その後、来原良蔵は藩主の方針に反対して切腹をしてしまうが、俊輔は来原良蔵の遺言とも言える引き立てから、長州藩が送り出す英国留学生5人の一人に選ばれる。同じ時に留学生となったのが井上聞多であった。時は攘夷論が日本中を席巻する頃、5人の若者はロンドンに留学、その6ヶ月後、長州藩がイギリス艦隊に向けて砲撃をするという事件が留学生たちにも伝わってきた。居ても立ってもいられない井上と俊輔は日本に帰って長州藩に「偉大な国イギリスに戦争をふっかけることなど無鉄砲極まりない」と説得すると主張する。帰国しても首をはねられるだけだ、というアドバイスも耳に入らず急遽帰国する二人。予想通り、ざんばら頭で反攘夷を唱える英国帰りの二人は命を狙われることになる。
しかし、英語ができるようになっていた俊輔は、四国艦隊が馬関海峡に出現して長州の砲台を壊滅させ、その上で町を占領しようとするのを一人で相手の艦隊の旗艦に乗り込んで相手の提督と交渉、町への攻撃を取りやめさせることに成功する。この手柄から、長州藩の上位者から信頼を得、高杉晋作や桂小五郎にも一目置かれるようになる。本書ではその後、伊藤俊輔が8月18日の政変、七卿落ち、蛤御門の変、長州征伐などで長州藩の裏方になり高杉や桂小五郎を支える。
楽天的、生まれ持っての政治家、相手の懐に飛び込む好かれやすい性格など、俊輔がなぜ百姓から侍に取り立てられ、その後の幕末の荒波の中で頭角を現したかが描かれる。新選組や幕府側の物語が最近のテレビドラマでは多かったが、長州側からこう見える、という視点が新鮮であった。一気に読めてしまう好青年俊輔の成長、出世物語である。
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