「コード・ブルー」「医龍」などのテレビドラマ脚本家による脳外科医の物語。主人公たちは、東部総合病院脳外科に集う優秀な脳外科医たち。そのまとめ役が深山瑤子、脳外科の医師たちを技術的にも精神的にも支えて指導するベテラン医師。担当していた少年の脳にはカプグラ妄想という症状が出ていた。視覚認識では母親だと分かっているのに、愛情や情動を感じ取る部位との回線が途切れているために親しい情動が湧いてこないという珍しい症状である。母親は愛情を持って看病しているのに、息子の少年は「この親切な人はだれ」などという。深山は自分の一人娘のことを思い出す。数年前に離婚した深山には、今では思春期になる娘が居て時々思い出すことがある。脳外科医という多忙な職業が、母親との両立を妨げた。別れた夫は今は再婚し、娘とも同居しているはず。カプグラ症候群の患者の少年と対峙するとき、その一人娘が家出してきたと、深山のマンションにしばらく滞在することになる。娘と久しぶりに対話することで、母親と子供の会話の重要性を感じる。患者の母親の気持ち、患者の少年の本心などを慮りながら、脳外科手術に挑む。
脳外科に所属する黒岩健吾は世界でも数人しか居ないトップナイフ、つまり世界一の脳外科手術医師と評される。独身で遊び人、しかし腕は超一流という黒岩が担当した患者はコタールシンドローム、自分が生きているという感覚が湧かないため自分は死んでいると思いこむ珍しい症状。黒岩の前に、昔付き合っていた女性が子供を連れて現れ、「この子はあなたの子供だから預かって」と男の子を病院に残し立ち去ってしまう。素直で何でも受け入れようとする男の子に自分の幼い頃を思い出していまう黒岩。自分の今までの人生と、コタールシンドロームの男性を重ね合わせて考え込む黒岩。世界一の脳外科医にも迷いや悩みがある。
脳外科医の西郡琢磨は34歳で若手のホープ、困難な手術を間近にひかえる患者を担当している。そこに、サバン症候群と同様の症状を呈する患者が運び込まれる。作曲の才能を示すが、それは勘違い、そのことを患者に納得させることが手術成功の鍵となる。脳外科手術には自信がある西郡だが、人間を説得すること、自信家に実際のことを納得させることには大きな困難が伴った。説得プロセスで自分自身の立場と実態に気がつく。
最若手の脳外科医小机幸子は、学生時代から成績はいつもトップ、だから医師を目指し、その中でも最難関と言われた東部総合病院の脳外科医になった。恋愛する機会もなくここまで来たが、患者を担当すると、患者の心と対話する機会に接し、心と恋についても深く考えることになる。おまけに、今までは褒められてばかりでここまで来たが、脳外科医としては未熟者、先輩や同僚にもひよこ扱いされ悶々とする。小机が担当したのは、右脳に障害があり、左半身に不随意障害が残る男性患者。自分の左腕を若い女性と認識して恋をしてしまう。患者の妻はそんな夫に呆れてしまうが、その夫の心のなかにある女性が、自分が若い頃、夫と恋愛が始まったときの自分自身だと分かり、その当時の夫への想いを思い出す。夫婦の複雑な関係に、自分の未経験を深く感じ入る小机は、これからが脳外科医としての経験、キャリアの始まりであることを思う。
ドラマをテレビで見た方なら、深山が天海祐希、黒岩が椎名桔平、西郡が永山絢斗、小机が広瀬アリスとキャストされていたことを思い出すかもしれない。