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「地獄の黙示録」ファイナル・カット
1979(日本では1980)年に「地獄の黙示録」が劇場公開された後に、コッポラ監督が自ら編集し直して30分の追加部分を加えた2001年の「特別完全版」が公開されたが、1979年のオリジナル公開から40周年を記念して、「特別完全版」よりも20分短く編集し直して、新たなデジタル修復を施し、映像はオリジナル・ネガフィルムを初めて使うなど、コッポラ監督が長年望んでいた没入感や臨場感を実現した、本作「地獄の黙示録・ファイナル・カット」が2019(日本では2020)年に公開された(オフィシャル・サイトより抜粋)
私が最初の「地獄の黙示録」を田舎の映画館で観たのが、中学2年の終わり頃でした。
初めて観て、正直、なんだかよく解らないけど、スゴい、というのが、第一印象でした。
ベトナム戦争を題材にした映画を観るのが、たしか初めてだったと思います(「ディア・ハンター」は随分大人になってから観たので)。
ドアーズとかも知らなかったので、オープニングシーンの感覚も、いまひとつよく解らなかったですが。。。
まぁ、あのころ日本で中学校の社会科とか授業聞いてても、ベトナム戦争のように現代史的な部分は、何故かあまり出てこなかったという記憶があります。
画像 四度の飯より映画批評 FC2 blogさんより
なんというか、普段テレビで「太陽にほえろ」とか観て、ワクワクしてた(別に「太陽にほえろ」がよくないっつってんじゃないですよ)頃ですから、「地獄の黙示録」のような問題作を噛み砕いて理解するのは、ちょっと無理だったかもです(つっても今だによくわかってないっつー話もありますが(汗))
あの頃から、大人になって、この「ファイナル・カット」を観るまで、どのバージョンかは正確には思い出せませんが、5~6回くらい観たかなぁ。
観るたびごとに、何となくではあるんですが、ちょっとずつこの「地獄の黙示録」のフォーカスが、見えてきたかな、という感じです。。。
あらすじというか、物語の本流は、どのバージョンでもブレていないと思うので、このファイナル・カットをベースに、この映画について見てゆくと。。。
ネタバレしますので、ご注意を。
この作品はベトナム戦争後期の1969年を舞台にしています。
アメリカ陸軍空挺将校のウィラード大尉(マーティン・シーン)は、(たぶん1回本国へ戻っていたという設定だと思うのですが)ある指令によって、サイゴンへ呼び戻される。
その指令とは、かつては優秀な軍人だったカーツ大佐という男(マーロン・ブランド)が、カンボジアの川の上流で軍の指令を無視し、現地民などを従え独立王国をつくっているので、彼を秘密裏に抹殺せよというものだった。。。
ウィラードは四人の兵士と共に、哨戒艇に乗り、川をさかのぼってゆくのだが・・・。
というところから、ストーリーは始まって行きます。
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その川を上流へ遡上する過程で、ウィラードの目を通して、この戦争の狂気の姿を描いてゆく、という形になっています。
途中、キルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)が率いる空の騎兵隊であるヘリコプター軍団にヌン川までの護送を頼むシーンがありますが、川底がある程度の水深がないと、という哨戒艇のチーフ(アルバート・ホール)の発言に、キルゴアは、ヘリで哨戒艇を吊り上げて運ぶことを指示。実際にやることになるのですが、このシークエンスで「サーフィンをやるために、そこにあるベトコンの前哨基地が邪魔なので」ということで、夜が明ける頃を見計らって、ウィラードたちも同乗させたヘリの騎兵隊が襲いかかるシーンは、衝撃的です。
キルゴアの命令で「朝日をバックに、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を大音響で流しながら」突っ込みます。
画像 zilge blogspot.com 人生論的映画評論 さんより
このシークエンスは、この映画を観た方は、とても強い衝撃を受けたのではないかと。
サーフィンに向いている高波が立つポイント、という理由で、そこにある敵の基地や集落が邪魔だから、潰しちゃおうという。。。
この奇襲攻撃の一連の映像は、戦争の非人間性を強く感じさせます。実際は無かったエピソードかも知れませんが、コッポラ監督の表現したかったものが、何となく垣間見えたようなシークエンスです。
