【カーネーション、リリー、リリー、ローズ】ジョン・シンガー・サージェント
さて、今回で最終回ですっ☆(何故かちぃたん☆風・笑^^)
なので、最後くらい「灰色おじさん」について何か書こうかな……なんて思いつつ、特に何もないやうな?なんて。。。
あ、でも一応言い訳事項としてはアレ(ドレ?)ですかね。アダムとメアリーの苗字を同じエイブラハムにしちゃったっていうことに、途中で気づいたってことと……あとは、地震のことでしょうか
いえ、震度6、マグニチュード7.5で、死者二名、負傷者866人って、「コーイーツーはーww」と思われる方がいるかもしれないな……と思っていたもので。つまり、普通このくらいの大きな地震が来ると、被害ってもっと大きいはずなんです。
ただ、わたしが住んでたところで、震度6、マグニチュード7.5の地震があった時……死者2名、負傷者966人だったんですよ。もちろん、家の中はもう色んなものが倒れてしっちゃかめっちゃかでしたし(北海道弁でいう「わや☆」とうやつです^^;)、砕けた食器類を片付けたり、台所の下にしまっておいた油のこぼれたのを拭いたりとか、色々大変だった記憶があります。
それで、大体その時のことをなんとなく書いた……という感じなので、地震で苦しい経験をされた方にとっては「リアリティがない」って感じられるかもしれないな……と、書いてた時も実は思っていたんですよね
ただ、その時の地震がどのくらい大きかったかを知ったのは、その後、地震が起きる前と起きたあとの地形(海岸線)の変化……というのをパネルで見て、だったかもしれません。それでまあ、近いうちに地震の来る確率がとても高いところなもので、東日本大震災を教訓とした防災対策ということが叫ばれているわけですけど――うちの父や母などは、東日本大震災クラスの地震が来たら、「まあ、死ぬんじゃねえか?」と言ったりしてますね(^^;)
どうしてかっていうと、地震や津波についての警報が発令されて、指定された場所に逃げたとしても、東日本大震災クラスの津波が来たらそこも飲みこまれるかもしれないし、そこよりもっと高い場所へ行く途中で被災して死ぬ確率のほうが高いんじゃなかろーか、という。。。
つまり、新しく避難するための建物とか建てられてはいるんですけど、そこはうちからあんまり遠くて無関係ですし、「えっと、そこにいてさえ、本当に助かるかな?」という疑問が残っていたりと、ツッコミどころ満載な防災対策を敷いてる気がするからなんですよね(あ、わたしの地元は海近なんです^^;)。
そして、そんなこんなで今度は北海道中がブラックアウト。。。
いえ、うちも今年は初めて電池でつくストーブを買いました。東日本大震災が起きた時にすぐそうすべきだったのに……そこまでの危機意識がなかったことに対して、本当に猛省したという道民の方はとても多いと思います
なので、ジョンおじさんとグレイスが防災関連グッズをホームセンターへ買いにいくところとかは、そんなことをなんとなく考えていたかもしれません。
それで、うちも地震があった時はちょっと家族同士で手伝いあったりとか、そういうのはあったにしても――グレイスとアリスやエリザベスの関係が「あれだけのことがあったのに」何も変わらなかったように、「あれだけのことがあったのに」この人は、あの人はその後もまったく変わらないんだ……という絶望ってありますよね(^^;)
その、家の中の片付けとか、一番大変なところが過ぎ去ってしまうと、喉元すぎればなんとやら☆で、うちの家族もなんにも変わらなかったな~と思います。その前まで家族の間であった問題とか色々、そのことを契機に「考え方を変える」とか、そうしたいい意味での変化があれば……と思いつつ、なんの考え方の変化も望めなかったということ――なので、震災後にそうした考え方の違いなどが露わになって離婚したとか、離れて暮らすことになったとか、「わかる」なんて言ってはいけないんですけど、少し、ほんのちょっとくらいはそうしたことについてもわかるような気がしています。。。
ええとですね、なんにしてもとりあえず今回で、「灰色おじさん」の連載は終了です♪
そして、次の連載ものは「ゾンビ帝国興亡史」というお話になるのですが、そんな難しいような小説ではなく、新感覚ゾンビ・コメディというか、ゾンビSFファンタジーというか、何かそんな感じの軽いノリのゾンビ小説となりますm(_ _)m
それではまた~!!
