ヒッキーはつむじ風!!

ヒッキーが観て気に入った映画を、ブログで紹介します。

「泥の河」

2021-01-21 15:01:17 | Weblog
                   「泥の河」


監督・小栗康平
原作・宮本輝『泥の河』
脚本・重森孝子
音楽・毛利蔵人

1981年公開の本作。とても評価が高く、様々な映画賞を受賞していたので、何となく敷居が高くて、スルーしていたのを、ようやく観ることができました。

舞台は昭和31年の大阪。
河べりに立つ食堂。
主の板倉晋平(田村高廣)と、その妻の貞子(藤田弓子)が切り盛りしている。
その息子である信雄(朝原靖貴)は小学生(9才という設定なので、3~4年生だと思われる)。

物語冒頭で、芦屋雁之助さんが演ずる荷車のおじさんが、解けた積荷の下敷きになって息絶えるシーンが描かれる。

おじさんも自分も、戦火をくぐり抜けて、生き延びてきたが、今の暮らしは、どうにも「スカ」のようで、戦争で死んだほうが、よかったのではないかと、晋平が呟く。

ある日、河に「宿船」がやってくる。荷物の運搬でなくて、人が住むための船である。
ひょんなことから、信雄と、その船に住む少年・喜一(桜井稔)と姉の銀子(柴田真生子)が知り合う。
信雄を船に招き入れる喜一であったが、壁をはさんで隣の部屋から母親(加賀まりこ)の声で、あまりこの船には近付かない方がよいと。。。

という感じで、信雄と喜一およびその姉の銀子の3人の交流が、描かれてゆきます。

作品はモノクロで、昭和三十年代初頭の時代感と、全体を通して、戦争というものが残していった“影”のようなものを感じさせます。

前述の晋平の呟きの重さは、現実にその当時を生きた人でないと、本当には解らないのではないかと。。


調べてみると、この物語の時代設定である昭和31年(1956年)は、経済企画庁が経済白書「日本経済の成長と近代化」で、その結びに「もはや戦後ではない」と記述し(晋平が読む新聞にその見出しが出て来ます)、この言葉が当時の流行語になったとのこと。

これは前年の昭和30年に、GNP(実質国民総生産)が、戦前の水準を超えたことを受けての記述で、その年から、高度経済成長の始まりとなった「神武景気」が幕を開けることになります。

こんなふうに、世の中が戦争の痛手から立ち直り、大きく成長し始めたにも関わらず、自分たちの生活や暮らしぶりが一向に冴えないまま、取り残されていくという「虚脱感」のようなものが、物語の底流にながれています。。

信雄の家に招かれた喜一が、歌を披露する場面があります。
ここで歌われるのが、「戦友」という、戦争に行った兵士の心情を歌った歌で、劇中の晋平も、映画を観ているこちらも、子供がこの歌を歌い出したことで、ある意味ちょっと驚かされます。
「ここはお國を何百里、離れて遠き満州の・・・」
つたない音程で、とつとつと歌われるので、余計に戦場の悲しさのようなものが、ズドンと、聴く者に伝わって来ます・・。
晋平は、歌に聞き入ります・・。印象的なシーンです。。。

信雄と喜一が、貞子から50円玉をひとつずつもらって、お祭りの夜店へ出かけるシークエンスがあります。
喜一は「お金を持って、夜店に行くのは初めて」と。
観ているこちらも、何か胸躍るシーンなのですが、ポケットに穴があいていて、喜一は自分のと、信雄から預かったお金を落としてしまいます。
空腹のまま二人は帰途につくのですが、りんご飴一つだけでもいいから、食べさせてあげたかったですね。。。

