俺は気の向くままに旅をしている冒険者だ。
生まれ持った才能と剣の腕で、今までも幾多の危機を乗り越えてきた。
金持ちの貴族や領主に金で雇われたこともある。
彼らは自分の部下たちの手に負えない困難で危険な任務を俺に押しつける。
伝説の宝を探し求めつつ、恐ろしい怪物や獣と戦うこともあった。
そんな戦いの日々を俺は求めていたのかもしれない。
様々な経験を積んできた俺の目は鍛え上げられている。
行く手を遮る者は誰であろうと容赦しない。
常に任務を達成してきた俺の名声は世界中に響き渡っている。
村や町へ訪れれば、瞬く間に俺が来たという噂が住民たちの間に広まる。
ドラゴンを倒した勇者なんて、片手で数えるほどしか世の中にいないのだから…
ある日の夕方、俺は辺境の地を歩き続けていた。
そして数時間ほどでシルバートンに到着する。
シルバートンはアランシアの主要な商業ルートが交差する地点だ。
雄牛たちに引かれる大きな木製の荷車が通りを行き交っている。
荷車には薬草、香辛料、絹、金属製品、珍しい食物などが山積みされている。
長年に渡ってシルバートンは繁栄してきた。
裕福な商人や仲買業者が遠くの市場へ向かう際の中継地点だったからだ。
凝った装飾の施された建物や高級な服を着た人々の姿を見れば、
このシルバートンが豊かな商業都市だということがわかる。
TAKAYAN(だが、何か妙な感じだ…)
何となく人々が神経質で、気が張り詰めているように見える。
T「おや?」
よく見ると、全ての建物の窓が鉄格子で覆われ、扉も補強されている!
T「ひょっとしたら、大型の台風が接近しているとでも…?」
しかし、占い師の天気予報では、当分は晴れの日が続くはずだ。
シルバートンの人々は何を恐れているんだろう? 気になる…
T(よし、とりあえず宿を見つけよう)
この平和な市場を何者かが脅かしている。
ここに泊まって、その正体を確かめてやろうじゃないか。
☆ゴーン★ ★ゴーン☆
大通りを歩いていくと、高い塔の上から単調な鐘の音が響いてくる。
すると、一人の男が叫ぶ。
男「夜だ! 夜が来た! 早く家の中に入れ!」
途端、人々は深刻な顔で足早に行き交う。
女性「あなた、死にたいの!?(*#・`□・´*)」
一人の若い女性が俺を見た途端、血相を変えて怒鳴った。
T「お、俺が何をしたっていうんだ…(´・○・`; )」
通りの向かい側に〈OLD TOAD〉という看板を掲げた一軒の酒場がある。
T「また怒鳴られるのも嫌だし…」
俺は酒場へ入ってみることにした。
T(やっぱり俺は有名人らしい)
俺を見た途端、酒場の客たちは目を丸くする。
何人かの客はジョッキを置いて、俺の顔を見つめている。
だが、不思議なことに誰も近寄ってこない。
T(俺のことを知っているなら、誰だって冒険の話を聞きたいはずなのに…)
俺は少し面食らった。
T(まあ、どうでもいい。それよりも部屋代を…)
気を取り直してカウンターにいる店のマスターに声を掛けてみる。
T「一夜の宿と熱い風呂を用意してほしいんだが、いくらだ?」
マスター「……」
マスターは俺を無視して樫材で作られた大きな扉の所へ行くと、
頑丈な六つの差し込み錠をロックしてしまう。
そして俺の方を向いて囁く。
マスター「部屋代が銅貨5枚、風呂が銅貨1枚、合計で銅貨6枚になります。
できれば、前金でお願いします」
俺はベルトに吊り下げたポーチから銅貨を取り出すと、カウンターに投げ出す。
そのとき…
★ドンッ☆ ☆ドンッ★ ★ドンッ☆
誰かが樫の木で作られた扉を激しくノックした。
?「開けてくれ! 開けてくれ! 私はオウエン=カラリフだ」
マスターは忍び足で扉に近づくと、鍵を取り出して錠を外した。
すると、贅沢な真紅のローブを着た男が飛び込んでくる。
男「た、助かった…」
オウエン=カラリフという男は切羽詰まったような顔で酒場の中を見回す。
そして俺の姿を見ると、早足で近づいてくる。
それにしても、ちょっと太りすぎだな。
T(ダイエットしたほうがいいぜ。明らかに運動不足だ)
大粒の汗で光る男の額を蠟燭の明かりが照らし出す。
オウエン=カラリフ「旅の方、ぜひとも相談したいことがある!」
オウエン=カラリフが大声で叫んだ。
T「相談? 俺に?」
