新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

照会・お便りetcはこちらへどうぞ
opinion@zav.att.ne.jp(関西福祉大学 勝田吉彰研究室)

エボラの流言で救急部が一時閉鎖されてしまった!(ガーナ)

2014-07-29 16:06:50 | 噂/風評/流言 対策

ガーナで、「エボラの患者が収容されている!」という流言で病院救急部が閉鎖されてしまう騒動。

  • KumasiのKomfo Anokye Teaching Hospitalにエボラ出血熱感染者が入院中との流言。この患者は、リベリアから来たとの内容。
  • この流言をうけて、日曜朝から、救急部が閉鎖されてしまった。
  • 実際には、この患者は交通事故で頭部の出血と骨折で搬送されてきたものだった。
  • 血液検査が野口研究所(←野口英世から命名された研究所。ガーナの首都アクラに所在)で検査中であるが、90%以上、エボラではないと当局発表。

航空機に搭乗してナイジェリアに行き、感染判明した症例の発生で、ギニア・リベリア・シエラレオーネ以外の国々もナーバスになっています。そんな”空気”を映し出す流言騒動です。

交通事故で頭から血を流した搬送患者を目撃した人が「エボラ出血熱の患者が搬送されてきた!」と勘違い&噂を流してしまう・・・これ自体は特にアフリカ的・文化の違いとも言い切れず、日本でも起こりそうなことではあります。ひとつの教訓として。

ソースはmyjoyonline
http://www.myjoyonline.com/news/2014/July-27th/kath-dismisses-rumour-of-ebola-outbreak.php

KATH dismisses rumour of Ebola outbreak

Source: Ghana|Myjoyonline.com
Date: 27-07-2014 Time: 06:07:13:pm

 


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エボラ出血熱をめぐる流言をきっかけにデモ隊と催涙弾の応酬(シエラレオーネ)

2014-07-27 11:18:42 | 噂/風評/流言 対策

「感染症流行時の流言」は、心理社会的影響を増幅させる難題なのは、SARS・鳥インフル・新型インフル・MERSと、いつも共通する話題ですが、エボラ出血熱をめぐる混沌ではデモ隊と催涙弾の応酬という事態の引き金を引いてしまいました。

  • シエラレオーネのKenema。
  • デモ隊が、エボラ指定病院になっているKenema general hospitalや警察署に押しかけ投石の騒乱。当局は催涙弾を発射して応酬。
  • 今回の騒乱は、流言がきっかけ。「エボラ出血熱は、人々を殺すために医療従事者に持ち込まれたものである。その目的は、人体の臓器を取り出すためである」と。
  • この流言は、ある精神疾患の元看護師が市場で流布したものである。この女性はすでに拘留されていると警察の証言(The rumor was spread by a mentally ill former nurse, now in custody, who went to the city’s main market and told people Ebola was a hoax, police Assistant Inspector General Karrow Kamara said by phone. )

意図的であれ非意図的であれ、(警察発表を信じれば何等かの幻覚妄想状態のようではあるものの)エボラ出血熱が臓器売買目的で人的に撒かれたものであるという流言が世間一般に信用され、一部民衆が”立ち上がった”構図のようです。それがエスカレートし病院のみならず警察署まで破壊に動く。非常にファンダメンタルな部分でのアプローチが求められます。

中国のSARSやH7N9対策、あるいは、つい最近の腺ペスト騒動で見られた如く、中国的な方法論・・・武力だとか警察力だとか諜報力だとかいう単語も起用されるような・・・も、ある部分では感染症対策として必要な場面があることは認めなければならないのかもしれません。とはいえ、そのような仕組みが一朝一夕でできるわけではなく、シエラレオーネの現状に速攻性のあるのは外からのパワーによる介入ということになってしまうのかもしれません。

ソースはbloomsberg
http://www.bloomberg.com/news/2014-07-25/sierra-leone-police-use-tear-gas-to-curb-ebola-related-riot.html

Sierra Leone Police Use Tear Gas to Curb Ebola-Related Riot


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やっぱり発動、究極のリスクコミュニケーションは逮捕監禁(鳥インフルH7N9)

2014-03-06 08:43:18 | 噂/風評/流言 対策

そろそろまたやるんじゃないかな・・・と思ってたら、やっぱりやってくれました。中国当局の”究極の流言対策”。
ネット監視や盗聴で見つけ出して、ドサドサっと警察が踏み込んでしょっ引く!

