おじんの放課後

仕事帰りの僕の遊び。創成川の近所をウロウロ。変わり行く故郷、札幌を懐かしみつつ。ホテルのメモは、また行くときの参考に。

役所に行く途中で、んん?

2025年01月31日 | 風景

なんだかこのごろは、

あるはずのないお仕事が増えて……

「ぐっすり」とか「さわやか」とか

そういう眠りかたとはご無沙汰です。

書類を出しに、

北区役所へ行く途中、

なんかまだ頭眠ってるのかな?

頭のなかの景色がダブってるのかな?

って思ったんですが。

お気づきだろうか。

ここは北24条付近。大通りまで、

まだ20分かそこらかかります。

お前、路面電車やろ。

なんで北24条にあるん(笑

Yahoo!の記事になってました。

しかも「教育大学前」行きだと!

中央図書館が出来たあとの世代には、

分からるかなぁ。分かんねぇだろうなぁ。

ってか……

北24条まで路面電車走ってたのね。

今の周回コース以前は僕知らないので。

あれから30余年。

こんな札幌好きになるなんて、

思いもしなかったわ(笑

どうせ札幌おいでになるんなら、

中央区の劇混みな雰囲気もですけど、

こういう周辺の、閑散としたモニュメントも、

面白いと思いますヨ(笑


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月の庭(1)

