ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)は詩人ジョン・キーツが不確実なものや未解決のものを受容する能力を記述した言葉。「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」(4 2017)帚木蓬生
ジョン・キーツの肖像画
自分に嘘をつく自己欺瞞は、この反対の状態。
答えが今はわからない状態で、答えを急がず、手探りしながら問うていく構えの反対。
また、自分がなすこと次第で流動的に結果はできていく、結果は作られていくものという姿勢の
反対。例えば人との関係は、自分(と相手)がすること次第でよくなったり悪くなったり、
仲直りしたり、理解したり、信頼を失ったり、結果は流動的に作られていくものである。
自己欺瞞は、自分の設けた結論(自分の都合による願望)ありきで、そこに向かっていく
だけだから。その結論は、自分の心理的な都合によって無意識にできあがる。
conclusion already made
destination set in advance
例えば、「私が婚約破棄して堕胎して、この人と結婚したのは間違っていない」とか
「大金を前払いで全納したこの業者の提供するものは、ちゃんとしたものだ」とか
「前の仕事を退職して入社したこの会社はとてもいい会社だ」とか
「材料を日本で買わずに外国から輸入して建てたこの家は、とてもいい家だ」とか
「安藤忠雄に設計・監理料だけで1000万支払って建てた自宅は、とても快適だ」とか
「師事するために遠方の県に引っ越しして通っているピアノの先生は音楽性も人間性も
とても素晴らしい」とか。
自分が払った犠牲、かけたお金・労力、断った退路、そういった都合から「こうしたのは
成功だ」「正しい決断だ」と思いたい、正しかったということにしたい強い願望。
全力で目指す結論ありきの思考に、ネガティブ・ケイパビリティは無用無益である。
ネガティブ・ケイパビリティは、自分の願望や希望などからは距離を置いて、縛られずに
(全くは無理だとしても)ものを考え、真実に触れようとする意図と共にあるものだから。
だから自己欺瞞をしている状態はネガティブ・ケイパビリティをもつことと真逆である。
色んな可能性に思慮を巡らせる余裕や落ち着きがない。自分の強い願望、先にありきの結論に
必死で向かっているヒステリー状態。理性の皮を被っていても。
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確証バイアス(confirmation bias)とは、認知心理学や社会心理学における用語で、仮設や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。
It is not what I want.
自分の願望ストーリーに反するuncomfortableな情報は無視する却下する。
見ざる聞かざる
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ネガティブ・ケイパビリティは、自分の都合による願望に縛られない状態で、もつことが
できる。だから自分の都合による強い願望を持たねばならないようなことはしない方がいい。
その人が、業者が、「素晴らしい人」「ちゃんとした業者」でないと困るという切実な
状況を作ってはいけないと思う。「酷い仕事をする業者だ」「好きじゃない」「全然良くない」
「質が悪い」「ど下手くそ」「へっぽこ」とありのまま感じたことを自分で口塞ぎせずに
言えるように。でないと、嘘の為の嘘を絶えず積み重ねて行かないといけなくなる。
好きな人やちゃんとした仕事をすると信頼できる人にお金を支払って何かを頼む場合、
粗が幾らかあっても(完全無欠の完璧な人はいないから)、その人が基本的に誠実な仕事を
するという信頼感はあるから、あまり動じず不審がらずに愛嬌として許容することができる。
uncomfortable truth... ↓
「私が婚約破棄して堕胎して、この人と結婚したのは間違っていた。前の彼の方が遥かに
いい人だった。この人の最初だけの甘い蜜に騙されて、地獄が始まった。」
「大金を前払いで全納したこの業者の提供するものは、劣悪極まりない品質だ」
「前の仕事を退職して入社したこの会社はとてもやばい会社だ」
「材料を日本で買わずに外国から輸入して建てたこの家は、とても問題のある家だ」
「安藤忠雄に設計・監理料だけで1000万支払って建てた自宅は、住み心地最悪だ」
「師事するために遠方の県に引っ越しして通っているピアノの先生は音楽性も人間性も
レベルが低い」