  • 四川省の成都で男性2名と女性1名が公安に逮捕される。Wang, Chen and Han
  • 微博(中国版ツイッターと一般に紹介されているもの)で、流言を流して社会不安をおこした罪。
  • 成都市内でH7N9(のヒト感染)が多数発生して犠牲者が多数でているとの内容。多くのネチズンにより拡散され、パニックを引き起こした。
  • 実際には四川省では今年はまだ発生報告されていない。
  • 1月にも山西省と遼寧省で2人逮捕されている。

あの国でネット監視が日常的なのは日本でも何度も報じられているところです。
電話の盗聴だって、管理人自身、北京在勤中には”話してるうちに電話のボリュームが不自然に小さくなったり大きくなったり”の経験は何度でも。
そして逮捕監禁!へのスピード感は、縦割りの壁を経ることなく一体的におこなわれているのが推測されます。

パンデミック中の、流言がおよぼす心理社会的影響の現実を考えれば、そういうことがスピード感もってやれる国は(あくまでもこの事象に限定してですが)、「ものごとには良い面と悪い面があります。この場合どうでしょうか。良い面をできるだけ多く書き出してみましょう」という、認知療法(心理療法)でよく使うセリフを口走りそうな(笑)気もします。

日本の法制度下でも物理的にはできなくもないのでしょうが、実際はとてもハードルが高すぎて・・・というところでしょう。

ソースは新華社(←こちらのチームワークもばっちりですね)
http://news.xinhuanet.com/english/china/2014-03/05/c_133163873.htm

H7N9 rumor spreaders detained in SW China
 
English.news.cn   2014-03-05 21:18:24

 


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噂対策の基礎知識⑫ (歪みの基本形)

2011-04-14 11:43:49 | 噂/風評/流言 対策

パンデミックのとき以来、久々の噂カテゴリー。噂研究の抄読です。

オルポート&ポストマン「デマの心理学」(南博訳 岩波書店)。

この本は、噂研究の古典的基本、ベーシックの本です。医学生にとっての「朝倉の内科学」みたいな本。2008年10月に岩波モダンクラシックシリーズから再版されまして、これはありがたいことです。

今回は「歪みの基本形」。

流言が人の口から口へと伝わってゆくなかで、中身が変わってゆくことはよく知られたところです。
では、どのように変わってゆくのか、歪みのパターン3つ。

  1. 平均化
    かねがね抱いている考え方、偏見、先入観がはいり、これらに合わない部分がそぎ落とされてしまう。「知覚には、想像や価値づけや判断の始まりがもつれあっている(バートレット)」
  2. 強調
    1.とは逆に、ある部分が強調され重要さを与えられる。ある細部を選んで、それを強調するころにより、最終的な話に誇張された劇的な性質を与える。
  3. 同化
    人々のもっている通念に沿うように変化する。

たとえば、こんな例。
原子力発電では色々あって誤解しそうだから、仮に「カスミ力発電(カスミを食って生きてく・・・のカスミ)」なるもので想像しましょう。

ニッポン第一カスミ力発電所がオープン。原発100基分の電力が100分の1のコストで発電できます(カスミですから)。CO2ひとつ出さず、1年365日トラブルなく動いています。作業員クマゴロウ氏は敷地内豪華な当直室で優雅な勤務が気に入り飲み仲間に自慢。今回は勤務明けの時間をレクリエーションセンターで次の日までまったりと。

でもその日、近所の飲み仲間ノンベエさん曰く、
「あの発電所の作業員クマゴロウ氏、仕事に入ったの見たけど、それから見んなあ。携帯にかけても出ん。こりゃあ大変じゃ。カスミが渦を巻いてカスミ波にやられてしもうかんかいのう。調べてくれよ記者さん!」

偏見:新しいパワーは何か危ない。何かよくわからん。不気味だ。

平均化:安全で無害(そりゃカスミですから)、優雅な勤務という、飲み仲間の話は記憶からウサンムショウ。

強調:連絡がつかんという事がいつの間にか中心に。(世の中、携帯かけ放題の職場なんてそう多くなかろうに・・・とは考えない)

同化:あたらしい発電はアヤシイ。××電力の勤務環境は劣悪である。作業員見殺しあり。という通念に沿って話は変化してゆく・・・

 

 


