こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア-第二部【6】-

2024年07月15日 | 惑星シェイクスピア。

(※映画「フォール」に関して決定的なネタバレ☆があります。これから視聴予定のある方は閲覧しないことをお薦めするものでありますm(_ _)m)

 

「フォール」という映画を見ました♪

 

 何やら「え?おまえ、久しぶりに前文に結構文字数使えるってのに、そんなくだらん映画の話すんの?」という話のような気もしますが、それはそれとして(^^;)

 

 でも、時々こーやって「どうでもいい話」をするのが、どうやらわたしにとっては一番のストレス解消になるらしい……ということで、ここからフォールについてのネタバレ☆全開となりますm(_ _)m

 

 >>山でのフリークライミングの最中に夫・ダンを落下事故で亡くしたベッキーは、悲しみから抜け出せず1年が経とうとしていた。ある日、ベッキーを立ち直らせようと親友のハンターが新たにクライミングの計画を立てる。今は使われていない地上600mのモンスター級のテレビ塔をターゲットとして選んだ彼女たちは、老朽化で足場が不安定になった梯子を登り続け、なんとか頂上へと到達することに成功するのだが……。

 

 いやあ~、この映画、タイトル「FALL」じゃなくて「FOOL」じゃないのってくらい、基本的に登場人物にバカしか出てこないのですよ(いえ、「バカとなんとかは高いところが好き」って、マジでほんとだったんだね……って体現してるような映画です・笑)。

 

 唯一バカじゃないのは、主人公ベッキーのパパくらいなもので、残りの主要登場人物二人or三人はおバカさん。今までの人生で「バーカ、バーカ、このバーカ♪」なんて、誰にも言ったことのないこのわたしが、「バーカ、バーカ、このバーカ♪」と連呼しても、なんの良心の呵責も覚えないほどのバカっぷり。。。

 

 いえ、そこまでつけ抜ききったバカが三人でてくるコメディとかだったら、「抱腹絶倒の傑作」になるという可能性もありうる。でも、バカが三人でてきて、バカだったがゆえにふたり死に、残りひとりが生き残るという、そんなホラーサイコな映画と思う(^^;)

 

 まあ、某さんに薦められて見ることにしたのですが、その方曰く「もう怖くって、怖くって……とにかく怖いから見てみて!!」ということだったのです。「ふたりの親友同士の女の子が、高いところに上って下りられなくなるって話なんだけど……」という説明を聞いていて、めっちゃ怖がってた&他の人はそんな彼女に冷めた意見しか述べなかった――という空気感がすごくあったので、それで(事実確認のために・笑)見ようと思ったというか

 

 もっとも今の時代、同じひとつの映画やアニメ見て他の方がどう思ったか知りたければいくらでもネットで閲覧が可能とは思うものの――わたし個人の感想&意見としては、出てくる親友同士ふたりの女とひとりの男はバカだが、映画作った制作陣さまは決して馬鹿ではない……というものです(^^;)

 

 というか、見てるこっちが「そんな高いところ上っちゃってバッカじゃないの~!!」とか、「それで下りられないって、ますますバカじゃないの~!!」と感じることなぞ、制作された方々は当然わかっておいでのことと思います。また、そこまでの恐怖と不安の極限が描かれているにも関わらず、最後に語られる「人生は儚い……」云々とかいう悟ったような語りも哲学ゼロで薄っぺらい。そう――見てるこちらがそう思うことなんぞ、映画製作陣さまは当然ご存知承知の上、この「バッカじゃないの~!!」という恐怖のために作られた映画ってことなんじゃないでしょうか。つか、知らんけど(笑)。

 

 そこまで緻密に計算されてるっていう意味で、映画製作陣さまの勝利と思うし、ゆえにわたしが「バッカじゃないの~♪」と連呼してるのはある意味ホメコトバなのです(^^;)

 

 ただほんと、わたし他の方の感想とか一切読んでない状態でここ書いてるんですけど……最初に、主人公ベッキーとその旦那のダンと親友ハンターと三人で岩山みたいなとこ上ってるわけですが、三人とも危険な岩場を上ってる割に、めっちゃ軽装ですよね?んで、この時ダンが足滑らしたかなんかして墜落して死ぬ。ザイルってえか、何かそんなもんで互いに繋がってたらしいけど、なんかまずいことになって結局死ぬ