ベトコンが攻撃してくるヤシの林をナパームで焼き払ったあとで、キルゴアがヘリから降りて、部下たちに語りかける件で言う、「朝のナパームの匂いは格別だ・・」は、ベトナム戦争という物の“狂気”を感じさせるセリフとして、知られています。
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余談ですが、ここで流れた「ワルキューレの騎行」ですが、たしか作家の藤本義一さんだったと思うのですが、
「私はこの「地獄の黙示録」は映画としてすごく好きだ。だから敢えて言うのだが、あのシーンで流すのは「ワルキューレの騎行」じゃないだろう。ワルキューレ~では、あまりにも映像と合いすぎていると思う」と。
この藤本義一さんがそうおっしゃったのを聞いて、なるほど、と思ったのを憶えています。
確かに、ワルキューレ~だと、あのシーンと、無理なく合ってしまう、な、と、思っていたので。。。
別の(クラシック疎くてよくわからないのですが)曲、たとえば、メジャー、え、クラシックだと長調??の曲にしたほうが、あの“狂気”をより鮮明に浮かび上がらせるのかな・・・という気はします。。
まぁ、昔、二次大戦中のドイツで、兵士や民衆の士気を鼓舞するために戦場の映像に「ワルキューレの騎行」を付けて流したと、もれ聞いたことがあるので、それを敢えて流すことによって、ベトナム戦争の「狂気」を浮かび上がらせよう、とコッポラ監督は考えたのかも知れませんが。。。
時系列前後しますが、このカーツ大佐には、殺人罪が適用されています。ベトナム人4名を「二重スパイ」として処分した事に対して。
ウィラードの心の声で「戦場で殺人罪?・・レース場で速度違反を取り締まるか?・・欺瞞だ」という言葉が印象的です。
この言葉は、ストーリー終盤のカーツの「人殺しが人殺しを裁く?・・欺瞞だ」という言葉につながってゆきます。
ウィラードは船上でカーツ大佐に関する記録を確認します。
カーツという男は、陸軍士官学校を首席で卒業。様々な輝かしい経歴のあと、1964年に顧問団に随行してベトナムへ・・。そこが「つまずき」の始まり。大統領あてに送った文書は途中で握り潰される・・・内容に問題があったのだ・・。その後38才という年齢で空挺部隊を志願。
1966年特殊部隊に加わってベトナムへ復帰・・・。徐々に彼のとる作戦は、劇中の軍上層部の表現では「不健全」になってゆく。。。
この「地獄の黙示録」は5~6回観たのですが、オープニングのヘリが映ったあとにヤシの林がナパームで炎を上げるシーンは、観るたびにイメージが鮮烈になります。ドアーズの「The End」がこのシーンに使われた意味みたいなものも、だんだん理解できるような感じになって来ます。
この映画、原題は「Apocalypse Now」ですが、直訳すると「今、黙示する」か「今、黙示せよ」みたいな感じだと思うのですが、クリスチャンの友人に聞いたところでは、Apocalypseはもともとはギリシャ語で、黙示録は新約聖書の中で唯一の預言書で、キリストによる救いについて書かれたもの、とのこと。
当時のエピソードとしては、最初はハーヴェイ・カイテルがウィラード役だったらしいですが、撮影開始早々に降板。色々候補があがったらしいですが(ハリソン・フォードも候補に挙がっていたらしいですが、「スター・ウォーズ」撮影の兼ね合いもあって、実現しなかったのと、漏れ聞いた話ではロバート・レッドフォードにもオファーしたのですが「自分のイメージと違う」という事で断られた、という話もあったような・・)、結局、マーティン・シーンに決まったという話です。
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観た方は気付いたと思うのですが、ウィラードがこのミッションを告げられるシーンで、ハリソン・フォードが上官の一人として出てますね。なんでも、撮影の見学に来た際に、出演となったらしいです。
wikipediaによると、撮影はフィリピンで行われたのですが、台風でセットが全て壊れたり、登場するヘリコプターはフィリピン軍のものを借りたんですが、フィリピン内の内戦で使われるので、借りるスケジュールが変更になったりで、撮影予定期間が120日程度を予定していたのが、倍以上の540日ほどかかったとのこと。当時のマスコミはなかなか終わらない撮影を揶揄して「Apocalypse When?」なんてタイトルで記事を書かれたりしていたらしいです。
