あ、あれ?あれれれ……「これ、三回くらいに分ける必要があるみたい☆」とか思ってたのに、何やらわたしの思い違いだったみたいです。。。
なので、↓の本文のほうは今回そんなに長くもないですね(^^;)
ええと、そんなわけで、結構今回前文に使える文字数ありそうなので、どうしようかな、なんて思ったり♪
そのですね、何か裁判関係のことについて、本で読んだことを書こうかなって思ってた気がするんですけど……なんかど忘れしちゃったので、今回は本文に何も関係のない話でも、と思います(^^;)
これもまったくもって「だからどーした☆」っていう話なんですけど、わたし、よく聞いてるラジオで、大好きなDJさんがいまして。。。
ちなみに女の方なんですけど、まあなんていうか、その方が担当されてるのが月曜から木曜までの約三時間で、でももし仮にこのDJさんが一日中番組に出ずっぱりであっても、全然喜んで聞いてられるくらい、本当に大好きで
んで、何日か前にこの方が夢に出てきたんです!そんでわたし、ネットから何かメッセージを投稿したりしたことは一度もないんですけど……いつも聞いてるっていうことや、そのことで毎日どんなに元気が出るかとか、そう思って聞いてる人がたくさんいるって本当に素晴らしいことだと思います……とかなんとか、日頃ずっといかに感謝の気持ちを持っているかについて長々しゃべるっていう感じの夢(笑)
なんか軽く褒め殺しっぽい感じでもあったので、その女性のDJさんはちょっと首を傾げておられましたが、わたしのほうではとにかく、日頃からの感謝の気持ちを全部言えて良かった――みたいに思って目が覚めるという夢でした(^^;)
まあ、「テメェの見た夢の話なんか、知ったこっちゃねえよ☆」って話なんですけど、夢って書き留めておかないと、結構すぐ忘れちゃうと思うので……個人的な夢日記としてちょっと残しておこうと思ったと言いますか。。。
ではでは、次回はとうとう秀一くんの裁判が結審するんだったかなって思います。そんでもってこのお話は、ティグリス・ユーフラテス刑務所で秀一くんがこれから服役するってわけじゃないんですけど……ここから少しずつ<世界の終わり>と最終戦争的な、そうしたことのほうに話が向かっていくんじゃなかったかな~と記憶しております
それでまた~!!
ティグリス・ユーフラテス刑務所-【7】-
「では、まず安達紗江子さんとの御関係についてお聞かせ願えますか?」
まるで、南朱蓮のように立派な人間が相手では、いつもの調子が出ない……とでもいうように、蛇尾田は低調子に尋問を開始しました。
「安達紗江子は、わたしの妻です。夫婦別姓で婚姻届けを出しましたので、苗字は違いますが」
「御結婚されて何年ですか?」
「お互い、二十五歳の時に結婚しましたから……今年で八年目です」
「なるほど。結婚生活のほうはいかがですか?しっくりいっているほうですか?」
「いえ、実は、三年ほど前から別居しています」
ここで、<別居>という言葉を聞いて、蛇尾田は突然どこか嬉しそうに両手を広げていました。まるで、他人の不幸は密の味とでもいうように。
「そ~でしたか~。申し訳ありませんが、別居の理由などをお聞きしても……?」
「まあ、よくある理由ですよ。性格の不一致というね。わたしも彼女も仕事で忙しく、すれ違うことが多かったということもあったでしょうが、突き詰めて言うとすればそういうことです」
「では、安達紗江子さんが殺害されたあのお部屋には、今は一緒にお住まいではないのですね?」
「そうです。彼女がどんな場所に住んでいるのかも知りませんでした。それに、わたしが外に愛人を作って、出ていったあと、一緒に暮らしていた家のほうは一年ほど前に処分したんです。その後、妻と会わなくてはいけない時には外で会っていましたから、彼女のマンションへ行ったことはありません」
「そうですか。では、もし仮に安達紗江子さんのマンションの部屋からあなたの指紋が出てきたとすれば、それはかなりおかしいということになりますね?」
「さあ……どうですかね」
