意思による楽観のための読書日記

昭和の京都 浅野喜市 ****

京都に昭和29年に生まれ育った自分には大変懐かしい景色であり、今の京都がある意味でいやになったことの裏返しの光景である。高いビルがない、看板がない、タレントショップがない、だから荒神橋だったか、出町柳の今出川橋だったか、五山の送り火が全部みえた、という記憶がある。京都はどこかでブレーキをかけ損ねたと思う。東寺よりも高い建物は建てない、という不文律があったはずなのに、京都ホテルを建て、京都タワー、蛸薬師にアジビルイレブンという11階建が建ったときにも問題になったはず。そして極め付きは京都駅である。文化破壊を止めるべき京都市が率先して駅ビルを建てたことに唖然とした。JR京都駅で嵐山に向かう旧山陰線に乗ると途中二条城あたりで東山連山が望めるが、林立するビル、色とりどりの看板、東山の山際には連なる高層マンションが見える。嵐山は一番嫌になる。カレーショップ、オルゴール館、美空ひばり館、ケバケバシイおみやげ店、嵐山には相応しくないし、こんなに多くの店は要らないではないか。ひと昔前には日本の良さを求めてきた日本を知っている観光客はこんな京都は見たくないだろう。七条通りから北だけでも守って欲しかった。まさか再び鴨川の三条と四条の間に橋をかけようなんて言い出さないでしょうね。もう昭和の京都を取り返すことは難しい。アレックス・カーはこんな日本には住みたくないと徳島からタイに移住してしまったと言うが、僕の故国は日本であるので移住はしたくない。しかしもう京都には住みたくはない、なんということだ。京都に住む人にはこの本を読んで、何がまずかったのか考えてほしい。
昭和の京都
美しき日本の残像 (朝日文庫)
犬と鬼-知られざる日本の肖像-
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