からくの一人遊び

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LOVE JETS「青い星」Music Video【Official】

2022-03-03 | 小説
LOVE JETS「青い星」Music Video【Official】



North Country Blues  Joan Baez



Slowdive - Alison (Video)



The Birthday   The Idle Race



斉藤和義 - Over the Season [Music Video]





(ちんちくりんNo,72)



 時は流れて1995年、僕は33歳になっていた。仕事は忙しく恐らく僕の作家人生の中で最もピークにあたる時期だったのではないかと思う。小説のジャンルはあらゆる分野に手を出していた。青春物から恋愛、ミステリー、ハードボイルド、それから私小説……。だから漫画家ではないが、徹夜の連続で、睡眠がとれても三時間という日々が続いていた。もともと僕は乱読家だったせいかアイデアはいくつかもっていたし、書き始めると不思議にイメージが溢れ出て来て次から次へと書き進めることが出来た。普通はプロットを作り上げてから書き始めるのが筋であるが、それさえも無視して書き始め、登場人物が動きたいままに従って物語を書き進めていった。文章が乱れるのを恐れ、また折しも出版不況の時代に入り始めたために、新規の読者を獲得する名目で持って回った表現は避け、直接的で一文一文を短く分かりやすいように書いた。初期の頃はとんでもなく遅筆だったはずが、こんな風にスムーズにいくとは自分自身信じられないことだと思ったものだ。しかしそのようにして書いた小説は可でもなく不可でもなくといったものが多くあった。それなのに何故か単行本などを出すと例外なく売れた。そうなると出版社の人間は「先生先生」とちやほやするようになった。僕はそれも実力の内かと捉え、間違った自信を持つようになり、よってそれによって段々と不遜になっていった。多分この頃の僕は担当者にしたら相当に鼻持ちならない人間だったろう。
 龍生書房の担当者が変わったのは丁度そんな時期だった。龍生書房に対しても、文芸誌「龍生」でデビューし、七瀬社長との浅からぬ因縁がありながら、売れっ子作家になったことを盾にした僕の傲慢さは加減を知らなかった。それは龍生書房側としても同様で、そうであるからこそ僕に対しては常に最高を求め、一度たりとも妥協することはなかった。売れ線であろうと、手抜き、駄作であると評価したならば、ボツにして容赦なく作品を切り捨てた。その証拠にデビューしてから十年にもなるのに、龍生書房から出た単行本は二冊しかなかった。
「もう俺との付き合いに疲れたかい」僕の嫌味に自宅にやって来た担当者は「いいえそんなことありませんよ。先生にはより素晴らしい小説を書いていただくために、うちのエース候補を連れてきました」と言って隣に座っている新担当者に目を遣った。

「初めまして。今回から神先生の担当となる湊裕子と申します」新担当者は両手を丁度下腹の前に重ね、ゆっくりと頭を垂れた。

 女性にしては落ち着いた低く臆することのない声だ。

 それが初めて裕子に会ったときの印象だった。




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