南朱蓮は、口許を片手で覆って笑っていました。もちろん、声を外に出すことはありませんでしたが、(自分を疑うなど馬鹿ばかしい)とでもいうような、蛇尾田に対する嘲笑を手で隠しているかのようでした。もしかしたらあるいはただ単に(こんなに顔が蛇に似てる奴っているんだな)と思い、笑っていたのかもしれませんが。
『まったく、おまえは無能な検事だな』とでも言われたように、蛇尾田のほうでは若干イラついたかもしれません。確かに、南朱蓮の態度には、日頃から男を顎で使い慣れているといった威厳がありましたから。
「わたしは妻と五年の間一緒に暮らしました。自分でこんなことを言うのもなんですが、妻のほうがわたしに惚れているといったような関係性でした。ですから、彼女がわたしとの思い出の品をずっと持っていたとすれば、そこからはわたしの指紋も出てくるかもしれません。またもし……これは可能性として低いことではありますが、もし紗江子が何か嫉妬の気持ちからわたしと愛人関係にあった二階堂京子を殺したのだとしたら――わたしを苦しめるために自殺したという可能性もあるかもしれません。もちろん、後頭部を自分の手で二発撃てる人間はいませんから、そういう種類の人間に依頼して殺してもらった、ということですが」
「何故、そんなことをおっしゃるのですか?何か、最後に被害者と会った時にでも、そうしたことをほのめかすような発言があったということですか?」
「いえ、そうしたことはありません。ただ、わたしは妻の紗江子に離婚したいとは繰り返し言っていましたから……いつまでも承知しなかったということは、実は紗江子は京子に対してそのくらい嫉妬するところがあったのだろうかとは、少しばかり思わなくもなかったものですから」
「ふむ。ですが、それだとおかしくありませんか?あなたが完璧なアリバイで守られている時に、二階堂京子さんが偽装結婚しようとしていた被告人に罪を着せようとするだなんて?」
「理由は簡単ですよ。妻の紗江子は大の男嫌いだった。わたしたちは仲間内では自分たちのことをレズビアンといったようには呼びあいませんが、一般的にそう言ったほうがわかりやすそうなのでそう言いますが……レズビアンの中には、男のゲイの場合と違って、結局のところ最後は男性と丸く収まって結婚してしまうような場合があります。紗江子はそうした女性を心底軽蔑していましてね、わたしは紗江子に何も言っていませんでしたが、レズビアン同士の集まりか何かで、京子が男と結婚するらしいと聞いたんでしょう。その後、紗江子から電話がかかってきました。『一体、あなたと京子の関係は今どうなっているの?』とね。『京子の偽装結婚のことは聞いている』とわたしは答えました。『君が離婚してくれないから今こんなことになってる』ということもね。すると、妻は怒ってガッチャリ電話を切ってしまいました」
「な、なるほど、わかりました。では、妻の安達紗江子があなたにその電話をしてきた日にちはわかりますか?」
蛇尾田のいつものどこか支配的な態度というのは、南朱蓮にはまったくなんの効果も及ぼさないようでした。むしろ、この蛇のような検事をひとつ手玉に取って遊んでやろうといったような余裕さえも垣間見えるかのようです。
このあと、南朱蓮は携帯に残っていた記録から、妻から電話の来た日時について、2129年の2月19日とすらすら答えていました。さらに、蛇尾田から「実際に最後に会ったのはいつかお答えいただけますかな?」と聞かれ、その問いについては「去年の暮れに一度、偶然デパートで会いました」と答えていました。
極めて珍しいことですが、蛇尾田はまるでこの時証人に気圧されてでもいるような体で尋問を終えていました。そして、次に弁護人であるローランド・黒川が証人である南朱蓮に質問を開始します。
蛇尾田がどことなくすごすごといった体で検察官側の椅子へ戻っていったのが、ローランド・クロカワには印象的だったかもしれません。
「殺害された奥様の安達紗江子さんと最後にお会いになったのは、2129年の12月の暮れということでしたが、具体的な日付などは思い出せますか?」
「12月29日とか30日くらいのことだったと思う。そこのデパートの地下には、京子の好きなケーキ屋が入っていて、それを買って帰るところでした」
(それもまた、なんだか残酷な話ですね)という個人的な意見は胸に収め、ローランドは質問を続けました。