制作費も、撮影の期間が延長されるに伴って、当初約35億円くらいを見込んでいたのが、結果的に約90億ほどかかったとのこと。
これに出演者のトラブル(カーツ役のマーロン・ブランドが、約束違反で「筋肉質」という設定なのに、大幅に太ってやって来たこと。戦場カメラマン役のデニス・ホッパーがドラッグやってて、なかなかセリフを覚えない。マーティン・シーンは撮影途中で心臓麻痺になって、倒れた、etc・・・。)に見舞われて、コッポラ監督も心労で一時倒れたらしいです。。。
ストーリー半ばで、プレイメイトたちの慰問ショーのシークエンスがあります。これは最初に公開されたバージョンにもあったのですが、その後のプレイメイトたちにウィラードたちが遭遇するシーンは、「特別完全版」のみに使われていて、この「ファイナル・カット」では出てきません。
ウィラードたちの船が、ベトナム人の乗ったジャンク船に遭遇する一連のシーンは、戦争の狂気を強く感じます。撃ち終わってから自分でその結果に驚く17才の兵士クリーン(ローレンス・フィッシュバーン)の表情が印象的です。ウィラード曰く「機銃を浴びせておいて、それを治療する・・・それが我々のやり方・・欺瞞だ」。凄いシーンだと思います。
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ストーリーでは、川を遡る道中で、一人、一人と命を落としてゆくのですが、前述の17才の兵士ミスター・クリーンの最期の横で流れ続けるカセットテープの母親の声が、堪らなく切ないものがあります。
そのあとで、ウィラード達は、フランス人の入植者たちに遭遇するのですが、これは最初に公開されたバージョンには入っていないシークエンスです。
ここで交わされる会話は、正直のところ私はよく解らないのですが、フランスの入植者たちの、この戦争への思いや捉え方を描き出しているエピソードだと思われます。
ミスター・クリーンは、ここで埋葬されます。あの母親の声を聞いたカセットレコーダーと共に。。。
そしてウィラードと、コックになる予定だった“シェフ”(フレデリック・フォレスト)とサーファーのランス(サム・ボトムズ)を乗せたこの船が、カーツの“王国”に到着するのですが・・・。
ここから後に描かれるシーンや、カーツとウィラードそしてデニス・ホッパー演ずる戦場カメラマンのあいだで交わされるセリフは、哲学的で、何度観ても、理解が難しいんですが、前述の「人殺しが人殺しを裁く・・・欺瞞だ」というのがまずあるのかな、と。
あと、とても強く印象に残るのは、カーツ大佐がかつて、ベトナムの子供たちに、ポリオ(小児麻痺)の予防接種をしてあげたときのエピソードです。とても強いインパクトを残す回想エピソードです。
この回想のセリフに、この映画のフォーカスがあるのかな、という感じです。
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余談ですが、マーロン・ブランドが約束違反で太って撮影に現れたので、コッポラ監督が苦肉の策で、カーツの姿を、光と影を使って全身が見えないようにしたのが、逆に神秘的な結果になったのかも知れません。
カーツは「恐怖だ・・・恐怖には顔がある・・・」と、何回観てもよく解らないんですが(汗)。。。
ウィラードのような人間が来ることをカーツは待っていたような。。。
この「地獄の黙示録」は「ディア・ハンター」よりも早く撮影に入ったのですが、前述のように出来上がるまでとても日数がかかったので、公開は「ディア・ハンター」よりも後になったとのこと。確かに公開時期はそうだった記憶があります。
この映画は、カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞しております。
評論家たちのこの作品に対する評価は、様々だった記憶があります(前半は満点、後半は0点、とか・・・。)
コッポラ監督のコメントで憶えてるのは、「この『地獄の黙示録』はカンヌをもらったりして、世界的にヒットして、我々を助けたが、次の『ワン・フロム・ザ・ハート』では痛手を受けた」というものでした。
フランシス・コッポラほどの監督でも、苦労があるんだな、と、思ったのを憶えています。
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コッポラ監督は、この映画の、テーマは何ですかという問いに「撮ってるうちに、解らなくなった」と答えたとか。。。
それにしても、色々な意味で、スゴい映画だなと、思います。。。
ヒッキー的満足度★★★★☆