 

 まあ、思いますよね。「バッカじゃねえの、こいつら。んな軽装でそんな危険な岩場に挑んでんじゃねえよ」と思うし、命綱って言ったって、なんかあんましそこらへんの経験&知識っぽいものがあるプロって感じの三人というわけでもない。そこで、「なんか危険な岩場上ってたら男がひとり死んじゃった~。アハッ☆」とでもいうような、あくまでも軽いノリ。。。

 

 でもまあ、ベッキーはダンと結婚してて、心から愛してたらしく、その後暫く落ち込む。父親が「落ち込むのはわかるけどそんなオマエが悲しむほど大した男でもなかったじゃん☆」(※注:意訳)と慰めてくれても、彼女は父親の心配の言葉を一切受けつけない。

 

 そしてここに、おバカな親友ハンターが再び現れ、またしても六百メートルあるとかいう鉄塔に上るとか言いだす。「やめろっての。アホじゃねえの~」と見てるこっちは思いますが、とにかく説得されて上る。ダンの死を克服するためとかなんとか、色々言われるベッキーですが、この周囲にほとんど何もない鉄塔を登りきったまではいいものの――ここから今度は下りられなくなる(※ちなみに、エッフェル塔の高さが約三百メートル。ついでにスカイツリーが634メートルだぞっと・笑)。

 

「旦那の死を乗り越えるとか乗り越えないとか、マジくだらねえっ!!」、「つか、こんな一部始終をスマホで撮影してアップしてイイネ!!のためだけにここまでするって、おめーらマジでバッカじゃねえの~!!」としか思えませぬが、とにかくここまでやって来ちまったもんはしょうがねえ。今さらあれこれ文句言ったってしゃあない。鉄梯子が途中でぶっ壊れて下りらんなくなったけど、とにかく最大限努力しよう!!……といった中で判明する、死んだ旦那ダンと親友ハンターの浮気事件(てか、「♪彼女はオレのチェリーパイ~、とろけるサプライズ~」ってマジでアホか!!笑)

 

 実際のとこ、このことをベッキーがどう思い感じたか、正確なところまではわかりません。最初の岩場のシーンのところ、あそこで横恋慕ハンターが実は相当アッタマに来てて、ダンをうまく殺害したということが最後にわかるとかだったら……ちょっとは良かったかもしれません。でもまあ、そうした完全犯罪が思いつくほど頭よかったら、ハンターはおっぱい大きく見えるブラつけて、こんな六百メートルあるテレビ塔になぞ上っていないということなのでしょう。。。

 

 見てるわたし的には、死んだ旦那と大親友の浮気がわかったとて、六百メートルの鉄塔の上では「今それどこじゃねえわッ!!」という感じで、ショックやらなんやら、そんな感情はもう極めて薄くなってるみたいな、そんな状態だったんじゃないかと思われ……んで、最終的にどうなったかと言えば、主人公のベッキーだけが生き残る。

 

 そんな親友の恋人奪うような女は死んで当然ということもなく、彼女はその罪悪感ということもあってか、鉄塔のてっぺんの一段階下あたりの場所(というかアンテナ)に落ちたリュックを拾い上げるため、かなりのところ無理をしてしまい――実際には鉄塔に上った翌日には死んでいた。でも、映画のほうではハンターはずっと生きている。何故かというと、自分の心をそんなショックから守るため、イマジナリーフレンドではないけれど、何やらそれに近い形でハンターはベッキーの隣に居続け、ふたりで「ああしたら、こうしたら……」と相談し続けていた。そのことが割と映画の終わりのほうでわかりますが、映画の作りとしてはわかってしまえば「ありがち☆」でも、自分的には「よく出来てる」と感じたり。。。

 