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噂対策の基礎知識⑪噂への対処法(否定戦略と対抗戦略)

2009-11-01 18:26:00 | 噂/風評/流言 対策

噂対策の基礎知識、今回は、拡がった噂への対処法です。
(噂対策の基礎知識シリーズは http://blog.goo.ne.jp/tabibito12/c/d78dc67d4ea40e41623c1b55891ce542 )

Ⅰ.無視戦略
 まったく相手にしないで無視する

Ⅱ.否定戦略
 噂・流言に対し、それを取り上げ、いかに根拠がなく信頼できないか真っ向から否定する。反論はさまざまなメディアを使い公開。

Ⅲ.対抗戦略
 うわさについて否定しない。うわさのもつネガティブなイメージに対し、ポジティブなイメージや噂自体と異なるイメージをメディアや社会活動を通じて流す。

このうち、もっとも有効なのはⅢ.の対抗戦略です。
これを実験したのがチボーの実験というもの。

番組評価の実験という名目でTVを見せる。その中でマックのCMが流れるが、実験参加者(サクラ)が「マックのハンバーグにはミミズの肉が入っている」と噂を話す。ひとつの群では、マックが公式に用いた否定情報を流す(否定戦略)。もうひとつの群では「みみずを使った美味しいスープがあって、実際にシカゴのレストランで好評を博している」という情報を流す(対抗戦略)。最後の一群は肯定も否定もしない(無視戦略)。
最後に、マックのイメージを調査して考察したら、
効果は 対抗戦略>否定戦略=無視戦略
だったという実験でした。

ソースは
川上善郎:うわさが走る -情報伝播の社会心理ー サイエンス社 p101-104

管理人なりに、ちょっと試みてみました(対抗戦略)↓
http://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/d39536a46a28d99e12266e2cdd3a47c4
http://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/e208e6feaddb27788515f00f2c4584ba

 

コメント (2)
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噂対策の基礎知識⑩オルポートとポストマンの法則

2009-07-20 21:35:08 | 噂/風評/流言 対策

R~i×a

なんじゃコレ!?
って言わないでちょっとだけおつき合いを。

オルポートとポストマンは噂の心理的分析をおこない、噂はこの掛け算で伝達するのだ!と提唱し、一定の評価を得ています。

  • Rとは、流言の量。
  • iとは、重要性。
  • aとは、あいまいさ。

つまり、流言がどれだけ流れるかは、当事者にとっての「重要性」と「あいまいさ」の掛け算で決まるというもの。積で表わしているところがミソです。
当事者にとっての重要性が高ければ当然関心は高まる。でも、何にゼロかけてもゼロですから、「あいまいさ」がゼロなら、流言は生まれないことになります。知識が確立した、たとえば、「水虫」とか「イボ痔」とかいう病気なら「あいまいさ」ゼロですからそれそのものの流言は聞かない。でも、新型インフルエンザは、特に5月時点なんかではH5N1で刷り込まれた知識も混入して「あいまいさ」が最大化していました。その後、色々様子が分かってきて、やや軽減してきましたが、今後も「遺伝子再集合」「基礎疾患無き英青年のウイルス性肺炎死」はじめ「あいまいさ」が跳ねあがりそうな要素がいっぱいです。
 何かわかった事があれば、わかり次第”ちぎっては投げ”式にコンスタントに繰り返し社会への情報提供をするのが、地味だけど確実な対策になります。当ブログも微力ながら尽力したいと思います。

「重要性」。 新型インフルエンザは自分自身の、家族の、身近な人の生命にかかわるのかどうか。 ちょっとここのところ、日本国内で犠牲者が出ていなくて軽症者中心(英豪加はじめとてもそんな状況やないですが)ですからレベルダウン気味ですが、たとえば、「日本で最初の犠牲者発生」とか「ICU入院者」とかボンと跳ね上がる要素が控えています。噂対策のアクセルをぐっと踏み込むべき時の目安になります。

「重要さ」と「あいまいさ」の積。 これを基本軸に頭に叩き込んでゆきましょう。


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噂対策の基礎知識⑦ 昭和の碩学に学ぶ(1)

2009-07-01 11:38:53 | 噂/風評/流言 対策

新型インフルエンザの社会不安対策、 噂・流言対策シリーズ。

今回は、古典にあたってみました。
昭和の碩学、清水幾太郎(1907-1988)。社会学者、評論家。
人物の紹介はウィキペディアへ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E6%B0%B4%E5%B9%BE%E5%A4%AA%E9%83%8E

