新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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opinion@zav.att.ne.jp(関西福祉大学 勝田吉彰研究室)

噂対策の基礎知識⑤ 流言発生の心理メカニズム

2009-06-13 15:48:38 | 噂/風評/流言 対策

そもそも、人々のどんな心理状態から噂・流言は発生するのか・・・ 4つのパターンがあります。

  1. 安定した状態から突如「不安」におそわれ、その解消として発生
    大地震発生 → 数日後に、「津波が襲ってくる」という流言拡大の例など。
  2. 安心・平穏な状態から「飽き」が生まれ、その解消として発生。
    アニメの主人公について、たとえば、「サザエさんの最期は海外旅行で航空機墜落して、一家は海の生物になる」という流言が流れた件など。
  3. 「飽き」から「不安」を高め、その解消として流言発生。
    怪談やお化け屋敷など。

新型インフルエンザやSARSにまつわる噂・流言は、基本的には第一のパターンと思われますが、中には、平穏な日常から「飽き」の感情→噂の発生というのもあるかもしれません。ネット掲示板などで、東の人が関西について書き込んだ・・・内容には第二のパターンもあるかもしれません。

参考

早川洋行:流言の社会学ー形式社会学からの接近ー 74-76 青弓社

 


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噂対策の基礎知識④ 尾ひれがつくのはナゼ?ー流言変容のモデルー

2009-05-29 12:06:58 | 噂/風評/流言 対策

なぜ噂に尾ひれがつくのかー流言変容のモデルー

噂が拡がってゆく中で、尾ひれがついたり、逆に中身が削られたり、あるいは微妙に内容が変質してゆくのはよく経験するところです。

なぜそういう事が起こるのか・・・

噂が消えさることなく広まってゆくためには、「信じさせる力」と「伝えさせる力」が必要になります。

  • 信じさせる力:それを聞いた人が信じやすくなるため、ストーリーから無駄な部分はそぎ落とされ、あるいは尾ひれがついて体系化し、話の完成度が高まってゆきます。また、噂が広まるにつれ、「どこかで聞いたような話」になってゆくのも、人はどこかで聞いた話、2度3度と聞いた話の方が信じやすいということがあります。
  • 伝えさせる力: 耳にした噂を次の人に伝えるモチベーションが働くには、その内容を過激化し興味をそそる内容にしようという圧力が働きます。また、この過程で「密接性の増大」というプロセスも働きます。噂の対象が、遠くのものから身近なものの方が拡大しやすい。たとえば、03年SARS@北京のとき、「○○で感染者が出たらしい」という噂は色々流布しましたが、○○の部分が一般人民のものはあまり拡大せず、逆に、東証一部上場の有名日系企業だったら、それこそ”千里を走る”状況でした。これが、噂の伝え手により意図的に行われれば、たとえば、親戚の知人の話が親戚の話に変質したりします。したがって、あなたが耳にした噂が妙に近所の話だったり知ってる人の話だったら、いま一度立ち止まり吟味する必要があるでしょう

参考
早川洋行:流言の社会学ー形式社会学からの接近ー 65-68 青弓社




 


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噂対策の基礎知識③ 解釈流言と解決流言

2009-05-27 23:26:22 | 噂/風評/流言 対策

流言には解釈流言と解決流言という2つの種類があります。これらを紹介しましょう(「     」内は、2003年SARS@北京にて実際に観察された実例です)。

  • <解決流言>「~をせよ」「~をするな」「~に注意せよ」などと、何らかの行動を求めるものを解決流言という。たとえば、「SARSにならないためにキムチを食うと良い」「○○区は感染者がいっぱいいるらしいから近づかない方が良い」「○○社製のマスクは毒が付いているから注意せよ」「人民解放軍によって北京の街が封鎖され、食糧が入ってこなくなる(買いに走れ!)」など。

 

  • <解釈流言>何らかの行動を求めないもの。これを聞いたからと言ってどうなるものでもない。「SARSは道ですれ違っただけで感染する」「日本大使館員に死者が出たらしい。その葬儀が○月×日どこそこで行われる」など。

特に、解決流言では人々を何らかの行動に駆り立てることがあるだけに、早急な対処が必要です。今回の流行では、マスクが売切れ、在庫が街の薬局に入らないという事態が広がりました。ほぼ前後して、マスクには感染予防のエエビデンスが無い、人ごみに入るのでなければマスク必須ではないといった情報が公式筋から色々出され、さほどの事にはなりませんでしたが、結構危ないシチエーションだったと思います。手造りマスクの作り方が学校などで教えられたのも良かったのかもしれません。
しかし、たとえば、これがマスクじゃなくて「食糧」だったらもっと危険だった。無ければ死ぬものだし、自作することも出来ない。
先述のSARSの時に流れた、「人民解放軍によって北京の街が封鎖され、食糧が入ってこなくなる(買いに走れ!)」の流言対策として、当時の中国政府が即座にとったリスクコミュニェーションは強力でした。「北京市封鎖を否定の上、食糧を買い占めた(不正利益を得た)者は厳罰に処す」とやりました。 中国という国はいとも簡単に死刑判決が下るのはよく知られたところです。麻薬のある程度以上の所持が見つかれば死刑。役人汚職も額が大きくなれば死刑。不正利益の取得は死刑。「不正利益を得た者は厳罰に処す」とは、暗に「死刑も無いとは限らないよ」とほのめかしているわけです。 日本ではこういう強烈なリスクコミュニケーションは困難なわけで、頭の絞りどころです。