2025年01月28日 | 小金井充の

 「ひでぇ星だったぜ……。」前の席の角刈り頭が、そう呟く。
 僕は窓の外の、はるか下の地面が遠のいていくのを、ただ眺めていた。
 ひとが、死ぬことなしに、生まれた星を離れられるようになったのは、つい昨日の話のように思える。
 星系内の他の惑星で、開拓の仕事をするという、冗談のような求人を公共職業安定所で紹介されてから、再利用可能な宇宙船ができあがり、それに乗船するまで、二年も経たない。とりあえず月で研修してから、隣の惑星に行くそうな。
 「よぅ、おまえは何で志願したんだよ。」前の席の角刈りが、ヘッドレストと壁との間に顔半分を突っ込んで、ギロッと、目玉だけで睨んでくる。
 「ひっ!」と、思わず声が出て、僕は体が椅子にメリ込むくらいその目玉から逃げて、「職安……」とだけ言った。腹にベルトが食い込んで痛い。
 「職安!」角刈りは、すき間から顔半分を引っこ抜いて、モロ手をあげて大声を出した。船内が静まり返る。
 ほぼ全員の目線が僕に刺さる。僕は椅子に埋もれてしまいたいほど体をちぢこませて、いつものようにギュッと目をつむる。「だからこの星の奴らは嫌なんだよ……。」壁に口づけするほど顔をそむけて、僕はそう呟いた。しかし、それも一瞬。
 船内はザワメキを取り戻して、もう僕の存在を忘れている。前の席の角刈りは、隣の奴と、ちからコブの見せ合いを始めた。
 「どこかの軍人さんかな?」僕は溜め息をして、椅子から浮かび出る。この感じ。この空気が、僕をここに居させる。言ってしまえば、雑多な連中の集まり。ここへ至った経歴も、年齢も国籍も、ここでは「ふーん」で済んでしまう。
 急に船内の照明が落ちて、ザワメキが止む。みな、窓の外や、正面の映像を見つめている。窓の外、ずっと下のほうで、地表はもう鮮明さを失い、茶色と緑色と青色と白の塗り絵になっている。もう二度と、この景色を見ることはない。
 シューっと、かすかだが、聞きなれた音をとらえて、僕はそのための姿勢に直る。間もなく眠くなり、深い吐息をして、記憶が途絶える。最初の夢は、子供のころ、町内の子供らと、ケイドロをした場面。
 「おまえがトロいから、またドロじゃん。」耳元で、ガキ大将の大声がした。
 「ごめん……」と、僕は泣く。縁石に座って、体をちぢこめる。ゲームは僕抜きで再開して、楽しそうな子供らの様子を、僕はただ見ていた。あそこに、僕の居場所はなかったなぁと、僕は思った。最初の夢はそこで終わり、次の夢が始まる。
 誰か大人が、僕の植木鉢を、ポイと投げ捨てた。土しか入ってないようだから、その扱いも仕方がない。横倒しになって、雪崩出た土の中に、やっと根を出したカボチャの種があることを、僕は誰にも言わずにいた。あれを号泣というんだなと、僕は思った。あの時は、本当に悲しかったが。すでに車の中にいて、そこから出ることを許されなかった僕には、なす術もない。懐かしい家。幸せだった家。あの家に帰ることはなかったな。夢はそこで終わり、次の夢が始まる。
 何の集まりだろう。大学のコンパかな。古びた部屋に、ギュウギュウに机が詰まって、みんなでガヤガヤ騒いでいる。
 「ひとーーーつ!」と、間延びした大声が、僕のうしろで始まる。
 「よぉー!」みんな喝采。グラスをかかげる奴、から揚げを箸で持ち上げる奴、ビローっと焼きそばを引きのばす奴もいる。
 「剣道部所ぞーく!春季大会第さーーーん位!」間延びした大声は続く。
 「おぉー!」みんな拍手。頭の上で手を叩く奴。机をドンドンする奴。
 「伝とぉーーと栄こーーぅの!しば!うえ!たに!よん!きょう!ぞーく!」みんな大笑い。何言ってるのか分からんが、あれは楽しかったなぁ。あのあと焼きそばにあたって、みんな寝込んだんだっけ。
 ズキッと、頭に激痛が走って、僕は目を覚ます。
 「この頭痛だけは慣れん。」前の席の角刈りが、無い髪の毛を片手でかきむしる。「ふぁー」と、両手をうんと伸ばして、あくびをする。
 角刈りはあれから、まったく、僕のことなど忘れたふうだ。ありがたいと、僕は思った。体が、ゆっくりと、後ろへ回りだす。間もなく、着陸するらしい。
 ザザッと、船内のスピーカーから音が出る。「当機は着陸態勢に入る。諸君の自主性に期待する。」プツンと、それだけ言って、スピーカーは黙った。パイロットは乗っていない。代わりに、自動操縦のプログラムが走っている。
 ゴォーッという逆噴射の音が始まり、宇宙船は、重厚なハッチを、規定通りの間隔と速度とで通過する。このハッチが閉まれば、もう空を見ることもない。
 逆噴射の音が止まり、船内のあちこちで、ガチャリと、シートベルトを外す音がする。ハッチの内部に空気が満たされるまで、みな、船内にとどめられる。全員が居住区に入ると、この船は自動で飛び立ち、次の旅団を迎えに行く。
 「誰もいねぇな。」前の席の角刈りが、窓の外を眺めて言う。「逃げ出したい奴は、いないらしいな。」角刈りは、ヘヘッと笑って席を立ち、後方のハッチへと歩き出す。荷物は先に、それぞれの部屋に届いているはず。
 僕は座席の肘かけを、名残り惜しく撫でて立ち、後方のハッチから並ぶ列の最後についた。誰も、僕も、自分の後ろを見ない。