この、昭和の碩学が文語体で書いていることが平成の新型インフルエンザで起こっていることにピッタリなのは驚く限りです。

<流言蜚語が発生するとき>
流言蜚語は無根拠であるとゐはれるが、一定の条件なり原因なりがなければ生ずるものではない。それはさう毎日のやうに起こるものでもなく、民衆が各々その緒に安じてゐるやうな時代に発生するものでもない。それは言ふまでもなく社会が危機に直面し、その秩序が既に幾分か動揺してゐる時に生じるものである社会的政治的事実を主題としながらも而も民衆の生活との結び付きを持つやうな風評が新聞からでもなく、雑誌かれでもなく、況や官報からでもなく、実に街頭から生まれるのである。与へられぬものは作り出されねばならぬ。白昼行ってならぬことは暗くなってからやればよいのである。流言蜚語はかうした隙間から生ずる。官報―新聞―流言蜚語。この三者の関係の把握は本質的に重要である。新聞が独自の機能を失って官報化すればするほど、その空隙を埋めるものとして流言蜚語が蔓って来る。「検閲の厳格の程度と流言蜚語の量とは一般に正比例す」といふ法則が立てられるかも知れない。

<ソース>
清水幾太郎:流言蜚語の根拠と対策. 流言、うわさ、そして情報 -うわさの研究集大成ー 現代のエスプリ別冊 242-254 至文堂
(これの元ソース 「流言蜚語」 清水幾太郎著作集2 講談社)


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噂対策の基礎知識⑧ 昭和の碩学に学ぶ(2)

2009-07-01 11:38:34 | 噂/風評/流言 対策

引き続き、昭和の碩学、清水幾太郎(1907-1988)。に学ぶシリーズ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E6%B0%B4%E5%B9%BE%E5%A4%AA%E9%83%8E

2回目は流言蜚語として通用する条件。
ある程度本当である程度ウソなところに流言蜚語発生の余地あり!と喝破しています。

<流言蜚語として通用するには>
  翻って考へて見れば、徹頭徹尾事実に反したことばかりで流言蜚語が出来上がってゐるとしたら、それは流言蜚語として通用することが出来ないであらう。それでは多くの人々を納得させ、彼等を結びつけながら社会的に蔓延するだけの通用力を持つことは困難である。若し全然それに該当する事実を持たなくても流言蜚語となる資格がなく、また完全に事実に適合してをれば尚更流言蜚語でなくなってしまふものとすれば流言蜚語は実に完全な不適合と完全な適合との中間にのみ生れることが出来ると言はねばなるまい。 

<ソース>
清水幾太郎:流言蜚語の根拠と対策. 流言、うわさ、そして情報 -うわさの研究集大成ー 現代のエスプリ別冊 242-254 至文堂
(これの元ソース 「流言蜚語」 清水幾太郎著作集2 講談社)
 


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噂対策の基礎知識⑨ 昭和の碩学に学ぶ(3)

2009-07-01 11:38:01 | 噂/風評/流言 対策

昭和の碩学 清水幾太郎に学ぶシリーズ 3回目は、対策について。

事前の情報提供の重要さが強調されています。
第二波を前にした、あるいは、日本人犠牲者がまだ発生していない今のタイミングで、詳しい情報を”ちぎっては投げ”式に情報提供してゆく必要をあらためて痛感します。

 <流言蜚語への対策>
ローマの詩人ウィリギリウスは或る詩の中で流言蜚語を叛逆者たる巨人の妹として歌ってゐる。ゼウスに向かって戦ひを挑んだ巨人達は、ゼウスのために一敗地に塗れてしまった。そこで巨人達の母である大地は、息子の復讐のために新しく流言を生んだといふのである。流言は歩みゆくにつれて力を増し、地上を行くのであるが、その頭は雲の中に隠れてをり、昼間は望楼に坐し、主として夜間に飛廻るなどといふ点をウィリギウスは流言蜚語の性格として指摘している。 無根拠といふ点に於いて流言蜚語を軽視し侮蔑する人々も、その働き或いは結果に関しては厳格な態度を以てその防止に努めるのが常である。