灰色おじさん-【19】-
最初、グレイスはメアリーの家かべスの家にでも行くべきかと考えて……結局のところ、最後に選んだのがブランドンのところでした。もちろん、今のクラスの仲のいい子の家へ行ってもよかったのです。けれどもそちらでは、ママから連絡が入ってすぐ帰るということになってしまうでしょう。ただ、ブランドンのロス家には妹のエリザベスがいますから、そういう意味では気が進まなかったものの、グレイスは年上の彼にこのことを相談してみたいと思っていたのです。
ブランドンは今年の九月からサウストンベリーにある陸軍士官学校へ進み、今はクリスマス休暇で帰省しているところだったのですが――グレイスは偶然、ロス家の白い塀の前で、ブランドンがガールフレンドらしき女性と話しているのを見てしまい、急に彼に話しかけずらくなってしまいました。けれども、そそくさと引き返そうとするグレイスをブランドンは目敏く発見し、すぐ彼女に声をかけてきたのです。
「グレイス!もしかして、うちに用があって来たのかい?」
たまたま通りかかったとも思えず、ブランドンはそんなふうにグレイスに聞いていました。
ブランドンと話しこんでいたらしき女性のほうでは、「じゃあわたし、そろそろ帰るわね」と言って、そのまま行ってしまいましたので……グレイスはブランドンの好意にいつものように甘えるということにしました。
「ごめんね、ブランドン。今の綺麗な人、きっとガールフレンドか何かだったのでしょ?」
「いや、べつにそういうんじゃないよ」
(あんなの、ただの女狐さ)と、子ども相手に本音を洩らすわけにもいかず、ブランドンはどことなく中途半端な微笑みを浮かべていました。というのも、今の二コール・レイスという女性は、高校の同級生だったのですが、ブランドンが陸軍士官学校へ合格したと聞くなり突然近づいてきたといった感じの女性だったからなのです。
グレイスはただ純粋にブランドンのことを「すごいのねえ、偉いわねえ!」といったように尊敬の気持ちから褒めそやすのみでしたが、陸軍士官学校への入学というのは、ユトランド共和国におけるエリートコースのひとつと見なされていました。けれども二コール・レイスは高校生の頃、ブランドンに対してはまったく鼻にもかけないといった態度だったのです。
「それより、一体どうしたんだい?よかったら、うちにあがって……」
ここで、ブランドンはグレイスの微妙に警戒したような顔つきを見て、すぐに色々なことを察してこう言いました。
「エリザベスなら、出かけていて今うちにいないよ。だから、安心してうちに上がっていくといい。俺のほうからも一度、グレイスのことをおじさんの家に訪ねようと思ってたんだ。夏休みに二度か三度、釣りに行って以来一度も会ってないものな」
「でも、そんなの悪いわよ。せっかくの短い休暇なのに、あたしみたいな子どものためにブランドンの大事な時間を使わせるだなんて」
「そう遠慮することはないさ。ほら、俺たちは年は離れてるかもしれないけど、でも友だちだろ?」
グレイスはこうしたブランドンの気持ちが嬉しくて、こくりと少し恥かしそうに頷きました。夏休み中に一度、陸軍の制服を着たブランドンと、グレイスは写真を撮ったことがありましたが――彼はその頃よりさらに今、顔つきも体つきも精悍に引きしまって、すっかり大人の男性になったような印象だったのです。
「士官学校のほうは大変?」
二階のブランドンの部屋のほうに通してもらうと、グレイスはソファに腰かけて、まずは自分のことより彼のことを聞きました。部屋のほうは、以前来た時よりも綺麗に片付いていて、机がひとつにベッドがひとつ、他にテレビやそこに繋いであるゲーム機器類、それにAV機器などが置いてある隣にギターがひとつ……あとは壁に彼の好きなミュージシャンや昔の映画のポスターが貼ってあるといったような感じでした。
「まあね。士官学校なんて言っても、軍隊へ入るための大学みたいなところだからね。普通の一般教養といった授業の他に、今は基礎教練をやってるところだから――グレイスも映画なんかで見たことあるだろ?軍人が集団で一糸乱れず行進したりなんだりっていうやつ。で、隊列を乱した奴を上官が意味もなくグラウンドを何周もさせてみたりとかさ。まあ、今のところはそんなことばかりがうんざりするくらい続いてるといったところだよ。唯一、銃の組み立てと射撃練習の時間なんかは楽しいけどね」
「そっか。ブランドンも大変なのね」
「ブランドン「も」?じゃあ、やっぱり何か俺に相談しに来たんだね?」
妹のエリザベスからは、「またあのクソ女と同じクラスになったわ」と聞いてはいましたが、グレイスはグレイスで妹とは別に仲のいい友達グループがあるということで……そうしたことはブランドンはあまり心配してなかったかもしれません。
「ほら、あたし今……本当のパパとママと暮らしてるんだけど、おじさんと一緒にいるよりストレスたまるみたいな話は、前にもしたでしょ?」
「ああ、そうだったね」
