佐知子は夫であった雄一郎とは離婚して、息子の18歳になる高校生文彦と同居している。雄一郎は精神科医院の院長であり、元患者であった亜沙美と結婚、娘に高校生の冬子がいる。息子の文彦がある夜、ごみ捨てにいったそのまま失踪した。その日からの物語である。佐知子は離婚後自動車教習所で18も年下の犀田と知り合い深い中になるが、その後犀田は冬子とも付き合っていたことを知り愕然となる。そして、文彦が失踪した直後、犀田が電車にはねられ死んだことを知る。息子の失踪と犀田の死亡は偶然なのか、息子の文彦は死んでしまったのだろうかと悩む佐知子。佐知子の悩みに答えようとするのは、近所に住む文彦の同級生服部ナズナとその父であるが、その父のどぎつい大阪弁をしゃべくる俗物の典型の様な服部に辟易としながら、なぜか救われる気がする佐知子である。佐知子は雄一郎に文彦の行き先について相談する。そして冬子と文彦がお互いに知り合っていて、連絡を取り合っていたのではないかと考え始める。さらに、亜沙美が雄一郎の子を妊娠していること、亜沙美が病院から移転されていることを突き止める。
ここで亜沙美の過去が紹介され、何回もレイプされた経験から精神を病み、雄一郎との結婚も決して幸せだったとは思えない。冬子は雄一郎が亜沙美と応接室でレイプのまねをしているところを目撃して衝撃を受ける。そして心の安定を再び乱してしまった亜沙美は兄の所に引き取られていることがわかる。文彦の学校にはナズナ以外にも文彦に思いを寄せるカンザキミチコがいる。カンザキミチコは文彦が冬子と付き合っていることを知り嫉妬する。そして冬子が犀田とも付き合い、ふしだらな女だと考えた末、冬子を混雑した朝の駅プラットフォームから突き落とそうとした弾みに、一緒にいた犀田が電車にはねられたことがわかる。冬子は人間関係に悩み、自殺するが、冬子に睡眠薬を送りつけたのもカンザキミチコであった。それでは文彦はどうしたのか。文彦は、亜沙美と一緒にいたのだ。精神を病んで、実家の兄の所に住んでいた亜沙美のところにいる文彦を佐知子は見つけて安心する。
服部は最後まで佐知子の悩みを聞き面倒を見てくれる。うるさい世間を象徴するような存在が服部なのか。人間関係は込み入っているが、佐知子も雄一郎も不倫関係があるのではない。冬子も複数の男たちと付き合っているようだったが、それは男たちの思いが強かっただけで深い関係になっていたのではない。文彦は佐知子と犀田の関係を知っていたはずだが、それを批判的に見ていたわけでもなく、冬子のことが好きだった自分が亜沙美に心惹かれることも自然のことと感じていた。登場人物に悪人はおらず、殺人を犯したカンザキミチコも根っからの悪人ではないはずだ。亜沙美の精神を病んだ描写は一種グロテスク、どぎつい大阪弁を話す服部もある意味超俗物、しかし読み終わってみるとそうしたグロテスク感は残らず、人間関係の濃さも悪い印象として残らない、筆者の物語構成力と文章の力を感じる。2012年にはもう64歳になるという筆者、新人ではないはずだが、これからどのような本を書くのか、しっかり見ていたい。
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