チュニジアといえば、”アラブの春”のトップランナー国でしたが、狂犬病も難儀なところです。暴露後免疫をキチンと実施したけど薬石効なく・・・のケース。
- 6歳児。野良犬に顔面を咬まれる。
- 受傷当日に免疫グロブリン使用、暴露後免疫開始。
- 暴露後免疫はWHOスタンダードにしたがい、第0、3、7、14日にキチンと実施。
- しかしながら第17日になり発熱、嘔吐、神経症状を呈して受診。急速経過で当日中にけいれん発作等出現して犠牲に。恐水病症状はなかった。
- 通常、暴露後免疫を実施して犠牲になってしまうのは極めてマレ。キズの洗浄が不十分でウイルス入りの唾液が残っていた可能性はあるが、たとえそうだとしても助からないのはマレ。
- 狂犬病ウイルスは、神経を通って脳に到達すると救命困難。神経を通るスピードはゆっくり。ワクチン接種して免疫ができるのと、ウイルスが脳に到達するのとの競争。今回のケースは顔面と、脳に近い部位だったのも要因。
海外渡航者への赴任前研修で必ず盛り込むのが狂犬病の話です。
管理人の経験では、スーダンとセネガルでそれぞれ、「同僚が狂犬病動物に咬まれた!⇒暴露後免疫!」ということを経験しました。前者は自宅庭から出したことのない愛犬でしたが、その後、庭の大木にコウモリが常駐してることが判明(コウモリ→愛犬→ヒト)。後者は心優しい奥様が道端で弱ってる猫に同情してミルクをあげようとしたらガブリとやられたものでした。どちらも暴露後免疫はしっかり機能してご存命中ですから、論文にはしていません(幸)。
今回のケースは野良犬です。チュニジアのようなアラブ圏では通常、犬は忌み嫌われます。スーダンでもセネガルでも、野良犬が家の門に来ると、門番が石をぶつけて追い払っていました。他方、それと正反対なのが上座部仏教国です。仏教の教えに不殺生戒というのがあり殺処分の壁になります。
たとえばミャンマーでは、大通りだろうが中央駅だろうが宗教施設だろうが高級ホテルだろうが観光地だろうが、野良犬が闊歩しています。当局は毒団子を撒くという対策を試みますが、上座部仏教徒の心優しい人々は、撒かれる日になると自宅に野良犬をかくまう(!)という行動に出る人もいると現地で聞きました。
途上国への渡航者への啓発として、狂犬病ワクチンの暴露前免疫と暴露後免疫はデフォで語られますが、「挙動不審の犬を見たら全速力で逃げよ!」という基本も話すべきでしょう。
あと、超音波で犬を撃退する器具というのもAmazonあたりで検索すると色々出てきます。その効果のほどはさっぱりわかりませんが、本稿を書きながら、試してみることを思いつきました。さきほど注文を入れ、来月ミャンマーに行きますので、トライしてみます。
ソースはLive science
http://www.livescience.com/49583-rabies-vaccine-failure.html
Rabies Vaccine Fails in Rare Death
by Laura Geggel, Staff Writer | January 27, 2015 07:25am ET