そのことを最初に聞いた時、(そんな奇跡みたいなことが本当にあるんだな)と、ブランドンは驚くばかりだったのですか、どうやらグレイスのほうではその実の両親とあまり馬が合わないということについては、何度か聞いていました。それと、本当はおじさんと暮らしたいと思っているのに、おじさんのほうではどうしてもそのことを承知してくれないのだといったように……。
「あたし、とうとう堪らなくなって、ワズワース家には置き手紙をして、おじさんに最後のお願いをするつもりでいたの。そしたら、おじさん……」
どんなことに対してでも滅多に怒らないおじさんが、自分を叱ったことを思いだして――グレイスはまたぐすっと涙ぐみそうになりました。
「夏休みにパン屋をやって以来、色んな人が引っきりなしに訪ねてくるもんで、そのせいで疲れるから、あたしのことまでとても面倒は見られないって……」
もちろん、ここまで聞いただけでも、ブランドンにはわかっていました。おじさんにもグレイスと暮らしたいという気持ちは、今もおそらくあるでしょう。けれども、実の血の繋がった両親が見つかった以上、そちらのグレイスのパパとママと姪が暮らすことのほうが最終的に彼女のためになると信じているのです。しかもその家のほうが大金持ちとなったら、もう考える余地すらなかったに違いありません。
ゆえに、ブランドンはジョンおじさんがおそらくはわざと大袈裟に怒るか、少しばかりキツい言い方をグレイスにしたのかもしれないと思っていました。けれども、普段ジョンおじさんは温厚な人柄をしているだけに、そうした種類の人に叱られるというのはかなりつらいことだろうというのも、ブランドンには容易に想像が出来ました。何故といって彼の父親も、まったく似たタイプの人柄をしていましたから。
「グレイス、そんなのはたぶんおじさんの本心でもなんでもないよ。もしかしたら、グレイスのパパとママと何か隠れた約束をしているのかもしれないしね。ほら、グレイスが何度おじさんと暮らしたいと言っても突き放してくださいみたいにさ。それで、そのグレイスの置き手紙っていうのは、かなり決定的なやつなのかい?」
「うん。あたしもう二度とワズワース家へは戻るつもりなんてないんですもの」
(どうしてブランドンはいつでもこんなにすぐ、あたしの気持ちをわかってくれるのかしら。まるでおじさんみたい)と、グレイスはそう思って感心のあまりまじまじと隣のブランドンを見上げていました。
「そうか。それなのにおじさんには叱られるし、それでどうしていいかわからなくなってうちへ来たんだね。じゃあ、うちに泊まっていけって言いたいけど、うちには何分鬼みたいな妹がいるからなあ。グレイスもエリザベスがいるんじゃ、うちに泊まってくのなんて嫌だろ?」
「う、うん。それは流石にね……」
「じゃあ、これから俺とどっかホテルにでも泊まりにいくかい?まあ、これが夏ならね、山までドライブしてテントでも張って寝ればいいんだけど……何分十二月だものなあ。もし、それでいいんなら、早速今から出かけよう」
「えっ!?でもブランドンにそこまで迷惑かけるっていうわけには……」
「とりあえず、今は家に帰りたくないんだろ?そしたらさ、俺がまた明日にでもおじさんに話してあげるよ。もちろん、それで問題が解決するかどうかはわからないけど、グレイスのほうでも明日になったら明日になったで、また何か気持ちが変わるかもしれないだろ?」
「…………………」
けれども、ブランドンとグレイスが家から外へ出ようとしたその時、ロス家の呼び鈴が鳴りました。そしてブランドンがドアを開けた途端、リアムの兄のポールを含めた高校時代の友人たちがどっと玄関ホールまで押し寄せてきたのです。
「よお、ブレンダン!おまえが帰ってきてるって聞いて、遊びにきてやったぜ!!」
この五人ほどのブレンダンの悪友たちは、勝手知ったるなんとやらで、勝手に階段を上がっていくと、ブレンダンの部屋のほうへ向かっていきました。
「お、おい。おまえら……」
「あたしのことならいいわよ、ブレンダン。今日はとりあえずやっぱり、うちに帰るわ。それじゃあね!」
ブレンダンはもちろん、グレイスのあとを追っていったのですが、そこに折悪しく妹のエリザベスが帰って来、ブレンダンはグレイスの背中を見送ることしか出来なかったのでした。
「お兄ちゃん!あの小汚い友だちといい、グレイの奴といい、家に通すんなら、わたしには迷惑かけないでよ。あの人たち、一階のほうまで響くくらい色々騒いだり、物音立てたりしてほんっとうるさいんだから!!」
「ああ。そういえばリジー、おまえ、グレイスとまた同じクラスになったんだろ?じゃあもうアリスもいないことだし、グレイスとはクラスメイトとして普通に接したらいいんじゃないか?」
「いやあよ、そんなの。それに、あの女のほうでもわたしとは仲良くなんかしたくないんじゃない?そこのところはお互いにそうだってことだもん」
「ふうん。俺はおまえとグレイスって、性格的に結構合うんじゃないかと思ってるんだかな」
