主人公は武原耕太、大学を卒業して電力会社に努めていたが、可愛がってくれていた叔母が死んで、いくつかのマンションと貸しスタジオを遺産として残してくれたことを期にサラリーマンをやめて管理人として専任ビジネスオーナーになることにした。住んでいたマンションの前で男同士が揉めているという通報があり駆けつけたところ玄関のガラスが割られていた。これが事件の始まりだった。
揉めていた男たちはなぜか耕太のことを叔母の苗字である都築と呼び、カサイに連絡をとってくれと頼むのだった。なんのことかわからない耕太は、男たちが叔母の所有していたマンションの最上階で会社組織を運営していたようだということが分かった。そして、その部屋は今はもぬけの殻、携帯電話が一台だけ残されていて、「他のメンバーはもう逃げたのか、お前も早く逃げろ」という意味不明の電話がかかってきた。屋上にはアンテナが立っていたあとがあり、男たちは部屋にパソコンや通信機器を持ち込んでいたらしい事がわかる。壁にコップを当てていたのだ。そしてその男たち日本語ではなく朝鮮語を話していたらしい。
そして潤と名乗る中学生が耕太を訪ねてきた。世話になっていた祖父がいなくなり、困ったら都築さんの家にいけと言われていたので来た、という。叔母は韓国か北朝鮮につながりのあると思われる男たちとつながりがあったのだろうか。
耕太はこれらの断片的な情報からなんとか全体像を組み立てようと考え、ヤモリをやっているという知人や捜索の途中で知り合った男勝りだが美人の月子などのツテをたどって情報を収集、キーマンであるカサイにたどり着く。カサイは葛西、叔母とは大変親しい間柄だったという。そして、情報収集は北朝鮮ではなく国内のある勢力のために行なってきたことも分かる。
ストーリーからはなにか冷たい、込み入ったスパイ小説のように思えるが、読後感は爽やかである。叔母の若々しかった一面や耕太と月子の淡いラブストーリー、そして潤と耕太の微笑ましい共同生活など、温かい川の流れの中で泳ぐように読書は進められる。最後の場面で潤は再び出て行くが、また戻ってきそうな気配もあるし、月子との関係は中途半端なままだが、今にも成就しそうな気配もある。続編を期待させてのエンディング、筆者はそのつもりアリアリなのではないだろうか。
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