意思による楽観のための読書日記

齋藤孝のざっくり日本史 ***

廃藩置県、日本語における万葉がなとひらかな、カタカナ、大化の改新と藤原氏、仏教伝来の意味、三世一身の法と土地所有、鎖国、殖産興業と日本的資本主義、占領と戦後日本、という章立て。

廃藩置県と版籍奉還は諸外国であればそれこそ内乱になっていてもおかしくないほどの権力の移行であった。各藩が戊辰戦争で疲弊していたから、そして外国に侵略されるより中央集権が必要という認識が広がっていた、という。一般の武士階級でもこれからは諸外国の仕組みを取り入れてアメリカやイギリスと肩を並べるような国になりたいと思っていたということ、これは教育が行き渡っていたことを物語る。身代わりが早かった、ともいえる。

中臣鎌足は大化の改新の主犯だったのにもかかわらず、権力を自らは握ろうとしなかった。皇極天皇は中大兄皇子に譲位しようとしたが、軽皇子に譲ってしまい、天皇のそばにいて実務を取り仕切ったのが藤原と名を変える鎌足であった。道長の時代には摂政関白という地位を得て、さらに五摂家を独占したのも藤原氏であった。近衛、一条、二条、九条、鷹司である。摂政関白は秀吉をのぞいては明治まで五摂家が独占したのである。中大兄皇子が権力を握ったのも鎌足の手を借りたからともいう。天皇家が現代まで滅ぼされる危険が何回もあったのに生き延びたのはこうした権力の二重構造があったからという分析もある。二重構造の原型を作ったのが鎌足だったというのである。

枕草子で清少納言は「小さい上にかきたる稚児の顔」を「うつくし」と表現、小さい中にさらに小さいものがあることを可愛いといっているのである。これは現代の「かわいい」につながっているという。これは子供可愛がり文化からきているともいう。クールジャパンの源はこの「かわいい」文化だと指摘。

今の日本資本主義は外国資本の植民地になる危機であるという。バブル期の放漫経営の果てに破綻した長銀、政府は税金から7兆9000億円もの資金をつぎ込み、最後にはわずか10億円で米国のファンドLTCMパートナーズに売却してしまいます。名前が新生銀行、なにが新生だ、と筆者は怒りますが、なぜ日本国民はもっと怒らなかったのか、ふざけるな!というレベルの話でしょう。

アメリカはなぜ原爆を日本に落としたのか、アメリカの兵隊の犠牲者をできるだけ減らしたかった、戦争終結を早めたかった、というのがアメリカ政府の説明で、これに日本人、とくに被爆地広島、長崎の人たちは怒りを覚えています。しかし、落下のタイミングは絶妙のタイミングだったというのだ。日本はいずれ降伏するが、あまり早く降伏されるとアメリカがせっかく開発して、世界にその威力を示すチャンスを失ってしまう。ソ連の対等を牽制したかった。遅すぎるとソ連の進駐を受けて占領後の日本が分割統治されてしまい戦後のドイツのようになる。戦後処理をアメリカ主導の元に進めるための絶妙のタイミング、それが8月初旬だったというのである。事実、日本占領が米ソ英中で行われるという案もあったのであり、その際には北海道がソ連、四国が中国、九州を英国、本州がアメリカなどと分割される可能性もあったという。財閥解体や教育改革、農地改革、憲法制定など一連の改革はアメリカ一国による駐留だったことで一気に進められたことを考えれば、日本にとってはそれは結果として良かった、とも考えられる。

日本史の記述には右翼、左翼、いずれも極端な解釈がまかり通るが、齋藤孝さん、実にバランスがいい、納得して読める日本史である。

齋藤孝のざっくり!日本史 「すごいよ!ポイント」で本当の面白さが見えてくる (祥伝社黄金文庫)
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