「まっさか、ご冗談!!」
エリザベスとブランドンの間の会話というのは、大体がこんな感じのものでしたが、それでいてエリザベスは兄のことを尊敬していました。友だちはガラの悪い感じの友人が多いのですが、みんなからよく好かれていますし、なんとなく人をまとめるのも上手です。年が離れているせいもあるのでしょうが、他の家の男兄弟を見ていていると、かなりひどい悪戯をしてきたりということも多いのですが、エリザベスは兄に何か嫌なことをされたという記憶が今まで本当に一度もなかったからです。
この日、ブランドンは悪友たちの相手をする傍ら、携帯でまずはおじさんの家のほうに電話をしました。すると、おじさんのほうでも何かすっかり狼狽している様子で……ブランドンは自分の部屋を出て別の部屋へ行くと、おじさんの話をじっくり聞きました。
『さっき、セシリアさんからすっかり取り乱したような様子で電話が来とってな。で、わしのほうでもあの人と約束したことがあったもんじゃから、グレイスのことを追い返してしまったんじゃ。今、ワズワース夫妻もあちこち探しまわっとるそうなんじゃが、わしもこれからちょっとあの子を探しに行こうと思っておったところで……そいで、お宅のほうをグレイスが出たのは何時ごろか教えてもらえるかの?』
「ええ。本当についさっき……ええと……」
ブランドンは腕時計で時間を確かめようとしました。
「たぶん、四時四十分頃だったと思います。それで、今五時ですから、そんなに遠くへはまだ行ってないはずなんですよ。俺も、今からグレイスのことを探します。でも、それでグレイスのことが見つかったとして、連絡できる人がいないと困りますから、おじさんはそのまま家にいてください。今、うちにヒマそうな人員というか友だちがいるもんで、彼らにも協力してもらおうと思ってます。ええ、はい……それじゃ、またあとで必ず連絡します」
「お兄ちゃん、もしかしてあのクソ女のことでなんか電話してる!?」
階段下のほうでエリザベスの声がして、ブランドンは「ああ、そうだ」と大きな声で返事をしました。
「もしかして、うちにも何か連絡あったか?」
おそらく、ワズワース夫人がクラスメイトの女子に電話をしてきたのではないかと、ブランドンはそう思ったのです。
「うん。なんかあの女、家出したんだって?もしかしてさっき、それでうちに来たってわけ?」
「おまえ、それでなんて答えたんだ?」
「ついさっき、うちのお兄ちゃんに会いに来てたって言っておいた。んで、お兄ちゃんに折り返し電話させますねって言っておいたの。だからそーゆーことでよろしくね」
(やれやれ)と思いながら、ブランドンは一度階下へ下りていくことにしました。そして、エリザベスから五年B組のクラスメイトの住所や電話番号の書かれたリストを受け取ると、グレイスのところを指でなぞり、そして電話をかけ直しました。
『それで、グレイスはどこへ行くとか、何か言ってなかったでしょうか!?』
「いえ、ちょっと聞いてません。その……グレイスは十歳とは思えないくらいしっかりした子ですし、心配はないと思いますよ。ただ、俺はグレイスから『本当はおじさんと暮らしたい』という話を何度か聞いたことがありまして……あの子の性格から考えても、そうしてあげたほうがいいのではと思います。むしろ、実のパパとママであるワズワースさんたちとは、少し距離ができたほうが、お互いのためと言いますか。ええ、もちろんわかりますよ、それは。でもあの子は、実のお父さんとお母さんのことは実のお父さんとお母さんということで大切に思ってますし、むしろあの子の好きなようにさせてあげたほうが……そのことで両親への感謝がグレイスの中では増すはずです。俺が言っているのはそういう意味なんですよ」
セシリアはこの件についてはブランドンのことを言い負かさずにはおれないというくらいの勢いで、矢継ぎ早に何か話していましたが、ブランドンは彼女にみなまで言わせず、「とにかく俺は俺で、これからグレイスのことを探しにいきますので」とかなり強引に言ってから、ようやくのことで電話を切っていました。
(確かにこれは、グレイスも家を出たくなるわけだな。こうヒステリックに色々まくしたてられたんじゃ、取りつく島もないものな)
そうした中で、言いたいことの半分も言えない家族と暮らすより、なんでも話せるおじさんと一緒に住むことのほうをグレイスは選んだ……そういうことなのだろうとあらためてブランドンは思いました。
このあとブランドンは、リアムの兄をはじめとする悪友五人に声をかけ、「グレイスが家出した。探すのを手伝ってくれ」と言いました。ポールもスミスもケニーもトマスもブルースも、「なんで俺がそんなことを」とは言いませんでした。何故といって、ポールの弟のリアムがグレイスを「将来俺の嫁さんにするんだ!」と息巻いているのはみんな知っていましたから。
