意思による楽観のための読書日記

水無月の墓 小池真理子 ***

幽霊に出会う、幽霊になる、死んだ人間が死にきれないで現世を漂う、生きている人の前に現れるなどという短篇集。


小さい時によく実家に来ていた叔母、ある時交通事故にあって亡くなった。ある日、ひとりでオフロに入ったとき、開け放っていたお風呂のドア越しに、亡くなったはずの叔母の足だけが応接間に見えた、という小さい日の記憶がある。義理の妹の家を尋ねる。直前に車で事故を起こしてからはタクシーで来ることにしている。合鍵で妹の家に入るが、まだ誰も帰っていないようだ。妹には娘がいる。気がついたら仏間で寝ていた。妹とその娘も帰ってきているようだ。娘が風呂にはいる。ふと気になって仏間でペディキュアを塗り直すために、早く乾くように足をソファーにかけた。風呂場から、妹の娘が悲鳴をあげるのが聞こえる。

神かくし
小さい時から友達がいなかった。唯一の友達は傲慢な女の子、いつも私をいじめたが、友達がいない私は一緒にいた。ある日いつものようにねちねちと私をいじめたその友達をおきつね神社に誘った。かくれん坊をする。女の子にはひとつのルールを提案する。この壁から手を離してはいけないのよ。その夜、友達が家に帰っていないと連絡があったが、知らないと答えた。その子は行方不明になった。同じように私をいじめたり乱暴した人はみんなそのおきつね神社に連れていった。みんな行方不明になった。私にはいつからこんな能力を授かったのだろうか。

夜顔
体が弱く友人がいない私は実家の新潟から大学に入るために東京に出てきた。それでも体の具合は良くはならなかった。大家さんに散歩を勧められ毎日歩くようになった。ある家の庭に興味がそそられた。庭には花が咲き、窓の中からは人の声が聞こえたが、一度も家族の姿を直接見ることはなかった。3年経ったある日、初めてその庭に女性とその旦那様、そしてその娘を見た。女性は庭の花を差し上げるわ、といった。そのうちに家の中に招かれるようになり娘やご主人とも仲良くなった。女性とそのご主人には心が惹かれた。大家さんからは、恋しているの元気になってねえ、と言われた。新潟の実家で弟が事故にあってしばらくその家に行けなくなり、しばらくたって東京に戻ったときにはその家は廃屋のようになっていた。聞くと、3ヶ月前にその家の家族は一家心中したという。仲良く談笑したあの家族はすでに死んでいたのだ、私は誰と話をしたのだろうか。

流山寺
ローンを組んでマンションを買ったとたん主人が亡くなり女性は一人になった。半年後、ある夜、帰宅すると亡くなったはずの主人が家の中に座っている。驚くがわざとらしい対応をすると居なくなってしまいそうで、生きているように話をした。一晩一緒にいて朝にはいなくなった。何ヶ月かそうした訪問があったが、ある日消えるように出ていったきりもう二度とは来なかった。

小さい時からぼんやりして育った私が友人に殺されてしまうが、ぼんやりしていて殺されたことに気がつかない「ぼんやり」。雪のふる夜に訪ねてきた若い男性を別荘に案内するが、それは狐だった「深雪」、小さい時から居場所がなかった気がする私、ある時周りに誰もいなくなって初めて居場所があったときがついた「私のいる場所」、美大生の時に恋におちてその不倫相手が交通事故で死んだ。20年後その相手の当時の助手が食事に誘ってくれたが、その顔は不倫相手だった「水無月の墓」。

短編小説はその人が書く長編小説の種明かしであり舞台裏である。小説家を志すなら短編小説を読んでみることだ。
水無月の墓 (新潮文庫)
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↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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