意思による楽観のための読書日記

食糧自給率40%の謎

日本の食糧は自給できているのか、農水省は「日本の食糧自給率は40%」と主張していますが、それに真っ向から反対しているのが、「日本は世界5位の農業大国」の著者浅川芳裕さん。農水省が提示している「カロリーベースの食糧自給率」について異論があると主張しています。カロリーベースの食糧自給率は、国民に供給されている食料の全熱量合計のうち、国産で賄われた熱量の割合を示したものです。

一人の人が生きていくために必要なカロリーではなく、廃棄食糧も含めた総供給熱量が分母で、分子は国内自給食糧のカロリー数なのです。年齢にもよりますが、一日に必要とされる熱量は1600-2000Kcal、平均1800Kcalが分母だとすれば、食糧自給率は55%となります。農水省は自給率目標を45%としていますので現時点でクリアしているのです。問題は800Kcal相当の食べ物が毎日捨てられているという事実の方だと思います。自給率向上のためには、廃棄食糧を少なくする流通の仕組みを考えることが重要と考えられます。

もう一つは、なぜカロリーベースで計算するのか、という問題です。野菜や果実は米やいもなどに比べ同じ価格や重量であっても低カロリーであり、生産するために投下した労働や需給状況などの結果を正しく捉えることができません。カロリーベースで自給率を公表している国は日本と韓国だけ、大多数の国が行っている生産額ベースで自給率を見ると日本の食糧自給率は2008年データで65%と発表されています。浅川さんはこの生産額で国際比較すると、日本は中国、アメリカ、インド、ブラジルに次ぐ五位、フランスよりも農業大国である、と主張しているのです。
日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)

カロリーベースの計算では、カロリーが少ない野菜や果物がほとんど算入されないだけではなく、例えば牛乳の自給率は金額ベースだと92%、これがカロリーベースだと41%、マジックは輸入飼料のカロリーが差し引かれているのです。豚肉の場合、金額ベースであれば52%が国産、カロリーベースでは5%となります。(このロジックだと日本の自動車の自給率はほぼゼロになります)

農水省はなぜこのような数値をベースに食糧自給率向上を訴えているのか、浅川さんによれば、農水省が自給率向上のために計上している予算は、2006年度65億円だったのに対し、2007年度は166億円、2008年度には、2,889億円にアップしたのこと。そして、減り続ける農家人口、衰退し続ける日本農業を救わなければならないと農水省は主張しています。日本の基幹的農業者数は、1960年では1200万人、それが2005年には200万人を切っています。これは諸外国でも同様の傾向であり、過去10年の農家の各国減少率を比べると日本22%、ドイツ32%、オランダ29%、フランス23%、イタリア21%と日本だけの問題ではないことが分かります。各国では生産性向上で農業人口減に対応、日本でも同様の対応をしてきています。日本では農業者一人あたりの生産量は、1960年が3.9トン、2006年には25トン超、過去40年で6.4倍の生産性向上が実現されています。

日本の200万戸の農家のうち、売上げ1000万円以上の農家は7%で14万戸、しかしこの7%の大規模農家が全農業生産額8兆円のうち6割を産出、過去5年間の売上げ伸び率は130%、大規模農家の生産性は高いのです。日本農業の生産額約8兆円の内、

米       約1兆8000億円
小麦        約290億円
大豆        約240億円

自給率の低い小麦や大豆を作付けすると、農家には転作奨励金という補助金が支給されます。小麦や大豆を作れば収入が得られるため、収穫量や品質の向上に真剣に取り組まないというモラルハザードが発生していると浅川さんは指摘しています。米への700%の関税や農業補助金で日本の農業は本当に強くなったのでしょうか。

浅川さんは解決策の筆頭に小規模農家支援を掲げ、日本における食料生産と農業振興のためには、補助金獲得による農家育成というよりも、地産地消による経済活性化が重要と主張しています。企業が推進する環境問題、災害対策、定年後の生きがいなどの視点からも、産地直売マーケットなどによる地産地消は有効であり、地域経済活性、農業と観光振興にもつながると考えられます。