こうして、五学年になってから新しく担任になったロビンズ先生、副担任のホプキンス先生をはじめとして、マクグレイディ夫人が声をかけた近所の人々、ワズワース夫妻は言うまでもなく、ブランドンとその悪友たち……などなど、たくさんの人がグレイスの捜索に加わりました。
一方、おじさんはブランドンに「連絡するのに家にいてください」と言われたものの、気が気ではありませんでした。つい一時間ほど前、自分がグレイスに何を言ったかを思いだし、再び心がぐっさりと傷ついていたほどだったのです。
『おじさん、もしあたしが死んだら悲しい?』
おじさんは、この時実はグレイスがどこか追い詰められたような顔の表情をしていたのに、この時初めて気づきました。
(おお、グレイス……!!本当はそんなに追い詰められたような気持ちでいたとはな。もっと早くにわしがただ、『これからもここで一緒に暮らそう』と言ったらよかっただけじゃのに……わしは、わしは、なんということを……)
実際、おじさんはブランドンには「そのへんを探しにいかなくては……」といった話をしていましたが、この時、まるですっかり腰が抜けてしまったみたいに、ソファの傍らにぺったり座りこんだままでいました。ワズワース夫人から教えてもらった置き手紙の文面からいって、気の強いグレイスのことです、そちらへはもう戻るつもりはないのでしょう。となると、べスやメアリーといった友だちの家……ということがまず真っ先に考えられますが、そちらへはすでにワズワース夫人が電話していることでしょう。それで、おじさんのほうに連絡がないということは――きっとグレイスは、行き場をなくしてどこかを彷徨い歩いているか何かしているということなのです。
(しかも、今日外はこんなに寒いというのにな……わしは一体これまで、何をしとったんじゃろう。一体、あの子の何を見てきたというのじゃろう……)
おじさんがただ呆然として、後悔の念に苛まれておりますと、この約一時間後、まずマクグレイディ夫人がおじさんを訪ねてきました。今、時刻は六時でしたが、すでに陽のほうはとっぷりと暮れています。ジュディは頬を赤くし、白い息を吐いていました。
「ジョン、とうとう雪が降ってきたわ。近所の人たちには子どもの足で行けそうな範囲内の場所を順に探してもらったけど……本屋とかデパートとかホームセンターとかスーパーとか、色んなところに手分けして行ってもらったけど、今のところ探せてないわ。たぶん、あの子の性格からいって、そんなわかりやすいところにはいないと思うのよ。だから、みんなには一度帰ってもらったわ。何分、そろそろどこの家庭でも夕食の時間だものね」
「ありがとう、ジュディさん。あんたも、旦那と子どもの世話があるじゃろ?わしも、あの子がもし本気になったら、そう簡単にわしの見つかるところにはおらんような気がしておる。じゃから、一度家に戻っていてくれ。もし、ブランドンやワズワース夫妻から連絡があって何かわかったら、お宅のほうにはすぐ電話するでな」
ここでジュディは、これまで一度もおじさんにしたことがないことをしました。すなわち、すっかり途方に暮れきって、生きる気力もないといった様子のおじさんを、ぎゅっと抱きしめたのです。
「大丈夫よ、ジョン。あの子が困らせたかったのは大好きなジョンおじさんのことじゃなくて、ワズワース夫妻のほうだったでしょうからね。夏ならがんばって野宿とか、そういうことも考えられるでしょうけど……こう寒いんじゃ、さすがに根性のあるあの子も、そこいらをずっとほっつき歩いたりも出来ないでしょうしね。そしたら、きっとまたここへ戻ってくるわよ。あとはうちとか、とにかく友だちか知ってる人のところへ行くはずだわ。つらいでしょうけど、じっと待つのよ。わたしも、夕食の仕度なんかをしたら、またこっちへ戻ってくるから」
「すまんな、ジュディ。すっかり世話をかけて……」
おじさんはいつか、噂好きのこの隣人から、こんなにあたたかい気持ちにされようとは想像してもいなかっただけに――心からこの隣人の優しさに感謝の念を持ちました。
「いいのよ。こういうことはお互いさまですものね。うちのアホ三兄弟も、いつか何かのことで家出して、ジョンや他の近所の人たちの手を煩わせるかもしれないもの。じゃ、夕食を作ったら、あなたの分も持ってくるから、待っててちょうだい」
マクグレイディ夫人が出ていくのとほぼ同時に、ブランドンから連絡が入りました。ポールら悪友五人とジュディや近所の人たちが探していない、もう少し範囲を広げた場所を捜索してみましたが――たとえば、映画館やスケートボード場、夏に釣りをしにいく川の近くや公園など――ブレンダンはこの時、「もしかしてグレイスはサウスルイスへ行った可能性はありませんか?」とおじさんに聞いていました。
「そ、そうか。その手があったか。ありがとう、ブレンダン。ちょっと向こうの知り合いの牧師さんと連絡を取ってみることにするよ。それと、一緒に探してくれた友達にも、お礼を言っておいておくれ。また、一度うちに来てくれたら、いつでも美味しい食事をお礼させていいだくとも」
