意思による楽観のための読書日記

夏目漱石 こころ **

主人公が「先生」と鎌倉で知り合う。その後先生のところに足繁く通う主人公は大学生、実家から仕送りを受けているが、その実家の父が具合が悪いと言う知らせを受けて帰省する。腎臓の病で倒れたという父は一時的には持ち直すが、結局死んでしまう。その間に先生からの長い手紙を受け取った主人公は東京に帰る汽車に飛び乗って手紙を読む。その手紙で先生の苦悩の原因を知る。先生は友人のKが自殺したことを一生の悔いが残ることとして持っていて、結婚した妻にもそのことを明かしていないのだと手紙に書いている。そしてその苦しみから先生も自殺する。

教科書にも掲載されていて多くの方も読んでいるのであらすじはともかく、読んで気分がよくなる話ではない、というより、額に汗して働き、苦労しながら子どもを育てる、などという人生の基本となる部分が欠落しているようでならない。主人公の実家も先生の実家でも実はその後ろには生活があって、収入を得るために働いている人がいるはず、そして子育てに苦労する両親がいるはずであるが、その話は表面化していない。問題はこの「先生」であろう。明治天皇と乃木大将の殉死のタイミングで自分も死ぬのだ、というが、奥さんが頼りにしているのは先生しかいないことを理解していたので、それまでは死ぬこともできなかったのが、殉死であれば死ねるというよくわからない理由なのである。

収入を得る苦労がない、子どもを育てる苦労がない、大学に行かせてもらっていたのに感謝も感じられない、友人との恋の悩みだけが浮かび上がっている、というのが不自然に感じるのは私だけであろうか。「普段は善人の顔をしていても、金の話で切羽詰ると急に悪人の顔をのぞかせることがあるのだ」と先生は主人公に説話をするのだが、自分の世間知らずを棚に上げている。先生を騙したという叔父にはどのような人生の苦悩や、金銭的な苦悩と苦しみがあったのかがわからないではないか。

「こころ」を支えている生活や暮らしが分からない、明治の終わりが自分の終わりという価値観がわからない、欧米で漱石が評価されない理由がわかる。「明暗」の主人公である津田とこの先生の共通項はなんであろうか、と考えてしまう。優柔不断で世間知らず、親への精神的依存、妻との距離感、世の中からの距離感と世間への不信感、女性への憧憬と本当の労りの心がないこと、漱石そのものだったのではないかと考えてしまう。
こころ (新潮文庫)
読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事