 スマートフォンの充電が切れる前になんとかSOSを発信すべく投稿作戦とか(鉄塔のてっぺんは電波が通じない)、「え?そんなんでほんと、投稿されるってマジで思ってる?」と思いましたが、ここへやって来る途中にいたハゲワシがまわりをうろつきだしたり、嵐が近づいてきたり、苦労して取り戻したリュックの中のドローンで救いを求めようとするものの、宿泊したモーテルの手前でトレーラーが通りかかってグワシャッ!!(木っ端みじん☆)……まあ、見てる側としては、確かにドローンによって手紙が誰かに渡り、人が助けに来るっていうのでは、終わり方としてつまらなすぎるとは思ったものの――すでに持ってきたペットボトルの水もなくなり、食事らしい食事もしてないことから、この状態では全盛期の千代の富士でなくとも「体力の限界!!」となるはずなわけで……ベッキーはハゲワシをぐわしっ!!と力強く摑むとあろうことかブッ殺し、そのお肉と血をムシャムシャゴクリ☆――「ああ、美味しい。ハゲワシはやっぱり生に限るわね」とベッキーが思ったとは思わないものの、とにかくこれで体力を回復させたベッキーは、苦労しつつ鉄塔を下りてゆきます。

 

 そして、最終的にかなり危険な方法で充電させたスマートフォンを「大好きだよ」と言いながらハンターの死体内部へ突っ込み落下させる――これにてSOSの発信は完了その投稿を見たのであろう人が呼んだ救援部隊&パパが迎えに来てくれるという……最後、「人生は儚くて短いから、一瞬一瞬をかみしめて生きよう」だかなんだか、これだけの経験をしたにも関わらず、ものっそ薄っペラいモノローグによって映画のほうは幕を閉じます。。。

 

 いや~、やったらオモろいバカ映画だったと思います♪こんなバカ映画を今後ともわしは誰か人に薦めるかって?ええ、ススメますとも。なんでって、見たあとに「あいつらマジでバカじゃね?」とか、「食うなよ、ハゲワシ~!!」とか、「ハンターが実はすでに死んでたとこ!!あそこが一番怖かった!!」などなど、バカ映画と呼ばれるものはある部分親しみをこめて「バカ映画」と呼ばれたりするわけで、わたし自身はそうした意味でも映画製作陣さまはこの時点で完璧大勝利を収めておられると思うわけです

 

 一時間四十分という時間がわたしにはあっという間に過ぎるように感じられたし、「え~、それで一体どうなるの~」というところでもドキドキしたし、とにかくバカっぽさ含めて高く評価します。でも、何故バカバカ連呼してるかというと、「あの映画をそんなマジメに論評すんなよ~」、「ただのバカ映画じゃんかよ~」みたいに周囲の人に某さんが言われる姿を先に見ていたことから……「ああ、そっか。マジメに「怖かったよね~」とか言ったりすると、「ただのバカ映画じゃんかよ~」という反応が返ってくるんだな」と先に学習してしていたそのせいです(^^;)

 

 でもわたしは本当に面白かったなって、ただ単純にそう思います。何故って、他でもないこのわたし自身もバカだから~♪

 

 それではまた~!!

 

 ↓ジェットコースターに乗って「怖いけど、このゾクゾクする感じが好き」系の方は、見ても平気or「つか、こいつらバカじゃねえの~ッ!!」と言って笑えるくらいですらあると思う。でも、高所恐怖症系の方は「わ~!!もう無理ッ!!絶対ヤメテっ!!」みたいになるかもしれないので、そこが感想の違いの分かれ目なのかな、という気がします(^^;)

 

 

 

       惑星シェイクスピア-第二部【6】-

 

「ハハハッ!レイラお嬢さんの目が見えないってことに、三年以上も気づかねえって……そんなもんリッカルロ、気づかねえおめえのほうがどうかしてるってことなんじゃねえの?」

 

(これが笑わずにいられるか)とばかり、遠慮なくマキューシオが笑うのを見て、リッカルロは憮然とした。ティボルトが気遣い、彼も親友と一緒になって大笑いしたいにも関わらず、必死に堪えている。

 

「おまえ、もしかして知ってたのか?」

 

 隣の親友のことをジロリと睨んで、リッカルロは言った。

 

「だが、俺には黙っていたんだな?もちろん、マキューシオ、おまえがあのマルテというおかみの経営する娼館の上客だということくらいは俺も知ってるさ。そこで、『いい娘がいる』と俺に紹介したのもおまえだな?もちろん、俺はレイラのことではおまえに感謝している。それも心から……だが、それとこれとは話が別だ。もしおまえがあのおかみに入れ知恵して、『目の見えない演技を上手くできそうな可愛い娘を紹介して欲しい』とか、そんなふうに依頼していたのだとしたら……」

