■メディアと日本人
--変わりゆく日常
橋元良明〈著〉
岩波新書・798円/はしもと・よしあき
データが覆す俗説と思い込み
メディアはいつも論争の的である。善玉菌なのか、それ
とも悪玉菌なのか。ただ、ハッキリしていることは、90年
代の半ばからケータイとインターネットを立役者にメディ
ア環境が急変し、日常の生活や行動も一変したことだ。
それでは、この変化を実証的かつ継続的にフォローした
研究があるだろうか。それがあれば、メディアに開する極
端な臆見(ドクサ)に修正を迫り、実態に即した根拠のある議論が展
開できるはずだ。本書はまさしく、こうした課題に応える
貴重な研究の成果であり、一読に値する啓蒙書である。本
書には、著者を中心とする「日本人の情報行動調査」の膨大
な実証的データのエッセンスが詰まっており、そこから日
本人の情報行動とその実態が浮かび上がってくるからだ。
日本人のメディア受容の歴史をコンパクトに整理した第
1章と、テレビとインターネットに対する「ネオフォビ
ア」 (新規恐怖)の諸相を、主にアメリカの研究成果を参
考に整理した第3章を除くと、情報行動調査の成果が遺
憾なく発揮されているのは、第2章と第4章である。
メディアの利用形態の変化を論じた第2章で特に面白い
のは、読書離れが進んでいるという俗説や「軽薄な」テレ
ビより新聞の方が信頼性が高いといった思い込みが、客観
的なデータによって覆されていることだ。さらに第4章で
はネット世代の若者たちを「76世代」「86世代」「96世代」
に類型化しつつ、若者たちのメディア利用行動とメンタリ
ティの変化に迫っている。
目から鱗が落ちる思いがしたのは、意外にもPCネット
を利用する若者は、携帯ネットを利用する若者よりも政治
的関心が高いという調査結果である。こうしたことは、本書
の豊かな成果のほんの一部にすぎない。メディアの機能代
替の価値を中心に様々なメディアの切磋琢磨と共存の未来
を論じた終章も含めて、実に読みがいのある新書である。
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評・姜 尚中
東京大学教授・政治思想史
出典:朝日新聞 2011.05.29
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