意思による楽観のための読書日記

椿山課長の七日間 浅田次郎 ****

いいお話し、題名になっている中年の椿山課長と、ヤクザの親分で武田勇、少年根岸雄太、この3人の死後の物語なのだが、この3人が死ぬ前の現世で複雑に関係している。46歳で急死したデパートの売り場を任された椿山課長、初夏のグラン・バザールの初日が終わった夜、業者の接待の席で死んでしまうが、現世とあの世の中間点のスピリッツ・アライバル・センター(SAC)で過ごす2-3日の反省の時間に、邪淫の罪があると告げられる。邪淫、そんな覚えはないと考える椿山、残してきた小さい子供、家のローン、美人の妻、そして売り場のことが生真面目な椿山は気になって仕方がない。特別な申請をすると初七日の間だけは現世に戻ってやり残したことをできる、というシステムがあり、そのシステムを使うことになるのだが、姿形は生きていた時とは正反対の見た目になるという。そして39歳の独身OLとなって初七日の残り4日間の猶予を与えられる。

同じ時に現世に戻るのがヤクザの武田勇、こちらは大学教授になって戻る。そして根岸雄太、少年は少女の姿になる。椿山が確認したのは売り場の様子、そして自分がいなくても計画以上の達成率を確認、そして自分の家に戻ろうとすると、入院しているはずの父を電車の中で見かける。痴呆の症状が出て歩けないはずの父が元気に電車に乗っているのは何故なのか、気になる椿山はOLの姿で父に語りかける。そして、父の口から同期で入社して椿山が結婚する時まで付き合っていた女性知子が心底椿山を愛してくれていたことを知る。確認のために知子に会いに行く。OLの姿の椿山を不審に思う知子ではあったが、椿山のことが本当に好きだったこと、結婚した椿山の死合わせを願っていたことなどを知る。自分をこんなにも愛してくれていた知子の心を弄んだ罪、これが邪淫の罪であったかと考える。

そして自宅に帰ってみると、そこには美人の妻、そして後輩で可愛がっていた嶋田がいるではないか。自分の子供だと思っていた息子もひょっとしたら嶋田と妻の間にできた子供だったことにも気づく。なんてこと、しかし息子は椿山のことを大好きであったこともわかる。なんてことだ。

武田勇、こちらはヤクザ仲間で兄弟分の鉄兄イ、そして繁田の兄弟、新宿の市川の3人と一緒に酒を飲んで店を出たところをヒットマンに撃たれて死んだ。これが人違いだったのだ。誰と間違われたのかを知りたい武田、そして3人がそれぞれ武田以外の兄弟分を殺そうと雇ったヒットマンに人違いで無関係な武田が殺されたことがわかる。なんてこった、自分の子分である6名のヤクザと見習いのことが気になって仕方がない。6人の引き取り先を回り、皆んなに生き方を諭す武田、正体不明で自分のことをやけによく知る大学教授に諭される6人のヤクザは、教授に死んだ親分の雰囲気を感じる。

そして根岸雄太、女の子になって最初に出会ったのが椿山の息子、そして一緒に自分が育った家、そして里子に出された施設、そして本当の親を探す。本当の親を知って育ての親との親子の絆を感じる根岸雄太、そして人の絆を感じる武田勇、幸せそうだった自分の結婚の裏側で本当に自分を愛してくれていた知子の愛の深さを知る椿山。軽妙な笑い、そしてホロリとさせる小話、人の絆を感じられるお話であり、「天国までの百マイル」「鉄道員(ポッポや)」「地下鉄に乗って」などを思い浮かべる。しかし、本編、ストーリーテリングの旨さでは小説家の中でも一番の浅田次郎の傑作ではないか。



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