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意思による楽観のための読書日記

まれびとたちの沖縄 与那原恵 ***

沖縄の歴史と沖縄に関係してきた人物を4人を選んで語る「沖縄学」。

最初の一人はその父といわれる伊波普猷。彼の得意とした領域は、沖縄言語学、民俗学、文化人類学、歴史学、宗教学など多岐に渡る。彼のカバーした領域をまとめて「沖縄学」と称され、伊波普猷が「沖縄学の父」と言われる。本書では特に貢献したとされる「おもろさうし」研究と、彼にその研究を託したとされる新潟出身の国語教師・田島利三郎について述べる。田島は明治26年、伊波の学ぶ五年制の沖縄尋常中学校に赴任してきた若手教師。最初の講義「土佐日記」に生徒たちは魅了された。田島が語る芝居、歌舞伎、音楽、全てが生徒たちには新鮮だった。その田島が手掛けていたのが「おもろそうし」研究、見込みがありそうな教え子伊波に田島はその調査内容のすべてを託した。「おもろさうし」は、1531年から1623年にかけて王府により編纂された歌集。「おもろ」は「思い」であり祭祀における祝詞、「そうし」は「草紙」。伊波は田島に託された資料をもとに先祖が編んだ歌集を解き明かす研究に打ち込んだ。

2つ目は琉球に頼朝や義経の叔父にあたる源為朝がやってきた、おまけに琉球王朝はその子孫である、という「偽史」はいかにして生まれ、固定化したのか。それは17世紀なかばに琉球初の正史として編纂された「中山世鑑」に為朝渡琉伝説が記述されたため。しかしその内容の大半は為朝の伊豆大島配流後の最後が書かれた鎌倉時代の「保元物語」をベースにして書かれたもので、前半生は保元物語を、後半の琉球部分は琉球伝承やその他文献を織り込んだもの。江戸期には琉球使節団の渡来を契機にした琉球ブームがあった。中山世鑑は正史であったため、新井白石の琉球研究書や中国の使者による記録「中山伝信録」に引用され、滝沢馬琴の椿説弓張月へとつながった。中山世鑑にそのような説を掲載した理由、それは中国と日本との両面外交のバランスを取りたい琉球王府の複雑な思いがあった。琉球と沖縄の歴史は、同化と異化の歴史でもある。

三人目は幕末、西欧諸国の思惑と琉球王国の危機に揺れる1848年に、英国から派遣され琉球に8年間滞在し、布教活動をしたユダヤ人宣教師・ベッテルハイムの苦難の日々。琉球王府にとっては招かざる客、しかし英国との関係から追い返すわけにもいかず、常時見張りをつけて、配られた冊子はすべて回収された。それでも妻子を伴い滞在を続けた宣教師は頑固な変わり者でもあったため、琉球の人たちからも遠ざけられた。8年間の滞在で琉球の置かれた複雑な状況を察知したベッテルハイムは、その間に琉球訪問をする何人かの欧米人たちにその情報を提供する。「琉球人は日本と中国との間で最も不幸な立場に置かれている。両国とも琉球に対する父権的な監視権を主張、全てに干渉しているが、日本のほうがより強く全面的な監視を行っている」。後にペリー提督が江戸幕府に開国要求をした時には、こうした情報が役立ったことは言うまでもない。しかし、布教という使命を全く果たせず、ベッテルハイムは琉球を去った。

最後に沖縄芸能は本土でどう受容されたのかを丹念に追う。江戸時代の沖縄芸能は、使節団による江戸上りとともに、将軍の前で披露され、町で練り歩く行列に奏でられていた路地楽として庶民にも楽しまれていて、異国の珍しい芸能として紹介された。しかし明治維新後の琉球処分の後には忘れられ、再び本格的に紹介されるのは昭和5年、柳田国男の推挙により行われた八重山の芸能紹介だった。昭和11年には日本民族協会主催で琉球古典芸能大会が日本青年館で開催、民俗学者折口信夫が交渉して出演が実現したという、当時の琉球・八重山での名優たちが勢ぞろいした。昭和14年には琉球レビュウとして企画された日劇ダンシングチームによるショーは大好評を取り、東京での公演から名古屋、京都、大阪へと舞台を広げるが、戦争がその拡大を阻んだ。戦後には沖縄返還に先立つ、昭和40年代前半の東京でのレビューがあった。プロヂュースしたのは音楽学者田辺尚雄、彼は大正12年には沖縄紀行の著作を刊行していた。しかし田辺の脳裏にあったのは、石垣島の辻、家の庭で奏でられる静かな三線の音だった。本書内容は以上。

沖縄を愛する人達による本土との距離感には、読んでいる読者の方が、その繊細でかつ強い思いを感じてしまう。独立した王国として平和に過ごせた時代から、薩摩藩、明治政府、そして日本の戦争へと巻き込まれてしまう歴史。あるときには強い反発を感じながらも、それでも、共通した言語体系を持ち、先祖を共有している日本の一部であるという筆者の思いは強い。今日も心して「チムドンドン」を見る。
 


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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