 列の前方で、シャーッと、ハッチが開く。無味乾燥だが、新鮮な空気が流れ込んでくる。みんな深呼吸している。おそらく、新天地なんて、誰も思ってやしない。出社する感覚。それだけ。
 カンカンと、軽い金属音のする廊下を歩いて、言葉もなく、自分の番号の部屋へと散っていく。個人のスケジュールは、その部屋の机の上に、すでに用意されてある。あの角刈りと出会うことも、もう無いだろう。
 扉は僕を認識して、音もなく開いた。これからここで、僕は暮らす。コンクリート打ち放しの、寒い部屋だろうと思っていたが。ホテルのダブルベッドの部屋のようだ。
 なんと、窓がある。思わず歩み寄って見れば、どうやら中庭が見渡せるようだ。窓は開かないが、眼下に広がる果樹。川まで流れている。小鳥もいるのか。
 窓枠に、スピーカーが埋まっているのに気がついて、僕はスイッチを押した。ボリュームを上げると、かすかに水の流れる音が聞こえる。時折、小鳥の鳴き声も聞こえる。わずかにエコーがかかっているから、中庭も天井で覆われているのだろう。
 しばし景色に見とれていると、ピピッと、机でアラームが鳴った。スケジュールはもう、始まっているようだ。机の天板を兼ねたディスプレイに、「入浴」、「昼食」、「採血」の文字が浮かぶ。それぞれの文字の隣には、完了のボタンがある。完了以外のボタンは無い。どこへ行けとも言わないから、始めは座学なのだろう。
 湯船に体を沈めるのは、久しぶり。ずっと、シャワーだけだった。それも、シャワー室のある場所がとれればの話。朝早く起きて、遅くまで現場で働く毎日。食いつなぐだけの毎日だった。
 思わず長湯してしまって、気まずい思いで完了のボタンをタップする。トイレの手前の、洗面所の明かりが自動でついて、ピピッと、そこのアラームが鳴る。洗面所の脇の台に、せりあがってきた昼飯を見て、僕は驚いた。ビニールに包まれた、そっけない保存食一式だろうと思っていたが。ホテルの朝食並みだな。パンにバターにジャムに目玉焼き。サラダとドレッシング、グラスにつがれたジュース、牛乳、コーヒーまである。
 「ここで作っているのか!」僕はうなった。合成食品ではなく、まぎれもない、栽培された野菜、加工された肉。これは、どういうメカニズムなのかと、僕は食べながら空想していた。原理は、宇宙船に乗る前に、ひと通り教わりはした。それが実際、機能しているとはな。
 トレイを持って、机で食べようと思ったが。台に固定されている。ここで食えということらしい。机からビジネスチェアを引いてきて、座る。まあなんて、久しぶりの晩餐だろう。コショウと塩が欲しいところだが、この際、贅沢は言うまい。
 ウキウキで完了のボタンをタップすると、ふたたび、洗面所のほうで、ピピッと、アラームが鳴った。さっき、昼食が乗っていた台に、採血用の小さな器具が乗っている。指の先に当てると、自動で針が出て、少量の血を採取する。宇宙船に乗る前に、何度かやった。チクリとはするが、血はすぐに止まる。これも、台に固定されていて、指のほうをあてる方式らしい。
 机に戻って、完了のボタンをタップしたが、続く指示は出ない。今日のスケジュールは、これだけということのようだ。
 とりあえず、ベッドにもぐりこむ。なかなか心地よいが、カビ臭く汚れたベッドに慣れた身では、戸惑いのほうが先に出てしまう。
 僕の荷物は、何もない。衣類一式は支給される。あそこから持ってこようなどと思うものは、何もなかった。枕の上には、いくつかスイッチがある。カーテンの開け閉め、照明のオンオフ、空調まである。このスイッチは?。押すと、天井がなくなった。どうやら、ベッドの上の天井は、一面のディスプレイらしい。中庭の照明に連動した、空の風景が映し出される。窓枠のスピーカーの音が、実感を添えてくれる。
 旅の疲れだけでは説明できなさそうな疲れで、僕はすぐに、ウトウトしだした。「病院みたいだな。」不明瞭な意識のなかで、僕はそう呟く。記憶にある、唯一、安らぎを感じた場所。現場の事故で救急搬送されて、気づけば、体中に管が差し込まれていた。一週間くらい、意識不明だったそうだが。病院にいたときは、涙が出るくらい、初めての、安らかな気持ちだった。あれがなければ、この求人に応じることもなかったな。
 目を覚ますと、夜になっていた。中庭の照明で、二十四時間を演出する仕組みのようだ。アナログの時計を持ってくればよかったなと、今更に思う。デジタルばかりのこの部屋に、アナログの時計でもあれば、ぬくもりを感じるだろう。
 机のディスプレイは、天板を兼ねているので、立てることができない。ベッドからは位置的に、画面を見ることはできない。なかなか上手くできているなと思う。ひょっとして、天井のディスプレイに表示されるのかと思ったが、そんなことはなくて。あくまでも天井か、または、空の景色を映すだけだ。ピピッとアラームが鳴る以外は、スケジュールの存在を意識させないつもりらしいな。
 「しかし、あまりにも……」僕は呟く。あまりにも、良すぎるのではないか。これまでの経験が、何かあるぞと僕に警告してくる。どんな研修が、始まるのだろう?。いつまでやるのだろう?。あの肉は、何の肉だろう?。
