2016.6.13 06:00更新
【酒井充の野党ウオッチ】
民進党がどんどん共産党に蝕まれている…岡田代表、ホントにこれでいいんですか?
http://www.sankei.com/premium/news/160606/prm1606060004-n1.html
民進党の“共産党化”が止まらない。その象徴的な場面が通常国会閉会日の6月1日昼、国会内で開かれた共産党議員団総会で見られた。志位和夫委員 長ら国会議員32人全員が勢ぞろいした総会で、参院選(6月22日公示、7月10日投開票)の比例代表で改選を迎える田村智子副委員長が、こう決意を語っ た。
「きょう午前中、参院の委員会や本会議が終わったときに、(改選1人区で)野党統一候補となった民進党の現職議員何人かと固く握手を 交わしました。『必ず戻ってこようね』とお互いに握手しましたが、同時に思わず私、口に出てしまったのが、『勝たせますから!』という言葉でした」
民進党の候補者は共産党が勝たせるのだそうだ。
随分と高飛車な物言いに聞こえるが、田村氏は「こんなふうに他党の議員の方と儀礼的ではない、ある意味、同志的な握手を交わして選挙を迎えられるのは、本当に劇的な情勢の変化を感じます」と続けたのだから、本音なのだろう。
民進党と共産党の議員は同志なのだそうだ。
そういえば、民進党の安住淳国対委員長も4月に共産党の新役員の表敬訪問を受けた際、共産党の幹部に「身内みたいなもんだから」と親しげに語っていた。
ことほどさように、「民共一体化」は当事者も認めるところとなっている。それなのに民進党の岡田克也代表は繰り返し「共産党と政権をともにすることはない」と明言している。選挙協力は進めるが、政権はともにしない-。有権者にとって、こんなに分かりづらいことはない。
民進党と共産党は政権への道筋さえ一致していないのに選挙で共闘するのだそうだ。
「選挙に勝つことだけが目的だ」といった「野合」批判もなんのその。民進、共産両党に社民、生活両党を加えた野党4党は参院選で、全国に32ある1 人区すべてで候補者を一本化した。ちなみに志位氏は候補者の一本化を「野党統一候補」と表現しているが、民進党は「選挙協力」という言葉さえ忌避してい る。選挙協力でなければ何なのか。これもまた、有権者には分かりづらい詭弁でしかない。
32の1人区の野党統一候補の内訳は、民進党15人、共産党1人、無所属16人となっている。共産党唯一の候補が統一候補として出馬するのが香川選挙区だ。
自民党の大平正芳元首相を輩出した香川県は保守系が強いイメージがあるが、民進党の衆院議員も2人いる。香川1区を地盤とする小川淳也氏(比例四国)と、2区選出の玉木雄一郎氏だ。自民党の同県選出衆院議員は3人なので、決して引けをとっていない。
民進党は4月に党所属県議の擁立を決めて発表し、党本部も推薦を決定した。だが、民進党や無所属の統一候補が他の1人区で次々と決まり、候補を取り下げていた共産党が香川に白羽の矢を立てた。最低でも1つは共産党公認の統一候補の選挙区がほしかったからだ。
香川県では過去に共産党の国会議員が1人も当選したことがない。共産党の強い地盤がある京都府などならともかく、「共産党不毛の地」と言っていい香川で共 産党の統一候補が誕生するのは、不自然でもある。要は、共産党との選挙協力を進めたい民進党執行部の“犠牲”になったのだ。
玉木氏は推薦を決めていた県議の出馬取り下げが明らかになった5月20日、ツイッターで「香川県の有権者の皆様に選択肢を提示できず心からお詫び申 し上げます。なお『一本化』と報じられていますが、共産党候補を推薦するようなことはありません」と釈明した。共産党が野党協力のために候補取り下げを決 めた2月ごろに民進党系の自前候補を用意していれば、このような事態には至らなかったはずだ。今となっては、ただの言い訳にしか聞こえない。
一方、野党統一候補となった他の1人区の民進党候補は今後、共産党の熱烈な支援を受けることになる。従って、民進党は共産党と敵対することができなくなった。
民進党の妥協や譲歩は選挙の協力だけではない。岡田氏は5月18日の党首討論で、憲法改正案を示すよう求めた安倍晋三首相に対し「憲法9条は当面変える必要はない。だから案はない」と言い切った。共産党と全く同じ主張だった。
