戦後、経済自立の道として、工業立国、農業立国あるいは貿易立国などとやかましく叫ばれて、多くの金も費やされました。
しかし私は観光立国こそ、わが国の重要施策として最も力を入れるべきものと思います。というのは、なんと言っても観光立国によって生み出されてくる最大の利益は、日本が平和の国になるということにあるからです。
ですから観光立国は何も金もうけのためだけでやるのではありません。持てるものを他に与えるという博愛の精神からも、また国土の平和のためという崇高な理念からも、堂々とこれを実行すべき唯一の立国方策なのです。
昭和28年九月二十二日 新政治経済研究会一周年記念講演
松下幸之助「私の履歴書」 日本経済新聞社