 ピピッと、机でアラームが鳴る。「夜に?」僕はベッドを抜け出して、机の前に立つ。「睡眠導入剤」の文字の横に、「要」、「不要」のボタンがある。不要のボタンがあるなと、僕は思った。「要」のボタンを押してから、あの頭痛を思い出して凹んだ。続いて、ベッドに入るよう指示が出る。シューという、聞きなれた音が聞こえて、僕は眠りに落ちた。
 夢の中で、僕はどこかの岬の突端にいた。足元から吹き上げてくる、潮の香り。霧が立ち込めるなか、赤と白とに塗られた、ひとつの灯台が、彼方へ一筋の光を投げている。どこだったか。いくつか思い当たる場所はあるが、判然としない。けれども、そこへ行った目的は、同じだった。とどろく波の音におじけて、夜明けまで、そこに座っていただけ。この求人に応じたのも、同じ理由だなと、僕は思った。
 ズキッという頭痛が走って、僕は飛び起きた。ピピピピと、目覚まし時計のようなアラームが、机のほうで鳴り続けている。それが頭に響いて、両手で顔をこすりながら、ベッドを出る。
 「起床」の文字が、机のディスプレイに出ている。僕は片手で顔を覆って、指の間からディスプレイを見下ろし、起床完了のボタンをタップする。続いて、「身支度」、「端末持出」の指示。しかし、時間の指定は無い。常識の範囲内で、ということだろうか。
 朝シャンの趣味もないので、昨日の上着を着て靴下をはき、汚れたままの靴をはいて、身支度完了のボタンを押す。カシャッと、机の引き出しが少し出る。引き出して見れば、スマホがひとつ。手に取ると、「場内見学」の文字が現れた。しかしこれにも、時間の指定は無い。
 「どういうこと?」僕は不安になる。初日だからだろうか。いや、初日ならなおさら、今にも部屋の扉が開いて、「17号出ろ!」とでも、言われるのではないか。
 僕は身構えたが、しかし、誰も来ないな。窓枠から流れる、川のせせらぎ。太陽はとっくに、始業時間を過ぎ越して昇っている。ボヤボヤしていていい時間ではないが……。
 部屋の中を見回してみるが、本棚のようなものは、見当たらない。ルール・ブックとか、ないのか?。机に戻って、天板を兼ねたディスプレイを、あちこちと触ってみる。キーボードはおろか、カーソルすらも出ない。ただ相変わらず、「場内見学」の文字だけが、表示されているだけ。
 このまま篭城してみるのも、いいかもしれないと、僕は思った。思いはしたが、しかし、この建物への興味のほうが勝ってしまうのは、悲しいサガだなと、つくづく自分でも思う。
 「そうだ。端末……。」胸ポケットから、スマホ型の端末を取って、画面をあちこち触れてみる。サイドにあるはずの、ボタンや穴はない。裏面はのっぺらぼうだ。画面には、机と同じに、「場内見学」の文字があるばかりで、ほかには何も出ない。ほかに持参するものもないし。
 「中庭、行けるのかな?」地図くらい見たいなという気持ちで、僕は手にした端末に、なに言うともなしに言ってみた。「シカトかよ。」期待はしていないが、実際、何も出ないと凹む。端末は胸ポケットに仕舞ってしまい、歩きたいほうへ歩くことにする。
 部屋の扉は、何の抵抗もなく開いて。そして、誰もいない。靴音も話し声もない。床と壁面との境には、こなたから彼方に至るまで、薄青い間接照明が植わっている。サイバーな雰囲気。いかにも最新という感じ。
 カン、カン、という軽い金属の足音をさせながら、僕はとりあえず、昨日きた方向と、同じほうへ歩いてみる。ハッチから散り散りになった僕らは、誰も誰かのあとを追うことなく、ひとりっきりで散っていった。僕も僕の部屋まで、僕だけが歩いてきたし。だから同じほうへ歩いていけば、ずっとひとりでいられるだろう。
 カン、カン、という軽い金属の足音を聞きながら、僕は思った。窓から見た中庭は、相当な規模だ。宇宙船に乗っていた人数と、この中庭の大きさ。たぶん、この道は、ハッチと中庭とを、つないでいるだけだろう。
 見れば、行く手の先で、薄青い照明が途切れている。振り返れば、道は緩やかに弧を描いていて、まだそんなに離れてはいないはずなのだが、しかし僕の部屋の扉は見えない。通勤してる感じ。バスの窓から、遠ざかる自分の部屋の窓を、悲しく見ていた。そんな記憶。
 薄青い照明が途切れたところからは、道の幅はそのままで、天井だけ斜め上にあがっていて、その先には、やはり、ハッチがあった。僕の背後で、スッという、かすかな音がして。振り向くと、来た道は、扉で閉ざされていた。
 そして今度は、斜めになった天井から、真昼のような明るさが、その強度をゆるりと増しつつ、この空間を満たしていく。
 静かなブウンという、ファンの回る音がして、嗅ぎ慣れた土のにおいがする。都会の、枯れた土のにおいじゃなく、田舎のドカタで嗅ぐにおいだ。光に目も慣れた頃合い、わずかにゴロゴロという音をさせて、道の幅のままではあれ、ハッチが大きく、上へと引き上げられた。途端に僕を覆う湿気。
 「何か、ハエ?」僕の耳元を、何かが飛び去った。小鳥のさえずりが聞こえる。見上げれば、はるか上には、やはり、天井らしきものがある。うまく塗装はされているが、無数のダクトや換気口を見てとれる。
 僕の背後で、ゴロゴロとハッチが閉まる。と、ハッチの両側に、細いすき間が開いて、そこからかなりの勢いで、内側の空気を排気しだす。ブウンと、さっきのハエの羽音が、僕の耳元をかすめていった。
