萌黄に紅をさして
そんないろの月だった
西の衣笠山の稜線からちかいところ
薄い舟のような上弦の月は
今にも沈みそうになりながらも
そこにとどまって
その色を見せていた
妖しくも美しいその姿に
わたしはしばし時を忘れて見入っていた。
そのまますいこまれて
もしも月の世界に行ったなら
どのような姿に変化するのだろうかと
そのようなことをふと想いながら
わたしは暖かな空気が漂う中
すさまじい風がひょうひょうと音を立てて
あしたからの寒さの前触れを奏でているのを聴いていた。
誰が奏でているのか
そんな不思議な音色だった。
ひょおおぉおおお~
ひゅおぉおおおぉ~
薄暗い山の方から
その風はまるで笛を吹くようにやってくるのだ
笛を吹く男が
その向こうにいるに違いない