小夜子は公園デビューしてもうまく他のママさんたちと付き合えない自分の引っ込み思案が引け目でならない。娘もそういう弱気なところが見えると一層弱気になって別の公園に行ってみるなど、公園ジプシーになっていた。夫はそうした小夜子のことをあまり気にせず、子育ても小夜子に任せっぱなし、義理の母はそんな小夜子にイヤミを言うばかりで、娘の面倒をお願いするのにも気苦労が絶えない。小夜子は結婚前には旅行代理店で働いていた。そこで、娘を保育園に預けてでも働いてみようと考えた。そして出会ったのが葵、旅行ビジネスを
手がける一方、さらなる試みとして、旅行中に留守になる自宅の清掃も請け負うというアイデアで、お掃除ができる女性を募集していたのである。小夜子と葵は同じ年で、たまたま同じ大学に通っていたこともあって意気投合した。
小夜子はお掃除の研修を受けることになり、葵の知り合いに徹底的にお掃除ビジネスを叩き込まれる。仕事からはしばらく離れていた小夜子、最初は心配していたが次第にお掃除のプロとなっていく。
物語はこうした小夜子と葵の現在と、葵の中学、高校生時代の過去が交互に語られる。葵は現代のやり手で明るいイメージからは程遠い中学高校時代を送っていた。友達ができず、できても深い付き合いはできない。イジメがあってもうまく処理できず、横浜の学校から両親の郷里である群馬の高校に転校する。そこで知り合ったのがナナコ。ナナコの家庭は両親と妹だったが崩壊気味、それでもナナコは明るく振舞っていた。しかし、学校ではどのグループにも属さず、どちらかといえば浮いた存在、そんなナナコと葵は仲良くなった。そして、ナナコと葵は高校2年生の夏休みに、二人で伊豆にある民宿でアルバイトをする。葵の親は反対したが、毎日電話するからと説き伏せた葵、ナナコと二人で一生懸命民宿で働く。最後の日、帰るときになって、ナナコは帰りたくないと駄々をこねる。二人は、家には帰らず、ホテルやディスコを泊まり歩く。そしてラブホテルにも度々泊まる。所持金は二人で45万円、そのお金も毎日1万円ずつ減っていく。
二人は、ある日、ビルの上から手をつないで飛び降りてしまう。幸い、怪我で済んだが、葵は気がついたときには病院のベッドの上、ナナコの行方は知らされない。家族は必死で葵が学生生活に戻れるように努力するが、ナナコとは連絡を取らせてはもらえない。葵の父はタクシードライバー、ある日、こっそりとナナコと葵を会わせてくれる。一日だけ会えたふたりは19歳の誕生日にはプラチナのリングをプレゼントし合おう、と約束するが、その約束は果たされない。大人になって葵は自分が起こした会社の名前にその思いを込めたのであった。
しかし、プラチナ・プラネットでは社長の葵と社員の意見が合わず、ほとんどの社員が辞めてしまい、小夜子も会社を去ることになる。小夜子は夫に辞めることになったと伝えるが、夫はやっぱりな、と相手にもしてくれない。
小夜子は人づてに葵の過去を知り、葵の学生時代に自分を重ね合わせて考える。今の自分にとっての葵は学生時代の葵にとってのナナコではないのかと。葵と合わないので辞めてしまった社員の代わりに、引っ込み思案の自分が明るく人付き合いもいい葵の仕事のパートナーとなろうと申し出る。
社員と社長、子育てと独身、前向きと引っ込み思案、などという対照的な35歳の二人の女性が、同じ匂いを感じ取るという、そういうお話。女性であれば共感できる人たちがいるのかなあ、とは思うが、学生時代の女性グループの形成やグループ同士のカースト制、主婦同士の悪口を言い合う食事会など、女性同士のコミュニケーション部分には全く共感できる部分はない。このあたりは「三月の招待状」と同じテースト。しかし、お話としてはよくできていると思う。文章もうまいので、ずんずん読み進んでしまう。この辺は「八日目の蝉」と通ずる。本作品は132回の直木賞受賞作品だという。
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