 

「そりゃ流石に考えすぎだよォ、リッカルロくん」

 

 マキューシオはいつも通り、悪びれるでもなく、親友の肩に腕を回してもみもみしながら言った。場所は、レガイラ城の建つリガンティン岩の麓、エスカラス公爵家が主都に持つ別邸でのことだった。彼ら三人はここのところ、時間さえあれば三人で集まり、近く迫った戦争の軍事会議を重ねている。

 

「オレは確かに、おまえと合いそうな感じのする娘を紹介してくんねえかなとは、あのおかみに頼んだよ。だが、それだけさ。流石にオレも『目の見えない演技の出来ることが望ましい』とまでは注文つけたりしなかったぜ。だってそうだろ?そんな嘘をつけとあとからバレたら、オレとおまえの間のふっかぁ~い友情にヒビが入るかもしれないものな。女ひとりのために、オレにも流石にそこまでの博打は打てんからな」

 

「そうだよ」と、ティボルトも頷く。「それに、僕は前に何度か会ったことがあるって程度だけど……『目が見えないだなんてほんとかな』というくらいの疑いは持ったからね。ま、なんにしても人の思い込みというのは恐ろしいものさ。それが仮に恋じゃなかったとしても、人の噂話なんてその最たるものだろ?『あの人は一見そう見えないのだが、実は△□という噂がある』なんて最初に聞かされていたらば、もうすっかりそういう色眼鏡で相手のことを見ちまうんだな。リッカルロ、おまえの経験したのもつまりはそういう範疇の話だってことなんじゃないのか?」

 

「いや、断じて違う!!」ワインをなみなみと注いだ銀のゴブレットをドン!とテーブルに置き、リッカルロは断言した。「第一、俺はレイラの目が見えないと噂で聞いていてそう思い込んでいたというわけじゃないんだからな。彼女が目が見えないと聞いたもので、目が見えなくても少しくらいは楽しめるものをと思って色々贈り物だってしたし、レイラのほうでも、『自分のように取るに足りぬ目の見えない娘のために』と言って、よく涙を流して感謝していたものだった。だが、そうしたことすべてが実は演技だったというんだぞっ。これから俺は一体、純粋無垢とばかり信じてきたそんな女とどんなふうにつきあっていけばいいと言うんだ?ええ!?」

 

 三人はこの時、少し早めの夕食を取っているところだった。豚ロース肉のカツレツ、仔羊肉のバター蒸し焼き、鶏肉の香草焼き、レバー団子入りコンソメスープ、パルメザンチーズのラヴィオリなどなど……味のほうはどれも、申し分なく美味しかった。

 

「まあ、そう言うなよ」と、マキューシオが真顔に戻って言う。「これはあくまでオレ個人の意見といったところなんだがな……あのレイラ姫とリッカルロ、おまえとあの娘がつきあいはじめてラブラブはっぴっぴな関係というのになって、すでに三年余といったところなわけだ。ようするにな、レイラお嬢さんがずっと嘘ついてただのなんだの、そんなことはすでにもう関係ねえのさ。そろそろ恋愛の賞味期限が切れかかってきたなってところへ持ってきて、そんな嘘が露見したもんで、おまえは戸惑ってるんだ。いいか、よく考えろよ。普通の男女ならな、三年かそれ以上もいい仲でいたら、いずれは結婚するかどうかってことを考えにゃならん頃合ってことになる……女のほうでは三年以上もつきあったとなったらすっかりその気、ところが男のほうではな、『三年かあ~。オレ、そろそろもう別の子に目移りしてきちゃったなあ。そういやあいつのほうでもすっかり油断して、最近じゃめっきりオシャレに気を使うってこともなくなってきたしよォ』なんて具合で浮気心を起こすものなんだな。だからさ、リッカルロ、おまえは実は誠実なお優しい男を気取っていながら、実は無意識下じゃそんなことを企んでやがるんじゃねえの?何分、相手は三年もの長きに渡って囲った愛人だ。それを捨てるとなったらどんな男でも流石に良心が痛むってもんよ。が、ここで都合よく相手がとんでもねえ嘘つき女であることがわかった。こりゃ渡りに舟ってえくれえの丁度いい口実だぜえ。何分、向こうさんが悪いんだから、リッカルロ、おまえのほうじゃ少しの良心の呵責も覚えず、あの純粋無垢な娘っこを捨てられるってもんだ」