オ「どうか座ってくだされ。順を追って話します」
☆パチンッ★
男は酒場のマスターに向かって指を鳴らして、酒と料理を注文する。
この様子からして、オウエン=カラリフはシルバートンの要人に違いない。
だが、彼は苦渋に満ちた顔をしている。
興味が湧いたので、俺は彼の話を聞いてみることにした。
オ「さあ、どうぞ」
オウエン=カラリフはテーブルの椅子を引いて、俺を座らせる。
そこへ酒場のマスターが料理を載せたトレーを持ってきた。
テーブルの上に熱いスープ、ガチョウのロースト、蜂蜜酒などが並べられる。
オ「ゆっくりと召し上がってください」
T「じゃあ、遠慮なく…」
真紅のローブの男は俺の向かい側に腰を下ろすと、食事をする俺を見守る。
まるで俺を値踏みしているような感じだった。
・
・
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俺が食事を終えて皿を脇に寄せると、オウエン=カラリフは身を乗り出した。
そして低い声で話し始める。
オ「噂のTAKAYAN様ですね…?」
T「TAKAYANでいいよ」
オ「私はオウエン=カラリフと申します。このシルバートンの市長です。
あなたの活躍は知っています。どうか力を貸していただきたい。
我々は今、大きな危機に直面しているのです」
T「確かに市民の様子は普通じゃなかったな」
オ「シルバートンは呪われています。
その呪いの源を絶たなければ、人々に未来はありません」
T「呪いだって!?」
オ「それは十日前のことでした。
この市に巨大な黒い馬に乗った二人の悪魔の使者が現れたのです。
馬の目は燃えるように赤かった! しかし、使者たちの顔は見えなかった。
二人共、漆黒の外套を着顔はフードで覆われていたからです。
彼らの声は冷たく、風が吹くような音を伴っていました。
二人が私を名指しで呼んだので、私は要件だけでも聞くことにしたのです」
T「そ、それで…?(゜○゜)」
いつの間にか俺はオウエン=カラリフの話を夢中になって聞いていた。
オ「『お前の娘をザンバー・ボーン様に差し出せ』と言ってきました!(´△`|||)」
T「ザンバー・ボーン…! 聞いたことがあるぞ。
確か闇の王者と呼ばれている化け物…」
オ「やっぱりTAKAYANも御存知でしたか」
T「それで、あんたは使者たちの申し出を…」
オ「もちろん、断りました。
すると、二人は何も言わずに悔しそうな顔をして向きを変え、
肩を落として去っていったのです。
そのとき、私は漆黒の外套に包まれた魂の無い骸骨の体に気付きました。
あの二人はスピリット・ストーカーだったのです。
ザンバー・ボーンが好んで差し向ける怪物です。
目的を果たすためなら、スピリット・ストーカーは自身の命を惜しみません。
おまけに簡単には死なないという、厄介な相手です。
この邪悪な存在を永遠の闇の世界から解放したければ、
銀の矢で心臓を貫かなければなりません。
それに、スピリット・ストーカーを倒しても、まだザンバー・ボーンがいます。
どんな方法を用いれば、あの闇の王者を葬ることができるのやら…
闇の王者の手先が立ち去った日の夜から我々の苦難が始まりました。
ザンバー・ボーンは腹を立て、私たちを痛めつけるために、
六匹のムーン・ドッグを差し向けてきました。
それぞれが剃刀のような鋭い牙を持っています。
四人の男が束になっても勝てないほどの化け物たちです。
ムーン・ドッグたちはシルバートンに忍び込み、住人を襲いました。
開いた窓から家の中に押し入って、哀れな人々を殺したのです。
次の日の朝にわかったのですが、犠牲者は全部で二十三人でした」
T「恐ろしい話だ…(((((((・・;)」
オ「そこで我々は窓に格子を取り付け、扉に錠を下ろしました。
それでもムーン・ドッグたちは毎晩のようにやってきます。
あいつらが家の中に入ってくるのではないかと思うと心配で、
ゆっくり寝ることもできません。
人々の中には『ミレルを闇の王者に差し出してしまえ!』とか、
『お前が要求を呑まなかったからだ!』とか言う者もいます。
ああ、臆病風に吹かれた裏切り者たちめ…(。-`へ´-。)
彼らを奮い立たせてやりたいとも思ったが、それが何になるでしょう?
