そう言えば・・・過日、調布飛行場から新○央航空が運航するアイランダーに
乗って、新島に撮影に行った時の事を思い出した。
そのイギリス製の古い飛行機は、高翼でサイドbyサイドの8人乗りだったが、
窓は左右に4枚しかない少々武骨な双発機で、離島間を結ぶ事を目的として
開発されている事が名前の由来でもある。
その時、たまたまなのか?気を利かせて頂いたのかは定かではないが、
幸いにも私は窓のある2列目の席に座る事ができた・・・パイロットの
すぐ後ろの席である。
その席から私は、パイロットの一挙手一投足を観察していた。
因みに、残る4席は窓もない四角い筒の様な場所にあった。
イメージ的にそれは、カーゴ室に椅子を無理やり取り付けた様なもの
であったが・・・もしかしたら、本当にそうだったのかも知れない。
少し脱線したが、お伝えしたいのは飛行機の話ではなくて、その時の
パイロットの話である。
初老と言うには少々年がいった白髪のそのパイロットは、その風貌から
コツコツと地道に飛行時間を重ねて来たに違いないと思われた。
調布飛行場を離陸すると、前を見ているのか見ていないのか?・・・
私には判断できないほど、高度が変化する度にミクスチャーを
神経質なほどに調整するのである。
要は・・・外の様子を殆ど見ないで、メーターを見ていた様に
私には思えたのだ。
このミクスチャーと言うのは、キャブレターの燃調の事だが、
上空に上がるにつれ気圧が下がるので、ミクスチャーを調整して
空燃比を最適化する必要があるためだが・・・だからと言って
そのパイロット・・・その調整の仕方が病的で、メーターの
2本の針は許容範囲に収まっているのに、それがピッタリと
重なるまで、調整しては眺めてを・・・何回でも
納得の行くまで繰り返すのだった。
(この機体は双発なので、エンジンが左右に2基付いている)
そこまでしなくても・・・と、素人判断で思ったが、多分その
様子から・・・かなり神経質な性格だと言う事だけは容易に
想像する事ができた。
しかしそれが、そのパイロットの安全に対するポリシーであり、
自分なりの航法なのだろう。
これをもし調整しなかったとすれば、高度変化に比例して急速に
エンジンの出力が低下し、やがてはエンジンストールを
引き起こしてしまう。
もしエンジンが不調になった際、あの時もう少し細かく
調整していれば・・・とか、もっとああすれば良かったなどと
後悔してみても、ひとたびトラブルが発生すれば後の祭りなのである。
多分・・・そんな後悔をしないために、彼は神経質過ぎるほどに
調整を繰り返していたのではないのだろうか?
そしてミクスチャーを調整する度に、腿の上にある飛行記録簿に時間や
高度などを書き込んで記録をとっていたのだと思う。
その時、出来得る限りの対策を行う事で、リスクの発生を最小限に
抑えたいと言う事だろうと思った。
その時は、洋上飛行だったので、エンジンの不調=デッチングと
言う事になるので、余計に神経を使っていたのかも知れない。
それにしてもこのパイロット、顔をしっかりと上げていたのは離陸時と
着陸時のみで、後は偶に自分の位置を地物で確認する程度で、
ひたすらミクスチャーの調整と他の計器の監視に、その飛行の殆どを
費やしていたような気がしたのだが・・・その航路を毎日飛んでいて、
多分自分の庭の様な状態だとは思うが・・・もう少し外の様子を見ても
良いのではないのだろうか?
監視の義務も有るわけだから・・・つづく。