のこの時期、クレマティスはあちこちの庭先なんかで咲いているものね。あたしはね、そういうのを見て、ママがあの花好きだったなって、思いだせたらそれでいいのよ」
「…………………」
おじさんはまた黙りこみました。まだたったの六歳くらいの子が、こんなにも達観していることがあまりに不思議だったのです。
「じゃあ他に、何か欲しいものはないのかね?たとえば本でもおもちゃでも、なんでもいいがな」
「あら、おじさん。そんなに最初からあたしを甘やかさなくてもいいのよ。第一あたし、もし何か欲しいものが出来たらおじさんに言うわ。ママはね、いつも言ってたの。店のショーウィンドウを見て何か欲しいものがあっても、すぐそこに手を伸ばすより、自分で工夫して似たようなものが作れるんじゃないかしらって考えるほうが楽しいって。パパもママもね、のみの市へ行ったりするのが大好きだったの。おじさん、ノースルイスでものみの市はある?」
「ま、わしは行ったことはないがの。たまにのみの市が立つこともあることにはあるじゃろうな」
「じゃ、今度ふたりで行ってみましょうよ。あ、でもおじさんは優しいから、あんまり値切ったりするのははうまくなさそうね。でも、ああいうところでお店を出してる人って、値切ってこない人は張り合いがなくてつまらないんですって」
「ほおお。そんじゃまあ、わしもがんばって少しは値切ったほうが得をするということじゃな」
――こういった具合で、結局のところこの日、おじさんがグレイスのために買ったのは、花が咲ききっているので割引された、10ドル65セントのクレマチスの鉢植え、ひとつきりでした。けれども、グレイスはスーパーに寄って家へ帰って来ると、テーブルの上にクレマチスの鉢植えを置いて、それをずっと嬉しそうに眺めていたものでした。
ところで、サウスルイスのグレイスの家の荷物ですが、なかなかたくさん量があって、おじさんの家の中はあっという間に前の半分以上に狭くなってしまいました。まずはグレイスの使っていたベッドやタンスなどは彼女の部屋となる場所へ運びましたが、おじさんは自分が今使っている家具などを処分しても、ジャックとレイチェルさんの使っていた物をこの家に置きたいと考えていました。これは何もグレイスのことを思ってのことではなく、おじさん自身が強い熱意を持ってそうしたいと思っていたことだったのです。
唯一、テレビと車はフォード牧師夫妻が譲って欲しいと申し出ていましたので、おじさんはグレイスに許可を取って寄付することにしました。他に、グレイスが「流石にそれはいらないわ、おじさん」と言ったものは捨てたり売ったりしました。それだけでも随分荷物のほうはコンパクトになりましたが、それ以外のものは梱包してノースルイスのおじさんの自宅宛てに運ばれましたから、整理するのがなかなか大変だったのです。
そこでおじさんは、庭に――といっても、そんなに広くもない狭い庭ですが――倉庫を建てることにしようと思い立ちました。インターネットで大体の値段を確かめると、おじさんの欲しいサイズのものは、六十万ドルほどでした。これはおじさんの年金の約半年分くらいの金額です。グレイスが家に来て以来、おじさんの資産のほうは目減りする一方のようでしたが、おじさんはあまりそのことを気にかけていませんでした。というのも、死んだらお金は天国へ持ってゆけないわけですし、それよりも身内の何がしかにお金を使えることのほうが、おじさんにとってはよほど嬉しいことだったからです。
このように自分のサウスルイスの家の物が届いたことで、おじさんに不自由をかけていると感じるからでしょうか。グレイスはずっといい子でした。食事の仕度を手伝ったり、自分から掃除してみたり……もしかしたら、おじさんが色々買ってくれようとしても何も買おうとしなかったのは、こうしたことも関係あったのかもしれません。何故なら、おじさんはグレイスにとって金品という以上の「一番して欲しい」と思うことをちゃんとしてくれる人だったのですから。
そんなわけで、二人がホームセンターへ出かけた三日後、家の庭に緑の屋根、ペパーミントグリーンの壁の小さな家が届いた時には、グレイスは狂喜しました。それは正確には倉庫、あるいは物置だったのですが、ちゃんと白いドアもついていますし、正面には可愛い窓までついていたからです。
「まあ、おじさん!まあ、おじさん!!まあ、おじさん!!!」
大きなトレーラーに乗せられた家型の倉庫が、クレーン車に吊るされて下ろされると、グレイスは窓から外を覗きこみながら驚いてそう叫んでいました。代金のほうはクレジットカードで済ませていましたので、おじさんは確かに商品を受け取ったというサインをすると、倉庫を運んできてくれた運転手らにお礼を言って帰ってもらいました。
「ねえこれ、一体どうしたの!?」
「うちの中のジャックとレイチェルさんの遺品な……まあ、うちには入りきらんので、ちょっと物置でも買ってそこに置いてはどうかと思ってな」
「まああ!!でも、おうちを一軒ぽんと買ってしまえるだなんて、おじさん、本当は中金持ちじゃなくて大金持ちなんじゃなくて?」
おじさんはただ、口許だけで微笑むだけでした。確かに、物置としてはちょっと高い買い物でしたが、グレイスの今の興奮と喜びに満ちた顔を見ただけでも、おじさんにはお釣りが来るくらいでした。
「ちょっとわしの力だけではな、動かせそうにないものは、まあ、便利屋にでも頼むとして……どれ、グレイスや。物を色々移すのをちょっと手伝ってくれないかね?」
