私の持ち物の中で宝物的なものは、老師から頂いた書『独坐大雄蜂』ぐらいなものではなかろうか。
禅修行をしていたある日、居士林の古参のメンバー、私を含めた4人が老師の部屋に招かれ、老師直筆の禅語の『書』4枚が畳の上に並べてあって
各自好きなのを選びなさい・・・とのことであった。
普段居士林の古参として直日(リーダー)とか侍者(直日補佐)、典座(お粥・茶係)などの役回りに対して、老師が私達をねぎらう意味で
『書』をくださる…らしい。 さて、4枚の『書』は全部違った禅語で中でも一番有名でカッコいい・・・と、4人が4人欲しいと思ったのが
『独坐大雄蜂』であった。今考えると、一番古参の先輩、渡邉さんにあげればよかったのに、ジャンケンで決めよう…ということになって
結局、普段ジャンケンが弱い私のもとに『独坐大雄蜂』が来ることになった。
掛け軸にしてもらって、スイスに来て私の部屋に掛けて30年目の数日前、引越し先の部屋数の減った新アパートの壁に掛けた時
なんだか、ジグソーパズルのラスト・ワンピースがそこに収まったような気がした。
それというのも、新アパートのテラスからは、旧アパートのテラスのように壮大なレマン湖の眺望はなく、ネズミの額ほどの湖が屋根と屋根の間から
チラッと見えるだけであるが、なんとヨーロッパ最高峰の『モンブラン』がレマン湖の向こうにど~んと見えるではないか。
公案としての『独坐大雄蜂』はさっぱりわからずにいたが、いつの間にか、この『書』に導かれてここに来たように思える。
独坐大雄峰(『碧巌録』二十六則)
僧が百丈懐海和尚にむかって、「如何なるか是れ奇特の事」(この世の中で、最も素晴らしいことは何ですか)と尋ねた。
すると百丈は「独坐大雄峰」(この百丈山にこうしてどっかりと坐っていること)と答えた。
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