『ありがとうございます。賤しい奴らばっかりなんで、喜ぶと思います。ただ、グレイスがうちを出たのが四時前で、今六時十五分でしょう?俺、今ノースルイス駅にいるんですが、次にサウスルイスへ行く電車の発車時刻が七時十分なんですよ。でも、駅の構内にとりあえずグレイスの姿は見当たりませんし……もちろん、わからないですよ。何分駅構内は広いだけじゃなく、大きなデパートや専門店街や家電製品店や、色んな店に枝分かれするみたいに繋がってますからね。とりあえず、俺とポールとリアムは、サウスルイス行きの電車に乗るためにグレイスが姿を現さないかどうか、このままここにいて確認しようと思ってます。もしそちらでまた何かわかったら、俺の携帯に電話をください』
「そ、そうか。ありがとう、ブランドン。本当にありがとう」
『いえ、どういたしまして。それじゃまた……』
おじさんは、スティーブン牧師のいる牧師館の電話番号を探しましたが、けれどもすぐに電話はしませんでした。列車の時刻表を見てみますと、サウスルイス行きの電車は、七時十分に出る前の便は午後五時四十分です。もし、グレイスがブランドンの家を出てすぐタクシーか何かでノースルイス駅へ向かったとすれば、この電車に間に合うことは可能でしょう。ですが、それは可能性として低いように思われますし、もし七時十分発の電車に彼女が乗っていないようなら、別のところにいると考えたほうがよさそうです。そして、こうしたことでスティーブン牧師夫妻に今の段階で心配をかけるのもどうかと思い、おじさんは電話をかけるのは一旦控えるということにしたのでした。
「おお、グレイス……おまえ、一体今、どこにおるのじゃ?こんなことになるのなら、もっと前にワズワース夫妻にも強い態度にでていたら良かったのじゃろうなあ。わしの気が弱いばっかりに、グレイスにはつらい思いをさせてしまったのだろうな……じゃが、こうしたこともすべて、今ごろ後悔したところで、詮無いことだて」
おじさんはそのあとも、何か精神病の人が独語でも呟く時のように、ひとりでブツブツつぶやき続けていました。
「あの子は、わしの太陽じゃった。グレイスが来る前まで、わしは独りで暮らすことにすっかり満足しきっておったもんじゃが、それはわしが本当の人生というものを知らずにおったからじゃ。あの子は、こんなしなびた老人のことを「おじさん、おじさん」いうて、あんなに慕ってくれておったのになあ……それで、わしのほうではグレイスさえいてくれたら、他にはなんもいらんというくらい、あの子のことが愛しかった。もし、グレイスのことを失ったら、わしがそんなふうに誰かに感じることは、二度とはないじゃろう。わしは取り返しのつかないことをしたのだ。馬鹿だのう。ほんとに馬鹿者じゃ、わしは……」
このあと、少しの間沈黙が続きました。ややあって、やはりまたおじさんの独り言は続きました。心にとても大きな不安がある時、人は時に自分が何をしゃべっているのかさえわからなくなることがありますが、この時のおじさんもちょうどそうでした。
「あの子を失うということは、わしにとって、自分で自分の心か命を殺すにも等しいことだったというのに……じゃが、実のパパとママがおるのに、これ以上わしがあの子に一体何をしてやれる?今はまだ、あの子は小さすぎてわからないのだ。長い目で見た場合、わしとおるより、いずれワズワース夫妻と一緒にいたほうが――きっともっと幸せになれるチャンスが増えるだろうという、そうしたことがな……」
そしてここで、おじさんが人生に対する苦しみのすべてをこめたように、深く嘆息した時のことでした。ダイニングのアイランドテーブルのほうから、とても小さな声がしました。
「……おじさん、それは本当なの?」
おじさんが目を上げてそちらのほうを見ましても、誰の姿もありません。おじさんは一瞬、自分がグレイスに会いたいがために、幻聴が聞こえたのかと思ったほどでした。けれどもこの際、幻聴でもなんでも構わないと思い、おじさんは返事をしたのです。
「本当だとも。おまえがわしと暮らしたい、ワズワース家を出たいというたび、わしがどれほど苦しかったか……ただ一言、わしも同じ気持ちじゃと言えばよいところを、何度も突き放さねばならんかった。じゃがそれもまた、わしの昔からの習慣のようなものだったのかもしれん。今にして思えばな。わしには昔から、自分を幸せにするものを遠ざけて、あえて苦行を積もうとするところがあった。じゃが、わしはそうしておいたことを後悔したことはない。じゃから、今度の自分の判断もきっと正しいだろうと思ったのだ。だが、神さまがもしもう一度チャンスを与えてくださるのなら……グレイス、わしはなんでもおまえの望みどおりにしてやろう」
グレイスは、おじさんの言葉をはっきりとその耳で聞き、また心に刻みもしましたが、アイランドテーブルの向こうに隠れたまま、出てこようとはしませんでした。おじさんがこの時泣いていたように、グレイスもまた床に涙をこぼして泣いていました。(良かった)と思いました。おじさんにとって自分は余計な、いらない子というのではなく、グレイス自身がずっとそう感じ続けていたように、本当に必要な、大事な子だということがあらためてよくわかったからです。