 ピピッと、胸ポケットのスマホが鳴る。取り出して見れば、画面に「斉藤さん」の文字。行方に目を向ければ、確かに誰かが、こちらへ手を振っている。
 「斉藤、さん?」僕はスマホの画面を相手に見せる。小柄な斉藤さんは、首にかけた手ぬぐいで顔を拭きながら、ウンウンと、僕にうなずいてみせる。
 「ここへ来るまで、大変だったでしょう。」にこやかに話す斉藤さん。ここへ来るまでという部分に、実感がこもっている。
 「ええ、まあ。」ひとよりも、まだ見足りない景色のほうへ、僕は視界を持っていかれる。斉藤さんは、そんな僕の様子を見て、微笑んでいる。
 「あなたよりも、四つ前の便で、私はここへ来ました。」と斉藤さん。僕は、えっ?という顔をして、斉藤さんの顔を見る。
 「四つ前……。一年と少し前ですか。」現場主任とか、教官とかだと、僕は思っていた。
 「私も、そんな顔をしてたんでしょう。」斉藤さんは、道端にしゃがんで、草取りの続きをする。「ここには、指導教官のようなひとは、いません。研修を終えたひとたちは、みんな、隣の惑星へ行ってしまうから。」それきり、ベルトに下げた、根切り用の、先が二股になった棒をとって、斉藤さんは、黙々として、作業を続ける。
 気が引けたが、僕はどうしても、聞きたいことがあった。「ルール・ブックとか、ないんですか。」
 「ないです。」と斉藤さん。即答だった。「私も、来た時分に探しました。ここには、ルール・ブックはおろか、法律も、警察もありません。ただ、不適格な者は、送還されるみたいです。私と来たひとたちは、一週間経たないうちに、半数になってました。」
 ピピッと、スマホが鳴る。手に持ったままなのを忘れていて、僕は空の胸ポケットを見、周囲を見回してから、ようやく、手元のスマホに気がついた。慌てて画面を見ようとしたところ、ちょうど、ズボンのポケットからスマホを出した斉藤さんの姿が目に映った。
 「用意ができたみたいです。行きましょう。」タオルで顔を拭きながら、斉藤さんはもう、スタスタと道を歩き出す。僕は言葉もなく、スマホを胸のポケットに仕舞った。それをポケットの上から触ってみて、改めて存在を確認してから、だいぶ先へ行ってしまった斉藤さんの背中を、僕は追いかけた。
 「あとからゆっくり見られますから。」微笑む斉藤さんに諭されて、僕は歩きを早めて、斉藤さんに追いつく。行く手に、丸い天井のかかった、幅の広い螺旋階段があり、地下へと降りられる仕組み。掘削した当時の穴の形状そのままなのだろう。
 「最初の何段か、滑りますから。気をつけて。」斉藤さんに倣い、僕も手すりをしっかりと握る。思わず胸ポケットに片手をやって、安心する。
 ぐるりと一周して、中庭からの光が薄れた辺りから、廊下の薄青い照明が始まる。二周目に踊り場があって、同様に高いハッチが開き、僕らは中へ入った。螺旋階段は、その先もずっと続いている。
 ハッチが閉まると、その脇の細いすき間が開いて、僕らは、猛烈な旋風に巻かれた。僕は思わず身構えたが、しかし斉藤さんは慣れたもの。薄い髪の毛から上着からズボンから、旋風のなかでバサバサとはためかす。上着などは前を開けてしまって、旗みたいにあおられている。しかしいまだ、旋風は止まない。
 斉藤さんは気づいて、僕のほうへと歩み寄り、耳元で教えてくれた。「ホコリや虫が飛んでしまわないと、この風は止まらないんです!あなたも私のようにやってください!あっ!上着、脱がないで!飛んでいってしまいますから!」
 ようやくにして旋風が止み、二人とも、寝起きの髪のような格好になって、半ば放心状態でいると、今度は足元へ、早瀬のように水が流れだした。僕の靴など、見る間に、水浸しになるくらいの量。僕ひとりでバシャバシャ慌てている。斉藤さんは慣れたもの。両の長靴を互いにすりあわせて、ついた泥をうまく洗い流している。水は間もなく止んだ。バシャバシャやった甲斐があったんだろう。
 「この先で長靴もらえますから。靴下ももらえます。」にこやかではあるものの、笑いはしない斉藤さん。たぶん、自分も同じ目にあったんだろう。
 廊下への扉を入ってすぐ、ピピッと僕のスマホが鳴る。「二番」とだけ、画面に出ている。斉藤さんが指をさす。その先を見れば、壁に方形の線が入っていて、その枠のひとつに「二番」の文字が出ている。
 斉藤さんが、向かいの壁の「一番」をタップすると、そこがパカンと上へ開いて、斉藤さんはその中へ、汚れた軍手と道具一式とを預ける。
 僕も倣って「二番」をタップする。パカンと開いたその中には、横に置かれた長靴と、靴下と、手ぬぐいとが入っていた。濡れた靴と靴下と、拭いた手ぬぐいとをそこへ戻して、新品の長靴をはく。長靴ではあれ、新品の靴なんて、久しぶり。
 見れば斉藤さんが、スマホを出すように、身振りで教えてくれている。自分のスマホを出して見れば、四角いバーコードが表示されている。「その日のスケジュールは、スマホが教えてくれますから。」と斉藤さん。
 短い廊下の突き当たりにある、扉の脇の壁面に、黒い線で四角く囲われた部分がある。斉藤さんがそこへ、スマホの画面をかざすと、スッと扉が開いた。「電波でやればいいのに。ここはみんな、バーコードを読ませて出入りします。あなたも読ませて。でないと、すごい勢いで扉が閉まるから。クセつけとかないと、病院送りです。」
