意思による楽観のための読書日記

不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 孫崎享 ***

元外交官の孫崎享が2011年に執筆した本。日本人が中国の大国化の現実を直視せず、同時に起きている米国の世界戦略転換をも直視できていないことを指摘、対中国戦略の見直しを、多くの日本人が潜在的に持ちたがっている中国に対する優越した意識から変えていく必要があると説く。

1. 経済面で中国が米国を凌駕するのは2020年、その時中国の経済規模は日本の約三倍。中国の国防支出は米国並みを目指しているため、日本の防衛費の12倍となる。
2. 米国はこうした変化を受け、第二次大戦後日本をアジアにおける最重要パートナーと位置づけてきたが、2020年までに中国を東アジアでもっとも重要な国と位置づけるだろう。
3. こうした状況下、米国は日本を防衛するために中国と軍事的対決をすることはない。その条件とは以下のとおり。
 ・中国の核兵器が米国を攻撃できる能力を十分持つ。
 ・日本と韓国に分散した基地しか持たない米国と全土に軍事基地を展開する中国との軍事バランスが中国優位になる。
 ・日本の少子化、高齢化が進展、経済停滞から国際競争力が一層低下する。

こうした認識のもと、日本が尖閣諸島の実効支配を既得権益と考え、中国への敵対的姿勢を継続するなら、中国との軍事的衝突は避けられず、その時には米国は手を出せず、日本に勝ち目はないいだろうと予測する。米国は「領土問題には中立を唱えており、日本の施政下にある場所には安保条約が適用される」としか言っていない。つまり、軍事的に中国が尖閣諸島を実効支配してしまった場合には、その防衛は自衛隊が行うのであり、防衛に成功できない場合にはその場所には安保条約は適用されないと言っているに等しい。

ロシアとの北方領土交渉の中で、ロシアは第2次大戦で国後、択捉を含めた千島列島はロシア領となった、と主張している。つまり、日本はポツダム宣言を受け入れ、サンフランシスコ講和条約で国後、択捉を放棄したはず、だからその事実を認めないかぎり北方4島の交渉には入れないということ。日本政府はポツダム宣言受諾とサンフランシスコ講和条約締結を出発点とする限りはまずはその主張を認める必要がある、というのが筆者の主張。

竹島に対する韓国の主張にも耳を傾ける必要があり、自国の主張のみを唱える外交交渉は成立しないと説く。

ではロシア、中国、韓国という隣国との対話はどのようにするべきなのか。まずは領土問題を武力衝突にしない、という決意が必要。そして、二回の大戦を経てフランスとドイツがEUという形で手を結んだように、領土問題を勝利する、という考え方から離れ、アジア諸国との共存共栄のための戦略を平和的手段で進める方法を探る必要がある。そのためにはASEANや国連の枠組みを活用、米国はこれを望んでいないのだが東アジア共同体構想を進めることが重要と説く。鳩山元首相時代にこの構想を持ちだした時にはすぐさま米国に叩かれ首相の座を追われてしまったが、日米安保条約も含めた大きな枠組を見直す必要があるというのが筆者の認識である。ここまでが筆者の主張。

さて、日米安保条約がある時代しか経験していない多くの日本人にとって、より大きな枠組の安全保障体制を考えて、実現することは可能なのだろうか。ポツダム宣言受諾とサンフランシスコ講和条約、そして日米安全保障条約はそのすべてが現在の日本の出発点となった事柄であり、それらの否定は歴史認識を誤ることに繋がる。つまり、一部の学者や政治家のように占領下のGHQにより押し付けられた憲法だから見直しが必要だ、といっても、現憲法自体を否定することは不可能である。しかし、一方で米国との安全保障条約を見なおし、基地を撤廃してしまったフィリピンは、その後中国に幾つかの岩礁を奪い取られ、慌てて再び米国の軍隊の駐留を認める動きである。ナショナリストである安倍政権下での憲法改正議論に加わりたくはないのだが、憲法を含めた日本の安全保障の枠組みについての議論と将来ビジョンの提示が必要となっていることをひしひしと感じる。

2020年までに、と予測する筆者の言うようにならなければいいが、いざ尖閣列島での有事発生の際に、なにが日本にできるのか、それまでにやるべきことは何か、時間はもう数年しかないということである。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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