(自分を幸せにする、太陽のような子……)
それに対して、グレイスのおじさんに対するイメージは、月のほうでしたが、でも前に一度、地球は月がないと大変なことになると、おじさんが話してくれたことがありましたので――それはどっちも同じ意味だとグレイスは思いました。
『あたしも、地球にとって月がなくてはならないくらい、おじさんのことが大好きよ……!』
グレイスはそう言おうとしましたが、やはり言えませんでした。でもそのかわり、アイランドテーブルの向こうからもぞもぞ姿を現すと、ソファの傍らにくず折れていたおじさんの元まで行き、ぎゅっと互いに固く抱きあいました。
実は、物事はこういうことだったのです。グレイスは、ブランドンと別れたあと、どうしたら良いかもわからず、ただなんとなくそこらへんを歩き続けていました。けれどもこの時、グレイスの心はブランドンに相談したことで、暗くて冷たい沼にいるような状態だったのが、明るくあたたかくなっていました。
ブランドンが家の門のところで話していたあの女性……ああした綺麗な女性のためになら、きっと誰でも相談にのってあげ、なんでもしてあげたいと思うことでしょう。けれどもブランドンは彼女のことを返してしまい、真面目に話なんて聞いてもしょうがないような子どものために、おそらくは一晩か二晩、つきあって一緒にいてくれようとしたのです。
そのブランドンの与えてくれた心の優しさ、あたたかさのようなものは、グレイスがずっとおじさんから感じ続けていたものでした。グレイスはそのことを思えば、もう大抵のことはなんでもないし、自分を傷つけることもできない……何かそんなふうに感じはじめていました。けれども、ワズワース家にはどうしても帰りたくありません。また、よしんばいずれ帰ることになるのだとしても――ああした置き手紙までしていったのに、すぐ帰ったというのでは、なんだか格好がつきません。
そこでグレイスは、いいことを思いつきました(正確には、自分ではいいことを思いついたと思いました)。おじさんの庭にはパパやママの思い出の品の詰まった、あの楽しい家型物置があります。あそこなら、グレイスが足を伸ばして眠れるくらいのスペースがありますから、とりあえず今夜はそこで過ごそうと思ったのです。
けれども、夏ならともかく今は冬です。グレイスはなんにしてもまずは毛布が必要だと思い、ホームセンターまで買いに行きました。そして、毛布を一枚買うにも、結構いい値段がすることに驚き……また、そのお金もワズワース夫人、つまりはパパであるオリバーが働いて稼いだものをセシリアが与えてくれたものであることを思い、グレイスは自分の両親にとても深く感謝しました。
そしてその後、家型物置の中で毛布にくるまったまま、グレイスはこれからのことを色々と考えました。パパとママは一緒にいて窮屈ではあるけれども、あらためていい人たちだと思いましたし、またああした善良な人たちを神さまが自分に両親として与えてくれたことにも感謝しました。このことの裏には、つい最近見た実の父母であるのに、自分の子供につらくあたるドキュメンタリーを見た影響もあったかもしれませんが、グレイスは自分を育ててくれた大切なパパとママの他に、あんなに素晴らしい両親までいることを、本当に心から感謝していたのです。
もちろん、感謝はしているのに一緒に暮らしたくはない……というのは大きな矛盾ですが、このような矛盾についてぐるぐる何度も十歳の子どもが繰り返し考えなくてはならないというのは、とても大変なことだったでしょう。グレイスはこの時、そんなことを色々考えながら、最後には育ての父母であるジャックパパやレイチェルママとの間にあったたくさんの思い出に包まれながら、一度短い眠りに落ちていたのです。
灯台下暗しというのは、おそらくこうしたことを言うのでしょう。グレイスが呑気に寝ている間、おじさんもワズワース夫妻も絶望の底にまで突き落とされ、あちこちに電話したり、マクグレイディ夫人が陣頭指揮をとって即席の捜索隊が組まれたといったことも、当の本人はまったく何も知らなかったのですから。
けれども、次に目が覚めた時、グレイスはあたりが真っ暗で、何か得体の知れない不安に襲われました。もちろん、窓のほうを見れば街灯のあかりもありますし、ご近所さんの家々から洩れる明るい光もあります。グレイスはこの時、そうした家々の窓の明かりと自分の孤独な心があまりに相容れないものである気がして――なんだかとても寂しい、心細いような気持ちになって落ち込みました。
また、くるりと視線を変えておじさんの家のほうに目を戻してみますと、そこからはとてもあたたかい、他の家よりも明るくさえ思われる、橙色の光が洩れてきています。
(あたしも、前まではあのあたたかい光の中にいるのが当たり前だったのにねえ!)