 

「違う!!言い方が少し悪かったかもしれんがな、問題はたぶんレイラにあるんじゃないんだ。俺はな、最初は確かに腹が立ったし怒りもした。だが、その後すぐ気づいたんだ。自分が何にそんなに怒りを覚え、恥かしいと感じているかといえば……それは、自分自身に対してなんだ。俺はレイラがてっきり目が見えないと思ってたもんで、なんか色々恥かしいことをあの娘の前でしてきた気がする。つまりはな、そうした自分の過去の行動のあれこれについてが思いだされるたび、頭にカーッと血が上ってしょうがない。そのせいで俺は、レイラのついた嘘にだけ純粋に怒りを燃やしているという振りをして、暫くあの娘に会わなかった。いや、正確に言えば会えなかったんだ。ところがだな、レイラの屋敷の侍女たちがかわるがわる俺に会いに来て、『レイラさまは食事も喉を通らずみるみるお痩せに』だのなんだの色々言って帰ったものだから……そろそろ一度会いに行こうと思って、レイラの屋敷まで行った。それで、その時に気づいたんだよ。恋愛の魔法みたいなものがすっかり消えてしまったらしいってことに。けど、それは決してレイラのせいなんかじゃないんだ。あの娘は俺にとって、目の見えない、自分が一生守ってやらなきゃならないか弱い存在だった。ところがだな、目が見えるということになるとどうなる?今度は俺のほうがあれこれあの娘に気を遣わねばならん。ついでに、レイラの目が見えないと思ってきた間に色々してきた愚行のこともある……とにかく、あの娘に会っても以前と違って全然気が休まらないんだ。逆に、今まで一度も考えなかったようなことを色々考える。『この娘はこの俺の醜い顔を前にして、ずっと本当はどんなことを思ってきたんだろう?』なんていうことをな」

 

 今度はマキューシオではなく、ティボルトが思いきり大声で笑う番だった。彼は牛肉の赤ワイン煮に舌鼓を打っているところだったが、一時的に食事を中断した。

 

「そっ、それはさ、ようするに……」ゴクリと、肉の小さな塊が喉を通過するのを待ち、ティボルトは続けた。「心からお互いに愛しあってるってことじゃないか。なんだ、心配して損したよ。というより、そんなのは僕にしてみればくだらんノロケ話みたいなもんだ。いいか、よく考えろよ、リッカルロ。レイラ姫はな、ある時何故か突然目が見えなくなったのが、今度はそれと同じく突然見えるようになって、自分の愛する男がどんな容貌をしているかがわかり、態度が百八十度変わったというわけじゃないんだぞ。まあ、おまえの言いたいことはわかる。うちはたかが伯爵家だが、公爵家ということにでもなれば、無駄におべんちゃらを振るうおべっか使いが周囲を取り巻くようになるだろう。何故かといえは、公爵さまの鶴の一声で、十年も争ってきた土地や財産権に関する裁判がすぐにも決着するからだし、公爵さまの邸宅に出入りする商家ということになれば、その家の商売は公爵さまの保証が付いてでもいるようにみなされ、繁盛する……とにかく、なんでもそういったような具合なわけだ。ゆえに、マキューシオのエスカラス家にも、嫁がせたいという娘であれば軽く五百キロメートルは行列が出来るというわけだな。こんなチンピラ野郎が相手でも、だ……」

 

 ここで、マキューシオが「うるせえっ!」と口の端からは泡、ナイフの端から肉汁を飛ばしたが、ティボルトのほうではいつもの如く意にも介さない。

 