銀子が、米びつに手を入れて、温かい、と呟くシーンでは、「米」という一番基本的な食べ物が目の前にある幸せというのを、改めて考えさせられました。

夜店の帰りに、宝物を見せてあげると、喜一は信雄を船に招くのですが、そのシークエンスで、信雄は隣の部屋の中を、明り取りの窓越しに、偶然に見てしまいます。。

帰ってゆく信雄を見つめる喜一と、信雄とすれ違いに船に戻ってくる銀子の淋しそうな表情が、胸に残ります。

それが信雄と、喜一、銀子が友達になった、ひと夏の終わりとなって、船は岸を離れて、また何処かへ旅立ってゆきます。。

この作品で、小栗監督の、子役への演出が素晴らしい、ということで、当時「E.T.」のプロモーションで来日したスピルバーグ監督が、直に小栗監督を訪問した、というエピソードが残っています。

とても良い映画だったので、小栗監督の「伽倻子のために」も、観てみようかな、と思った次第であります。。。




ヒッキー的満足度★★★★☆







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「野獣死すべし」

2021-01-02 17:26:58 | Weblog
(C)KADOKAWA1980



あけまして、おめでとうございます(^0_0^)

今年もマイペースで、レビューを載せてゆきますので、何卒、よろしくお願い申し上げます(^^♪

といういわけで、新春第一弾、角川映画9発目は、いよいよ(?)出ました「野獣死すべし」です(^^♪

危険な香り漂うっつうか、ヤバい感じの映画です。。。


これが公開されたのが、1980年の10月だから、私まだ中学生だったせいかどうかは忘れちゃったのですが、リアルタイムで映画館では観なかったように記憶しているのですが、高校で同じクラスになったW君(元気かな!?)が、熱烈な松田優作ファンで、この「野獣死すべし」の、リップバン・ウィンクル~の列車内のシーンの演技を「完コピ」していて、演じて見せてくれたのを、今でも憶えております(^^♪

この作品、監督は「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」「処刑遊戯」「蘇える金狼」の村川透。
脚本は「処刑遊戯」やTVドラマ「探偵物語」、そしてこの後に「ヨコハマBJブルース」などの優作さん主演の作品を手掛けることになる、丸山昇一氏によるものです。
原作は大藪春彦の同名小説ということになっていますが、原作と映画では主人公の描き方などにかなり違いがあるとのこと。

この映画の主人公・伊達邦彦(松田優作)は、東大卒の大手通信社の戦場記者。
世界各国の戦場を渡り歩いて、衝撃的な写真を撮り続けていた。
その送られてくる写真があまりに加熱しすぎるとのことで、上層部が見かねて日本に伊達を呼び戻した。。という感じなのですな。。

この優作さん演ずる伊達邦彦のキャラクターが、見た感じですでに浮世離れしています。。


青白い顔色に、長身の痩せ細った体型、虚ろな眼差し・・・。

このキャラクターの役作りのため、優作さんは10kg近く減量をして、奥歯を4本抜いた、という話は伝説になっています。。
優作さん曰く「できれば身長をイメージ通りにするため、脚を五センチくらい切りたかった」とのこと。。。

土砂降りの雨の夜に、警視庁の警部補を刺殺し、奪った拳銃で闇カジノを襲う、強盗殺人事件が起きます。。。目撃証言などから、犯人は痩せた180cmくらいの男。。
犯人は伊達邦彦でした。。

通信社を辞めた伊達は、翻訳家のかたわら、好きなクラッシック音楽に浸っている様子なのですが。。。

クラシック音楽のコンサートで、偶然隣に座った華田令子(小林麻美)が、伊達に好意を寄せてきます。。

隣に座っただけで~!なじょしてこげんきれいかおなごが(どこの言葉じゃい!(^^♪)とも思うのですが、小林麻美さんの表情の変化が、とても上手いので、なるほどなぁ・・という感じです。

実は伊達は次に、銀行強盗を企んでいるのですが、一人ではキビしいとの判断で「もう1人」を探しているところで、レストランのウェイターである真田(鹿賀丈史)に目を付けます。


この鹿賀丈史さん演ずる真田の登場するレストランのシーンが、キレてる感じで、インパクト強いっす!
大卒のエリートたちの宴に、アウトローの真田がウェイターで。。。
何気に大卒集団を仕切っているのが、風間杜夫さんだったりして、アフロヘアーの鹿賀丈史さんとの対比が、印象的なシークエンスです。