グレイスは、その光の中から弾き飛ばされてみて初めて、その光の中にいるのが当たり前であることのありがたみに気づいていたかもしれません。そして、そんなことに気づいてしまう子どもは可愛そうだと思うでもなく、まるで蛾が光に引き寄せられるように、そちらへ近づいていきました。もう一度おじさんに、「ここへ置いてほしい」と頼むつもりはグレイスにはありませんでした。ただ、お腹もすきましたし、こっそりと忍び入り、パンなどをちょっともらおうと思っていたのです。その際に見つかってしまったらどうしようということは、グレイスはあまり勘定に入れませんでした。おじさんは最近少し耳が遠くなってきたということで、テレビを見る時には音量を大きめにしているくらいでしたから、ちょっとのことでは自分に気づかないだろうという自信があったのです。
けれども、グレイスはまさか、こんな短い時間の間に自分が行方不明ということになっており、近所の人々までが探しまわっているとは思いもしませんでした。実際、マクグレイディ夫人がやって来た時には、グレイスは焦りました。おじさんはともかく、マクグレイディ夫人という人は何かにつけ勘の鋭い人ですし、キッチンのほうへもしやって来られた場合には即アウトだと思い……グレイスは胸がドキドキしたものです。
そして、マクグレイディ夫人がおじさんのことを抱きしめていなくなってしまうと、グレイスはこう思いました。そんなにもたくさんの人に迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思っていましたし、何より、夕食の仕度をしたらまたマクグレイディ夫人はこちらへ戻ってくると言います。姿を現してすべて本当のことを話すのは、今しかないと思いました。けれども、おじさんにとって自分はもう、以前ほど必要な子ではなくなってしまったのだろうということ……それどころか、一度離れてみるとせいせいするところさえあると、おじさんの中ではそういうことになっているのだろうとグレイスは信じこんでいましたから、それでなかなか勇気が出なかったのです。
そしてそんな時に、おじさんがブツブツと夢遊病患者か何かのようにつぶやく声が聞こえてきたのでした。グレイスは今度はすっかり勇気がでたものの、喜びのあまり涙がこぼれ、今度はなかなか立ち上がることが出来なかったのです。
――こうして、マクグレイディ夫人がホワイトシチューを持ってきた時、おじさんは自分の命より大切な姪と抱きあっていたのですが、詮索好きなマクグレイディ夫人には珍しく、彼女はシチューだけを置いてすぐに姿を消しました。「近所の人たちみんなには、グレイスが見つかったって知らせておくわね」と、そう言い残して……。
このあとおじさんは、ワズワース夫妻はもちろんのこと、ブレンダンにも電話しなくてはなりませんでしたし、色々と慌しく過ごしていました。けれどもあんまり幸福に心が輝いていましたので、何もかもが嬉しく感じられていたかもしれません。セシリア夫人のくどくどしい物言いにも容易に耐えられましたし、何より、「ここでもう一度グレイスと一緒に暮らす」ということが決まってしまうと、おじさんの心は今度は巌のようにまったく揺るぐということがありませんでした。
そして、会話の最中にセシリアがヒステリックに泣きはじめると、拉致があかないと思ったのでしょう、ワズワース氏が電話に出て、「グレイスにとっては、あなたと暮らすことのほうが幸せなのでしょう。そして今は、私もそれでいいと思っています」と言いました。そのあと、オリバーはおじさんにグレイスと電話をかわってもらうと、「パパがおまえを愛する気持ちに変わりはないよ」と優しく言いました。グレイスは「あたしもよ、パパ」と答えました。「ママにも愛してるって言っておいて。それと、心配かけてごめんなさいって」
次に、おじさんがブレンダンに電話をかけると、グレイスは最後に一度電話を代わってもらいました。そして、彼にも「ありがとう、ブレンダン。ブレンダンがああ言ってくれたからあたし、もう一度おじさんの家へ来る気になれたの」と、感謝の気持ちを伝えたのです。
――この翌日からは、すべてが元通りでした。いえ、元通りというよりも、グレイスもおじさんも、以前ここで一緒に暮らしていた頃より、もっと幸せで、一緒に暮らせることをもう当たり前とすら思っていませんでした。
仲のいい子何人かとグループでまとまっているとはいえ、学校などという場所で集団行動を取っていると何やかや色々あるものです。グレイスはそうした女子同士のあれやこれやにその後も辟易することはありましたが、おじさんの愛を支えに大抵のことは乗り越えることが出来ましたし、友達さえいれば学校は楽しいところだと思ってもいました。
ベアトリスとメアリーとは、クラスが変わってからも仲良しでしたし、リアムとも時々スケートボードをしに行きますし、ブレンダンとは彼が帰省中に必ず釣りへ行きます。そういう時、グレイスは学校のことなんかを話し、ブレンダンは陸軍士官学校で自分がどんな授業を受けているかとか、寮の仲間のことなどを面白おかしく話してくれます。
グレイスはもう一度おじさんと暮らしはじめるようになってから、毎日の生活に喜びが戻ってきましたし、それはおじさんにしてもまったく同じでした。ただ、前にふたりで暮らしていた時と違うのは、例のパン屋さんを開業して以来、誰かしら人がよくやって来るようになったということで……でも、こうした人たちみんなが自分がいなくなったと知った時、ほうぼうを探してくれたのですし、そのことを思うとグレイスは大体のことを我慢できました。また、それはおじさんのほうでも同じだったようです。
「まあ、本当にもう煩わしくてしゃあないとなったら、引っ越しでもするしかないなあ」
おじさんは、そんな気はまるでないのに、よく嬉しそうにそう言います。手許では近所の人たちをもてなすためのパンの生地をこねながら。
「そうね、おじさん!」と、グレイスもまた、いつも同じことを言います。「でも、マクグレイディ夫人のような面白い人ってちょっといないし、ここのご近所さんも、とてもいい人ばかりですもの。引っ越すだなんて、まだちょっともったいないわ」
と……。
終わり
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