「それで、その時は偶然すれ違って立ち話をしたという程度だったのですか?」
「いえ、同じデパート内にある喫茶店に入って、一時間くらいでしょうか。お互い、パンケーキや紅茶を頼んだりして、話をしたんです」
「その時――つまり、安達紗江子さんと電話でではなく、直に会って話したのはその時が最後と思うのですが、奥さまとは一体どんなお話を?」
「お互いの共通の友人についてなどです。紗江子は男嫌いでしたから、話に出た人物は全員が女性の同性愛者であったように記憶しています」
こうした場所へ呼ばれるのは初めてではないのかどうか、南朱蓮はすっかり落ち着き払っており、その態度は鷹揚ですらありました。また、ローランド・黒川のほうでも、彼女と目と目が合った瞬間――何故だか、(わたしは女が専門だが、お宅は男が専門なんだろう?)と見抜かれたような気さえしたものです。
「では、その時には離婚のことや、不倫相手の二階堂京子さんのことなどは話題にのぼらなかったのですか?」
「ええ。おかしな話、紗江子の中では二階堂京子という人間は存在しないようになっているらしいんですよ。わたしが離婚の話をしようとすると、耳を塞いで気違いのようになって『聞きたくない!!』と叫びだす始末でしたから……わたしのほうでももう、離婚の話も京子の話もしないようになっていました」
「ですが、本気で離婚しようと思ったら、離婚調停するという道もあったのではありませんか?」
「そうかもしれません。ですが、わたしも仕事で忙しい身なものですから、離婚調停まで背負えるような時間はとても取れそうにありませんでした。そんなわけでずるずると長く良くない関係が続いたのだろうということは、今になって反省しています」
「ところで、被告人はあなたの不倫相手であった二階堂京子さんと偽装結婚しようとしていました。このことを聞いた時、どう思われましたか?」
「もちろん問い詰めましたよ。何故そんなことをするんだ、と」
ここで南朱蓮は溜息を着きたいのを堪えるような仕種をしました。そして、初めて少し疲れたような顔の表情を見せました。
「京子はわたしに、紗江子とはっきり別れて欲しかったんだと思います。そうした気配は前から感じていましたし、わかってもいましたが、かといって紗江子の性格上、わたしにもどうにも出来ない問題でしたので……『今ふたりでいて楽しければそれでいいじゃないか』といったような、わたしのほうではそうした態度でした。けれど、わたしが離婚して結婚してくれないせいで、<独身税>を取られるようになるだなんてとても堪らないと、京子はそう言うんですよ。わたしとしては、偽装とわかっていてもいい気はしませんでした」
「そのことで、京子さんとの間では口論になったりしましたか?」
「そうですね。お互いの間の関係に亀裂が入るとか、その予兆を感じたとか、そうしたことはありませんでしたが……京子が当事件の被告人である桐島秀一氏とデートするという時には、わたしは不機嫌になりました。また、彼女のほうではわたしのそうした様子を少し意地悪く眺めているようなところがあったと思います。ですがまあ、離婚できない自分が悪いわけですから、仕方ありません」
「質問は変わりますが、二階堂京子さんの妹の二階堂涼子さんのことはご存じですか?」
「ええ、知っています。わたしと京子の住む部屋に、何度も遊びに来たことがありましたから」
「では、被告人・桐島秀一が、途中から双子の姉の代わりとして妹の涼子さんとデートしていたことは?」
「もちろん知っています。わたしがあんまり苦虫を噛み潰したような顔をしていたので、京子も少し考えたんでしょう。『デートには妹の涼子を行かせることにした』と言っていました。そちらの被告人は、たぶん妹とのほうが性格的に合うと思うから、と。ですが、涼子と偽装結婚相手の関係がうまくいっても、京子は<独身税>を課されるのが嫌さに、戸籍上は彼と結婚することにするという。もちろんわたしは反対しましたが、京子のほうは『だったらあなたが離婚してわたしと結婚すればいいじゃない』と……まあ、そんなわけで、この時は少しばかり深刻な言い争いになったかもしれません。こののち、わたしは仕事の都合で日本を離れなくてはならなかったのですが、むしろこのことを好都合と考えて、お互いに頭を冷やすのにいい期間だと思うことにしたんです。そして、その間に彼女は死んでしまった……」
