中山道の宿場町である妻籠は江戸と京都で激動する時代の動きが手に取るように伝わってくる場所であるペリー来航により地方から江戸に呼び出される大名が通り、参勤交代の廃止により江戸詰が不要になった各藩の女中達が大勢通り、和宮様が京都から江戸に降嫁する行列は大変な騒ぎとなり、江戸からは新撰組の浪士達240名が通る。東禅寺のイギリス公使邸が浪士達に襲われ公使オールコックが危うく一命を取り留めたり、イギリス人リチャードソンが薩摩藩士に殺害され、イギリスから幕府は大変な剣幕で脅され賠償金を請求される生麦事件の様子も伝わってくる。このような時代のうねりを感じることができる場所で本陣に身を置いていた半蔵は、日本はいにしえの昔に返るべきと考え、国学者平田篤胤の門下生の末席に名を連ねるべく、横須賀訪問の折には平田家を訪れる。
半蔵の父吉左衛門は年をとり、ある時木曽福島の役所から半蔵のもとに呼び出しがかかり、吉左衛門から半蔵に本陣を任せるという任が移ることが通知される。半蔵は国学をともに学び議論もしていた友人達が京都に行くのを見て、自分は木曽の山の中でこのまま暮らして良いのだろうかと悩み始める。
大学生の時に読んだ「夜明け前」今読んでみると、新鮮である。幕末から明治への時代の動きは大体頭に入っているが、それをこうして木曽の妻籠を通り過ぎる旅人から得たわずかな情報から組み立てるという面白さは藤村の計算ずくのものであろうか。龍馬伝や新撰組、勝海舟など表舞台の物語を廊下越し、襖越しに目をつぶりながら聞いているようである。時代が幕府から勤王に傾いていく様も手に取るように分かる。「攘夷」が諸外国と勝手に条約を結んでしまった幕府への倒幕の印であることもよく分かる。その中で、急激に外国の文化に染まっていく日本と日本人を憂う心が芽生える半蔵の気持ちも本当によく分かる。
世の中が大きく変わろうとするときに、本当にこれで良いのだろうかと思うこと、古に正しい道を見いだす、半蔵のこれからの苦労と挫折を既に第一部の上巻で予感させる。
夜明け前 第1部(上) (岩波文庫)
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