思いつくままに

ゆく河の流れの淀みに浮かぶ「うたかた」としての生命体、
その1つに映り込んだ世界の断片を思いつくままに書きたい。

先軍政治を目指す?

2014-01-01 19:35:36 | 随想


 先の戦争前の日本は今の北朝鮮とよく似ている。金正恩の代わりに天皇があり、天皇を道具として使うことで、権力者たちは、戦争に向けて軍事最優先の先軍政治を遂行していった。天皇を絶対不可侵の存在として位置付け(大日本帝国憲法第3条:天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス)、国の方針(権力者が立てた方針)=天皇の意思として有無を言わせず実行することで悲惨な結果を招いた。大日本帝国憲法の「第1章 天皇」を読めば、この国を統治する権能のすべてが天皇に集中していたことがわかる。それを利用し、権力者たちは、治安維持法などによって他の考え方を暴力的に封殺し、自らの考え方のみ正しいものとして実行し、破滅を招いた。このことを考えてみれば、かの権力者たちこそ、天皇を最も愚弄していたということになる。自分たちの無謀な方針を天皇の名において実行し、最悪の結果を招いたわけである。もちろん、「神聖にして侵すべからず」という存在である天皇が責任を取るということがないよう、各大臣や参謀総長、軍令部総長などが、天皇の行為について進言し、採用することの裁可を得、その全責任を負う(=輔弼する)というかたちにはなっていた。しかし、大日本帝国憲法の及ばない外部から見たとき、天皇の名においてなされる行為の責任は天皇に帰すると解釈されてもやむを得ない。だからこそ、あの戦争での天皇の責任を問う声が後を絶たないのである。

 年末に安部首相は、上に述べたような権力者たちが合祀されている靖国神社に参拝した。憲法を改定し、再び天皇を元首として奉ろうとしている人が、天皇を愚弄した人たちを英霊として拝むなどおかしな話である。戦後しばらくの間、靖国神社に参拝していた昭和天皇は、A級戦犯対象者(あの戦争で指導的立場にあった者)が合祀された後は参拝していない。あの戦争で天皇を道具として使った彼らを許せないという気持ちがあったからだろう。昭和天皇の靖国神社についての発言を記録していた「富田(元宮内庁長官)メモ」がそれを裏付けている。

<昭和天皇の発言>
私は或る時に、A級が合祀され
その上 松岡、白取までもが
筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが
松平の子の今の宮司がどう考えたのか
易々と
松平は平和に強い考えがあったと思うのに
親の心子知らずと思っている
だから 私あれ以来参拝していない
それが私の心だ

* 松岡、白鳥:元外務大臣の松岡洋右、元駐イタリア大使の白鳥敏夫、共にA級戦犯として合祀されている。
* 筑波:1966年に旧厚生省からA級戦犯の祭神名票を受け取りながら合祀しなかった靖国神社宮司の筑波藤麿。
* 松平(親):終戦直後の最後の宮内相の松平慶民。合祀に慎重だった。
* 松平(子):A級戦犯を合祀した当時(1978年)の靖国神社宮司・松平永芳。


 安部首相は、そんな天皇の心など理解できないようである。ましてや、その意志に反して強制的に靖国神社に合祀されてしまった遺族たちの思い、あの戦争で国土を蹂躙され、多くの人の命を奪われた近隣諸国の人たちの気持ち、また、戦略的に極東アジアでこれ以上緊張を深めたくないアメリカの意思でさえ理解できないのは当然かもしれない。彼はその著書『美しい国へ』で、「「日の丸」「君が代」によい思いをもっていない」人たちを評して「その不愉快さには、まったく根拠がないから、かれらの議論にはなんの説得力もない」と言い切るような人でもあるのだ。しかし、そんな人がこの国の総理大臣であるということには怖いものを感じる。「決められない政治」から「決められる政治」へなどと言い、小選挙区制というペテンで取った議席数を武器に、多様な見方、考え方、意見を圧殺して、いま差し迫って必要でもないことをつぎつぎと強引に決めてゆく。Facebookでの彼の発言に対する「いいね」の投票数も彼を支えているようだが、「やだね」ボタンがないのだからあまり意味がないのに。「やだね」ボタンも設ければ、そちらの投票数のほうが多い可能性は十分にある。大切なのは、決めることではなく、何を決めるのか、決めることの内容であるはずなのに、ズバズバと決めてゆくそのことを評価している人が多い。困ったことだ。

 特定秘密保護法の成立、日本版「国家安全保障会議(NSC)」の創設、国家安全保障戦略の策定、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈の変更、武器輸出三原則の大幅な変更、日米防衛協力指針(ガイドライン)見直しによる自衛隊の攻撃力強化等々、この国は北朝鮮と同じ先軍政治、軍事大国を目指して動いているように見える。憲法を改定して天皇を元首とし、再び天皇に責任を負わせるかたちでこの国の統治権を掌握し、強力な軍隊を持って彼が考えている悪い国(北朝鮮や中国、韓国)を懲らしめる国を作る、これが戦争を知らない彼の夢なのかもしれない。

 今上天皇も傘寿としての誕生日前の記者会見で、記者の質問につぎのように応えられている。

「80年の道のりを振り返って,特に印象に残っている出来事という質問ですが,やはり最も印象に残っているのは先の戦争のことです。」「この戦争による日本人の犠牲者は約310万人と言われています。前途に様々な夢を持って生きていた多くの人々が,若くして命を失ったことを思うと,本当に痛ましい限りです」

 ここには、2度と戦争をすべきではないという気持ちが込められていると思う。今上天皇は、庶民とはまったく違う立場ではあるが、戦争の体験者と言える。終戦を迎えたのは小学校の最後の年だったとのこと。1954年生まれの戦争を知らない安倍首相とは違う。戦争を知らない世代は、積極的にそれを知ろうと努力しない限り、知らない、わからないままに終わってしまう。もっとも、安倍首相にとって天皇は自分の夢を実現するための道具に過ぎないわけで、そのお気持など関係ないし、『美しい国へ』でも現れている彼の性格からして、思いやることさえできないのだろう。このままゆくと、この国は北朝鮮と同じように軍隊が力を持ち、「物言えば唇寒し」という国になってしまいそうな気がする。そういう国で経済が発展するわけがない。ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか』に述べられている「収奪的制度」へと向かっているようだ。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