「その点リッカルロ、おまえは第一王子だから、そうした意味でも顔なぞまったく問題でない。女の一生はどれも同じで、金と地位のない男と結婚してしまえば、大体のところそれが限界線となる……それよりも、娘が一度国の世継ぎと結婚すれば、その一族には一生の安泰が約束されたも同然ということになるわけだ。だが、おまえはそんな結婚なぞ嫌だという。心から愛しあう女と結婚したいだのいうロマンチックな理由からではなく、清らかな犠牲心から、わたしはあなたの口裂け具合を我慢して差し上げます……なんていう女とは、三秒たりと一緒にいたくないといったような理由からな。そうふてくされたような顔をするな、リッカルロ。これはその昔、学生時代におまえが言ってたことなんだぞ。僕はよく覚えてる……それで、やはりおまえはラッキーだったんだ。娼館に売られてきたとはいえ、まだ男の手垢のついてない女と心から愛しあう関係となり、その後もこの愛が永遠に続くかというくらいの間柄なんだからな。目が見えないと嘘をついていたくらいなんだというんだ。大抵のそこいらのカップルというものは、お互いの間に嘘があっても、そもそもそんなことすら織り込み済みで婚約したり、結婚したりするものなんだぞ。僕とジュリエッタを見てみろ。あの娘は僕のことを頭のいい従兄弟の兄ちゃんとしか思ってないが、婚約自体にはなんの疑問も持ってない。もっと他の男と結婚する自由が自分にはあるのじゃないかしら……と考えることすらないのだろう。お互いの家の資産が散逸せず、むしろ逆に財産が増し加わるためには、一族の繁栄のためにはそれが最上だとわかっているからさ」

 

「まあ、ジュリエッタは幸福だろうよ」と、マキューシオは肩を竦めて言った。彼女は『頭のいい従兄弟の兄ちゃん』をほとんど崇拝するにも等しく愛しているのだから。「そういや、レイラ姫とジュリエッタは友達として仲良くなれそうな気がするな。お互い、人間というものはみな根が善良で、自分が明るく生きていれば世界も明るくなり、暗い心の持ち主をも陽気にすることが出来るとでもいうような箱入り娘だっていう意味で、性格が似通ってるものな。それはさておき、リッカルロよ。確かにティボルトの言うとおりだ。レイラの目が見えなかったのが、突然何かの奇跡によって見えるようになり、彼女は自分の愛する男の醜い容貌を知り、心から幻滅して離れていったなんてんじゃなく……かといって、この男の愛人になることさえ出来れば娼館で身をひさぐような生活ともオサラバだ、なんていうことで必死におまえのことを誘惑して結ばれたというわけでもないんだ。問題はな、あの娘が嘘をついていたかいなかったかじゃないぞ。結局のところ男女の仲なんてのは、関係が長くなればなるほど、いつかは必ず何かの壁にぶつかるもんだ。うまくいってる夫婦やカップルってのは、それを乗り越えて一緒にいるか、あるいはそんなことにも関係なく一緒にいざるをえないかのどっちかなんだろうな。何より俺が結婚に踏み切れない理由がそれさ。世継ぎとして男児がふたりか三人でも生まれれば、もうお役ご免とばかり、よそに愛人を作るという自分の将来の姿がよおおっく透けて見えるもんでね」

 

「…………………」

 

 リッカルロは黙り込んだ。極めて不本意ではあったが、親友ふたりに相談して良かったと思った。ふたりとも、そんな騙し討ちを食らわせてきた女とは別れるべきだとは言わなかった。それはおそらく、レイラ=ハクスレイの人柄を知っているそのせいだろう。彼はここまで彼らの話を聞いて、問題はやはり、単に自分の自尊心やコンプレックス、恥の問題なのだろうと感じた。何より、やり手婆から色々入れ知恵され、『あの口裂け王子の顔の醜ささえ我慢すれば、財産やら宝石やら、そんなもののすべてがおまえの自由になるのだよ』と、レイラはそんなことが目的で自分と一緒にいるわけではない。あの娘が度を越したほど善良で純粋だったから、彼女は容貌がどうのといったことすら越え、自分のことを愛することが出来たのだろう……そのことだけは唯一、リッカルロにしても心から信用出来ることだったのだから。

 

