意思による楽観のための読書日記

葡萄と郷愁 宮本輝 *** 

葡萄と郷愁、象徴的な小説。東京とブダペストの女性がそれぞれの状況から脱出できるチャンスをつかむ。同じ日の時差7時間ある別地点での二人の女性の心の葛藤を描く。

沢木純子はロンドンに住む外交官村井から何度も国際電話をもらいプロポーズに「はい」と答えている。外交官夫人になりたいという気持ちと、今までつきあっていた幼なじみの孝介とを比べている。孝介との思いではあるが、村井と結婚しようと決めている。それなのに孝介との最後と思えるデートに出かける。その途中で友人の真紀に出会い、真紀から村井との関係を打ち明けられる。しかし純子の心は変わらない。孝介とのデートでは、孝介の自宅でセックスをするが心は村井に向かっている。もう決めているようなのだが、心の中での迷いがかえって反対の行動をとらせているようだ。幼なじみで両手をなくしたいつ子のことを思い出し、彼女が結婚することを聞く。いつ子に電話して自分の迷いを打ち明けるが、いつ子は村井との結婚は孝介と決着がつけばうまくいくと励ましてくれる。孝介に共通の郷里岡山から送ってきたというおみやげの葡萄をもらう。

孝介と分かれた後、モロッコ旅行から帰ってきたばかりの先輩の岡部晋太郎と偶然出会い、おでん屋で晋太郎が離婚したことを知り、復縁を進める。タクシーで家に帰る途中、おでん屋にブドウを忘れてきたことに気がつくが、そのまま家に帰る。そこに村井からの電話があり、挙式の日取りを決める。これが一つの話。

同時進行でブダペストのアーギとい若者が偶然であったアメリカ人未亡人の養女になるという申し出を受けるかどうかを悩んでいる。ハンガリーはまだ共産主義の国、自由が制限されていて好きなことができないが祖国は愛している。こちらも大学の友人や恋人がいて、町の居酒屋で葡萄酒を飲んで、悩みを打ち明け、シンデレラのような養女の話に友人も耳を貸している。しかし、祖国と友人、そして自分の父親は捨てられず、ハンガリーに留まろうとする。アメリカ人未亡人から国際電話がかかってくるのだが、電話回線が悪く受話器をあげるとすぐに切れてしまう。これがもう一つの話。

純子は郷里の葡萄をおでん屋に忘れてロンドン行きを決め、アーギはハンガリー産の葡萄酒を飲んでブダペストに残ることを決める。1990年の小説であり、ソ連がまだあって東欧諸国は暗い日常が続いていた。一方の日本はバブル景気で浮かれていた頃だ。逆の決断になりそうな気もするが、主人公たちは自由な国からは脱出し、不自由な祖国にとどまる決意をした。アーギも思い切りよくアメリカに行ってほしかった。どちらも半日の話であり、半日の中に二人の育った故郷や両親、幼なじみの思い出が絡み合って、現在の決断につながる。葡萄は土地が乾燥していて栄養が行き届かない土地でも育てようによっては豊かに育つという。両親がどのようにその子を育ててきたのか、子供が故郷と育ての親のことをどう考えて生きてきたのかが決断につながっている。
葡萄と郷愁 (光文社文庫)

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