しかし、たった一つだけ希望は残っているのです。
それはニコデマスという魔術師です」
T「ニコデマス?」
オ「彼はポート・ブラックサンドにいるはずです」
T「ポート・ブラックサンドだって!?
この辺りに出没する悪党共の巣窟じゃないか!
海賊、盗賊、山賊、殺し屋たちがいる物騒な都市だ。
どうしてそんな所に住んでいるんだよ?」
オ「多分、面倒に巻き込まれるのが嫌になったのでしょう。
彼は何度も私たちを助けてくれました。
今は安らかな日々を過ごしたいと望んでいるのではないでしょうか。
ニコデマスは老練で賢く、実力のある魔術師です。
〈盗賊都市〉と呼ばれているポート・ブラックサンドにいても、
簡単に殺されるようなことはないはずです」
T「その男を見つけ出せれば、何もかも解決ってわけか…」
オ「そこでTAKAYANに力を貸してほしいのです。
この男を除いてザンバー・ボーンを倒せる人物はいません。
ずっと前から彼は私の親友でした。我々には彼が必要なのです。
何とか彼を見つけ出して、ここへ連れてきてくれませんか?
シルバートンの人たちは頼りになりません。
誰もポート・ブラックサンドへ足を踏み入れようとはしないのです。
ニコデマスを連れてきていただければ、お礼は十分にするつもりです」
T「ちょうど退屈していたのさ。よし、引き受けよう」
オ「あ、ありがとうございます! この金貨を旅費に使ってください」
俺はオウエン=カラリフから金貨が30枚入った袋を受け取った。
オ「これもお持ちください」
オウエン=カラリフは立ち上がると、真紅のローブの下から剣を取り出す。
見事な幅広の剣だ。
T「これほどの逸品は今まで見たことがない。うっ…(>_<")」
軽く刀身に触れただけで、俺の指から血が滴り落ちる。
T「こいつはすごい…」
その金箔の蛇が絡んだ装飾の施された剣に俺は目を奪われていた。
T「それじゃ、ポート・ブラックサンドを散歩してくるか♪」
俺は立ち上がって、右手をオウエン=カラリフに差し出す。
その手を彼は強く握りしめると、こう言う。
オ「あなたは夜明けの光と共に出発なさるといい。
その頃ならムーン・ドッグたちもいないでしょう。
今夜は私もここに泊まることにします。
さあ、あなたの成功を祈って、一緒に飲みましょう。
あなたに神の加護があらんことを…」
酒が大の苦手な俺だが、今夜ばかりは申し出を受けることにする。
T「既に蜂蜜酒を飲んでいるから、一杯しか頼まないぞ!」
オ「構いませんよ。私も酔わない程度にしておきます」
それからオウエン=カラリフは俺の任務について話し始めた。
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オ「TAKAYAN、わかりましたか?」
T「ああ、おかげで迷わずにポート・ブラックサンドへ行けそうだ」
俺は〈盗賊都市〉までの道筋を頭に叩き込んだ。
オウエン=カラリフはポート・ブラックサンドについて簡単に話す。
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そして一時間が過ぎた。
T「よし、全ては明日からだな」
オ「ゆっくりと眠って、英気を養っておいてください」
T「ああ、そうさせてもらうよ」
俺は剣とザックを持って、木の階段を上って寝室へ入る。
T「……」
オウエン=カラリフにもらった新しい剣という味方があるというのに、
なかなか寝付くことができない。
オウオウ~! オウオウ~!
闇の王者の飼い犬たちがシルバートンを徘徊している。
ムーン・ドッグの咆哮… 鼻息… 爪を研ぐような音が聞こえる…
T「ちっ…」
俺は夜中に何度も目を覚ました。
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やがて朝が来た。俺は早起きして、既に身支度を済ませている。
T(一刻も早くポート・ブラックサンドへ行って、ニコデマスを見つけないと…)
?「にゃお~ん♪(=・○・=)」
T「…!!(; ゜◇゜)」
酒場を出た途端、一匹の黒猫が足元を横切り、危うく俺は転びそうになる。
T(不吉だ…)
嫌な予感がする。俺は生きて〈盗賊都市〉を出られるだろうか…?