「だが、俺はもう……愛してはいても、レイラとは元の関係には戻れない。それが俺にとって何より大きな問題となることなんだ。目が見えていないと三年も思いこまされていたのが、今はもう目がはっきり見えるとわかってるんだぞ!自分はこの気の毒な醜い男が、やたら己の容貌のことを神経質に気にするので、今の今まで善良で優しい気持ちから気を遣ってやってきたのだ……でももう三年も経ったらそんなことどうだっていいでしょう、なんて言われたも同然なんだからな、この俺はっ。なんというかこう……レイラと目と目が合っただけで、何かこう堪らないんだ。前までは彼女の目が見えていないと思えばこそ、俺もレイラの瞳をじっと見つめることが出来た。だが、これからは違うっ!言ってみれば、立場が突然逆転したようなものだ。今までは俺のほうが地位や資産のようなものがあり、立場としてはおかしな話、俺のほうが上というか優位というか、何かそんな感じだった。でもこれからは違うんだぞっ。あの娘は地位も財産的なものも何もないかもしれん。だが、それでいて目の見える若く美しい娘だというそれだけで――俺を残酷なまでに傷つけ、跪かせることが出来る。実際のところ、俺にとって大変なことなんだ、これはっ!!」

 

 マキューシオもティボルトも、リッカルロの言い分の重要な部分については今の発言で大体理解した。だが、彼らはやはり杯を片手に乾杯し、笑うことまではしなかったものの、お互いに目顔だけで会話を終えていた。すなわち、その意味するところはこうである。(この幸せ者め!)という、そうしたことだ。

 

「ものは考えようだよ、リッカルロ」と、ティボルトが慰める。「今まではレイラお嬢さんの目が見えないと思ってきたから、ふたりで出来ることにも限界があったかもしれない。たとえば、夏にどこか避暑地へ出かけてボートに一緒に乗っても、この美しい景色を彼女は見ることが出来ないんだだの、これからはもうそんなことは考えなくていいんだ。今後はふたりで乗馬したり、庭園では同じものを見て花が美しいだなんだ、話せることだって増える。そういうことのほうがむしろ大切で、喜ばしいことなんじゃないかな。もちろん、今は何かと色々複雑だというおまえの気持ちもわかるし、怒りが収まらないとかそういうことなら……怒りが収まるまで待つなり、時間と距離を置くしかないかもしれない。それでまあ、おまえがもし、そういうことならもう最初から目の見えている他の女とでもつきあおうということなら、それはそれでいいんじゃないか?だって、おまえはこの広大な公爵領の領主というだけじゃなく、この国の世継ぎでもあるんだから、そんな形で愛人のひとりやふたり……いや、五人や六人愛人を囲ったところで、一体なんの悪いところがあるというんだ?」

 

 ここで、マキューシオがぷっと吹きだすようにして笑った。

 

「ティボルト、まさかお堅いおまえの口からそんな言葉を聞ける日がやって来るとはな。なんにしても、この世界にはあのレイラという娘しか女がいないというわけじゃあるまいし、もっと広い大海に目を向けるというのもひとつの手ではあるぞ……が、オレはあのレイラお嬢さんのことではちょいと感心していることがある。あの娘がリッカルロと一緒にいるところを見ていて思うにだ、レイラ姫は何も、おまえが王子だなんだということが重要ではないんだな。自分のように醜い男はどのような若く美しい娘にも似つかわしくないと考えるような、そういう気の小さいところのあるコンプレックスまみれの男をあの娘は「いい」と思ってるってことなんだよ。なんにしても、確かにオレたちゃこれから王命により、戦争なんてものに赴かねばならん。また、そのことが心配で、心配すぎるあまり――自分に罰を下そうと考えて、ようやく目が見えるとレイラが告白したというのは……なんだか彼女らしいような気がする。まるで、そうすれば自分の愛しいリッカルロが戦争へ行かずに済むとでも思い込んでいるかのようじゃないか」

 

<西王朝>との戦争の話が出て以来、レイラの様子が時々半狂乱じみたようにおかしい……とは、マキューシオにしても前から聞いていたことである。彼自身は『そろそろ自分も年貢の納め時』という女性との出会いというのは未だないが、それでも、<心から愛しあう恋人>なるものを見ていて――羨ましいなどという気持ちが本当の意味で湧き起こったのは、マキューシオにしてもこれが初めてかもしれなかった。

 