流言蜚語への対策として採用するのは、これを二つに区別することが出来る。 第一はこれを禁止することである消極的な禁止乃至弾圧である。フランシス・ベーコンは言ふ。「これを余り厳格に抑圧するのは当を得た救済策ではない」。余り厳格に禁止することが、却って「そこに何かあるのではないか」「やはりそれが急所ではないか」といふ疑惑を人々の間に植ゑるのは事実である。併し禁止といふ方法を無力にさせる最も根本的な理由は、民衆が報道に飢ゑてゐるといふことである。そんなものを食ってはならぬと警告を発しても、民衆が飢ゑてゐる以上、余り効果が挙がらぬのは当然である。そこで第二の積極的な方法としてこの飢ゑを充たす方針が実行される即ち事実の真相を発表するのである。 真相の発表も民衆が注意を一点に集中させてゐない時ならば容易であらう。だが既に流言蜚語のために彼等の注意が一点に集中せしめられてをり、その感覚が極度に鋭敏になっている時に、彼等を真に満足せしめるやうな報道を行ふことは殆ど不可能である。真相の発表が縷々新しい流言蜚語の材料として役立つ所以である。 これと共に真相の発表といふ方法の限界を示すものとしては、民衆の飢ゑが既に流言蜚語によって或る程度充たされているといふことである。真相の発表は民衆の食欲を満足させる優れた食物であるに相違ない。だがこれが与へられる前に民衆は既に流言蜚語といふ食物を摂取してゐる。それがどんなに食ふべからざるものであらうとも、兎に角彼等はこれを食ってゐる。その上立派な食物が与へられても、流言蜚語を吐き出すことは出来ないし、食欲が減じてゐるのに重ねて食ふことは困難である。 真相の発表といふ方法の制限を示す以上の二点によって教へられることは、この方法は流言蜚語の発生する以前に於いて取らるべきであったといふことである。それがどのやうに真実であらうとも、流言蜚語の発生後に於いて用ひられたのでは、遺憾ながらその意義の大半は失はれねばならぬ。 (流言蜚語の)発生に先立って常に真相の発表に努力すべきであり、これによってその発生を防ぐべきである。それに先立って行はれてこそ価値あるものが、それに後れて行はれる時は逆に新しい疑惑の種子とさへなるからである。

<ソース>
清水幾太郎:流言蜚語の根拠と対策. 流言、うわさ、そして情報 -うわさの研究集大成ー 現代のエスプリ別冊 242-254 至文堂
(これの元ソース 「流言蜚語」 清水幾太郎著作集2 講談社)


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噂対策の基礎知識⑥ 流言で不安をどう処理するか

2009-06-14 22:11:07 | 噂/風評/流言 対策

流言が生まれる根底に、人々の「不安」があります。また、流言には人々の隠れた感情を表出させる側面があります。

では、それにはどんなパターンがあるのか。

  1. 不安に抗して、自分を肯定・守るパターン
    縁起かつぎやジンクスなど。
    自己のおこる不幸を予防したり起きてしまった災難の救済
  2. 他者を肯定・守るパターン
    病気に対する不安 → 「癌の少年バディ君のために絵葉書を贈ろう」という流言が流れて山のような絵葉書が集まった事件など。
  3. 他者を否定するパターン
    他者を否定することにより自己を守ろうというパターン。
    人種・民族・エイズ患者に対する差別流言など。今回の新型インフルエンザでも「関西に行かない方がよい」などトンデモ流言流れた。
  4. 自分を否定するパターン
    不安を恐怖として明示し表出。自分の受けた被害を誇大に伝えたり、起きそうな災難を確実に起きることとして伝える。不安亢進の結果、誇張ともなって起こる。「感染列島」の根底に流れるのはこれか。

噂を聞いたとき、聞いた話を誰かに伝えたいと思ったとき、こういったパターンに合ってないか、いまひととき考えてみる・・・というのは、真偽の鑑別に有用かもしれません。 あるいは、このパターンを見ながら、自分をちょっと振り返って見るのも良いでしょう。「○○の人は汚い!」と思ったとき、聞いたとき、単純に伝えてしまえばただそれだけのことになってしまいますが、「アレッ、どうしてこんな風な気持ちになるのかな?」と振り返り、「そうか、自分は不安なんだ。だから、○○の人をおとしめて安心を得ようとしているんだ」と自覚できる一瞬があれば、次の行動が変わってくるのかもしれません。

参考
早川洋行:流言の社会学ー形式社会学からの接近ー 68-73 青弓社

 

 


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