「もちろんいいわ、おじさん!!」
便利屋というのは、おじさんの家のポストに時々チラシの挟まってくる、<「電球を代える」、「タンスやソファなど大型家具をずらしたい」、「庭の掃除や犬の散歩」、「いなくなったペットの捜索」などなど、なんでもお任せください!!>という触れ込みの、金さえ払えばなんでもしてくれるといった手合いの会社です。ただし、おじさんはその料金設定のところを見て、『ふん。馬鹿らしい。こんなところに一体誰が頼むか。ぼったくりおって』と思い、そのチラシを毎回破っていました(※電球の交換=一度に何個でも、10ドルから!、タンスやソファなどの大型家具の移動=派遣した人員ひとりにつき、一時間20ドルより、いなくなったペットの捜索=一日一人の捜査員につき、50ドル……といったようにチラシには書かれていたからです)。
この日、お昼頃からはじめて夕方くらいまでかかって、おじさんとグレイスはある程度のところ見栄えよく、家型倉庫の中のものを整理しました。中にはサウスルイスのグレイ家にあったものではない、おじさんの家の中でいらなくなったものも混ざっています。というのも、そうした形で整理することで、荷物で溢れたおじさんの家はようやくのことで元の状態へ戻りつつあったからです。
「まあ、おじさん!!なんだかここ、とっても素敵なおうちよ?だって、ドアがあって窓があって、テーブルや敷物もあって……なんだかあたし、ここに住みたいなあ」
「グレイスや、気持ちはわかるがの。この小さな家は保安上とても危険じゃ。だから頼むから、ここへ昼間遊びに来るのは構わんが、夜はおじさんの家のほうで休みなさい。いいかね?」
「そうねえ。あたしとしてはもういっそのこと、ここに住んでしまいたいくらいだけど、おじさんがそう言うなら、言うとおりにしなくちゃね。それに、おじさんとふたりでずっと一緒にいるには、明らかにここは手狭ですものねえ」
おじさんは、何故かグレイスが主婦のような物言いをするので、おかしくて堪らなくなりました。なんにしても、「絶対ここに寝泊りするの!!」などと頑張られなくて良かったと、おじさんはほっとしました。
「じゃがまあ、今日の晩ごはんはここにテーブルを運んできて食べるとするかの。今日はスパゲッティにしようと思うが、グレイスはそれでいいかね?」
「もちろんいいわ。それにしてもおじさん、料理がお上手なのねえ。それとも、おじいちゃんもコックさんだったっていうから、やっぱり血筋なのかしら」
「どうかの。わしはずっと独り身じゃったから、誰か作ってくれる人がいない以上、自分で作る以外なかったもんで、毎日なんかしら作ってるうちにそこそこ料理のほうは上手くなったというそれだけじゃて。それじゃあ、そろそろ準備のほうをするとするかの」
おじさんにしても、何故グレイスがずっとここにいたいと言うのか、その理由はわかるような気がしていました。どことなく秘密基地のような風情がありますし、物置ではありますが、下にはジャックとレイチェルさんがのみの市で買ったのであろう素敵な白地にプルーの柄の絨毯が敷いてありましたし、後ろにある家具のほうも古びてはいますが、なかなかに高級な感じのするアンティークなものが置いてあったからです。
この日も、おじさんが料理をする間、グレイスはそのまわりをちょこまかと動きまわっては、先まわりをしてパスタ容器の中からパスタを二人分取りだしたり、おじさんがピーラーでじゃがいもの皮を剥こうとすると、「それはあたしがやるわ、おじさん!」と言って、率先してお手伝いしようとしました。
やはりレストランの娘……というべきか、グレイスは両親の働くレストランの厨房で過ごすことが多かったですし(何分、三歳の頃からそこにいたのです!)、グレイスは四つくらいの頃になると、パパやママにねだって料理の真似事をしたいと言いだしました。そこでレイチェルさんは最近では、グレイスのために足台を買ってやって、キッチンでママと一緒に料理できるようにしてくれていたのです。
その足台をたくさんのダンボールの中から見つけだすと、グレイスは狂喜して、「あったわ、おじさん!これであたしもおじさんと一緒にキッチンに立てるわ!」と実に喜んでいたものでした。
ですからこの日も、グレイスはおじさんの横で鼻歌を歌ったりしながら、じゃがいもの皮を剥いたり、茹でたじゃがいもをマッシャーで潰したり……夕食のお手伝いをとても楽しみました。今日のスパゲッティはなすのトマスソーススパゲッティです。他に、じゃがいものマッシュに野菜のスープ、デザートはアボカドです。
「ねえ、おじさん。そのアボカドのは、あたしがやっちゃ駄目なの?」
おじさんがアボカドスライサーでアボカドの皮を剥き、種を取ろうとしていると、一日に一回は必ず見るその作業を、グレイスは自分でやりたがりました。
「そうじゃのう。特にそう危険ということもないからやってもいいが……」
「うん、やるやる。あたし、きっとうまくやれるわ!!」
実際その言葉のとおり、グレイスはアボカドにまず縦に切れ目を入れ、そのあと種を取り、綺麗に皮を剥きました。
「わあ、本当にこれ、簡単にアボカドの皮が剥けるのねえ。パパはいつも、小さめの包丁でちょちょいのちょいっていう感じで種を取って皮を剥いてたの。きっとこんなアボカドの皮剥き器があるって知ってたら、パパ、きっとびっくりしたに違いないわ」
>>続く。
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