1. 環境問題への対応
フードマイレッジという考え方がありますが、日本のフードマイレッジは世界一というデータもあり、地球温暖化問題のためにも地産地消が望まれます。天ぷらうどんを食べると、その原料の小麦粉、大豆、エビなどの原材料が輸送されてくる距離と量を掛け合わせてフードマイレッジを計算するというものです。地粉100%の盛りそばに地物の野菜をサラダで食べればフードマイレッジはずいぶん縮小できます。

てんぷらうどんの輸入先からの距離と日数(http://www.e-shokuiku.com/jyukyu/13_3.htmlより)

2. 地震や新型インフルエンザなどの災害時対応
災害対応を考えると、食糧備蓄が必要。今購入できる備蓄食糧品は輸入物が多いのですが、地産地消が進めば地元で取れる食糧で自給自足できる、これが災害時においても理想です。洪水や台風でも近隣地域からの食糧支援が期待できる、これも重要な災害対策となります。世界流行が懸念される感染症では、食糧だけではない多くの貿易が停滞する可能性もあり、食糧国内自給は重要なポイントになります。

3. 定年後の生きがいは社会への貢献がポイント
定年後は家庭農園をやってみよう、と考えている方もいると思いますが、自分で食べるためだけにやる、というよりもできれば社会に貢献したいと考えてはどうでしょうか。産地直売の仕組みが発達すれば、家庭農園の食物が容易に流通できる、つまり零細農園であっても社会に貢献できるのです。

4. 経済の地域内循環
その地域で産出されたものが地域で消費され、生産者はその商売で得たお金を地域で使う、そして産地直売店舗や地元食材加工のための雇用により地域経済の振興も図れる。トータルで見て地域内経済循環ができると考えられます。

5. 地域農業の振興と消費者ニーズ
スーパーや一般市場には出荷できない規格外野菜なども、産地直売なら消費ニーズがあります。規格よりも作った人の顔が見える農産物、というところに価値があります。出荷単位も少量でよいため、定年後の夫婦や小規模農家でも気軽に生産し販売できます。家庭農園振興は、農家の高齢化による農地遊休化の対策にもなります。

6. ご近所の情報交換の場
京の街では床屋、江戸の街では銭湯が情報交換の場であったと言いますが、産地直売のマーケットがあれば、そこには農産物を持ち寄る多くの人々が集います。そこでは地域の情報が日々集まるでしょう。人が集まり、情報交換が進む、産地直売マーケットは地域の交流サロンともなるはずです。

7. 観光客の誘致
地産地消には反しますが、たまたまその地を観光で訪れていた地域外の利用者が産地直送マーケットを利用してくれることも期待できます。その地域が観光振興も行うなら、産地直送マーケット自体が観光名所となることも考えられます。

土壌が農作物を産み出し、それを人が食べて育つ、人間の体と土地は同じものであるという考えが「身土不二(しんどふじ)」、人間は生まれ育った土地でできた食物が体に合う、と言う考え方です。地産地消だけで日本の農業問題が解決できるとは考えませんが、農業を全く別の視点から振興するという手助けになると思います。そして遠く外国から運ばれてきた食べ物もたまには珍しくて良いのかもしれませんが、それを毎日食べるのは本来無理があります。また、ハウスの中で作った野菜、消毒で害虫から守られ育てられた果物、遺伝子組み換えの大豆などは、見た目が良くていつでも手に入り便利なのですが、自然の法理に反していると考えられます。こうした農作物が出現したのは最近50年ほどであり、農業が始まって以来の1万年を考えると、ごく最近のことです。24時間空いているコンビニで、すぐに食べられるインスタント食品を買って食べる、農村地帯の若者もこうした生活を始めていると言います。日本人一人あたり毎日800Kcal捨てられているという食糧の半分はコンビニやレストランの事業者、残りは家庭でのことです。これが本当に便利で良い生活なのでしょうか。地球温暖化や食糧危機、エネルギー問題、人口爆発問題はすべて同じ原因に突き当たると感じます。人間の欲望です。

外国からも“Mottainai”が環境問題解決のキーワードだと教えられている有様です。これも仏教用語ですが「足るを知る」、現代の日本人があらためてかみ締めるべき言葉だと思います。そして、これが環境問題の解決策の根本だと思います、個人ができること、まだまだたくさんあると考えます。
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