法廷へやって来て、この時初めて南朱蓮は涙を流していました。彼女が検察官・弁護人それぞれの質問に答える過程で――顔の表情や声のトーンといった話ぶりから推して――おそらく、この瞬間が一番感情を露わにした瞬間だったかもしれません。また、南朱蓮は男が別れた妻のことを悪しざまにいい、若い新妻のことを過保護なまでに愛する時のように……というほどではなかったかもしれませんが、安達紗江子のことは随分長く頭痛の種としか思っておらず、二階堂京子のことを生涯のパートナーと考えていた……といった雰囲気は、彼女の供述を聞いたすべての人が抱いた印象だったに違いありません。
「ちなみに、日本を離れていた期間はどのくらいですか?また、二階堂京子さんと一緒に暮らしていた部屋をあとにした日時は?」
「アメリカへ一月ほどです。出立したのは3月14日の午後の便ですね。アメリカ軍の軍事施設の見学へ行っていたんです。他に、少々別の任務のほうもありまして……日本には購入の予定もなく、またその必要もないトランスフォーマー張りの最先端アンドロイド戦闘機を見せていただいたりして、とても有意義な時間を過ごしました」
「では、帰ってきたのは?」
「4月25日ですね。刑事さんたちは、自衛隊の事務所のほうへ何度も電話してきて、同居人が死んだという事実を知らせ、なるべく早く帰国してもらうことは出来ないかと、何度となく言ってきたと聞いています。ですが、わたしの所属は軍部のインテリジェンスを扱う、非常に機密性の高い部署なものですから、わたしは自分が帰国するまで京子が殺されたとは知りませんでした。もしそのことを彼らがわたしに知らせたら、動揺のあまり任務に差し障りが出ると判断したのかもしれません」
ローランド・黒川は、南朱蓮には完璧なアリバイがあると打ち合わせの段階でもちろんわかっていました。それでも、今改めて彼女の落ち着き払った態度を見ていると……何か疑いの気持ちが積乱雲のようにむくむくと心に湧いてくるのを感じたかもしれません。つまり、そのような機密性の高い部署であればこそ――出入国時に自分以外の誰かのパスポートを(アメリカのCIAなどのように)使用することが実は可能だったのではないのだろうか、と。
けれど、その疑念は一度振り捨てることにしました。それに、邪魔な存在だった妻だけでなく、本当に愛していたらしい二階堂京子のことまで殺害する理由というのが、今のところ見つかりませんでしたから。
「そうでしたか。では、妻の安達紗江子さんのことについてお聞きかせ願いたいのですが……彼女は殺される前日、被告人桐島秀一のことを深夜のバーかどこかで拾い、自分の部屋まで連れ帰ってきた。そして、深酒をしていた被告人と一夜の関係を結んだ……これは、証人のよく知る妻の行動として、どのような意味を持つものだと思いますか?」
この時、南朱蓮は、再び口許を隠して笑っていたようでした。もちろん、妻も愛人も殺されており、その証言の席で笑うというのは不適切な行為であるかもしれません。けれども、誰もがそのような彼女の態度を「許容範囲内」のものとして見ていたといっていいでしょう。
「本当に、そちらの被告の方がもし無実であるのなら、わたしがこう証言することで救われて欲しいと願います。妻の安達紗江子が、それが仮にどのように立派な経歴を持つイケメンであったにせよ、一夜をともにするなどということは絶対ありえません。また、朝目覚めるとお互い裸で横たわっておられたそうですが、彼女のほうでは具体的に性行為を行うなど論外であり、男とひとつのベッドに横たわっているだけでも虫唾が……いえ、失礼。被告人の方を侮辱しようというのではないのです。ただ、彼女は本当に男嫌いで、今では日常生活に支障をきたしていたくらいなんですよ。何故といって、この世の約半分は男性で人口が占められているわけですし、どこへ出かけるにも男性の姿というのは目につき、また、何かの拍子に肩と肩がぶつかるということもある……紗江子はそうしたすべてを嫌悪していました。つまり、逆にいうとするなら、その紗江子が<そこまでのことをした>――このことには必ず何か、それだけの理由があるはずなんです」
