意思による楽観のための読書日記

空山 帚木 蓬生 ****

俊子と亡くなった達士、真紀と慎一の二組の恋愛物語が背景にあるのだが、メインは九州の美しい山村での産業廃棄物処理施設問題である。真紀が暮らす村は五条村、そこでもごみ問題が発生するが、慎一の知恵と村人たちの協力で焼却施設を村民たちがモニターしながら、温浴施設を併設することでうまく並存している。隣の草野市の市議会議員に立候補し当選した俊子は商店街活性化やごみ問題に取り組もうと勉強する。あるとき、五条村の裏にそびえる菅生連山の頂上に登った俊子は山の向こう側の上山町側の赤谷に、ごみの山が積み上げられ、産業廃棄物らしきものまで捨てられ燃やされている光景を目にする。さらにその隣の黒谷には新たに大規模なごみ処理施設が建設中らしいのだ。俊子は市議会の女性議員5名で「手の会」を結成、隣町にできるごみ処理施設と、不法と思われる五味投棄が地下水を汚染する可能性と地下水でつながっている五条村や草野市への悪影響を訴え始める。

さまざまな妨害が入り、上野町の市長や議員たちも利権に群がり、人をあやめることまでに手を出していることを知り怒りを感じる。ごみ問題最大の山場は、上野町で開かれた公開のごみ処理シンポジウムでの慎一の講演である。
ゴミは五味
1. 水銀、カドミウム、クロム、亜鉛などの重金属
2. ダイオキシン、DDT、PCB、フロン、その他有機溶剤などの有機塩素化合物
3. 古い水道管にも使われるアスベスト
4. プルトニウムなどの放射線物質
5. 毒ガス、劣化ウラン弾、地雷、核兵器

そして5つの対策があるという。
1. 焼却は万能ではない。焼却による化学反応でダイオキシンなどの有害物質が発生する。灰にも水銀、砒素、鉛、カドミウムなどが濃縮される。有害物質が生じないような焼却の工夫と住民のチェックが重要。
2. 有害物質への監視と規制が甘い。行政による許認可とその後のフォロー、チェック体制が重要なのだと。
3. 生産者による製造物最終処理責任の明確化。ペットボトル、PC、家電製品など幅広い対応が重要。
4. リサイクル促進。リサイクルが進むように課税と補助金をうまく組み合わせること。プラスティックトレイや新聞、雑誌などを対象とするリサイクル促進法の整備が重要。
5. ゴミ処理情報の住民への開示。住民がゴミ処理問題を継続的に意識し、自分の問題としてチェックし、一緒に考えて行けるようにするには行政がゴミ処理情報を開示することが重要。

この本、「空山」は美しい村と山肌に抱かれた景色、素朴な人々と自然を愛する住民、そして真紀や俊子という登場人部を巧みに配したゴミ処理問題小説である。
空山 (講談社文庫)


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