庭で遊ぶ小鳥たちを眺めながら、こんな出来事を想い出した。
あれからどの位の年月が経っただろうか、梅雨の合間を縫うかのよ
うに、すがすがしく晴れた日の朝、私達は、小鳥の親子の愛と感動
の物語を目の当たりにすることになった。
その日、自宅前の道端で腰を低くしうずくまっている一羽の幼鳥が
いた。巣から誤って落ちたのだろうか、或いは、勇気を振り絞って
巣を飛び出してみたものの力尽きて落ちてしまったのだろうか、暫
く様子を視ていたが、幸い怪我をしている様子も無く少し安堵した。
幼鳥に近づく事が、幼鳥を窮地に追い込むことになろうとは思いも
よらないまま不用意に近づいてみると、私達に驚いた幼鳥は、急に
走り出し、側溝の蓋の小さな隙間から落ちてしまったのだ。それは、
ほんの一瞬の出来事であった。
小さな隙間から飛び出すことは、十分に飛べない幼鳥にとって、不
可能なことであり、致命的な事態となってしまった。このまま放っ
ておけば、二度と地上に出ることが出来ないまま、いつか衰弱死し
てしまうに違いないと容易に予測することが出来た。
そんな事態に心を痛めていると、「チッチッ」と鳴きながら側溝に
近づく、つがいの鳥が現れた。心配そうに鳴きながら盛んに呼びか
ける仕草から、側溝に落ちた幼鳥の親鳥であることが窺い知れた。
その親鳥は、目の周りが白く、スズメよりやや小さく、全体的に緑
がかった色をしていて、よくウグイスと間違えられるメジロという
鳥であり、枝一杯に連なって止まるメジロの様子から「目白押し」
の語源となったという説は、よく知られている。
盛んに鳴き叫ぶ親鳥の声は、我子を励ましながらも、誰かに助けを
求めているようにも聞こえてならなかった。
気付いた時、バール(全長約1メートル、工具の一種で、テコの原理
を利用する鉄製の棒)を抱え無我夢中で側溝の蓋をこじ開けている
私がそこにいた。蓋を開けた後、飛べない幼鳥が伝って外に出られ
るようにと棒の切れ端を渡してやったのは、不思議なくらい瞬時の
適切な判断であった。
側溝から離れ、暫く様子を視ていると、親鳥が鳴きながら、切れ端
の棒を伝い側溝に入ったり出たりして、「こっちこっち」と我子を
導いているような仕草が見えた。そうしているうちに、今度は口に
エサをくわえた別の親鳥が側溝の中に入っていった。
棒を伝えば外に出られることを我子に教える親鳥、お腹が空いてい
るのではないかと、エサを運ぶ親鳥、その行為が正に我子に対する
親の愛情そのものであることを感じずにはいられなかった。
暫くして、幼鳥が切れ端の棒を伝い、親鳥の後について出てくる光
景を目にした時、暗闇の中でさぞ不安であったろうと心配したこと、
幼鳥自身の生きようとする逞しさを感じたこと、幼鳥のためにと側
溝に入れてやった棒が役にたったこと、窮地に追い込んでしまった
幼鳥が無事助かってくれたこと、そして我子に対する親鳥の愛情に
心を打たてたことなど、さまざまな思いが走馬灯のように頭を巡ら
した瞬間であり、熱いものが込み上げて来た瞬間でもあった。
時として世間を騒がす殺伐とした出来事とは程遠い、人間より人間
らしい親子の愛と感動の物語をそこに見た思いがした。
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