「では、被告人はあなたの妻の安達紗江子や他の誰かの陰謀に陥れられたのだということですか?」
「もちろん、そこまでのことは断言できません。確かに、わたしは三年前に妻とは離婚したも同然ですから、その三年の間に紗江子のほうで何か人生観に変化があったのかどうか、そういったことまではわかりません。ですが、彼女は長く精神科医にかかってそうしたことを相談しているはずですから、その精神科医に聞けば色々詳しくそのことを知ることが出来るはずですよ。あとは紗江子が普段から親しくしている友人も、大体のところ声を揃えてわたしと同じことを言うのではないかと思いますが……」
――これで、<二階堂京子・安達紗江子殺害事件>の第三回公判の証人尋問は終わりました。このあと、裁判官による補足質問等が行われたのち、閉廷となったわけですが、南朱蓮のこの証言で、秀一は暗闇に本当に細く一筋差していた光が、一筋ではなく、もう少し幅の広い光になったような気がしていました。
また、南朱蓮の口調から、『安達紗江子には間違いなく共犯がいた』ということもわかった気がしました。そして、おそらくはその人物が二階堂京子と安達紗江子のことを二人とも同じ方法で殺したに違いありません。
(そうだよな。女ひとりでは絶対に俺の174センチ、62キロの体は運べまい。だが、安達紗江子は通りで男とすれ違うのも嫌なくらい男が嫌いなのに……男と組んでこんなことをするものだろうか?となれば、相手はおそらく女性なんだ。だが、基本的にロボット三原則によってアンドロイドに人は殺せない――とはいえ、軍事用のロボットなど、一部規格外のアンドロイドもいる。彼女がそうした闇市場などで手に入るアンドロイドに京子を殺させた、などということがあるものだろうか?)
この場合、アンドロイドは廃棄処分になり(いかなる理由があるにせよ、人間を殺傷したロボットやアンドロイドは廃棄処分とすることが法律で決められています)、罪を問われるのは誰か特定の人間を殺害するよう命じた人間ということになります。
また、裏の世界では殺しを専門にするアンドロイドが極秘裏に造られており、大量の金をマフィアなどに支払えば、始末をつけてくれるという噂が昔からあるのですが……これがそうした種類の犯罪なのかどうか、秀一にはまだ確信が持てませんでした。
何より、二階堂京子と安達紗江子を一日違いで殺す動機が何なのかが、秀一にはわかりませんでした。安達紗江子が虫唾を走らせながら自分の衣服を脱がせたとも考えにくいことから――自分が薬か何かで眠っている間、そのようなことをした第三者がいたということに当然なるでしょう。そしてのその第三者というのは、<二階堂京子殺害>の点で利害が一致していたにも関わらず、その後用済みとなった安達紗江子のことを殺している……男の自分を運び(女性ふたりでも成人男性の体を運ぶというのは大変なものです)、女性ふたりをなんの躊躇いもなく頭に二発の銃弾でもってとどめをさせる人間――こう考えた場合、相手は当然男であると誰もが想像するでしょう。けれども、安達紗江子は大の男嫌いなのに、そこまでしても恋敵に復讐を果たしたかったということなのかどうか……。
(待てよ。この場合、真犯人と安達紗江子は京子殺害の件については利害が一致していて、真犯人は俺に罪を着せたかったってことだよな。こうなると、南朱蓮が俄然あやしくなってくる。もし南朱蓮が「ヨリを戻そう」と一言いいさえすれば、安達紗江子のほうでも「なんでも言うことを聞く」といった関係性だったのだとしたら……しかもあの、完璧すぎるアリバイ。テレビでやってる二時間サスペンスなんかじゃ、大抵はアリバイがなく動機のある、疑いの濃厚な奴が実は白で、完璧なアリバイのある奴ほど実はあやしかったりするんだがな。果たして、京子と安達紗江子が死んだ時、彼女はアメリカのどこにいたんだろう?それで、そのことを証明できるアメリカの証人なんていうのがいたら、確かに南朱蓮はこの殺人事件にまったく関係がないということになる……)