行き場のないフラストレーションを腹の底に抱えている真田を、伊達は「もう1人」として選びます。

雷雨の夜、別荘で、この真田に食らわす伊達の説法のシーンが、これまたイっていて、危険なことこの上なしという感じです。
このシーンでいつの間にか殺されてしまっている、真田の恋人を演じているのが、根岸季衣さんで、フラメンコを踊るシーンなんかは、さすがだなぁと思いました。

なんでも、このころの優作さんは、スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」の影響を受けていたという話もあり、そう言われると確かにデ・ニーロが演じたベトナム帰還兵トラビスと、優作さん演ずる元戦場記者、伊達邦彦というキャラクターが、重なる部分もあるなぁ・・という感じはします。

下調べを周到に済ませた(この下調べで宝石商の支配人が疑われて逮捕されるというのが、なるほど!という面白さがあるのですが)伊達は、真田と2人で、銀行強盗を決行します。

このシーンで、どういうわけか銀行の職員は次々と撃たれていくのですが、来ていたお客さんは撃たれずに済んでいたのが、たまたま近所(?)の会社から社用で来ている令子と伊達は遭遇してしまいます。。。
伊達はマスクを取って。。。

という感じになるのであります。

しかし、観終わってから、思い出してみると、この小林麻美さん演ずる華田令子というキャラクターって、セリフがあまり無いことに気付きます。ホントにセリフ少ないです。
これだけの少ないセリフで、画面に登場するシーンもそれほど多くはないのに、印象強く残るというのがスゴい。


ネタバレになっちゃいますが、伊達を見ながら、崩れ落ちてゆくスローモーションは、ディープ・インパクトです。

伊達を執拗に追い回す刑事・柏木を室田日出男さんが演じています。

前述の警部補刺殺があってから、長年の刑事の勘で、伊達のあとをつけていきます。

件の銀行強盗があった後も、東北本線の夜行列車の中まで、伊達をつけて、乗り込んできます。

この列車内での伊達と柏木とのやり取りが、前述の「リップバン・ウィンクル」のシーンです。
リボルバーの拳銃の弾倉に、伊達はひとつだけ弾を入れて、リップバン・ウィンクルの話をしながら、柏木を追い詰める。。このシーンが、この映画のハイライトの一つだと思います。


この「野獣死すべし」のあとも「スローなブギにしてくれ」ではスナックのマスター役で角川映画に出演されている室田日出男さん。私の好きな俳優さんのひとりです(^0_0^)

走行中の列車から「一時撤退」と称して、窓ガラス割って伊達と真田が飛び出してゆくシーンは、「ホンマかいな」とも思いましたが、日本映画が斜陽と言われていたこの頃に、思い切りこういう作品を作れたというのは、角川映画のスゴいところだなぁ、と、思いました。

終盤のシーンで、優作さん演ずる伊達の、長回しの一人語りがあって、ラストにつながっていきます。

このラストシーンは、私は伊達が「撃たれた」という認識で終わったのですが、このレビューを書く際に、Wikipediaなどを読みましたら、どうやら色々な解釈があるようで、諸説紛々なのだそうです。。。

当時のこの映画のTVスポットは、優作さんが拳銃を耳元で振って「こんなハードボイルドが、あるのか・・・。」というナレーションがかぶる、といった感じだったのを、憶えております。

1989年にリドリー・スコット監督作の「ブラック・レイン」で、悪役「佐藤」を演じて、それが映画としては優作さん最後の作品になるわけですが、「狂気」という点では、その「佐藤」にも負けていないキャラクターを、この「野獣死すべし」で既に演じていたというのが、本当にスゴい俳優さんだなぁ、と、思う次第であります。

同級生のW君が、眼を輝かせながら、演じてみせてくれた、この映画の主人公。
もう四十年近く会ってないけど、まだどこかで元気にしていることを、祈りつつ。。。(^0_0^)




ヒッキー的満足度★★★★







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