 怖いな、と思いながらも、なるほどこれが、ここのルール・ブックだなと僕は思った。音もなく開閉するこの扉。ということは、十分に余力のある動力に、つながれているということだろう。病院送りで済むのかしら。
 先を進む斉藤さんに、半ば冗談のつもりで、僕は問うた。「ここに墓地はあるんですか。」
 「ないです。」これも即答。「ここへ来た日が誕生日で、ここを去る日が命日みたいなものですよ。」独り言のように、斉藤さんは言う。なるほど、わかりみが深い。
 さっきから、実に美味そうなにおいがしている。ピピッと、スマホが鳴る。僕はまた「二番」。通路の壁面に、さっきよりもずっと大きな、ドアのサイズの黒い囲いがいくつかあり、その一番手前に「二番」の表示が出ている。
 斉藤さんが「一番」の表示をタップすると、パカンとドアのように開いて、台に置かれた紫色の手袋が見える。
 「中で着替えます。上着とズボンを脱いで、白い作業着と、紫色の手袋と、マスクと、頭にかむる網をつけてください。つけたら扉が開くので、消毒液に、手袋をしたまま浸してから、風のなかを歩いて、先へ進んでください。スマホは、服のポケットに入れてください。」と斉藤さん。
 僕は「二番」の表示をタップして、言われたように着替えて、また風にあおられ、先へと進む。斉藤さんはもう待っていて、僕をにこやかに迎えてくれる。
 「ここでは、居住者全員の、朝昼晩、三食をまかないます。さっき私がやっていた、中庭の手入れもそうですが、この作業も、全員が持ち回りでやります。し尿の処理から、家畜の世話、回収した衣類やリネンなどの洗濯、発電所の管理、道具の製造から修理、リサイクル、廃棄まで、すべてやらねばなりません。居住区で虫やカビが発生すると、それだけで面倒な仕事が沢山増えますから、中庭のものを、部屋へ持ち込まないでくださいね。これらの作業がない時間は、いつでも、中庭に出られますから。」斉藤さんの話を聞きながら、僕は昨日食べた肉が、ちゃんと飼育された牛の肉だと確かめた。
 ぐるりと調理場を歩いて、着替えを済ませ、螺旋階段に向かう通路で、僕は斉藤さんに聞いた。「電力の源は、何ですか。」
 「それは、最後に案内しますよ。宇宙服を着なければならないので。」斉藤さんは、事も無げに言う。
 「宇宙服?。すると、原子力か何かですか?。」と僕。
 「いえ。宇宙線です。月の表面へは出られませんが、監視室から全体を見渡せます。もちろんその役目も、輪番でやります。修理は、規模にもよりますが、住人総出でやることも、あったみたいです。」斉藤さんは、螺旋階段へ出るハッチの前で、僕に、宇宙服の着かたを、そのコツを、ゼスチャーを交えて教えてくれた。
 螺旋階段は、頑丈な作りらしく、通路のような、軽い音はしない。それがかえって寂しくもあり。斉藤さんと一緒に降りていることが、心強い。下の階のハッチでは、先の失敗もなくて。新品の長靴に、僕はついぞ、現場では考えたこともない、ありがたみを覚えた。
 「この階は、し尿などの処理をするところです。部屋ごとに陰圧になってますから、においはここまで来ないです。」斉藤さんのスマホが、ピピッと鳴る。
 画面を見る斉藤さんの顔が、見てとれるほど暗くなる。「ごめんなさい。今日のスケジュールは延期です。事故がありました。あなたは指示あるまで、部屋へ戻っていてください。あなたの部屋へ続くハッチは、スマホが教えてくれます。矢印が出るので、従ってください。私はこのまま、一番下まで行きます。」
 ハッチを出て、斉藤さんと別れる。なるほど、スマホの画面に、矢印が出ている。薄青い照明のなか、ぐるぐると螺旋階段をのぼって、中庭に出る。真上からの強い光が、僕におよその時間を教える。
 「そういえば、朝飯、食いっぱぐれたなぁ。」部屋に戻れば、何か食えるだろう。そう思うと、歩みも速まる。スマホの矢印に従い、旋風と洪水とを難なくこなして、カンカンと鳴る通路へと入る。僕の部屋の扉が見える。
 「おい。」と、ドスのきいた声。ビクッとして、声のほうを振り返る間もなく、僕の肩に、誰かの手がかかる。力づくで振り返らされて、見ればあの、前の席の角刈りじゃないか。
 「逃げるぞ。一緒に来い。」言うなり、角刈りは「しっ!」というふうに、自分の口の前に指を立て、通路の前後を、鋭く睨む。自分でも驚いたが、僕はその角刈りの手を、払いのけていた。
 「なんだお前!助けにきてやったんだぞ!」角刈りは、今度は両手で僕の両肩をわしづかみ、ガクガクと僕をゆさぶる。「どうしちまったんだ!もうおかしくなったのか?。」座席と壁との間から、ギロリと睨んだその目と同じ目で、角刈りは僕の目を見る。しかし僕は、僕の両手で外側から角刈りの両手をつかみにかかり、持ち上げるようにして、それらを払った。
 角刈りは、怒りにうち震えながらも、もはや何も言わず、どこで手に入れたのか、コルク抜きのような金具を通路の床材に突き入れて、その一枚を引き剥がす。そのままストンと、中へ飛び降りた。ほとんど同時に、僕は強力な眠気を感じて、意識を失った。


