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永遠の都では戦後、悠太が幼年学校から帰ってきて、父の悠次に戦争の意味、大人の身代わりの早さについて追いつめた。妹央子がパリに留学して、希望を感じさせ終わっている。雲の都は昭和27年から始まる。透はその後弁護士になり多忙な生活、夏江は透が火之子を八丈島に連れて帰り5歳まで父子で暮らすが、東京に帰ってきた。夏江は31歳になって女子医大に入学、医者を目指すため、初江が火之子を預かっている。この昭和27年の頃にはまだ戦争の傷跡がひどく、西大久保の小暮家の周りは、米兵相手の連れ込み旅館が建ちいかがわしい歓楽街へと変貌していた。夏江と透は一度別居したが 今はよりを戻そうとしている。悠太は東大医学部に合格、医者を目指しながら亀有の セツルメントで地元の人たちへ診療所と託児所を開設している。菜々子は悠太を慕うが悠太にはその気はない。セツルメントに出入りしている浦沢明夫は菜々子を思い、悠太に告白する手伝いをしてもらう。菜々子は明夫の思いを受け入れ結婚する。60年安保前夜の騒然とした世の中で、左翼右翼がうごめく中、悠太は活動する中で資金が必要となり、初恋の人富士千束の リサイタルを開き、そして桜子と一緒に五郎の絵の展覧会を開いて収入を得た。桜子は夫となった野本の造船会社から得られる収入で、華やかな生活を送っている。ヨーロッパに留学中でシュタイナー先生に師事している央子はパリでデビューし、成功をおさめる。
悠太は東大医学部を卒業、精神科の研修医として松沢病院に派遣され、東京拘置所で医官として様々な犯罪者と出会う。「宣告」で描写された精神の病、犯罪者の心の闇が語られる。戦後の有名になった事件の死刑囚達と面談、なぜ犯罪をおかしたのか、今はどう思っているのか、死を受け入れているのかなどヒアリングし、資料としてまとめる。悠太は晋助と時田利平のカルテを探し、見つける。悠太が精神医学を志したのは祖父利平と晋助がヒロポン中毒と精神の病をきっかけにして死んだことにあるのだろう。そして桜子との逢瀬、桜子は悠太との間に子供を産み、夫の野本もそれを自分の子と認知、名前を武太郎と名付ける。この間、央子はロンティボー国際コンクールで優勝し、一層名声を上げる。
そして時は1964年、東京オリンピックが開催される年だ。悠太は35歳、火之子の本当の父親は間島五郎だったことが医学的に証明されてしまう。調べたのは悠太、夏江は透にこのことをすでに告白していたが、透は動揺し火之子とぶつかり、火之子は家を飛び出してしまう。学生運動の全共闘が登場、自分に反対する勢力は反革命勢力だ、と支離滅裂な屁理屈を主張、悠太とぶつかる。この構図、小泉劇場と同じだ。央子はヨーロッパでの成功を手みやげに帰国、シュタイナー先生の息子ピエールとの結婚を決意、日本で活動する。桜子は50歳、悠太は40歳になり、桜子は一度アメリカの葡萄園主のお金持ちと結婚し離婚して帰国していた千束と悠太を再会させる。悠太は千束にプロポーズ、二人の結婚に反対していた千束の父は痴呆になっていて、反対する人もなく二人は結婚に同意する。そのころ学生運動の火の手は西大久保の木暮家にも及ぶ。学生運動を押さえつけようとする機動隊、それを見物する野次馬達に家が蹂躙され、住めなくなってしまう。この土地を売ると1億以上になるとわかり、初江夫婦と悠太は本郷のマンションを買うことになる。最後は透の死だ。透は末期ガンであることがわかり、家を飛び出していた火之子に連絡、父が自分のことを実の子ではないと嫌っていると思いこんでいた火之子だが、結局火之子は父の透と最後の時を過ごすことを決める。約1年、二人は最後の時を過ごす。
物語の力としては時田利平という傑物が主人公であった永遠の都には遙かに及ばない。雲の都は悠太が主人公、筆者にとっては自分だからだろうか、どこまで書こうか迷いながら書いたのだろうか。しかし永遠の都との共通項は、身近に感じられる時代世相だ。永遠の都は戦争であったが、雲の都は戦後復興と学生運動だ。悠太にとってみると学生運動などは所詮絶対殺されることはない安全地帯からの国家権力への遠吠えであり、国家権力も催涙弾と水でこれらを排除するだけ、戦争時代の強力な統制からはほど遠いと感じている。さらに、学生たちの主張が独りよがりで、戦争時代、国民が国家の呼びかけで国を挙げて戦争に突っ走ったこととの共通項を見いだすのだ。
筆者の精神科医としての描写も興味深い。「悪魔のささやき」という単語が数回登場、死刑囚が殺人を犯した理由、学生運動、男女関係さまざまな場面で使われる。これは新書「悪魔のささやき」で詳しく語られている。また、「フランドルの冬」を書いた筆者の様子が物語の終盤、J大学での学園封鎖により時間ができた悠太が取り組む小説として登場する。
「雲の都」の読みどころ、ポイントは戦後の時代世相、精神科医としての死刑囚心理描写、学生運動と太平洋戦争時代の思想と言動の相似形、加賀乙彦の自伝であるといってもいいのだろう。
雲の都〈第1部〉広場
雲の都 第二部 時計台
雲の都〈第3部〉城砦
死刑囚の記録 (中公新書 (565))
宣告 (上巻) (新潮文庫)
宣告 (中巻) (新潮文庫)
宣告 (下巻) (新潮文庫)
不幸な国の幸福論 (集英社新書 522C)
小説家が読むドストエフスキー (集英社新書)
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