けれど、秀一が昔読んだことのあるCIAの男が主人公の小説では、各国の情報機関のような場所では、そのようなことはあまり意味がないということでした。つまり、秀一のような<一般市民>がどこか別の国へ出入国した場合、それはもちろん操作不能の完璧なアリバイと言えたでしょう。けれど、情報機関に所属するような人間にとっては、それらは操作可能なただの文字や数字の羅列に過ぎないということでした。それと同じように、ある人間の銀行資産を一桁減らしたりといったことも、ただ電脳世界で数字を書き換えればよいという、たったそれだけの話だということでしたから。
「でもあれは、アメリカの作者の書いたあくまでCIAの話だしな。日本では当然、もっと監視の目も厳しく、そうした特権を不正利用したことがわかれば即刻クビといったところだろうし……」
もちろんアメリカででもクビに違いないのですが、その小説の設定では、ある程度出世したCIA職員であれば、ある程度のレベルの機密情報をいくらでも閲覧できるということでしたし、実際、何かの事件を解決させるためであれば、許可を得たのち、秀一のような<一般市民>の免許を停止させたり、電脳銀行からお金を引きだせないようにしたりといったことは、お茶の子さいさいで出来るということでした(ちなみに、この小説の作者は、元CIA職員であると、著者紹介の欄に書かれていました)。
秀一は、留置場から拘置所へ移されてからは、ずっと個室に収監されていました。拘置所には、罪が結審するまでいるということになります。また、実際に懲役のほうが確定したら、今度は刑務所のほうへ移され、そこで刑期を務めることになるのでした。
起床時間は7:00で、食事や運動する時間なども、留置場での規則とあまり変わりありませんが、己の犯した罪に対し、反省して過ごす……といったことに重きがおかれているらしく、自由時間がとても多く、秀一はそんな中、毎日法律の勉強をし、その過程でいつでも<真犯人は誰なのか>という推理のことに思考が傾いていく――といった日々を送っていました。
下着や衣服、その他ちょっとしたお菓子など、欲しいものはローランド・黒川を通して涼子にそうした品を揃えてもらい、差し入れてもらっていました。もちろん、涼子とは接見できませんから、彼女の揃えてくれたものを、黒川弁護士が拘置所まで持ってきてくれるということではあるのですが。
また、過去の冤罪に関する事件についての資料や、冤罪を負わされた人物が著者のノンフィクション本を秀一は貪るように読んでいましたが、こうした過程で秀一の心理には少しずつ変化が起きていたかもしれません。
最初はただただひたすらに、(何故、なんの罪も犯していない自分がこんな目に)という嘆きと怒りと悔しさしかありませんでしたが、両親やよく出来た兄との面会、その他「日本から冤罪をなくす会」の人々との心あたたまる交流など……秀一は、この時初めて『どんなに最悪な状況の中でも、何かひとつくらいはいいことがある』という昔何かの本で読んだ言葉を思いだしていました。
(いや、ひとつだけじゃないさ。俺には涼子だっているし、ローランド弁護士のことも、彼がゲイとわかってからは惚れそうなくらい好きになった。両親や兄貴も、俺の無罪を信じてくれているし……)
ただし、秀一がこれまでずっと<友達>と思ってきた人物は誰も面会にやって来ませんでした。もっとも、秀一はそのことを少し寂しいように感じてはいましたが、(まあ、そりゃそうだよな)と納得してもいました。自分がもし逆の立場で、たとえば「ごくう」や「ジャイコ」が女性ふたりを殺害したらしいということで捕まったとしたら――面会へ行こうなんて考えないかもしれません。おそらく、チャットで色々と無責任に言いたいことを言い、『いや~、まさかあいつがな~』とか『殺っちまったか……』などとテキトーにつぶやいているだけだったでしょう。それに、第一面会へ行くなんて言っても、これまで法的機関とまるで関わりなく過ごしてきた人々にとっては、何をどうしていいかもわからなかったに違いありません。