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マジで雪のない札幌

2025年01月24日 | ごはーん\(^o^)/

ほーんとに、雪がないや(笑

今雨降ってます。

大寒の札幌市中心部。

北海道付近の日本海表面の水温が、

なンまら高ッけぇから。

季節風が温風になって、

北海道西部をガンガン暖めいてるらしい。

空気がもう春です(笑

雨も冷たくなくて。

この陽気は来月も続くとか。

雪まつりは

意地でもやるみたいですけど(笑

今年は「ひので」の

中華丼にハマりそうです。

相変わらずの盛況のようで、

ご飯もの、少し時間かかることが

増えたかな?

この不況のなか、

頑張られて、続いて欲しいです。

明日は石狩。

久しぶりだな。


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読書ぶらり

2025年01月22日 | ロマン

笑顔があんまり素敵なので、

キャプチャさせていただきました。

人生のうちに、

世界へ、1冊の本を放てたひとは、

何人かいるようで。

例えば、"Dog day afternoom"

の、パトリック・マン。

このかたは、スピルバーグの

"Close encounter of the 3rd kind"

の、原作協力者でもあります。

そして例えば、

「カモメのジョナサン」

の、リチャード・バックさん。

このかたは存命中ですね。

ライフワークとして、

この本を完成された。

それからこちらの、

ブライアン・クラーク。

「この命は誰のもの」

という戯曲で、

日本でも知られてます。

まだ存命かと思っていたんですが、

2021年に亡くなられてました。

「私は死にたいのではありません。また、生きたいのでもありません。ただ、私の人生はもう終わったのだということを、みなさんに分かってもらいたいのです。」

事故で首から下が動かなくなった画家が、

最終弁論でそう、心境を吐露します。

どっかの安楽死マシーン

(最期は手動)の事件があったりで、

安楽死とか、尊厳死とか、

話題にのぼったりしたようですが。

これはそういう法律とか良心とかの

お話ではないです。

それを、この世の中で形にしたら

こうなったという感じだと思います。

ある事柄を英語で表現したらこう。

日本語で表現したらまたこうなる。

そんな感じです。

以上は外国のかたですが、

日本人では例えば、

北大で雪虫の研究などをされた

河野広道がいたりします。

ぷやら文庫という小さな文集に、

そのまんま「雪虫」という題名の

1冊が収録されてます。

のちに改訂される前の版のほうが、

僕は好きです。

今はもう、そうやって、

この1冊を探す時間は

持てなくなってしまいましたが。

振り返れば、

そのころが懐かしいなと。


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僕が電気に興味持ったのは

2025年01月16日 | 雑談

僕が電気に興味を持つ、

直接のきっかけになったのは、

このヘンテコな、何かの部品でした。

薄い水色の陶器でできた何か。

小さいころから雑踏が苦手で(笑

1人で歩いて、寂しいところへ行ってました。

また当時は、そういう場所が沢山あったし。

海沿いの、丘の上の廃屋群のはずれで、

僕はコレに出会った。

今はもう、それが古いタイプの碍子(がいし)