「ああ、そうなんだ」溜息を着いてリッカルロが言う。「俺がレイラと復縁……なんて言い方は流石に大袈裟だがな、そうしようと思ったのは、戦争が間近に迫っているせいでもある。<西王朝>との国境のようになっているアル=ワディ川は、雨季の終わる十月末には完全に干上がる。つまり、砂漠を越えるのに一年で比較的楽な季節へ入るわけだ……まあ、川があったほうが飲料水の確保その他、利点もあることにはあるが、とにかく、それ以上は出兵する時期をずらすことは出来ん。レイラがほとんど病気でないかというくらい気に病んでいるので、実際の俺の心の内はどうあれ、出征する前までに仲直りをし、あの娘のことを出来るだけ安心させてやらなきゃならんとは思ってたんだ。あとのことはそれからだ。今は戦争に勝つことが第一で、それに比べたら恋人とのいざこざだなんだということは……まあ、まったくくだらんことでもある」

 

 ティボルトとマキューシオは、リッカルロが厳しい統治者の顔をするのを見て、この件についてはこれきりにし、<西王朝>の地図やバリン州バロン城塞の内部構造について記された設計図などを広げると――兵法書を片手に「ああでもない、こうでもない」とこの日も夜遅くまで話しあうことになった。結果、勝ったとも負けたとも言えぬような戦果のみを得て彼らはこの半年後、帰国することになるわけだが――この半年間の離別により、リッカルロはレイラと再会を果たした時……「彼女の目が本当は見えていて良かった」と、そう思えるようにはなっていた。かといって、彼の心の中でなんのわだかまりもなくなったかといえば、そうしたことでもなかったとはいえ、自分の留守中、いかに彼女が敬虔な生活を送っていたかは、アデレアやシーリア、イーディから聞かずとも、レイラの姿を一目見ただけでリッカルロには痛いほどよくわかっていたからである。

 

 半年以上もの間、神に祈って肉を断っていたのみならず、恋人の身を案じるあまりレイラは以前にも増して痩せ細っていた。それに、これもまた戦争の神への誓願として、馬巣織りの衣服を着ていたせいで、彼女の肌はすれてあちこち赤くなっていたものだ。リッカルロは愛しい恋人と久方ぶりにベッドをともにした時、そのうっすらと赤くなった肌に一体何度口接けし、レイラの体を労わりつつ、慰めるように抱いたことだろうか。それ以後も彼は、以前もそうだったように、彼女の足の指からなめはじめ、ふくらはぎや太ももや……それから一番感じやすい部分を無視して、背中や首筋に舌を這わせてから、恋人の懇願によって彼女がもっともして欲しいことをする――ということを繰り返していたものだった。だが、これでもまだリッカルロにとって、レイラとの関係は「元に戻った」とまでは言えないものだった。

 

 そこには彼にとってある種の葛藤があった。見たところ、レイラは以前のように純粋無垢な娘であり、戦争によって引き離されたことにより、愛情が別の意味で増し加わったということも本当だった。だが、彼は心の奥底に「目の見えるレイラよりも、目の見えないレイラのほうが良かった」という気持ちが存在することに、どうしても複雑なものを感じざるをえない。しかも、リッカルロの恋人は敏感だったので、彼がそんなことをちらとでも心の底で思い浮かべているのではないかと察すると――途端に不安そうな顔をしだし、「今、何を考えてらっしゃるのかわかりますわ」などと口にするのだった。

 

「俺が何を考えていたのか、わかるのか?自分の恋人はなんて可愛いらしいんだろうと思うこと以外、他に俺に考えることがあるとでも?」……リッカルロはそのたびに、何かそうしたことを口にして誤魔化すだったのが、この件に関しては一応『この世界に、いつまでも完璧なものなぞありはしない』として、諦めてはいたわけである。それは、彼の心にだけ存在する誰にも言えない心の闇であり、その深い闇を、今後とも誰にも明るくすることなど出来はしまいと思っていた暗い世界を、太陽のように照らしてくれたのはレイラだということも、彼にはよくわかっていたのだから……。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 惑星シェイクスピア-第二部... | トップ | 惑星シェイクスピア-第二部... »
最新の画像もっと見る

惑星シェイクスピア。」カテゴリの最新記事