参考
早川洋行:流言の社会学ー形式社会学からの接近ー 38-41 青弓社

おことわり
明日は、精神保健福祉士実習のゼミ生巡回指導。郷里で実習しているゼミ生訪ね、福井と富山をかけめぐる強行日程です。たぶん、当ブログ運休パターンに入りそうです。あしからず・・・


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噂対策の基礎知識② (オルレアンのうわさ)

2009-05-25 20:38:43 | 噂/風評/流言 対策

噂対策の基礎知識 2回目は「オルレアンのうわさ」です。

噂研究の世界では古典的なものに、フランスのオルレアンという小都市で広まった噂があります。

1969年5月、この小都市で、
「市内の洋服店で試着室に入ると、睡眠薬を打たれて秘密の地下室に拉致される。そして、本人の知らない間に売春組織に売られてしまう」という噂が流れました。
その噂の対象となる洋服店は1店、2店・・と拡大し、最終的に6店まで拡大しましたがそのいずれもがユダヤ人経営のものでした。

もちろん、そのような事実はなく「事実ではない噂」です。

この時とられた対策は対抗戦略とよばれるものでした。
噂そのものを否定するのではなく、噂の対象についてポジティブ、あるいは、噂と対象的なイメージを流すものです。具体的には、ユダヤ人に対する差別を思い出させるキャンペーンが行われました。

ちょっとひとひねりした策がとられたわけです。

参考
杉山光信:オルレアンのうわさ みすず書房(翻訳)
原文は Morin E: La rumeur d'Orleans. Le Seuil Edition

 

 


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噂対策の基礎知識① 噂・流言が拡大する条件

2009-05-23 17:52:24 | 噂/風評/流言 対策

噂・風評・流言(以下、噂)は、誰かが流せば必ず流れるのか・・・

それだけで流れることももちろんありますが、 「噂」に加え、「あいまいさ」の存在が火に油を注ぐ。

  1. 「噂」だけ
  2. 「噂」と「あいまいさ」
  3. 「あいまいさ」だけ

2>3>1の順で拡がりやすい。
SchachterS, Burdickの研究でこんなのがあります。
ある学校、6クラス。うち4クラスから各2人づつ生徒を(以前から予定された)面接に呼び出す。その生徒は面接の後で、「職員室から試験答案なくなったらしいけど知らない?」と聞かれる(=噂の植え付けの操作)。
4クラスでは、朝、事件が起こる。校長先生がやって来て、1人の生徒に「荷物をまとめて来なさい。今日は戻れないと思ってください」と行って連行する。(あいまいさ植え付け)

こうして、

  1. 噂の植え付けだけの2クラス
  2. 噂+あいまいさの2クラス
  3. あいまいさ だけの2クラス

が出来あがる。で、一日の最後に、全生徒に面接が行われて、どれだけ噂が広がったか調査。

結果は、「噂」だけだと15%、「噂」+「あいまいさ」だと76%、「あいまいさ」だけで66%で噂が広がっていたというもの。

つまり、誰かが「噂」を広めようといいまわるだけでや拡がらないけれども、「あいまいさ」の油を注ぐ。

だから、噂の制御には「あいまいさ」の最小化がカギ、だから、何か判明したことがあれば「ちぎっては投げ」式にどんどん情報発信が必要になってくるというわけです

参考
SchachterS, Burdick:A field experiment on rumor transmission . J.of Abnormal and Social Psychology,50:363-371



 


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噂/風評/流言対策 (新カテゴリー)

2009-05-23 16:40:46 | 噂/風評/流言 対策

今回、新たなカテゴリー分類「噂/風評/流言対策」を設けました。

新型インフルエンザの流行では、「事実ではない噂」の流布による社会不安が懸念されます(もう既に出だしているわけですが)。

2003年SARS@北京では、「人民解放軍により北京市が包囲され食糧が入ってこなくなる」という噂が流れ、人民がスーパーに殺到し食品棚がカラになるという事態が発生しました。私は出遅れて、カラの棚の前で途方に暮れました(今でもトラウマ)。 日本でも、ここのところのマスク騒動見ていると、十分に素地ありと感じています。
 また、差別を受けやすい弱者が差別を受ける懸念。北京でも「○○地区は患者多いそうだから近づくな」というのがありました。 ○○にあれやこれや色々なものが入って流布する懸念。さしあたり今回は「関西」が入って首都圏で・・・など。

「秋からの第二波での病原性アップ」があちこちから警告されているだけに、さらに、「H5N1との遺伝子交雑」もまた、WHOチャン事務局長はじめ色々発言され人々の頭にインプットされているだけに、「タネ」になりそう。

というわけで、噂/風評/流言 対策のカテゴリーを設けました。 対策の基礎的な話などアップしてゆきたいと思います。

当サイトの常連さんには、行政関係、企業関係、マスコミ関係、井戸端会議の主役、医療関係、、、多彩にいらっしゃいます。 将来、噂対策に頭を悩ますことになるかもしれない方も多々いらっしゃると思いますので、お役に立てれば幸いです。


 


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