だって知りましたけれども。

当時はそもそもが、

陶器製の部品なんて知らなかったから(笑

下に金属のボルトが出てたので、

部品らしいことは知れたわけです。

物はどっかへ行ってしまいましたが、

それからずっと、記憶のどこかに残ってた。

大きな電力を扱う装置、

絶縁体とか変電装置とかは、

そもそもひとが触っちゃダメなので、

絶対に触れない場所とか、

見えない場所とかに設置されますが。

それゆえに、装飾なんて皆無で(笑

形そのものが働き。

不気味な形をしてます。

僕はそれが、たまらなく好き。

理由があってこの形にならざるをえない。

それがすごく好きです。

これ触ったら死ぬなって

歯に衣着せぬ言いようというか、

直感させる形(笑

昭和の時代の重機もそうでした。

最大これだけの働きさせられる機械は、

これだけの構造があったんで。

そもそもの話、

今みたいに手加減して使うなんてことがなかった(笑

もう物理的に持ち上がらない、押せないところまで

持ち上げられること。押せること。

重機の性能ってのは、それを言ってました(笑

だから見た目が、ものすごくゴツかった。

そんなのが冬限定で、山から里へ降りてくるから。

僕は冬が楽しみだった。

ガキのころね。

今は真夏と同じくらい、消したい季節ですわ(笑

もう雪要らない…

今は機械もお洒落になって、

アーム折れるから無理するなと言われる時代になり。

トラクタヘッドでさえ、オートマになって、

この坂登れないから別の道走ってって言われる

時代だそうな。

かろうじて残るは、電気の分野だけですわ。

電柱の上に乗っている変圧器とかの

あのチョッと異様な形は、

これからも、あのままだろうと思います。

まああれでも、ツノとかなくなって、

丸とか四角のパッケージになって、

少しは美しくなりましたけどね。

これからのひとたちは、ますます、

本物を見る機会がなくなるなぁと、

市電の錆だらけの電柱を見上げて、

ふと、思った次第です。


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なんでもない日のサッポロファクトリーとか

2025年01月16日 | ごはーん\(^o^)/

【お知らせ】gooブログはこの記事現在、アクセスしにくい状況が続いているようです。表示されないままタイムアウトになったりで、ごめんなさい。----------

何もない、土日祝ですらもない日の、

サッポロファクトリーです。

静かな時間が流れております。

クリスマスには、あのケバい

バージンロードが敷かれた所も、

すでに面影はなくて。

確か、設置された当時は回ってた、

これら3基の風車も、

いつしか回らなくなりましたねぇ…

ご覧いただけるかな?と。

このドーム、実際、

天井が大きく開くようになってて。

ツリーとかの大物はそこから

吊って入れてた時期もあったとか。

今はどうなのかな?

開いてるとこ見ないし、そういえば、

開けるってイベントも

聞かなくなりましたねぇ…

スタバは

相変わらずの激混みなので。

ちょっと街の軸からズレて、

タリーズでお昼。

久しぶりのクワトロフォルマッジ。

(↑フォルマッジまで辞書で出た)

相変わらず名前覚えられない(笑

「4種類のチーズピザください」

じゃダメなん?(笑

ソース代わりのハチミツが

( ・∀・)イイ!ね。

チーズにハチミツが合うっての、

かなり分かるやつ。

生地も柔らかめなので、

口の中に刺さったりしない(笑

まあ、予想してたよりも

美味しくいただけました。

もうちょっと

ハチミツかけられるのかしら?

だったらもいっかい食べてみたいと。

さて。

帰って、寒中見舞いでも

書きますかね。

 

 

 

 

 

 


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お元気ですか?

2025年01月14日 | 風景

みなさま今晩は(朝だけどw

ちょいと別件で忙しく、

こっちの更新が停滞してます。

もうなんか正月どこいった?

みたいな感じの

ここんとこ毎年の1月

でございます(笑

正月って残り少ない「旬」だと

思ってましたが。

もう2月に正月やろうかなと(笑

去年は能登の地震、

今年はアメリカの山火事で明けた

昭和100年のお正月でした。

まだソバも餅も手つかずです(笑

とりあえず1月末にホテルで

汗流して帰ってきて、ソバ食って、

2月1ピには磯辺焼きでも

チンして作って食べようかと(笑


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今年も

2025年01月05日 | ごはーん\(^o^)/

みなさま今晩は。

新年の調子は如何ですか?

僕は早々、階段でスッ転んで

三賀日は寝て過ごしでした。

今年もここ数年同様、

ろくでもない年になりそうですが。

さすがに慣れましたわ(笑

慣れたってか…

よさの水準が、ずいぶん下がりました。

「ひので」さんが今日5日までは

年始の営業時間なので、

コメダでご飯食べました。

こういう重いのよりも、

モーニングぐらいの軽いやつが

コメダはうまいですねぇ。

まだ片足にシビレが残ってるので、

遠出は自主規制中です(笑

そのうちにまた、何か撮って

記事にしますね。


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