初冬からずっと体調のよくない私を元気づけようと、一月二十五日の結婚記念日の後祭りと称して、女房が、近くのスーパーの鮮魚コーナーから、浜中産タラバガニと根室産刺身用大チカを購入してくれた。
チカは一匹七十円で、大きい方は体長25.0㌢/㍍。女房の魚さばきは手慣れたもので、たちまち二人前の刺身が出来上がった。淡泊な味で、熱燗の剣菱が冴える。チカは私の好きな魚で、煮ても焼いてもフライでもよく食べるが、意外なことに刺身は今回が初めてだった。自分で釣った生きのよいものを刺身にする話は聞いていたが、私は身体を冷やすので冬期間の釣りはやらない主義なのだ。
浜中産の中型タラバガニは1.5㌔/㌘で千四百六十三円、買い得品だった。脚が一部欠落の訳あり品だったのだろう。訳ありといっても中身の充実した食べ応えのある立派な蟹だった。
しかし、考えてみると、私のような一介の年金生活者が、やれ刺身だ,やれ蟹だと晩酌の肴を用意してもらえるのは不思議ではある。借金生活をしているわけではなし、女房が福の神に見える。女房の嫁入り道具の中に打ち出の小槌が入っていたとしか思えない。私自身は思慮の浅い暴れ馬のような存在で、給料をただ運ぶだけの男でしかなかった。ヤクザものではないにしても、結婚当初、まだ乙女のような女房は扱いに苦労したことだろう。
今や、古希を迎え、やれ不眠症だ,やれ腰痛だ、やれ前立腺だ、などと薬漬けの私とは立場が逆転したが、昔のことには一切言及しない女房の優しさに感謝しなければならない。私には過ぎた女房だとつくづく思う。
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