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意思による楽観のための読書日記

戦前回帰 「大日本病」の再発 山崎雅弘 ****

日中戦争から太平洋戦争にかけて誤った国家の進路と活動を二度と繰り返したくない、という思いは日本人共通の考えのはず。進路の間違いはその前の明治維新から日清日露戦争を経験した頃から芽生えていた。幕末には世界から進んだ技術や思想を学びたいという思いがあり、アヘン戦争で西洋諸国に簒奪された清のようにはなってはならない、という恐れもあった。そして世界の中の新興国として謙虚に学び列強の一員を目指したいという真摯な思いもあった。西欧文明を取り入れ二度の戦争を経て、再び臥薪嘗胆の苦味を経験すると、もっと強くなりたい、という望みと、二度の戦争で獲得した権益を犠牲を無駄にはしたくないという思いも強かった。まだまだ素朴だった国民には、一つ二つ越えた山の向こうにもっと大きな山や雲が見えた。

本書は、第一次大戦から太平洋戦争終了、そして敗戦までの間に日本で行われた国民への教育とその功罪を、「大日本病」とその治療、という観点から解説し、第二次安倍政権以降、その大日本病が再発している、という警告の書である。

昭和になってから太平洋戦争終了までの日本には、いくつかのキーワードがあった。国体明徴運動、国家神道がそれらを束ねるコンセプトである。その目的は、当時の国民に、当時の日本が目指すべき方向性を示し、日本が向かう道は正しい、日本は世界の中で立派な行為を行っていることを信じ込ませることだった。そこに利用されたのが古事記・日本書紀における日本神話と天皇、そして儒教の教えである仁義礼智信に三徳として忠孝悌を加えたもの。日本神話は作り話ではあっても、書き残された記紀や天皇制度は日本人としては誇らしい歴史であり、儒教の考えは立派な思想でもあったため、国民として反対するものではなかった。西欧の間違った思想とされたのが人権尊重、個人を基本要素とした社会の成り立ち、思想・信条の自由。一方、重要とされたのは、公益の大切さ、国家の構成要素としての国民、戦争遂行という緊急事態における国家方針への協力だった。国体明徴と国家神道についての詳細は省略する。

敗戦後、アメリカが行ったことは、日本が二度と他国を侵略したり、国民に間違った考えを教育しないようにすること。そのためには、軍隊を無くし、人権意識を国民に植え付けること、それが日本国憲法だった。GHQはその実行を確実なものとするために、国家神道を禁止、学校教育と国家メディアであったNHKの政権からの独立を法律にも定めた。

憲法改正、国会議員による靖国神社参拝、自衛隊海外派遣と集団的自衛権行使容認、NHK改革という名のメディア介入、などなど、第二次安倍政権以降、起きている、もしくは実行されようとしている動きは、これら戦前に起きたことへの回帰ではないか、というのが本書の警告内容である。本書内容は以上。

政権には、国民に支持され信頼される政策を確実に実行してもらいたい。時として間違う場合もあるかもしれないが、そのときには国会や官僚による方向修正や調整が働き、大きな間違いは憲法が抑制してくれる。それが戦後の民主主義の基本だった。今の政権は、その基本を踏み外してはいないだろうか。官僚人事に介入し意見が異なる官僚は左遷させる、不都合な事実を隠蔽する国会軽視、戦前を思いこさせる憲法改正案。国民の考えと行動は、デモやSNSでも発揮可能であるが、究極的には選挙により結果として示すしかないと思う。

 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

コメント一覧

tetsu814-august
eiyou-kmさん、日本的問題には「おっさん問題」「女性活躍問題」に加えて「年上には逆らえない問題」があると思います。従順なのか無思想なのか、投票するときにも自分の頭で考えなくては、と思います。
eiyou-km
お早うございます!
現在の日本の投票率は、50%を下回っていることが多いです。
組織化している投票、大企業に働く労働者は、社長の推薦する人へ、上層部だけでぐるぐる回っているような気がします。浮動票の投票率で、もう少しましな世の中にならないかなーーー 
   K.M
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