秀一の収監されている部屋は、六畳ほどで、トイレと小さな流し、それにベッドがあります。鉄の扉には上に覗き窓が、真ん中あたりに食器口がありました。毎日、この白い長方形の部屋にずっといると……時々、秀一は頭がおかしくなりそうになることがありました。
彼の収容されている部屋は、19121号室でしたが、つまりはこんな個室がそんなにも数多くズラリと並んでいるということを意味しています。もちろん、囚人が自殺したりしないよう監視カメラが見張っていますし、定期的な看守の見回りといったものもあります。けれども、実はここは、昔読んだSF小説の、流刑星にある独房の一室で、自分はこの銀河の果てのような場所で朽ち果てる運命なのではあるまいか……といった、妄想じみた物思いにさえ、秀一は囚われそうになることがあったのです。
けれど、そういう時にはもちろん、涼子との未来のことを思い浮かべたり、自分がとてもいい弁護士についてもらっている幸運のことを感謝したり、あるいはこのことを機会に両親や兄ともこれからは深い交流を持てそうなことを喜ぶことにしていました。
今では秀一にも、父や兄が何故ああも都会の危険について説いてきたり、都会を離れた農村生活を大切にしているのかがわかっていました。昔の彼には、VR映画館のないど田舎に暮らすことなど考えられませんでしたが、今は父や兄のように生活することも、悪くはないかもしれないと思うようになっています。何より、秀一は家族と大喧嘩して家を飛び出して来ていたのに、彼の両親も兄も「だから言わんこっちゃない」とか「いつかこんなことになるとわかってたわ。だから都会は……」などと長々説教するでもなく、息子、弟の無罪をただ無条件に信じてくれていたのです。
そして、両親と兄が差し入れてくれた、故郷の銘菓や父が持ってきた蜂の本などを見て、秀一は幸せな気持ちになりました。この故郷の銘菓は、小さな頃から食べすぎて飽き飽きといった種類のものでしたが、秀一は毎日ひとつずつ、とても大切そうに食べましたし、蜂の本に至ってはもう、隅から隅まで三度ばかりも読み返しているくらいでした。
「出所したら、一度一緒に蜂蜜を取ろう!」
秀一のお父さんは最後にそんなとんちんかんなことを言って帰っていったのですが、その瞳には涙が滲んでいました。実家のほうでは農業や酪農を営んでいるため、家族全員で上京してくるということは出来ません。ですから、公判のある時などは、秀一くんの両親やお兄さんやそのお嫁さんが交代で来るということにしていたようです。
「そっか。もしこの世から蜂がいなくなったら……蜂が受粉をしている三分の一くらいの果物とか、植物がなくなっちゃうのか。それは大変だな」
秀一が蜂と聞いてすぐ思いだすのは、シャーロック・ホームズが探偵をやめたあと、養蜂家になったということでしょうか。もちろん、秀一はお父さんの始めた養蜂業を継ぐつもりはなかったのですが、それでもこれからは親孝行といったことも考えていきたいと、それは本当にそう思っていたのです。
(最悪だけど、これもまだ最悪じゃないっていうことかな……)
何より、両親は婚約者といっていい涼子と会って本当に喜んでいました。もし人生でこんなにも追い込まれるということがなかったとしたら――<本当の人生>だとか<本当の幸福>といったようなことについて、こんなにも真面目に考えるということは決してなかったに違いありません。
(俺は、この殺人事件に巻きこまれてなかったら……たぶん前と同じ自分第一、快楽中心主義の生活を送って、今もそのことを正しいと思い続けていただろうな。人間、誰だってそんなもんだろとしか思ってなかったに違いない……)
けれど、今のこの苦難を乗り越えることさえ出来たなら、この拘置所を出ていくことさえ出来たなら、未来は光り輝いていると思いました。それが秀一にとっての唯一の希望でもあったわけですが、これからのち、一年かけて殺人事件の公判は続き……その後この裁判が結審するまで、秀一は感情の激しい浮き沈みを経験するということになります。
そして、このあと――事件のほうは二転三転し、意外な結末を迎えるということになるのでした。
>>続く。
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