憲法改正の議論さえ封じるとは国会議員としてあるまじき態度だが、民進党内には憲法改正論者もいる。例えば、前原誠司元外相は自衛隊の存在を明記する9条 改正に賛成の立場をとる。もっとも、その前原氏も4月の衆院北海道5区補選で、かつて「シロアリ」と批判した共産党の小池晃書記局長らとともに街頭演説を 行った。共産党は着実に民進党に浸透している。
保守系の長島昭久衆院議員は5月16日のフェイスブックに「じわじわと民共の選挙協力の話 がなし崩し的に深まり、いよいよ出処進退の正念場を迎える」と記した。正念場がいつなのか不明だが、ますます民共の選挙協力が進んでいる中でも、長島氏が 出処進退をはっきりさせる気配はない。
彼らは外に向かっては威勢のいいことをいうが、結局、共産党との一体化を進める民進党幹部にはモノがいえないようだ。
岡田氏が「共 産党と政権をともにしない」と強調しても、それとは裏腹に民共一体化に突き進んでいる。岡田氏は5月19日、安全保障関連法を「戦争法」と呼んで廃止を求 める市民団体が国会内で開いた会合に志位氏らと出席し、1200万超とされる廃止を求める署名を受け取った。
岡田氏は「戦争法」と呼ぶことを避けるが、あいさつでは「本当に多くの皆さんにご理解をいただき、これだけたくさんの署名を集めていただいて心から感謝を申し上げる」と最大限の謝辞を述べた。ついに「戦争法」の呼称を認めたようだ。
署名は、安保関連法を「戦争法」と決め付けて廃止を求める市民団体「総がかり行動実行委員会」が中心になり、昨年11月から2000万を目標に賛同を募っ ていた。岡田氏が「皆さんからいただいた力を糧にして、参院選で力を合わせてがんばっていきたい」と述べ、共産、社民、生活各党とともに勝利に向けた決意 を表明すると、大きな拍手を受けた。
岡田氏からマイクを受け取った志位氏も、民進党公認候補に一本化した選挙区も含む1人区について「自分たちの候補と同じように勝つために必要なことは何でもやるという構えでがんばり抜きたい」と応じ、相思相愛ぶりを示した。
民共一体化は進むばかりだが、民進党のみならず、なぜか共産党もその指摘に反発している。志位氏は、安倍晋三首相が「民共の一体化」を指摘した1日の記者会見の後、党本部で記者団にこう語った。
「私たちは太いところで、大きな理念で一致している」
志位氏は、一致している「大きな理念」の具体例として、「戦争法」の廃止と「立憲主義の回復」を挙げた。志位氏によれば、「立憲主義の問題は、あれこれの政策以前の国の土台にあたる部分」だという。
だが、民進、共産両党は本当に「大きな理念」を共有しているのだろうか。共産党は党綱領で日米安保条約の廃棄や自衛隊の解消を明記している。皇室制度も本 来は廃止を目指している。なにより革命政党の看板を降ろしていない。だから岡田氏は「政権をともにすることはない」と強調しているのだが、大きな理念とは こういうことを指すのが普通だ。
志位氏は記者団に対し、参院選で共闘する野党4党が目指すべき共通政策として、アベノミクス、環太平洋戦 略的経済連携協定(TPP)、沖縄の米軍基地問題、憲法改正を挙げた。共産党にとってみればいずれも反対だが、民進党は本当に反対なのか。「アベノミクス は失敗した」との主張は一致しているが、TPPの交渉参加検討も米軍普天間飛行場の移設も旧民主党政権で決めたことだ。
首相が表明した来年4月の消費税10%引き上げの再延期に関しても、両党は見解を異にしている。共産党が「増税中止」を求めているのに対し、民進党 は平成31年4月までの2年「延期」を主張している。来年4月の増税反対では一致しているが、「中止」と「延期」では意味合いが全く異なる。税制の根本で 一致していないのに選挙協力を進めることは、有権者に混乱を招くことになりかねない。
今からでも遅くない。「大きな理念」を共有して本当 に安倍政権打倒を目指すならば、候補者の一本化などという生ぬるいことを言っている場合ではない。民進党と共産党は真剣に合流を検討し、岡田氏の持論でも ある「政権交代可能な二大政党制」の一翼を目指せばいい。その方が有権者にとっても分かりやすい。今さら何の遠慮があるというのだろうか。