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意思による楽観のための読書日記

『ザ・タイムズ』にみる幕末維新 皆村武一 ****

1852年から1878年にかけての幕末維新の日本関係のザ・タイムズ記事は450もに上る。ペリー提督浦賀来航から西南戦争、大久保利通暗殺まであたりである。当時の日本の政治、経済、文化、風土はちょうどアジアへの進出を企図していた英国人にとっては興味と関心の的。しかし、保守(トーリー)党と自由(ホイッグ)党対立がある英国議会では、植民地への支配と人権状況についての議論と対立があった。アヘン戦争による中国侵攻への非難であり、同様の対応を隣国日本では取るべきではないという議論であった。国際社会を意識し始めた日本の様子を、他の外国人の見聞記とともに描いた一冊であり、当時、日本はどのように議論されたのか、その視点に改めて客観的な日本に対する見方を教えられる。

1852年当時の日本からのニュースは香港経由で英国到着は2ヶ月後、新聞掲載はその後となる。英国では産業革命後の成果として世界の工場としての地位を確保していた。植民省を設置し欧州、米州、インド、東南アジアへの商品輸出と原材料輸入を求めて大遠征を行っていた時代。欧米諸国は競って日本を貿易相手として開国を求めていた。日本では異文化接触に伴い外国公館襲撃事件、生麦事件、薩英戦争、下関戦争などが引き起こされ、慶喜は大政奉還を断行するが幕府は倒壊、戊辰戦争を経て明治新政府が確立される。このころ、1853年にはクリミア戦争、1861年アメリカ南北戦争、1870年普仏戦争後はドイツとイタリアが統一国家を形成、1873年には世界恐慌があり、列強のあいだで植民地獲得競争が激化していた。明治政府による急激な技術導入と市民社会の形成には時間的ギャップが大きく、地方と都会、旧武士階級と市民、国際的外交感覚と国内問題などの対立が発生していた。具体的には士族反乱、琉球、朝鮮、台湾、ロシア極東問題や条約・関税改正などの諸問題が政治的対立を生んでいた。

ペリー提督に先を越された英国は貿易相手国としての日本に期待したが、アメリカは捕鯨の補給基地として日本に期待。しかし、開国というチャンスを逃したくないため、日米通商航海条約と同様の条約締結に持ち込む。生麦事件や薩英戦争に対しては、日本からの賠償よりも、英国にとっては日本との通商のほうが優先度が高かった。英国議会では薩英戦争における市民殺害や民間被害について戦争責任を問う声が野党から上がる。また幕府からの賠償金を得た上に薩摩藩からも賠償を求めようとする二重取り姿勢に非難が集まる。英国は被害を与えた薩摩藩に対し謝罪をすることが議決されたが、実際に謝罪がされたとの記録は見当たらない。

ペリー提督による日本訪問以前は、マルコポーロによる中国人経由による見聞のみによる日本紹介記事があり、大きな誤解を欧州に与えていた。その後も、ケンペル、シーボルトによる日本紹介は科学的側面が主で、実際に初めて目にする日本の政治、経済、文化、風習は大きな驚きを欧州人たちに与えた。特に、彼らはアジアでの遅れた教育や農業を目にしていたため、それなりに進んでいた庶民への教育や農業の実態に驚いた。それを支えたのが日本人の勤勉性であり、国を経済的に開かず、独自の産業発展を遂げている姿に多くの関心を集めた。

日本における金銀交換比率が欧米と異なることを捉えて、巨額の利益を得たポルトガルやスペインの商人たちは非難の対象となる。開国を巡っては英仏による対立があり、幕府側につくフランスと新政府側につく英国は、有利な立場をめぐりシノギを削っていた。日本国内で開国に不安をいだいていたのは朝廷や旧士族の支配層であり、攘夷運動は実は旧体制転覆のための大きな振り子であることに気がついていた英国人もいた。英国ではハリー・パークスやアーネスト・サトウなどは、日本での各勢力の動きを冷静、客観的に見守っていた。彼らは付き合いの深い薩摩の未来に期待したが、逆に薩摩では体制転覆戦争である戊辰戦争に貢献した旧士族が、秩禄処分や地租改正などで冷遇されることに不満を持ち、西南戦争後の鹿児島は明治維新の文明開化に大きく取り残される結果となる。幕末から積極的に留学生を送り出して育成された意識の高い留学生たちは、一般鹿児島市民との人権や民主主義に対する意識ギャップが大きすぎて受け入れられなかったのである。本書内容は以上。

本書は外からの視点は常に気づきを与えてくれる良い例である。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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